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4-9:保護者面談~お宅の娘さん家事やってます~



■ツェン・スィ 竜人族(ドラグォール) 女

■305歳 セイヤの奴隷



 あー、気まずい。やっぱ帰って来たくなかったな。もう腹くくるしかねえけど。


 そりゃ里に居た時は仕事を与えられてもサボって酒飲んだり狩りに行ったりしてたし、修練はある程度真面目にやってたけど若衆じゃ相手にならなくて、まともにあたしと組手出来るのは師匠くらいだったからな。


 あたしが里嫌いってのは親父もお袋も知ってたし、出て行く時も半ば勘当みたいな感じだった。

 好き勝手に暮らせ、みたいな事を言われたような気がする。



 反対されても出ていただろうし、里を離れた事に後悔なんてない。

 とは言え、今更どのツラ下げて帰って来てんだと自分でも少し恥ずかしくなる。


 おまけに侍女服だしな。今じゃ慣れ過ぎてこれ以外で戦う方が違和感があるが、昔のあたしからすればスカート自体がありえねえし。



 そんな事を考えつつ、親父とお袋が居るなら紹介しないわけにはいかないし、顔を繋ぐ必要がある。

 あんまり出しゃばるとエメリーに怒られるので最低限だけ説明してあとはご主人様にお任せなんだが。



 隊舎の一室に両親と対面して座るあたしたち。かなり居心地が悪い。

 楽しそうなのは後ろの侍女連中くらいのものだ。ご主人様も両親も緊張気味だし。


 ともあれ、まずは何よりも、という感じでご主人様はあたしを奴隷にした事を謝っていた。

 ラピスの時もそうだったな。勝手に奴隷にしちゃってすみませんと。

 あたしから頼んだ事だから、それでご主人様が謝るってのも、また居心地が悪くなるんだが。



 それからご主人様はあたしを奴隷にした経緯と、ご主人様が【黒屋敷】ってクランで迷宮組合員として活動しているという話をする。

 ただ竜人族(ドラグォール)の里に迷宮組合もないし、そもそもカオテッドって街の事も知らねえはずだ。

 そこら辺は少しだけあたしも口を挟んだ。あー、親父たち分かってねえなー、と思った所でだな。



 ご主人様はあたしが【鴉爪団】に居たって事は言わないでいてくれた。

 実際にあたしが闇組織らしい事をしてたわけじゃないが時々出張ってはぶん殴ってたのは事実だからな。

 それを言わないでくれるってのも申し訳なくなる。



「――そんな折、カオテッドでツェンと会いまして、たまたま少し戦う機会があったのです。そこで私が勝ってしまった事でツェンが私の下に就くと」


「セイヤ殿がツェンに勝ったのですか……? ツェン、本当なのか?」


「ああ。一応言っておくけどご主人様を『基人族(ヒューム)だから弱い』とは見ない方がいいぜ? 里の連中が総出で戦っても負けるから」


「なっ……!」


「んで里を出る時に師匠にも言われたんだよ。もしあたしが外で負けるようなら、そしてその時に命があるようならあたしの命はそいつの物だってね。完膚無きまでに負けてそれでも生かしてもらったんだ。そこで初めて師匠が言ってた意味が分かったよ」



 真剣勝負に負けるという事は死を意味する。それは竜を始めとする里の脅威に立ち向かう為の心構えみたいなもんだ。

 魔物の世界は弱肉強食。例え狩りであっても戦いであり、そこには生と死がある。


 里を出たって同じ事だ。

 竜人族(ドラグォール)は希少だし、その力が利用される事もある。【天庸】のヴェリオみたいに竜鱗を素材として利用する事だってあるだろう。

 強いが故に狙われる。それを跳ね返すだけの力と心構えは持ち続けないといけない。


 あたしの場合は驕ってたんだろうね。力ばっかで精神の方はダメだったんだと思う。今じゃ立派な侍女だけどな!



 ご主人様はあたしより全然強かった。なのに生かした。【鴉爪団】の他の連中は全員殺したのに。

 だから自然と思ったんだ。こりゃもうご主人様の奴隷になるしかないってね。



「ご主人様の周りには御覧の通り奴隷侍女しか居ないからさ、だからあたしも奴隷になるって言ったんだ。あ、こっちのグレンとセキメイは普通にお客さんだからな?」


「ただ雇うとせず奴隷としてしまったのには私の方の都合もあります。基人族(ヒューム)なのに戦えるであるとか、クランに奴隷侍女しか居ないだとか、色々と説明しづらい事がありまして、奴隷契約を用いてやたら口外しないようにしているんです。それをご両親の承諾を得ずに行った事に関してお詫びしたいと」


