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Opus.5 - No.5

 調査報告を聞いたところ、全部で十六人ものSクラス能力者が、建物から消えていることが分かった。瓦礫と化した建物からは死体は一つも見つからず、建物の周りを警備していた保安軍隊員の死体だけが、山のように積み重なった。


「やはり能力者狙いは確定ですね。誘拐された子たち全員の能力についても調査しましたが、十六名のうち、周辺へ多大な被害を与え得る重要監視対象の能力者が二名含まれています。一人は――」


白霧しらきり霊廻れいね。別称エクトプラズマー。肉体と霊体を分離させ、相手の体に強制的に乗り移ることができる。乗っ取られた肉体の持ち主である霊体は消滅し、存在自体が完全に抹消されてしまう。所謂いわゆる生霊いきりょう殺し』って奴だね。そして、もう一人は犬走いぬばしり来禍らいか。別称グレイハウンド。――普段は普通の少女だが、怒らせると途端に性格が狂暴化し、体形も巨大化、理性を無くして破壊の限りを尽くす獣と化す。狼男も顔負けだね。本来ならこの二人の持つ力はDisaster(ディザスター)に分類されてもおかしくない能力だ。だが、()()()()()彼女はSクラスに格下げしたんだったね。二人を隔離施設に幽閉させることを避けるために」


「っ……申し訳ありません、指令」


 如月は眉をひそめ、その場で小さく頭を下げた。


「おや? なぜ謝るのかね? 私は別に君を責めてなどいないよ。逆に好都合だ。中途半端な力しか発揮できない能力者だけ連れて行かれても、()()()()()()()()()


「……それは、どういう意味ですか?」


 デリカシーに欠けた言葉に対して、如月は眉をひそめて尋ね返す。


「そのままだよ。彼らはSクラスだけでなく、Dクラスにも匹敵する能力者たちをかっさらっていった訳だ。良かったね~、これで彼女らを自分のものにできれば、もれなく世界を揺るがす人間兵器が出来上がる。――()()()()()()()()()()、の話だけれどね」


 言葉の意図を察した如月は、真玖目に向かってこう言葉を返す。


「彼らは抵抗すると?」


 真玖目は銀色に輝く目を細め、如月の方を見る。


「危険度の高い能力者を手元に置く。――それは言わば諸刃の剣だ。扱い方を誤れば、途端に自分の手を切り落としかねない。能力者たちの心に、まだ反抗心と自由な意思が残っていれば、彼らは必ず抵抗するさ。そして、自由を求める彼らの闘争心を、果たして敵共は押さえ付けることができるのか? 見物みものだとは思わないかい?」


 真玖目はそう言って、まるで悪戯を仕掛けた子どものように、ニッと白い歯を覗かせて笑った。


 遠洋の孤島「ブリゾアクトフロート」の最高責任者であり、自分の上官でもある真玖目司令官は、今回起きた事件を、まるでゲームのように楽しんでいるのではないだろうか。如月はいよいよそう本気で疑い始めていた。


 今回、この島で管轄していた能力者が外部へと持ち出されてしまったことにより、様々な懸念が生まれる。能力者が持つ力の大きさは未知数であり、元々はOクラスに指定されている能力者であっても、力が覚醒して一気にDクラスへ危険度が跳ね上がった例も存在する。


 おまけに、この島で管理している能力者は、全員思春期を迎えたか迎えていないかの子どもたちばかり。まだ自身の秘める力の制御に慣れていない彼らに能力を使わせてしまうのは、火災を知らない子どもにマッチを与えることと同義。所かまわず力を振り回してしまえば、大惨事を引き起こしかねない。


 しかも、今回、十六名もの能力者が反政府組織やテロ組織に渡ってしまったともなれば、これまで綱渡りでギリギリの均衡を保っていた世界情勢が、一気に崩壊してしまう危険性すら有り得るのだ。


 そんな、世界の均衡が崩れてもおかしくない事態を前にしてもなお、真玖目司令官はこの調子なのである。

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