テイルチェイサー(後編)
街に出る。
さあ、若者よ、まず街に出よう。
そこに何かがあるから。
僕の場合、何かとは猫です。
街中のそこら中にある変死体は無視する。
僕の精神も逞しくなったよ。
今でも見たら泣きたくもなるけど、そこは意識を留めずしてスライドしちゃうのだ。
自分の許容量を越えるものには、最初からスルーするのが、社会の処世術であると[私]は、思っている。
だから、僕も見習おう。
「猫ちゃーん、おいでー!」
静かな街で、猫を探し回る。
猫は探すとなると、意外と見つからない。
普段は、よく見かけるのに、いざ必要になると見つからない…何とかの法則?
それにしても、静か過ぎる。
街には、当然ながらアチコチに人の痕跡が残っている。
今にも、人が家屋から出てきそう。
もしかしたら、生き残っている人もいるかもしれないと夢想する。
…
僕の表情が強張る。
…あり得ない。
そんな風に希望に頼ってはダメなのは分かっている。
僕は、[私]と一人きりなのだから。
自分自身に言い聞かせる。
僕は、とある家の段差のある出入り口に座りこんだ。
勇みこんで外出したはいいが、元から体力はないですから、しばし休憩です。
水が流れる音が聞こえた。
きっと近くに小川か、それに近い水の流れがあるに違いない。
しばし水の音に耳を傾けた。
恐ろしいほどの静寂。
自然音しかしない。
何処かで、鳥が鳴いた。
汗がジワリと流れるのを感じた。
バックから水筒を取り出して水を飲む。
うん…温くて身体に自然と吸収されてるみたい。
見上げれば、空は青い。
変わらない。
空は、皆がいた頃と全く変わらない。
今の現実が夢のようです。
現実をみよ…[私]が普段思っている言葉が浮上してくる。
現実は、いつも厳しい。
ああ、無情です。
自分で自分の顔を触る。
…鳥と魚と猫の存在は確認できた。
鳥と魚は、食べれます。
猫ちゃんは、人類の友達です。
…
ここで、別の生き物に思い至る。
犬さんも人類の友達である括りだけど、野生化したら敵となるかもしれない。
子供の僕には脅威となるかもしれない。
犬は群れる習性があります。
集団組織化したら、確実に負けてしまう。
….これは、マズイかも?
…
しかし考えすぎかも…だって、今まで猫よりも大きい生物に会ったことがないもの。
陽の光りが、照りつける中、遠くから雷鳴が聞こえた。
心なしか、空気が湿ってきてるような…?
もしかしたら、一雨くるかもしれない。
相変わらず猫の姿は、見かけない。
普段は、何処にいるのだろう?
そして、何故生き残ることが出来たのであろう?
興味は尽きない。
だって可愛いもの。
そんなふうに思っている間にも、天空からゴロゴロと音がする。
…近いわ。
階段を登ると立派なお宅に行き着いた。
縁側のある古式豊かな日本家屋の大邸宅です。
うう…人類が滅亡しても庶民とお金持ちとの格差を感じるなんて、なんて不平等な社会であったのだろう。
勝手に入り、冷蔵庫から飲み物を取り出してグラスにつぎ、縁側に座って、庭を眺めながら喉を潤した。
しばらくすると、雨が振り出した。
シトシトと降る雨です。
何も考えずに、ボウッと降る雨を眺める。
すっかり緊張の糸が解けた。
大昔に、お祖母ちゃんちに夏休みに行って、雨に降られて何もせずに、縁側から外を眺めていたことを思い出す。
…
今日は、もう店仕舞いです。
猫探しは、今日はもう中止。
…あきらめました。
すると、何やら見られている気配を感じた。
周りを見渡すと、縁側の端で猫ちゃんが一匹座り込んでいた。
茶と白がまじった模様の大人の猫ちゃんです。
僕の顔を見ると、ニャーと挨拶して来た。
うーん、諦めた途端に見つけるとは、これ如何に?
おいでと声を掛けると、ニャーと鳴いてすり寄って来た。
優美で毛色の色艶が良いから、このお宅で飼われていたのかもしれない。
猫ちゃんは、僕の許しを得ることなく、勝手に膝に乗ってきて、ゴロゴロと喉を鳴らしてて眼を瞑った。
なんて、自由気まま…!
僕は、そのまま、猫ちゃんを撫でながら一緒に雨を眺めた。
だって僕だって、いまや何もしなくてよいし、未来も白紙なのだから、猫と同じく自由気ままなのだ。




