第31章 誤解が解けても会う勇気のない二人
「ずっと待っていた」。
悠の甘い声が耳の中でリフレインする。
胸が高まり、顔が赤くなる。私はずっと彼を求めていた。
誤解が解けたら、またあの美しい日々が思い出され、幸せな気持ちになる。
「もう十分。この思いを抱きしめてこれからも生きていける?」と、
嫌われるのが嫌で再会を拒んでいる自分と、再会を楽しみにしている自分。
頭がぐるぐると考え、一睡もできない。
その日から、毎日のように悠から電話がかかってきた。
しかし、怖くて会うことができなかった。
ある日、ずっと気になっていた貯金通帳のことを聞いてみた。悠は知らないと言った。
考えてみれば、貯金通帳はなくなっていたが、印鑑は親が持っていた。
暗証番号を知っていたとしても、全額引き出すことはなかなかできないはずだと気が付いた。
預金通帳を持って行ったのは、きっと親に違いない。少しずつ誤解が解けていく。
でも、会いたくない。衰えた容貌を悠には見せたくない。電話だけで十分。
昔の幸せな時間が、夜のひとときの楽しみになった。
「いつになったら貴子に会えるの?」
「まだ、心の準備ができていない。」
「おばあちゃんになっているから、悠も会うと嫌いになるかも?」と、
言い訳をする。それでいて、悠と会う日を楽しみに、スポーツジムに通ったり、
エステで自分磨きをしている。
ただ、どこかで待ち合わせをしてお茶や食事をするのは他人行儀で、気が乗らなかったのだ。




