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第一王子、聖女との婚約破棄するって  作者: 海狸堤防


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新国王

「責任だと」

 国王が声をあげる。

「いったい何の責任だ」

「まだ分かってないんですか?

 救えないですね」

 心底呆れて第一王子は気持ちを表明する。

「事ここに至れば、上に立つ者がする事は一つ。

 国の代表として、その首を切り落としてください」

「な?!」

 あまりにもあまりな言葉である。

 国王は思わず腰を浮かした。



「あと、教皇。

 お前もだ」

「なんだと?!」

「神を騙ったんだ。

 相応の罰は当然だろ。

 むしろ、国王より重いぞ」

 聖女を己の利益の犠牲にしようとしたのだ。

 気持ちを踏みにじって。

 神がそれを許すはずがない。

 しかも、まがりなりにも神の僕を名乗っておきながらだ。

 その分、国王よりも責任は大きくなる。

「まあ、楽に死ねるとは思わないほうがいいだろうね。

 死んでも地獄が待ってるけど」



 当たり前のように言う第一王子。

 それは、政治中枢にいる者達が消え去る事を意味する。

 普通に考えれば、それだけで政府が崩壊する事になる。

 存亡の危機と言っても良い。

 にもかかわらず第一王子は平然としていた。



「何を落ち着いている」

 そんな態度の第一王子に国王は苛立ちながら聞く。

「国の一大事だぞ」

「大丈夫ですよ、大変なのはここにいるモノ達だけなので」

「どういう事だ」

「既に主要な所には適任者が就いてます。

 何の問題もありません」



 何も全員が神の処罰対象というわけではない。

 まともな人間も何人かいる。

 その中には要職をこなせるだけの人間もいる。

 それらが空席になった役目に従事していく。

「なので、仕事に穴があく事はありません。

 むしろ、今までよりもよりよく事が運ぶかも」

 その方が第一王子にとってはありがたい。



「第一、気付いてないのですか?

