捕虜だから丁重に扱うのと戦後に望まない仕事に従事してもらうことは両立する……らしい?
破壊神竜ロードガオンは咆哮と共に無縫達へと迫る。
当たれば確実に致命傷に至る鋭い鉤爪による薙ぎ払いを魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス達は散会して躱した。
「……なかなかの威力だな。まあ、躱し切れないこともないけど。ミリアラさん、『空の門』で俺以外の全員を大日本皇国に避難させてくれないかな?」
「……構わないけど、いいのかしら?」
「まあ、どちらにしろ避難完了するまでは攻撃できないし、人数居ても攻撃の的が増えるだけだからね。避難が完了した段階でラストアタックのつもりで全員で大技を放ちたいから、大田原さんから全員避難完了の合図をもらったらこっちにもう一回飛んで全員一斉攻撃を仕掛けて欲しい」
「……なかなか大変な仕事を任せてもらったわね。分かったわ! それまでよろしくね」
ミリアラの『空の門』で魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスを残し、全員が大日本皇国へと転移する。
『我が力の恐ろしさに震えて逃げたか! まあ、良い。逃げたところでどうせ実界は我が支配するのだ! 遅いか早いか程度の違いでしかない』
「随分と自分の力を高く見積もっているんだな」
恐れをなして逃走したと解釈したヴァッドルードだったが、コックピットに乗るヴァッドルードは次の瞬間、顔を怒りに染め上げる。
なんと魔法少女の変身を解き、無縫が無防備を晒したのだ。
ワーブウェポンどころか武装一つせずその身一つでヴァッドルードの決戦兵器――破壊神竜ロードガオンと相対したという事実はヴァッドルードにとって侮辱に等しい行為であった。
『我を愚弄するかぁ!!』
烈火の如く怒るヴァッドルードに、無縫は狂気じみた光を目に宿し、獰猛に笑う。
「さて、俺の『気紛れな女神の寵愛』という名の呪いと、お前の君主としての覇道――どちらが勝るか賭けをしようか?」
『ぬかせぇ!!』
破壊神竜ロードガオンは鉤爪で、巨大な尾で、ブレス攻撃で無縫へと攻撃する。
その攻撃が全く無謀にダメージを与えなかった訳ではない……どれも致命傷には至らなかった。
あれだけ攻撃を受けてなお涼しい顔で立っている無縫にヴァッドルードは驚愕し、続いて思い通りにならない状況に苛立ちを募らせ、烈火の如く怒り狂い発狂する。
――この程度の敵、簡単に捻り潰せる筈なのに。それなのに、何故、あの矮小な敵は今なお消えずに覇道の前に立ち塞がるのか。
ヴァッドルードはその後も無縫に攻撃を仕掛け続けた……が、結局、無縫にとどめを刺せないまま遂にその瞬間が来てしまう。
『無縫、避難が完了した。詠もこのデカブツをぶった斬る気満々らしい。俺は先に大日本皇国に帰っておくよ。ああ、ヴィオレットにもこの件は伝えてある。すぐにミリアラさんの力でこっちに戻れる筈だ』
「了解……残念だったな、ヴァッドルード、どうやらお前でも俺は殺せなかったらしい」
諦観とほんの少しの安堵という複雑な感情が入り混じった表情を浮かべた無縫だが、すぐに気持ちを切り替えると魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスに変身する。
それと同時に『空の門』の力で無数の門が展開し――。
「【太極・混沌御中】!! 【黄金錬成】! ――操力の支配者!」
「【魔王の一斬】じゃ!!」
「妖精の天嵐だよッ!!」
『神の怒りに貫かれなさい! 神光飛折!!』
『荷電粒子砲なのじゃ!』
『絶望の奔流でございます』
「変身! 空飛ぶ砲台展開!! 一斉掃射ッ!!」
「空の門、ワーブウェポン・流星降弾」
「――ワーブリングシステム起動! 白ワーブウェポン・渾天の翼! 銀ワーブウェポン・焔魔! 同時展開ですわ! 焔叢飛連斬りですわ!」
「『磁界王』!!」
「『絶界切断』」
魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス、魔法少女ヴァイオレット=レイ、魔法少女シルフィー=エアリアル、エーデルワイス、メラク、ベネトナシュ、魔法少女プリンセス・マスケット、ミリアラ、マリンアクア、グロッシャニア、詠――総勢十一人の攻撃が炸裂する。
いくらロードガオンそのものを取り込んだとしても流石にこれだけの攻撃を喰らってタダで済む筈もなく、その身体に無数の亀裂が走り、大きく消耗した。
破壊神竜ロードガオンは反撃に打って出ようとするが、間髪入れずに魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカス達がもう一度一斉攻撃を浴びせかける。
流石に二撃目の総攻撃を耐えられる筈もなく攻撃を浴びた瞬間、破壊神竜ロードガオンの身体は粉々に粉砕された。
◆
ロードガオンとの戦争もヴァッドルードに勝利したことで幕を閉じた。
