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聖者

「神の敵はここか?」

 平坦な声を発して入室してくる男。

 背丈は高からず、低からず。

 170センチ前後といったところか。

 いわゆる中肉中背、それほど威圧感のある体型ではない。

 顔つきも柔和で、どちらかといえば女顔といえる類いの美形である。

 ただし、今はその顔が硬く固定され、目つきの鋭さはそれだけで人をショック死させかねない。

 その視線を右から左に、玉座の間全体に向けていく。

 にらまれた者達は、それだけですくみ上がってしまった。



「うわー、何あれ」

 聖女がこの場にそぐわない素っ頓狂な声をあげる。

「え、あれってあいつなの?

 いつも笑顔でニコニコの?」

「ああ、そうだ」

 第一王子は疑問に答えを提供する。

「おまえが連れていかれてからずっとあんな調子だ。

 正直、傍にいるのが怖かった」

「あ、うん、そうなんだ……」

 聖女は納得出来ないままその言葉を聞いていった。



 入ってきたのは、聖女のなじみである。

 ガキの頃から一緒であった。

 世代は聖女よりも若干上。

 年齢にして7つほど離れている。

 だが、宿場町にある古くからある祠。

 それを奉る家に生まれ、古くからの教えや伝承を守ってる。

 教会が出来る前から続く、古い信仰だ。

 それを今に伝えている血筋である。



 そうして培ってきた教養などをもとに、宿場で読み書きや計算などを教えている。

 また、長老というか相談役というような役目をになってもいる。

 その為、宿場の運営や問題などがあると意見を求められる。

 そうした役目があるからなのか、あまり角の立つような事をしない人間だった。

 なのだが、今はそんな気配をみじんも感じさせない。

 全身からあふれる意思が玉座の間にいる者達に叩きつけられている。



 そんな彼は聖女が誘拐されてから、普段の穏やかさやのんきさをかなぐり捨てた。

 静かに怒りを発しながら、事を起こした馬鹿どもを追いかけていった。

 普通なら簡単には出来ないだろう追跡。

 それを彼はやってのけた。

 当代の聖者として神の助力を得ているから出来たのだ。



 そして聖者は神の声を聞いた者達の統率者として進軍を開始した。

 今や心ある者達の総帥のような立場にいる。

 それこそ、国を二分する勢力の頂点だ。

 勢力だけなら国王や教皇にはりあえる。



 そんな男がやってきたのだ。

 城下は彼についてきた神の声を聞いた者達であふれている。

 それこそ、貴族に騎士に町民に農民に、その他諸々が。

 出身や身分に職業などの違いなく、ただ神が許容範囲と見なした者達が。

 それらが押し寄せてきている。

 既に城内にいた心ある者達の手引きで、城門は開き、城内も制圧されている。

 残す主要な区域は、この玉座の間くらいだ。

 その場に、神の勢力(実態として一揆と大差はないかもしれない)の頂点がやってきたのだ。



「悪い子、いねが~」

 どこぞの民俗上の鬼のようなセリフを吐く聖者。

 静かな怒りをたたえるその姿に、居合わせたほとんどがすくみあがる。

 数少ない例外である聖女は、

「何やってんのよ!」

と聖者に近づいて大声をあげる。

「正気に戻れ!」

「ん、お、おう。

 なんだそこにいたのか」

 近づいてきた聖女を見て、聖者は正気を取り戻した。

「頭に血が上ってて気付かなかった」

「あんたねえ……」

 盛大にため息を吐いた。



「だいたい、なんであんたが一番に乗り込んでくるのよ」

「成り行きかな。

 神様から声が聞こえたから」

「それだけで?」

「真っ先に乗り込みたいと願をかけもしたけど」

「あんたが原因じゃない!」

「そうとも言う」

「そうとしか言わないわよ!」



 唐突に始まる聖者と聖女のやりとり。

 それを聞いて周りの者は唖然となる、先ほどとは違った意味で。

 そののんびりした青年と、勢いよく突っかかる少女のやりとりは、馴染みの間柄ならではの雰囲気がにじんでいた。

 実際、馴染みであるので間違いではない。

 ただ、それは知人同士のやりとりというよりは、痴話喧嘩めいた何かにしか思えない。

 それが証拠に────



「まあ、あれだ」

「なによ」

「お前が誘拐されて分かったんだ」

「何がよ」

「真実の愛に!」

 真顔で頭のぶっとんだ事をほざく聖者。

 それを聞いて聖女と第一王子と伯爵令嬢と、その他諸々のモブは言葉を失った。

 頭が真っ白になったともいう。

 本日この場にて、この状態に何度も陥った者が多発している。



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「どうした、何を黙ってる」

