表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

第四話:英雄の誕生

レジスタンスは、静かに、そして凄まじい勢いで勢力を拡大していた。


地下へ潜り込むように各地へ根を張り、王政への不満を抱えた民衆を集め、武器を整え、情報を巡らせる。


その中心にいるのは、もちろんヘンリクだった。


ヤンは元々、彼の優秀さを知っていたつもりだった。


剣の腕も立つ。頭も切れる。人望もある。


だが、それだけではない。今のヘンリクは、まるで別次元だった。


「そこの地域に援軍を送る必要はない。王国側の罠だ」


地図を前にした会議の席で、ヘンリクは迷いなく断言する。


「それより西側の避難を優先しろ。もうすぐ大規模な粛清が始まる。国民を一人でも多く逃がすんだ」


静かな口調だが、その言葉には不思議な確信がある。


誰もが反論できなかった、ヘンリクの予測は一度として外れなかったから。


王国軍の動き。貴族達の裏切り。補給路の襲撃。粛清の時期。


まるで未来を見てきたかのように、彼は全てを言い当てる。


最初こそ半信半疑だった幹部達も、今では完全に彼を信頼していた。


「……なぜ、そこまで分かるのですか」


ある時、若い仲間が畏れるように尋ねたことがある。


その問いに、ヘンリクは少しだけ考え、どこか嬉しそうに笑った。


「女神の加護だよ」


その言葉に、レジスタンスのメンバー達は感嘆の声を漏らした。


民を救い続けるヘンリクは、次第に英雄として崇められていく。


未来を読み、民を救い、圧政に抗う革命の旗印。


民衆は彼を求めた。

誰もが、彼ならこの国を変えられると信じ始めていた。


脱獄から三ヶ月。


ヘンリク・ヴァーサの名声は、原作の物語を遥かに超えて広がっていた。


そんなある日のことだった。


「ヘンリク!」


明るい声と共に、一人の少女が駆け込んでくる。


茶色の髪を揺らし、大きな黒い瞳を輝かせながら現れたのは、ヤンの妹――アンナだった。


「あなたの言った通りだったわ!三番地区で優秀な参謀候補を見つけたの。彼、私たちに協力してくれるって!」


興奮した様子で報告するアンナに、ヘンリクは安堵したように息を吐く。


「あぁ、それは良かった」


地図の上へ視線を落としながら、彼は静かに続けた。


「これで準備は粗方整ったな。もうすぐ王を倒せる」


その言葉には冷静な覚悟があった。


アンナはそんな彼を眩しそうに見つめる。


「うん。私、貴方がこの国を変えるのを支えたい。力になりたいの!だから、何でも言ってよ」


そう言って笑う彼女は、年頃の少女らしく輝いて見えた。


その様子を、周囲のメンバー達も微笑ましげに見守っている。


「アンナは本当にヘンリク様に夢中だな」


「仕方ないだろ。あれだけの男だ。どんな女だって惚れるさ」


「でもアンナも可愛いし、お似合いだよな。ヘンリク様も満更でもないんじゃないか?」


そんな囁きが、あちこちで交わされる。


実際、アンナはよくヘンリクの補佐として行動を共にしていた。


民を救う英雄と、その傍らで彼を支える快活な少女。


まるで最初からそうなる運命だったかのように、周囲は自然と二人を結び付けていく。


ヤンもまた、その光景を誇らしげに見つめていた。


可愛い妹だった。


少し気は強いが、真面目で、芯がある。

誰より努力家で、人を想える優しい娘だ。

見た目も愛らしく、気立ても良い。


きっとヘンリクとも上手くやっていける。


ヘンリクは今や民衆の希望となりつつある。

ならばアンナがその隣に立ち、次代の王妃となる未来は、とても自然なものに思えた。


そして、自分は宰相として二人を支え、三人で国を変えていくのだ。


ヤンは、そんな未来を疑っていなかった。

それがどれほど脆く危うい幻想だったのか気付かぬまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