 招集をかけたのに、この場にいない人もいるでしょう」

 言われて国王達は気付く。

 所用で席を外してる者達がいる事に。

 それらは代理のモノが来てるので問題は無い。

 もとより、主要な閣僚などが必須というわけではない。

 国の今後に関わるとはいえ、あくまで婚約者発表のためだけの集まりだ。

 代理人の出席でもどうにでもなる。

 だから国王達も気付かなかった。

 何かがおかしいという事に。



「ここにいない人達は、各部署を掌握してもらってます。

 今は皆さんのいない穴を埋めてもらってる最中でしょうかね」

 国王達は愕然となる。

 自分達がいなければ政治は動かないと思っていた。

 しかし、それは幻想だった。

 代わりの者は既にいて、それが今は実務を握っている。

「でも、それは以前からそうだったじゃないですか。

 出来ない人が出来る人をこき使って動かしてたんですから。

 今、そういう無駄な人が消えて、まともに動いてますよ」

 あからさまな無能呼ばわり。

 その事に居合わせた者達がざわめく。



「それと、皆さんの領地ですが。

 そちらでも同じ事が起こってます。

 まあ、皆さんは家から追い出されて、本日よりめでたく浮浪者です。

 頑張って生きていってください」

 ざわめきが更に大きくなる。

 いきなり家から追い出されると言われて慌てている。

 第一王子はそんな彼らに親切にも教えてあげる。

「生活に不安があるなら、仕事をしましょう。

 幸い、魔物退治なら幾らでも仕事はあります。

 死人が出やすいので、常に人手不足です。

 行けば即座に採用されますよ」

 今後の生活を成り立たせる方法を伝授していく。

 至れり尽くせりだ。



「教会の方は完全に消滅するけど。

 神の名を騙った罪は重いよ。

 まともな人間は教会から離脱して還俗させてるから。

 そうでないのは、神の名の下に裁かれてる。

 今頃、処刑がもう始まってるだろうさ」

 その通り、もう最初の処刑が始まっている。

 各地の教会でそれは行われている。

 真摯に神への信仰を貫いた者は難を逃れているが。

 それでも教会と宗教はこの日をもって崩壊した。



「何にしてもやりすぎたよ。

 この国は人間を一旦大掃除してやり直す事になる」

 国内で起こってることを、第一王子はそうまとめた。

「停滞する部分も少しは出て来るだろう。

 けど、問題を一掃する良い機会だ。

 これをくぐり抜ける事が出来れば、今までよりは良い状態になる」

 実際、いなくても良い、むしろいない方が良いものが消える。

 その恩恵は大きい。

「だから、あなた方は邪魔です。

 様々な事を停滞させた罪。

 しっかりと償ってもらいますよ」



 その言葉が終わるかどうかといううちに、玉座の間に人が入り込んでくる。

 聖者について蜂起をした者達だ。

 それらが玉座の間にいる者達を捕らえていく。

「準備は?」

「出来てる」

「では、中庭に」

 捕らえられた者達は、そのまま中庭に引きずられていく。

 その後を第一王子達も追った。



 そこには断頭台が並べられていた。

 それも幾つも。

 引きずり出された貴族達はそれを見て悲鳴を上げていく。

 そして断頭台に固定され、そのまま分厚い刃を落とされていく。

 名前や罪状の読み上げもなく、神への祈りもない。

 そんな手間をかける事なく、作業としてこなしていく。

 神の怒りに触れたのだから、神に祈る事もない。

 全てを作業として、命の重みなど全く無く処理されていく。



 それを国王と教皇は見させられ続けていく。

 次々に彼らの忠実な、つまりは腹黒い連中は処分されていく。

 次は自分なのだろうと思うと、国王も教皇も震えがとまらない。

「ああ、大丈夫ですよ」

 第一王子は震える二人をなだめる。



「二人は断頭台にはかけません」

 穏やかな声で言われ、国王と教皇は安心した。

 自分達の処刑はないのだと。

 勘違いも甚だしい。

「お二人には、これから拷問が待ってます」

 安心した直後、二人は再び恐怖のどん底にたたき落とされた。



 これも神の怒りをなだめる為である。

 原因となった者達を処分しないわけにはいかない。

 その処分も簡単なものでは納得されない。

「まあ、今までやらかした分があるんで。

 それなりの事は覚悟してくれ」

「待て、待て!」

「なにか?」

「今までといっても、それは余がやったものではない。

 全て昔の方々が…………」

「それは分かってますよ。

 その人達は、死んでから地獄に送り込まれてるそうですから」

 それはそれとして、当代の者達である。

「あなた方はあなた方で責任をとってください。

 それが責任というものです」



 次々に頭が飛んでいく貴族達。

 それを見て第一王子は、

「あんなに楽に死ねると思わないでくださいよ」

 国王と教皇にそう告げた。




 それから王国は、第一王子が継承し、新たな国王となった。

 多くの者が死ぬ事になったが、それでも国が滅びたわけではない。

 神の怒りを免れた、あるいは比較的軽い罪を現世で償う者達と共に再出発をしていく。

 幸い、今まで通り神の加護はある。

 その力により、魔物が人間の生息域に侵入する事は無い。

 当代の聖者と聖女もその力で国の守りを保ている。

 安全だけはとりあえず確保された。



 それでも大量に人が抜けている。

 その穴は決して小さくはない。

 補えないほど大きくはないが、全員が必死にならざるをえない。

 誰もが今まで以上に仕事に励まねばならなかった。



 だが、仕事の邪魔になる者がいない。

 おかげで変な滞りは発生しない。

 それが救いと言えば救いである。



 そして、元国王と教皇であるが。



 その二人は、教会のあった所に新たに設置された施設に放り込まれている。

 彼らだけではなく、その他のより罪の重かった者達と共に。

 第一王子以外の王族に、裏側で全てを操っていた黒幕達。

 神の奇跡を使える者達を貶めた者達も。

 それらは今、出入り口をコンクリートなどで密閉された空間の中で苦痛にさいなまれている。



「う…………」

「があ…………」

 押し殺した悲鳴が暗い室内に籠もる。

 それは元国王と元教皇のものだった。

 同じように苦悶の声をあげてるモノがそこかしこに転がっている。



 彼らは魔物が放つ負の魔力を一身に受ける形代になっていた。

 神の加護による守りを少しでも肩代わりするための。

 そのための消耗品となっていた。

 何せ、魂そのものに負担がかかるのだ。

 苦痛は肉体的なものを上回る。

 それが途切れる事なく延々と続くのだ。

 魔物の魔力は常に襲いかかってくるのだから当然だ。



 その苦痛により、神の怒りも少しはほどけようというもの。

 神の負担をほんのわずかでも請け負ってるのも大きい。

 それでも死ねば地獄行きなのだが。

 死ぬまでに出来る限り使い潰そうという神の意図が垣間見える。



 だが、おかげで国に残った者達の負担が減る。

 周囲を取り囲む魔物の魔力が幾らか減退しているのだ。

 作物の育ちも若干良くなり、水の濁りも幾らか解消された。

 空気の澱みも緩和された気がする。



 それだけやっても罪が消える事は無いが。

 しかし、犯した罪の償いにはなっている。

 悪人らしい末路だ。



 翻って、新国王やその王妃、そして聖者や聖女達。

 その他、残った者達は、大変ながらも幾らか平穏な日々を過ごしている。

 魔物と取り巻く魔力という問題はある。

 だが、人間同士で争う事は減った。

 それだけでもありがたい。



 平和にはまだ遠い。

 だが、少なくとも今は平穏だった。

 新国王達にとって、それ以上に望むものはない。

 ただ、この平穏が少しでも続くように。

 そんな願いを抱きつつ、今日という日を生きていく。



 後の世では、この時期の処断が功を奏し、人類は勢力を回復させていく。

 魔物を退け、生存圏を拡大していく基礎を築いた時代として。

 その功績は後世にも語り継がれていった。

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