第6話
そろそろ寝ようかと思った時に、この街の治安を守っている組織の長が宿まで来たので、俺は仕方無く面談に応じた。
サリッド団に行った理由は相棒を誘拐されたからだし、多くの人間を傷付けたのは、そうしないと俺自身の身が危なかったからである。何を問われても、別に疚しい点はなかった。従って、事情聴取も短時間で終わった。
「まだ、迎えに来ていない子供達がいるのだが・・・」
俺は彼に尋ねたが、彼からの答えは俺の恐れていた通りであった。やはり親に売り飛ばされているのだろう、との疑いが濃厚であるらしい。俺は子供等の今後について尋ねると、孤児院に入所するか、篤志家の養子になるかのどちらかになるとの事だった。出来ればこの世界に絶望しないで生きてくれればいいな、と祈るより他無かった。
胸くそ悪い気分を抱いたまま部屋に戻った俺は、床に寝る事にした。持っていた布を敷いて、横になった。くんくん。おい、これはルーシーが用を足す時に腰に巻いた布じゃないか。あいつ、布にひっかけやがったな。
翌朝、朝食を済ませて、身支度を整える。床で寝た為に少々間接が痛むが、今日の行程に問題が出る程じゃない。俺とルーシーはもう一度土下座して、エリンに宿代を払ってもらった。
本日の行程は砂漠を抜けて、一般の街道に入り、隣町に到着する。その後は俺達が探している魔法使いの情報収集である。二日前のノブールまでの砂漠横断コースに比べれば随分楽な道のりの筈であった。
宿屋の前で俺は呆然とした。
「・・・エリン、これを全部運ぶのか?」
「勿論、これでも厳選したのよ、研磨師としての能力を発揮するには、最低限これ位の道具が必要なのよ。私に食べさせてもらうのだから、文句は言わないこと。勿論これらを全部自分達で運ぼうとは思わないわ。大半は運送業者に依頼するけどね、どうしても人の手に任せる訳にはいかないものもあるわ。それらはムサシに運んでもらいたいな」
「・・・で、どの程度の重さなんだ?」
「私がこの15㎏程度の荷物を運ぶから、ムサシはこちらの大きい方の荷物を運んでちょうだい。・・・多分20㎏くらいだと思う」
エリンが自分で半分は運ぶと言うのだ。これ位は俺が運んでやらねばならないだろう。
「・・・わかった。運ばせてもらうよ。それじゃあ、早く業者に残りの荷物について依頼してくれ」
「それについては連絡済み。今は業者が引き取りに来るのを待っている段階」
「あっそ・・・」
すぐに業者がやって来て、エリンはあっという間に荷物を引き渡した。事前に聞いていれば、俺の荷物も運んでもらったのにな。
いよいよ出発である。エリンから預かった荷物を背負って歩き始めた。
今日の行程は前半の砂漠さえ乗り切れば何とかなると思っていたのだが、先日同様ルーシーがむずかり出した。先日はおぶってオアシスまで踏破したが、今日の俺の背中にはエリンの荷物が満載だ。ルーシーは俺を試しているんだ。自分とエリンのどちらが大事なのかを、しかし、やすやすとルーシーの企みに乗る訳にも行かない。エリンの気分を害する事は、俺達にとっても得策ではない事は明らかだ。俺はルーシーを肩車をして歩く事にした。
俺とルーシーの姿を見て、エリンは苦笑しながら言った。
「ムサシ、よく考えたわね。多分、それが唯一の正解よ。・・・それから、ルーシーに忠告しておくけれど、ムサシに甘えるのも程々にしておきなさい。ノブールに来た時もこうやってムサシの体力を削っていたから、あなたがピンチの時に助けられなかったのよ」
「・・・」
ルーシーは無言だった、サリッド団に囚われた点については、彼女なりに反省すべき点はあるのだろう。しかし自分が反省するのと、他の者から指摘されるのでは事情が異なる。
「エリン、それぐらいにしてくれ。全ては自分の剣すらまともに振れない俺の力不足が原因なんだ。だからこうした旅の行程でも負荷を与えて、体力の増進に取り組むべきなんだ」
「他ならぬムサシがそう言うんだったら、わかったわ。矛を収めてあげるわ。だけどルーシー、あなたの存在がムサシの為にならないとわかった時は、私は躊躇なくあなたを斬るわ」
「それは私も同じよ、エリン」
頼むから俺の横と頭上で喧嘩をしないでくれるかな。ルーシーは足でぐいぐいと俺の首を締めあげてくるし、エリンはエリンで俺を冷たい目で見ているし、このパーティーが上手くいくのか不安になって来た、
俺は雰囲気を変えるべくルーシーに言った。
「ルーシー、周囲に気をつけてくれ。御前が一番、遠くまで見渡せる状況なんだからな。危険な兆候があったら、すぐ俺に知らせてくれ」
「・・・了解」
ルーシーは不貞腐れたままだったが、自分の有能さをエリンに見せつける為にも自分の仕事はきっちり行うだろう。結局、何の危機も無く、目的地である隣町のサンドラに到着する事が出来た。
到着するやいなや、エリンは宿屋の主人と交渉し、格安で部屋を借りる事に成功した。今度はせめてソファーで寝たいのだがどうだろうか。
同じ頃にサンドラに到着した運送業者から荷物を引き取ると、俺に部屋に運び込む様に命じた。このパーティー唯一の男として、力仕事から逃げる事は出来ない。俺は文句も言わず、エリンの商売道具を部屋に運び込んだ。
エリンが借りた部屋は、ある程度の期間滞在する為の部屋の様で各人の個室や台所がある立派なものだった。
「随分と豪勢な部屋を選んだな。部屋代も嵩むだろ?」
「仕方無いよ、ここでしばらく滞在するつもりだからね」
「何故だ?すぐに首都を目指せばいいじゃないか?」
「いつまでも業者に荷物の運搬を頼む訳にはいかないわ。悪い業者に引っ掛かるリスクもあるしね。ここで荷馬車を買えるくらい稼ぐつもり。だから、結構な期間ここにいる事になるわ」
俺は半信半疑だった、たかが研磨の技術だけで、馬車が買える程の金が手に入るのだろうか?その間、俺は何をすればいいのか、俺も働いて稼ぐべきなのだろうが、俺に何が出来るのかさっぱりわからなかった。
「・・・なあエリン、俺は何をすればいいんだ?」
エリンの答えは明確だった。
「ムサシは剣の腕を磨け。それ以外は考えなくていい。それらは私やルーシーがする事だ。・・・自分達の荷物の整理は出来たかい?終わっているのなら、食事と目的の魔法使いを探しに行こうじゃないか」




