取引相手
パトロンであるサバラエティ公爵が商品の代金代わりの貴金属や宝石を持ってきてくれた翌日、お店は臨時休業にしてある人物を待っていた。
その人物は、昼前にやってきた。
派手なクルーザーに乗って。
犬たちが吠えているのに合わせてクルーザーのエンジン音が響く。
いつも使っている自分の船の音が、軽トラなら、こっちはスポーツカーといったところだろうか。
港に出て出迎える。
「堂本さん、待ってましたよ」
そう言って出迎えると、クルーザーから二人の人物が下りてきて、港にクルーザーを固定している。
そして、固定終わると派手なアロハを着たサングラスをかけたおっさんが楽し気に笑った。
「おう、坊主、元気にしてたみたいやな」
相変わらずの口調である。
「ええ。ボチボチですよ」
「ほうか、ほうか。長く細く生きるにはボチボチぐらいがちょうどいいからの」
「そうですね。今の生活になってから、以前に比べたらとんでもなく健康になった気がします」
「いいことや」
そう言って、がははははと笑っている。
するともう一人のスーツを着て眼鏡をかけたびしっと髪を分けたビジネスマン風の男性が丁寧に頭を下げた。
「店主、今回のよろしくお願いいたします」
そう言われて、慌ててこっちも頭を下げる。
「いえいえ。片岡さん、こっちの方こそよろしくお願いいたします」
そんなやり取りを見て、堂本さんが益々楽しげに笑った。
「お前ら、いつも硬いのう。もっと気楽にいこうや」
そんな堂本さんに、片岡さんは突っ込む。
「ボスは気を抜きすぎですよ」
「ほうか?」
そう言って笑っている。
まぁ、いつもの流れだ。
実に楽し気で気さくな方々だが、藤堂さんは実はとある企業グループの関係者で、色んな店舗を持っている結構な力を持つ方だったりする。
で、そんな人が部下である片岡さんを連れてこんな辺鄙な所に来られたのか。
実は昨日パトロンであるサバラエティ公爵から払われた商品代代わりの貴金属と宝石を買い取る為に来たのである。
「ここで話もなんですから」
そう言って家の中に案内する。
応接間に通すと、いつも通りにオリジナルブレンドの珈琲とチョコレートを出した。
「おっ、これやこれや。ここに来る楽しみの一つだからな」
そう言って堂本さんは笑っている。
この珈琲のオリジナルブレンドの配合は、祖父から受け継いだものの一つで、ここに来る堂本さんの楽しみの一つとなっていた。
一度、ブレンドした珈琲豆をお渡ししましょうか?というと、気を使わうなと言われてしまった。
本人曰く、たまにしか飲めないのがいいらしい。
そして、珈琲とチョコレートを出した後、代金として受け取った貴金属と宝石を二人に見せる。
「ほう。今回のは中々いいな。坊主、いい仕事してるみたいやな」
「ありがとうございます」
そんなやり取りをしていると、宝石の方を手袋をつけて特殊な眼鏡みたいなやつを付けた片岡さんが検品している。
「いい品ですね」
一通り確認し終わると、片岡さんはそう言って宝石をボックスに戻して、道具を片付けた後手袋を外す。
「では……」
「ええ。全部うちで買い取ります」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げると、片岡さんはニコリと笑った。
「いえいえ。うちの方こそ、店主のおかげで儲けさせてもらってますからね」
そう言ってメモに金額を書く。
まぁ、百万単位の金額だ。
いつも通り、「じゃあ、それで」と言葉を返す。
「では、金額はいつもの口座に振り込みでよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
そんな僕と片岡さんのやり取りを見つつ、堂本さんが懐かしい表情をする。
「なんか、本当にお前さんは、あん人と同じじゃのう」
「あん人?」
思わず聞き返す。
「お前さんの祖父や。あん人も丁寧で、それでいて金額の事に関してはいろいろ言わずにこっちを信頼して任せてもらってたもんさ」
そう言われて苦笑する。
まぁ、祖父は芸術肌の強い人だったし、生きて彫刻できればそれでいいという感じの人だったしなぁ。
なお、自分は、相場とかわからないし、祖父から懇意にしてもらっている人という事で全面的に信頼してます。
でもまぁ、自分もそこそこ生活できたらそれでいいという感じだから、似たようなものかもしれないな。
そんな事を思ってしまう。
どっちにしても、自分で捌けない以上、プロにお任せしておくのが一番という事だ。
で、取り引き成立した以上、これで終わりなのだが、丁度時間帯でお昼ごろとなる。
「いつものように食べていきます?」
「おう。よかったら食べていきたいのう」
「では、準備してきますね。少しお待ちください」
そう言って厨房に向かう。
今日は来ると判っていたので、三人前の昼食の準備はもう済ませてあるのだ。
しかし、この二人、多分、結構いいもの食ってるはずなんだが、なんでかうちで昼食を食べていく。
一度、何でですか?と聞いたが秘密だと言われて煙に巻かれたっけ。
まぁいいか。
そんな事も思いつつ、用意していく。
今日は、カツ丼だ。
サクサク二度揚げしたとんかつを包丁で一口サイズに切っていく。
そして、刻んだ玉ねぎを軽く炒めて、解いた卵を入れる。
その中に切ったとんかつを入れて絡めていく。
半熟になる程度火を通すと、どんぶりに熱々ご飯をよそおってその上にとんかつをのせてトロトロの卵と玉ねぎをかけて完成だ。
で、それに合わせて用意したのは、沢庵と豚汁である。
なお、豚汁は具沢山である。
ゴロゴロ具が入っており、朝から作って用意したものだ。
そして、出来たカツ丼と漬物、豚汁をセットで出していく。
「まぁ、いつもの当たり障りのない料理ですが……」
そう言って出すが、二人は実に楽し気だ。
「いやいや、謙遜しなくてええ。うまいで、坊主の料理は」
「ええ、そうですよ」
二人はそういうとすぐに食べだす。
もちろん、自分の分もだ。
いやはや、偶にこうやってお客さと一緒に食べるのもいいなと思いつつ。
そして、昼食後、お茶を飲みつつ雑談して、二時ごろに二人は帰っていった。
「では、また、連絡待っとるで」
堂本さんがそう言って手を振っている。
「はい。またお願いしますっ」
そう言って頭を下げる。
うちの犬二匹も尻尾を振りつつ名残惜しそうに尻尾を振っていた。
こうして、僕は仕事を一つ完結させて、代金を受け取ったのである。