 唐突に訪れた沈黙。

 その原因を作った聖者は、とりあえず目の前にいる馴染みを促す。

「いつものように怒鳴り声と悪口と憎まれ口をたたけ。

 調子が狂う」

「…………何言ってんのよ!」

 派手に響き渡る聖女の声。

 比較的近くにいた第一王子と伯爵令嬢は、鼓膜から脳みそまでゆさぶられた。

 そこから離れた所にいる連中も似たような状態に陥った。

 唯一、毎度の事として聞き慣れてる聖者だけが平然としている。

 なお、その瞬間に神の助力を得て聴覚などを守っていた事は、聖女以外の誰にも気付かれなかった。

 職権濫用というか力の無駄遣いというか。

 だが、適切な使い方ではあった。



「あああああああああんたねえ!

 そそそそそそそそそういう事はねえ!

 もももももももももうちょっと控えめに言いなさいよ!」

「そうか?

 遠回りな言い方をすると伝わらないと思うんだが。

 お前の場合は特に」

「なんですって!」

「行動も考え方も直線なお前に、もってまわった言い方をしたって伝わらない」

「あんた、あたしがイノシシだと思ってんの?!」

「ああ、そうだ。

 あんまり間違ってないだろ」

「言ってくれるわね」

「言わないと伝わらないからな」

「あとでおぼえておきなさいよ」

「そう言っておぼえてないのがお前の良いところで、悪いところだ」

「じゃあ、今回はしっかりおぼえておくわ」

「出来ればもっと大事な所でもそうしてくれ。

 おかげで、今まで何度も言ってきた事が忘れられてきたからな」

「じゃあちょっと思い出させてくれません?

 あたしに何を言って、何を忘れちゃってるのかを」

 聖女、下手なヤクザよりも怖い顔と声になっていく。

 対する聖者、全く意に介さず、淡々と事例をあげていく。



「お前、色恋沙汰の言い回しとか疎いだろ。

 客商売で色々な話を耳にしてるくせに」

「悪かったわね。

 酔客相手にそんな話する余裕有るわけ無いでしょ」

「まあ、おじさんとおばさんも、そういう事は教えてなかったようだしな」

「父ちゃんと母ちゃんも忙しいから」

「だからなんだろうなあ。

 お前、俺が『月下草がよく似合う』って言ったの、聞き流しただろ」

「そういや、そういう事言ってたわね。

 なんで草の話をすんのかわかんなかったけど」

「あれはな、

『月明かりに照らされる名花に劣らぬほど美しい』

って意味だぞ」

「…………え?」



「それとな、『たまには遊びにいったら』とか言ってくるよな、お前」

「そりゃあね。

 仕事が忙しいのは分かるけど、いつも町にばっかいるから。

 たまには息抜きにでもいけばいいと思って」

「その時、

『カスミノモリに付き合ってくれるなら』

って俺が言っただろ」

「ああ、そんな事もあったような、なかったような」

「いいか、カスミノモリってのは神住の杜って事だ。

 挙式の場所って意味なんだよ」

「…………は?」



「あとな、俺がこのトシまで独り身なのからかってきたよな。

『いい人いないの』って」

「まあ、からかうと楽しいから結構言ってるよね……」

「で、俺は言ったよな。

『アサギリユリが揺れるのを待ってる』って」

「…………それも何か意味があるの?」

「朝霧百合ってのは、成長に何年もかかる花だ。

 それが咲き誇って、風に揺れて自分に向くまでいつまでもあなたを待つって意味で使われるんだ」

「ええっと…………」

「念のために説明するがな。

 お前が気付くまでずっと待ってるって事だ」

「う…………」



 言われて聖女がだんだんとうなだれていく。

 その顔が真っ赤になってるのは、うつむいてるので周囲に露見する事はなかった。

 聖者の方は顔をしかめて聖女の前に立っている。

 それは今まで繰り返された、無駄な努力を思い返してなのか。

 はたまた、顔に感情が出るのを必死で阻止してるのか。

 どっちも理由としてあがりそうだった。



 とりあえず聖者と聖女は二人とも頭に顔が赤くなるのを必死に隠してる。

 周りで聞いていた者達も、顔が熱くなるのを感じてしまっている。

 しばし玉座の間には沈黙が訪れた。



「まあ、そこのご両人についてはこれで良いとして」

「何がだ!」

「どこがよ!」

 第一王子の発言に、聖者と聖女が声を揃えて反論する。

「…………そこまで息が合うんだから、これからも仲良くやっていけるだろ」

「…………」

「…………」

 今度は二人ともうつむいて口を閉ざした。

「というわけで、こちらの方は片付いた。

 あとは、今後についてだ」

 第一王子は、あらためて国王と教皇とこの場にいる有力貴族に目を向ける。

「責任はとってもらいますよ」


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