「ふむ……」



 親父は何か考えながら頷いている。お袋は頭を抱えてるな。

 これはあれだ、屋敷に来る新人と同じ現象。一気に多くの情報量が入って来て理解出来ないってやつ。

 そんな難しい話じゃねえと思うんだけどな。


 で、ご主人様はあたしを奴隷にした後の話をした。


 迷宮組合員としての活動とか、カオテッドに襲って来た【天庸】の一件とか、魔導王国に行ったり、あとは【カオテッドの聖戦】の件だな。

 鉱王国の組合だと聖戦の事は知っていて当然って雰囲気だったけど、里の連中が知ってるはずもない。

 外の情報を仕入れるには隊商を待つしかないし、そもそもカオテッド自体を知らねえから。


 まあ、それを話した所で御伽話とか英雄譚の世界だからな。

 一応組合員証の記載も見せたけど組合自体がねえから信憑性がない。

 ともかくこんな事がありましたよーと聞かせる事しか出来ない。



 ところが親父やお袋にしてみれば、そんな戦いの事より、あたしが侍女として仕事してるって事の方に驚いていた。



「ツ、ツェンが家事を……!?」


「バカな! ありえん! 服がメイドというだけであろう! ツェンが働くなど飛竜が大地に潜るよりありえんわ!」



 お袋は泣き出すし、親父は全く認めない。

 いや、家事仕事って言っても料理とかするわけじゃねえし、せいぜい掃除とかポルの畑の手伝いとかで、基本的には警備なんだけどさ。あ、あと酒造りな。

 一応は最初にエメリー侍女長様から一通り習ってるんだ。逆らえねえからやるしかねえし。



「エメリー、ご両親に説明してあげて。お二方、このエメリーがうちの侍女長です。侍女の教育を担当していますので」


「ご主人様からご紹介に預かりましたエメリーと申します。僭越ながら侍女長の任を授かっております」


「「は、はぁ」」


「侍女教育につきましてもここに居る全員、同じようにわたくしが行っております。ツェンも例外ではありません。ツェンの場合ですと仕事は主に屋敷の警備などが多いですが、掃除や買い出しは侍女で分担して行っている為、一応は出来ているかと」



 一応って言わないでくれるか? あたしとしちゃ結構真面目にやってるつもりなんだ。

 いやまぁ部屋が汚いとか掃除が雑とかで怒られてるけどさ。



「礼儀作法に関しても侍女の基本ですから当然教えております。魔導王国の謁見の間でも普通に対応出来ておりましたし、いざという時は問題ないでしょう。今は帰郷という事で緩んでいるようですが」



 そう言われて座りながらも背筋を伸ばす。侍女の姿勢。

 いちいち釘を刺さないでくれるか? 背中から殺気を籠めた視線を投げないでくれ。シャンとするから。



「と、このような具合です」


「あなたっ! ツェンがっ! あのツェンがっ!」


「おお……夢ではあるまいな……こんな事がまさか起こるとは……」



 どういう事だよ。シャンとしただけだぞ?

 どんだけ過小評価されてんだあたしは。


 はぁ……やっぱり帰って来るんじゃなかったな。




■セイヤ・シンマ 基人族(ヒューム) 男

■23歳 転生者



 色々と説明していたら、なぜか感謝される事態になった。奴隷にしたんですよ? お宅の娘さん。


 【天庸】戦でキメラと戦っただとか、迷宮で竜と戦ったとか、魔族二千体と戦ったとか言っても反応鈍かったし。

 それより家事をしている事に驚かれるって……まぁツェンだからな。

 仮にツェンが料理したとかちゃんと後片付けしたとか聞いたら、俺も「うっそだー」って言うと思う。

 おそらく同じ感覚なのだろう。



 少し落ち着いた所で話を進める。



「それでここに来たのはご両親へのご挨拶もあるのですが、もう一つ目的がありまして」


「目的、ですか?」


「マツィーア連峰に竜を狩りに行きたいのです。ここを拠点として」


「「ええっ!?」」



 マツィーア連峰に住まう竜は、竜人族(ドラグォール)の里では災害的な扱いらしい。とツェンに聞いた。

 竜が里に襲って来る事などはなく、せいぜいワイバーン程度が近くに来る程度。


 しかし遠目に竜が飛んでいるのを確認出来たのなら、里の者は全員が即座に避難するらしい。そういう訓練もさせられていると。

 いくら強種族の竜人族(ドラグォール)でも竜と戦うような真似はしないそうだ。

 だからご両親が驚くのも分かるんだが……。



「迷宮で竜を狩ったってのは言っただろ? ご主人様なんて単騎で風竜とか火竜とか狩ってるんだ。何も問題ねえよ」


「い、いや、確かにそうは聞いたが……」


「親父は防人としてやたらなちょっかいを出して欲しくないって事だろ?」



 竜と戦い、仮に敵愾心を持たれたまま逃げ帰るような事になれば里に竜を連れ帰るようなものだ。

 スェルオさんは里を守護する防人隊の副長さんらしい。軽々に了承は出来ない。



「ご主人様を抜かしたってグレンも単騎で倒せそうだし、あたしらだって竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の称号持ってるんだし、心配するまでもねえぞ?」


「そうは言っても竜と戦うとなれば私やディアクォにリークァンを加えても危険には違いない」



 スェルオさんは里でもかなり上位の強さらしい。さすが副長。さすがツェンパパ。

 で、ディアクォさんと言うのは防人長で、里一番の強さらしい。

 リークァンさんはツェンの師匠。おそらく里で二番目に強いそうだ。ツェン曰く。



「うーん、親父がそう言うのは分かるんだけどなー。多分あたしらの強さが分かってねぇと思うんだよなー」


「むっ」


「あたしがディアクォさんに勝てそうなくらい強くなったって言えばちょっとは伝わるか?」


「何!?」


「んで、あたしが絶対に勝てないのがこの中には何人も居るんだよ」



 ツェンが絶対に勝てないとなると、俺とエメリーとミーティアとグレンさんかな。

 ティナとサリュが微妙だな。



「まぁそれでも信じられなければ実際に戦ってみるしかねえんじゃねえか? グレンとかそれ目的で付いてきた所もあるし」



 これは模擬戦でもやる流れになるのかな?

 グレンさん、目がギラーンってなってますよ?




色々と端折って書いている所もあります。

多分あれこれ突っ込まれている事でしょう。謎すぎる事態ですから。

しかしご両親の反応がラピスとかぶっちゃったな……。

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