4月3日 Haruka's Birthday!(2)
「ち、千夏」
抱き着いてくる春香の肩越しに見えた幼馴染――相沢千夏の姿を見て、俺は慌てて春香の身体を引き離した。
「はうっ!」
春香がびっくりしたような変な声を上げた。
「ご、ごめん春香。大丈夫か」
「えへへ、うん、大丈夫。って、千夏! なんでいるし!」
春香がににへら~と笑うと、背後を振り向いて、驚いた。
「そうだぞ、いつからいたんだよ?」
「いつからと言うと、春香が『こーへい♪ 今日って4月3日なんだけど、実はわたしの誕生日なんだよね~♪』の辺りからかしら」
「最初からじゃねーか! 覗き見とか趣味が悪いぞ」
「玄関前の道路で仲良く抱き合っていたのは航平たちでしょ?」
「あ、はい……」
それを言われると、うん、はい、まぁそうなんだけどさぁ……。
「それに覗き見してたわけじゃないもの。そもそも航平の家の前ってことは実質、私の家の前でもあるわけでしょ?」
「それもまぁ、うん、そうだな……」
今さら説明するまでもなく、俺と千夏はお隣さん。
俺んちの目の前ということは、つまり千夏の家のほぼ目の前ということに他ならない。
という感じで、表情すら崩さずに理路整然と、いとも簡単に俺を論破した千夏は、笑顔で言った。
「改めておはようございます、航平、春香」
「おはよう、千夏」
「おはよー千夏。今日は早いんだね。朝は苦手なんじゃなかったっけ?」
「朝からハレンチな活動をしている年ごろの男女がいると小耳に挟んだので、頑張って早起きしてみたの」
「……」
「……」
俺と春香はそろって黙り込んだ。
だが言わせてほしい。
いつもこんな風にイチャコラしてるわけじゃないからな?
今日は春香の誕生日だから、特別の特別の特別だったんだからな?
ほんとだぞ?
などと俺が心の中で言い訳をしていると、千夏が苦笑しながら、小さな紙袋を差し出してきた。
「冗談だから。はい、春香。私からのお誕生日プレゼント」
「えっ、わたしに? いいの?」
「ええ」
「わっ、ありがとう~! なにこれ!? もしかして手作りのお菓子? 千夏が作ったの?」
袋のなかにはマドレーヌ。
綺麗に焼けている。
「ええ。私からのプレゼントは、食べてパッとなくなるものの方がいいかなって思ったから」
「あはは、なんか気を使わせちゃったみたい?」
「気にしないで。ああ、安心していいですよ、変なものは入っていませんから」
「そんなこと思ってないけど……えっ、えっ!?」
「いや、そこで俺に視線を向けられても……ええっと千夏?」
「安心して、変なものは入っていないわ」
「だ、だよね~」
「余計なものはね……ふふふ」
「う、うん……」
と、そこで俺ははたと気づいた。
「なぁ千夏?」
「なに、航平」
「もしかして美味しくなかったらごめんねって、言いたいのか?」
「……別にそんなんじゃないわ」
顔色一つ変えずに、さらりと答える千夏。
だがほんの一瞬、答える前に間があった。
実質同居の幼馴染の俺には、それが図星をさされて照れ隠ししたのだと察せられてしまう。
「料理は苦手なのに頑張ったな」
千夏の頑張りを褒めると、千夏は面倒くさそうに言う。
「だからそういうのじゃないから」
「そっかそっか」
もちろん実質同居の幼馴染の俺には――(以下略)
「って、春香はどうしてそんなにニマニマしているのかしら?」
「別に〜? 千夏も可愛いとこあるじゃん、とか思ってないし〜?」
「そう思いたければ思えばいいわよ」
「うん♪ 思いたいから思っておくね♪」
とまぁそんなこんなで春香の誕生日は、とてもハッピーに始まったのだった。
(『Haruka's Birthday!』終わり)




