第六天魔王、異世界の天を統べる(最終回)
我が『楽市楽座』がもたらした莫大な富と、エルフ、ドワーフ、そして私を慕って集まった人間の兵たち。王都の広場には今、数千丁の『魔導火縄銃』を構えた無敵の軍勢が整列していた。
腐敗した大貴族たちはすでに財政破綻し、この国の実権は完全に私の手の中にあった。
だが、新しい天下の幕開けを阻むように、王都の空が突如として不気味な紫色の暗雲に覆われる。
「ハハハハ! 人間の分際で面白い玩具を揃えたものだ!」
天を割るような大音声と共に、空間が歪んだ。
現れたのは、幾重もの禍々しい魔力を纏った、漆黒の玉座に座す男。この世界の全人類を恐怖させてきた絶対の不条理――『魔王』その人であった。
魔王の背後には、空を埋め尽くすほどの飛行魔獣の大群がひしめき、王都の住人たちは一瞬で絶望に絶叫した。
「信長様! 魔王自らが、我が軍の台頭を恐れて急襲を仕掛けてきました!」
元聖騎士団長レオンが、大剣を構えながら鋭く叫ぶ。
「ほう、自ら首を差し出しに来たか。敵ながら見事な果断よ」
私は愛用の羽織をなびかせ、一歩前へ出た。
魔王は玉座から立ち上がり、傲然と私を見下ろす。
「織田信長とやら! お前の『魔導銃』の噂は聞いている。だが、我が絶対的な闇の魔力の前には、そのような小細工は無意味! 貴様もろとも、この街を灰にしてくれよう!」
魔王が両手を掲げると、天空の暗雲から、王都全体を押し潰さんばかりの巨大な暗黒の魔力塊――メテオが形成され始めた。世界がパチパチと悲鳴を上げるほどの質量。
「信長殿! あれは直撃すれば国が滅びる!」
ガルドが叫び、リリアが必死に防御魔法を展開しようとする。
「慌てるな、うつけども。――全軍、銃を構えよ!」
私の号令一閃、数千の銃兵が一斉に魔導火縄銃を天空へと向けた。
「魔王よ、貴様は『絶対の力』で世界を支配した気になっておるようだが、戦とは仕組みよ。個の魔力がどれほど強大だろうと、数千の意思が束なった弾丸の前に勝てると思うな!」
私は長谷部国重を天空へと真っ直ぐに突き上げた。私の体内から、かつて日ノ本を震わせた『第六天魔王の覇気』が爆発的に狂い咲き、数千の兵たちの銃へと伝播していく。銃口が、これまでにないほど眩い、太陽のような黄金の雷撃を帯びた。
「天下布武の真髄、その目に焼き付けよ。――放てぇぇぇっ!!!」
ズドォォォォォォンッ!!!!!
王都全体、いや、大陸全土を揺るがすような大爆音が轟いた。
数千丁から放たれた黄金の魔導弾は、一本の巨大な光の竜巻となり、天から降り注ぐ暗黒のメテオを正面から容赦なく削り、粉砕し、消滅させた。
「な、何だとぉぉぉっ!?」
魔王の顔が、初めて驚愕と恐怖に歪む。
光の奔流は止まらない。メテオをブチ抜いた黄金の弾幕は、そのまま天空の飛行魔獣たちを瞬時に蒸発させ、魔王の漆黒の玉座ごと、その巨躯を地上へと叩き落とした。
ドォォン!と大通りの石畳に叩きつけられ、満身創痍となった魔王。
私は硝煙が立ち込める中、静かに歩み寄り、魔王の眼前に立った。
「ば、馬鹿な……神にも等しい我が魔力が、ただの人間たちの鉄の筒に敗れるなど……!」
「神仏がオレを阻むなら、オレは神仏をも焼き殺す。……魔王よ、貴様の時代はここで終わりだ」
私は懐から、私自身の魂の銃――最初の火縄銃を抜き放ち、魔王の眉間に真っ直ぐに向けた。
引き金を引く。
ズドン。
乾いた一発の音が響き、異世界を支配していた絶対の恐怖は、光の粒子となって完全に消滅した。
静寂が訪れる。
雲が割れ、王都に温かい陽光が差し込んできた。
エルフ、ドワーフ、人間の兵たち、そして民衆が、一瞬の静寂の後に、地を揺るがすような大歓声を上げた。
「信長様万歳!」「第六天魔王、万歳!!」
ひざまずくレオン、涙を流すリリア、豪快に笑うガルド。
私は彼らを見渡し、長谷部国重をカチリと鞘に収めると、まだ見ぬ大陸の果てを見つめて不敵に笑った。
「本能寺の炎を超え、この地に辿り着いたが……フッ、退屈せぬ世界であったな」
魔王を討ち、世界の王となった織田信長。
だが、彼の覇道はここでは終わらない。この新しい世界を丸ごと豊かにし、さらなる未開の地へ向けて、第六天魔王の『天下布武』の進軍は、これからも永遠に続いていくのだ。
(織田信長、異世界へ ――完――)




