新たな同居人 その2
呼び方でひと悶着はあったものの、どうにか二人をそれぞれの部屋へ案内した。
この建物はもともと漁師の休憩や避難場所として考えられていたため、部屋数は多い。
今使っている部屋以外にも六つの空き部屋があり、それぞれが客間というよりは完全な個室扱いだ。
ベッドに箪笥、机や椅子、簡単な洗面所まで備え付けられている。
広さは八畳ほどで、ちょっとしたビジネスホテルのシングルルームのようだ。
さらに倉庫として使っている部屋を片付ければ、二部屋くらいは追加できそうである。
つまり、二階の居住区は半分以上を持て余していたわけだ。
もっとも、使っていないとはいえ定期的に掃除と換気はしていたし、シーツや布団もきちんと揃っていた。
不思議なことに、必要なものはなぜか最初から用意されていたのだ。
祖父の代でも同じようなことがあったのかもしれない。
ともかく今回は、奥の二部屋を整えて鍵付きの個室として渡すことにした。
鍵は二本あり、それぞれ二人に手渡す予定だ。
マスターキーもあるが、こちらは金庫で厳重に管理している。
「貴族の部屋に比べたら、シンプルすぎるとは思うけど……」
思わずそう口にすると、ナディがすぐに答える。
「いえ、素晴らしいですわ。シンプルな中にもきちんとした品があります」
「ええ、いいセンスだと思います」
今度はサティが続けた。
「ありがとう……」
だが、実際に選んだのは祖父だ。改めてその目利きの確かさを思う。
女性ということもあって、部屋にはドライヤーや大きめの鏡、目覚まし時計やライトスタンド、小型の冷蔵庫や湯沸かしポットまで用意してある。
ここまでそろえると、もはやホテルのようだ。
まぁ、それに必要になればまた買い足せばいい。
部屋の案内の後は建物全体の使い方を説明した。
風呂、トイレ、洗濯など。
真剣に聞いてくれるが、一度で覚えるのは難しいだろう。
だから「迷ったら遠慮なく聞いてください」と伝えておいた。
で、その後は、生活リズムや食事の時間を説明した後は、先輩同居人との対面だ。
家族同然の存在。
犬のクーとベーである。
階下に降りると、1階の入り口で待っていた二匹が尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
「あらっ、かわいい!」
「わぁっ、モフモフ!」
二人はすっかり気に入った様子だ。
クーとベーも、しっかり二人を仲間として認めたらしい。
とてもうれしそうな感じだ。
「お名前は?」とナディ。
「白い方がクー、黒い方がベーです」
「ふふっ、そうなのね」
そう言いつつ、ナディはついに我慢できなくなったのか、その場にしゃがみ込み、二匹の頭を交互に撫で始める。
サティもクーのモコモコした毛を撫で続けながら「ムクムク、ムクムク」と無表情で呟いていた。
……ちょっと怖い。
それでもまぁ仲良くなれそうで何よりだ。
そんな二人を見つつ言う。
「まあ、注意することは他にもありますが、少しずつ覚えてください。では、戻りましょうか」
「はい、お願いします」
そう言って立ち上がったナディを、クーとベーが名残惜しそうに見上げる。
実に愛らしく、クーとベーの必殺技だ。
この構ってスキルが決まると、無限ループに入る恐れすらある。
実際、もう我慢できないという感じでサティも指をワキワキさせて、また撫でに行きそうだ。
だから阻止しなければと思い口を開く。
「もうすぐ夕食ですから、今日はここまでにしましょう。明日も触れますし」
そう言うと、流石に二人は残念そうな表情で諦めた様子だ。
「ごめんね。また明日ね」
「くーっ、明日はもっとムクムクさせてくださいね」
こうしてその日のミッションを終えた後、夕食の準備中に二人に順番に風呂や電化製品を使ってもらい、問題なく過ごせることを確認した。
だが、料理を作りつつ思う。
本当に、この先どうなるのだろうと。
胸の奥に、不安がじわりと広がっていくのだった。




