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【第二部第六章執筆につき更新停止中】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第二部第五章「庚澤無縫達の(非)日常」

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遂にあのベークシュタインの莫迦、やりやがったよ!!

 ベークシュタイン=フリネーオ――純魔族である彼はケムダー区画を管轄する魔王軍幹部であり、ケムダー区画に存在するクリフォート魔族王国最後の秘境と呼ばれる始まりの大穴(ホール・ゼロ)研究の第一人者としてクリフォート魔族王国で知らない人はいない有名人である。

 そんな彼の姿が最後に(・・・)観測されたのはルーグラン王国内の冒険者ギルドだった。


 ルーグラン聖戦戦争において、エーデルワイス側として戦ったルーグラン王国の王都は壊滅。

 王族も教会も壊滅状態になり、敗戦国であるルーグラン王国は戦勝国であるクリフォート魔族王国の監督のもと復興作業を進めている。


 王都内ではシトラス宰相の部下の魔族達の姿も少しずつ増えてきている……が、ルーグラン王国の王家が魔族との和解を宣言したところで長年の敵対により生じた偏見はそう簡単に消える筈もなく、街を歩く魔族達に警戒や奇異の視線を向けることは多い。

 況してや、ベークシュタインが現れたのは王都から距離のある中規模の冒険者ギルドである。

 突如として現れたかつての敵に警戒の視線を向けるなという方が無理のある話だろう。


「よっ、ようこそ、冒険者ギルドへ」


 冒険者ギルドの受付嬢達もやはり魔族に対する偏見が強いようで、しばらく誰が応対するか押し付け合っていたが、数分の戦いの末に最も後輩の受付嬢が彼の応対をすることとなった。

 冒険者達が密かにファンクラブも結成されている隠れ人気受付嬢に同情の視線を向ける中、ベークシュタインは自分に向けられている視線などどうでもいいと言わんばかりにカウンターの方へと歩み寄る。


「君は、魔力というものについてご存知かね?」


 ベークシュタインは眼鏡をクイっと動かし、逆光で白く輝かせながら新米受付嬢のアンジュリナに尋ねる。

 その問いは初歩的なもの……しかし、冒険者ギルドを訪問してわさわざその問いをする意図とは一体何なのか?


「別に他の者でも構わない。冒険者、ギルド職員……君達なりの答えを聞かせてくれ給え」


「魔力ってのは魔法を使うのに必要な力だよ。そんなことも分からないのかい?」


 ベークシュタインの問いに答えたのは冒険者ギルドでも名の知れた魔法使いの女性であった。

 この世界において魔法とはありふれたものである。

 子供でも分かるような初歩的な定義をわざわざ仰々しく尋ねるベークシュタインに魔法使いは少し小馬鹿にするように返答する。


「なるほど……しかし、それは魔力というものが引き起こす現象について説明したに過ぎないのではないか? 私が問うているのは、それが起こす現象についてではない。改めて問おう、魔力とはなんだ?」


 ベークシュタインはカウンターから離れ、魔法使いの女性の方へとジリジリと近づいていく。


「……魔力が何かって……そんなこと、考えたことも無かったわ」


 魔法使いの女性の仲間の冒険者達が武器に手を掛け、警戒の視線を向ける……が、ベークシュタインはその言葉を聞いて満足したのか、踵を返してカウンターの方へと歩き始めた。


「この場にいる者のほとんどが気にしたことのない質問だろう。魔力とは昔から当たり前のように存在する力だ。我々にとっては空気や水と同じ。空気とは? 水とは? と問われることと同じだ。……結論から述べよう。私はその具体的な今は答えを持っていない。しかし、そう遠くない未来において、この問いの答えを用意できるのではないかと期待している。少し前に起きたルーグラン聖戦戦争において、私はクリフォート魔族王国側として参戦した。一応魔王軍幹部をやっているのでな。義務として参加せざるを得なかったのだ。戦後、女神エーデルワイスと夜の神ベンタスカビオサ――創世に携わった二柱に質問する機会を得た。結論を言おう、彼らも魔力とは何かという問いの答えを持っていなかった。元々この星にあった魔力を使い、魔族や魔物を創造したそうだ」


 「創世の神々に会った」など、普段であれば妄言として切り捨てられるものである。

 しかし、彼の魔王軍幹部という立場とルーグラン王国で起きた戦争において二柱の神が降臨したという事実がそれを許さなかった。


 冒険者や職員の心の中で「神すら答えられない問いを答えられる訳がないでしょ!」と突っ込みが入った……が、空気が読めない、否読む気がないのがデフォルトのベークシュタインが当然これに気づく筈もなく、淡々と話を続けていく。


