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Opus.5 - No.3

 現場は、如月の書斎のある本部ビルから、そう遠くない場所にある住居棟だった。


 ここ、海上の孤島「ブリゾアクト・フロート」。特殊な力を持つ能力者の保護・隔離・育成を目的とする組織「ピュグマリオン」の本部。本土から約四百三十キロ離れた人口島に、能力者を含め、彼らの持つ能力を調査する研究員、彼らを警護・監視する保安軍など軍関係者ら、約二万五千以上もの人々が生活している。


 今回襲撃されたのは、ベイエリアに近いSクラス能力者の居住区画で、島の西端に位置している。如月が到着した頃には、襲撃された居住棟は既に焼け落ち、ほぼ全壊してしまっている状態だった。


「――やれやれ、やけに外が騒がしいと思って来てみれば、何だいこの有様は? 酷いねこりゃ」


 現場に到着した如月が車から降りると、軍用車両や盾を持った部隊員たちが行き交う喧騒の中、一人の男の声が彼女を出迎えた。


「これは真玖目まくめ指令、お早いお着きですね」


 如月は、目の前に立っていた男に向かって敬礼する。


「精鋭部隊を持ってして、戦闘が始まってたった五分でここまでやられるとは……我々お抱えの保安軍も、これじゃ面目丸潰れだねぇ」


 赤いジャケットにパンツ、赤いシャツに赤いネクタイと靴、そして紅の山高帽を被った、全身を赤で包む男――ピュグマリオン最高司令官、真玖目まくめ銀磁ぎんじは、まるで水銀のように輝く銀色の目を細めて、悪戯っぽくにやりと笑った。


「はい。この区画を守備していた405部隊が全滅。襲撃されたのはこの区画だけのようですが、念のため、各区域の守備部隊に厳戒態勢を敷くよう伝えました」


「奴らはもう逃げたよ。それに、当分はもう来ないだろうねぇ」


「はい?」


 真玖目の言葉に、如月は首を傾げる。


「現場の奴らから聞いたよ。襲撃された区画に住んでいたSクラス能力者名が約二十名ほど、行方不明らしい」


「行方不明……ということは、まさか――」


「そう! そのまさかが起きちゃったね~」


 真玖目は如月に向かってビッと両手の指を突き立て、おどけたように言う。


「ガンシップ四機を導入しての夜間奇襲、兵力は最小限に抑え、目的の場所をピンポイントで襲撃し、短時間の間にSクラス能力者をさらうだけ攫ってズラかる――これぞヒット&アウェイの典型的戦法じゃないか。彼らは束になってかかっても我々に勝てないことを知っていたのさ。総力戦で全滅するくらいなら、少数の戦力を目標である局所に集中させて、目的の戦果だけ回収したら即刻立ち去る方が賢いし、有益な作戦だろう。そして、その作戦は見事に大成功! おかげであちら側は、戦果であるSクラス能力者たちを捕まえるだけ捕まえて、こちらは精鋭部隊一個中隊分を丸々失う大損害をこうむったという訳だ。いやはやあっぱれ! こちら側の完敗じゃないか!」


 真玖目は、まるで興奮した子どものように声を上げて両腕を広げて見せる。まるで、こちらが敗北した事実に対して歓喜しているかのごとく、彼の目はキラキラと輝いていた。

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