第32章 赤いバラは愛の証
寒い日だった。
その日は友人たちが誕生日のお祝いをしてくれて、随分酔っていたので、
調子に乗っていい加減な返事をしていたような気がする。
しかし記憶は曖昧で、何を話したのか思い出せない。
朝起きた時、真っ赤な薔薇の花束の香りにむせながら、記憶を呼び覚ましていた。
もしかしたら夢だったのかもしれない。
いや、ベッドには悠が可愛い顔をして無防備に眠っている。
そう、酔っ払って洋服を無造作に脱ぎ捨ててベッドにもぐりこんでいたら、
電話があった。「お誕生日おめでとう」と。
悠の声に、私は今までせき止められていた思いが爆発して泣いていた。
何を言ったかは覚えていない。ウトウトしていたらチャイムが鳴った。
そして電話も。「開けてよ」と。悠の声だった。
扉を開くと悠がそこにいた。
真夜中の訪問者は、両手いっぱいに真っ赤なバラの花束を抱え、ドアの前に立っていた。
そう、私はそんな悠が大好きだった。私の言うことなどちっとも聞いていない
会いたいと言えば会いに来る。私がどんなに遅くてもドアの前でずっと待っている。
そして、私の姿を見ると飼い主に会った犬のように全身で喜びを表現して家の中に入ってくる。
優柔不断な私は、いつも悠のペースに身を委ねてしまう。
でも、それが一番安心できる居心地のいい場所だった。
私はいつだって男の人にリードしてもらいたかった。何もかも決めてほしかったのに、
私の意見を聞いて、判断を任せようとする。
私はしっかり者だと思われがちだが、本当は依存心が強くて甘えたなのだ。
一見優しくて何でも言うことを聞いてくれそうな悠が、実はしっかり者で男らしい。
まるで王子様のようにキザでカッコつけているのに、それが自然。
女の子なら誰でも好きになるタイプなのに、なぜ私なの?付き合っていた頃から、
ずっと信じられなかった。失った時、こんな日がいつか来ると思っていた。
私にはもったいない人物だと、負い目を感じていたのは私の方なのに。
両親はそんな悠を傷つけ、私から引き裂いたのだ。地位も財産も学歴も名誉もいらない。
悠に出逢うために私は生まれてきた。私と悠は、きっと生まれる前はひとつだったのだ。
こうして抱き合ってみて確信する。彼の腕も、引き締まった体も、絡め合う舌も。
ぴったり寄り添って、居心地がいい。愛されている至福に涙が溢れてくる。
「痛かった?」
私は首を横に振って彼の体にしがみつく。
「もう、絶対に離さないで。」
私は懇願して、激しく求め合った。