ヴァッドルードが破壊神竜ロードガオンを持ち出したこと、無縫達がその破壊神竜ロードガオン諸共ヴァッドルードを撃破したことでロードガオンの民は祖国を失ったが、フィーネリア達が無縫達との交渉を経て手に入れた異世界の星にすぐに移住できる状況だったことや、ロードガオン側が最初に侵略した側――つまり加害者であったということもあって戦争後に火種が燻ることも無かった。……まあ、あのヴァッドルードに勝利するような者達に戦争を仕掛けたところで勝ち目がないということも理由の一つだったのだろうが。
ヴァッドルード側につき、次期当主と家宝である白ワーブウェポンを失ったシュトラノム家とヴェルンナルス家は失脚――代わりに新たな安住の地となる人工惑星セルメトに招き入れた元最弱の四大領主、ノルディール=レーネが新たな君主に就任した。
生き残った親衛隊メンバーのほとんども新たな君主の誕生に忠誠を誓った。
しかし、否、やはりというべきか。ノルディールは力を求めなかった。
「私は大日本皇国の良き隣人として、これから新生ロードガオンは大日本皇国と助け合っていけたらと思っている。友が困っている時に助けたい……力などその程度で十分なのだ」
ノルディールは侵略行為を行ってきたロードガオンを否定し、属国だった多くの虚界の国々を解放する宣言をした。
また、ロードガオンと同じく滅びの運命が迫っている国々の人々に新生ロードガオンへの移住を提案し、希望する者は分け隔てなく受け入れた。
……まあ、実際のところいくら広い星と言っても限界はあるので無縫が協力して移住先となる星をいくつか生み出し、そこに住むこととなったのだが。
虚界には真に安住できる大地というものが存在しない。移住した者達は初めて得た失われることのない大地にいたく感動したようだ。
さて、めでたしめでたし……と言いたいところだが、ロードガオンはやはり敗戦国である。全ての者が幸せになった訳ではない。
「……ここが内務省っすね」
その最たる例がグロッシャニア=ティエルンだ。
聳え立つ庁舎に入り、職員に道を聞きつつ歩くこと数十分――目的の部屋に入ると、そこには山羊を彷彿とさせる角と蝙蝠を彷彿とさせる翼を持つ女夢魔のリリス=マイノーグラだ。
「本日はこちらの急な呼びかけに応じて頂き感謝する。異世界アムズガルドにおいて魔王国ネヴィロアスの魔王をしているリリスだ。以前は魔王軍四天王を務め、ヴィオレット様の専属侍女をしていた。……大日本皇国でも長い時間世話になっていて、以前は内務省異界特異能力特務課参事官補佐を任されていた」
「無縫殿から話は聞いているっす。ボクはグロッシャニアっす。親衛隊の一員で、戦争ではヴィオレット殿、リリス陛下の主君に完膚なきまでに叩きのめされたっす。……あの、やっぱり敵対したボクのことを恨んでいるっすか?」
「いや、ロードガオンと大日本皇国は敵同士だった。相対するのも致し方ないこと。話には聞いていたが、ヴィオレット様とシルフィア様、それと女神エーデルワイスについては人柄をある程度理解しているってことでいいのだな?」
「まあ、そうっすね。極力お関わりになりたくない人種だと思ったっす。ボクの叔父はギャンブルで家宝を売り払うくらいまで没落したっすから」
「なるほど……では、グロッシャニア殿の心情さえ考慮に入れなければこれ以上ない人選ということだな。ロードガオンとの戦争以前、ルーグラン王国との戦争においてエーデルワイスは捕虜となり二人の監視役を『真の神の使徒』と共に引き受けることになった。しかし、エーデルワイスは二人を止めるどころか一緒にギャンブルをするような輩である! だから私は信用できないと言ったのだ!! グロッシャニア殿はギャンブルに対する忌避感もあり、恨みもある。このような方がストッパーになってくださるのであれば私も安心して魔王業に専念できる」
「いや、ボク負けているっすよ! 完膚なきまでに! 止められる訳ないっすよ!」
「強くなるための手配は内務省がしてくれるそうだ。それに私も力になる。……辛い仕事にはなると思うが、どうか引き受けて欲しい」
「ああ! これ! 断れない奴っすね!! 敗戦国の捕虜だし……ああ! なんでボクだけ貧乏籤……ああっ!!」
断りたくても敗戦国の捕虜故に強く言えないグロッシャニアは発狂したものの、発狂したところで状況は何一つ変えられずに結局仕事を引き受けることとなった。
◆キャラクタープロフィール
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・ヴァッドルード=エドワリオ(二百七十一話)
性別、男。
種族、ロードガオン人。
年齢、二十九歳。
誕生日、一月三十日。
血液型、D型Rh+。(ノートリ人の血液型はL型、K型、D型、LK型のいずれかである)。
出生地、虚界・ノートリ。
一人称、我。
好きなもの、支配。
嫌いなもの、支配されぬもの。
座右の銘、この世の全ては我が支配のためにある。
尊敬する人、ヴァッドルード=エドワリオ。
嫌いな人、まつろわぬもの全て。
職業、ロードガオン君主。
主格因子、無し。
「ノートリと呼ばれる星の市民階級出身。生贄としてロードガオンに連れてこられるも、自らの力でロードガオンの四大領主を押さえ込み、君主として君臨した。自分以外の全てを見下し、あらゆるものが自分のものになると思い込んでいる。どこまで行っても力でしか従えられない孤独な君主である」
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