「庚澤無縫――彼の手によって大迷宮は攻略され、冒険者は目標の一つを失った。いや、クリフォート魔族王国という明確な敵も失ったのだ。残っているのは瑣末な魔物の討伐のみ……正直、退屈しているのではないか? いや、そういったぬるま湯の中で日銭を稼ぎ、その日暮らしを営めればそれで十分と思っている者達にはどちらにしろ関係ない話か。だが、ここには真に向上心のある者が僅かでもいるのではないかと信じている! それに、ルーグラン王国……否、人間達の中から探せば何人か期待できる者達がいるのではないかと考えている。私が冒険者ギルドに来た理由はただ一つ、依頼を出すためである。対象は冒険者ギルドに所属する全冒険者……いや、この世界の最後の秘境に挑もうという覚悟を持つ者全てである! クリフォート魔族王国のケムダー区画、その中心に存在する始まりの大穴(ホール・ゼロ)。この先に、私は魔力とは何かの答えがあると確信している! この穴に入る条件は単純明快だ。強さを示すこと! 十人いる魔王軍幹部の中から八人の魔王軍幹部が用意した試練を突破し、『頂点への挑戦(サタン・カップ)』の本戦出場資格を得ること。……つまり、魔王の座を狙うような魔族の猛者達が挑み、未だ攻略に至らぬ場所こそが始まりの大穴(ホール・ゼロ)なのである。……私も含めてな。現在、ブリュンヒルダ王女殿下、フレイヤ嬢、プリュイ嬢の三名が資格を得るべくクリフォート魔族王国へと向かっている。無論、君達冒険者にも期待している! ……では、この最難関クエストを冒険者ギルドに依頼したい。……報酬については、そうだな。最初に始まりの大穴(ホール・ゼロ)の最奥部に辿り着いた者にお支払いすると約束しよう」


 最初はベークシュタインに警戒する者、敵意を向ける者が大半だった……が、彼の話を聞き終えた時、誰一人として彼に対してそのような目を向ける者はいなかった。

 冒険者とは危険を顧みず困難に立ち向かい、道を切り拓く者。中には安定を目指す者もいるが、前人未到の大迷宮などに挑む者達は皆、「誰も見たことのない景色」を、「一番」を目指していた。


 しかし、それは勇者として召喚された庚澤無縫によって掻っ攫われてしまった。

 そんな時に、新たなる秘境の話が舞い込んだのである。しかも、その攻略を果たせば魔力とは何か……即ち、この世界の根幹に関わる秘密が判明するという。

 これほどまでに心躍る話というものもなかなかないだろう。


 新米受付嬢のアンジュリナは震える手でベークシュタインから依頼書を受け取ることとなった。

 そこには、依頼主であるベークシュタインの名と、彼の全財産にも等しい膨大な金額の報酬が書かれていた。

 ……しかし、その報酬すらも端金になる、とベークシュタインは宣言する。

 始まりの大穴(ホール・ゼロ)にはそれだけの財宝が残されているのだと。


 かくして、無縫達によって奪われた冒険者達の冒険熱は新たな目標を得て再び燃え上がった。

 やる気に満ち溢れた者達はクリフォート魔族王国を目指す旅を始めることとなる。



 それから一週間後のことである。

 冒険者ギルドに一人の美しいダークエルフの女性がやってきた。


「……こちらのギルドに先日、純魔族の眼鏡をかけた男がやってきたと話を聞いたのですが」


 対応した受付嬢もその場に居合わせていた一人だったが、適任は自分ではなくその時に応対したアンジュリナだと考え、休憩室で休んでいたアンジュリナを呼びに行った。

 ……別に断じて面倒ごとっぽいから押し付けた訳ではない。


「あの……先日の魔王軍幹部のベークシュタイン様のご依頼ですよね? その件につきましては、先輩からギルドマスターにお伝えし、全冒険者ギルドで依頼を受注できるようにしました。その件について何か問題がありましたか?」


「いえ……そちらについては大丈夫だと思います。いきなりクリフォート魔族王国を訪れる人間の方が増えて国の中枢や【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】の警備をする対人間族魔国防衛部隊の方々が頭を抱えているようですが……それに関してはもうどうしようもありませんし。あの阿呆は独断で動き過ぎなんですよ……」


 流石に国に話を通していると思っていたアンジュリナは、「もしかして、あれって受けちゃダメな依頼だったの!? 私、もしかしてクビ!?」と戦々恐々としていた。


「今回訪問したのはその件での苦情を言いに来た訳ではありません。いきなりのことでしたので混乱は各所で発生していますが、今回の件はクリフォート魔族王国にとっても良い刺激になりますし、魔族への偏見を減らすことに一役買ってくれるのではないかという期待もあります。……実は、あれからベークシュタイン、一応私の上司なのですが、あの莫迦が失踪しましてね。まあ、あの莫迦ですから行き先なんて決まっています。……遂に無許可で始まりの大穴(ホール・ゼロ)に突入しやがったんですよ!! 本来は穴に入る方々を管理し、そのようなことが起きないようにするべき側にも拘らず!! 最後に彼が訪問したのがこの冒険者ギルドだったということだったので、一応確認を、と思って来たのです。こちら、菓子折りです。あの莫迦のせいできっと皆様にもご迷惑をおかけしましたよね」


「そ、そんな……ご迷惑だなんて。それで、その……大丈夫なのですか? その方、魔王軍幹部なんですよね?」


「大丈夫……じゃないですね。とりあえず、魔王陛下と宰相閣下に頭擦り付けて誠心誠意謝罪し、その上で判断を仰ぎます。……もう、本当に……嫌……お腹が、痛いです」


 菓子折りの袋を手渡し、満身創痍といった様子で冒険者ギルドを後にするカトレアに同情の視線を向ける冒険者と職員達だった。

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