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ロストカラーズ  作者: あすか
第三章 不死王討伐
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第68話 心の内を曝け出そう

「その人……本当に、メチャクチャいい人じゃないか」


 二人から、こっちに来てからの話を聞いたが、やっぱり随分と苦労をしていたようだ。

 だけど……最初に出会った人が、親切な人で本当に良かった。

 いや、だってよ。見ず知らずの人間に食料を分けるだけじゃなく、街へ入るための商人カードを作って、さらには一緒に行商に出掛けるとか……正直考えられないくらいこの二人は恵まれている。

 その人がいなかったら、この二人は死んでるか、良くて二人離れ離れに奴隷にされてるかだ。


 二人は黄の国に転移したようだけど、赤の国なら、それこそとんでもないことになっていただろうな。


「うーん、商人としてはどうか分からないげど、そういう人とこそ商売がしたかったな」


 利益しか考えないような商人より、義に暑い商人と取引したい。だけどそんな商人は一握りだ。そしてあまり成功もしないだろう。


「せやったら、息子と取引したらどうや? あの息子も、オトンと変わらんくらいお人好しやで」


 さっきの話を聞いた限りじゃ、確かに息子の方もいい人っぽかった。


「……それで商人としてやっていけるのか?」


「まぁそこはウチが頑張ったからな。シャンプーや石鹸はバルデス商会の専売特許や」


「でもさ。魔法で産み出した商品の販売は、禁止されてるだろう?」


 魔法で作り出した物は一ヶ月で効果が無くなり、消滅する。その為、詐欺防止のために、魔法で作られた商品の販売は禁止されているはずだ。


「せやから、まずウチがシャンプーを出して、バルデス商会が成分を調べる。ウチかてシャンプーや石鹸の材料くらいは知ってるから、教えてやればそこから作ればええんや」


 なるほど。見本を出した後に、成分を調べて自作するのか。


「この世界の水準を考えると、シャンプーやリンス、石鹸はヒット間違いなしの商品か」


「ホンマは洗顔クリームやハンドクリームも作りたかったんやけどな。ウチが出しても、製作には辿り着かんのや」


 何でだろう? 石鹸よりも製法が複雑なのかな? その辺りの知識は俺にはないから分からんな。


「でもさ、確かここではある程度の量産は出来てるよな?」


「ええ、フィーアスでは、現在シャンプーとリンス、リンスインシャンプーにトリートメント、洗顔から石鹸まで製造中です」


 フィーアスには美容に全力を注いでいるリャナンシーのお姉さん方がいるからな。頑張って量産しているんだろう。


「そんな……ウチらがあんなに苦労して作ったものが、ここではそれ以上あると……」


 ミサキがなにやらショックを受けている模様。まぁ気持ちは分からんでもないな。


 と、そこにメイドが飲物を持ってくる。


「二人とも何か飲みたいものはあるか? コーヒーに紅茶、緑茶があるし、なんならコーラやジンジャーエールみたいな炭酸。リンゴやオレンジジュースもあるぞ」


 俺がそう言うと、二人は自虐的な笑みを浮かべる。


「もうここは何でもアリなんやな。今まで苦労してきたウチらが馬鹿みたいやんか」

「はぅぅ。……私はミルクティーが飲みたいです」

「あっ、ウチは久しぶりにコーラが飲みたいわ」


 文句を言いつつも希望を出す二人。……レンの『はぅぅ』は文句だったのかな?


「はいよ。ってか、ミサキは自分でジュースくらい出せば良いだろう?」


「「えっ?」」


 二人が滅茶苦茶驚いてるけど……そこまで驚くことか?


「……そないなこと出来るん?」


「いや、出来るだろう。水が出せるんだから。味の付いた水を出すだけだろ?」


 そもそもミサキは水以外に、シャンプーとか出せるんなら、同じような要領で、ジュースくらい出せるはずだ。


「魔法の水は一回飲んだことあるげど、水の味すらせんかったから、飲んじゃアカンもんかと思うてた」


「味のイメージを忘れてたな。ちゃんと味もイメージしないと、ただの色のついた水になってしまうからな」


「イメージか。確かに味のイメージはせえへんかったな」


「ねぇねぇミサキちゃん。早速試してみようよ!」


「ちゃんと頭の中で何の飲物を出したいか? とどんな味なのか? をイメージすれば出来るはずだぞ。ただ、試すのは後にしてくれよな」


 流石に今ここで実験は勘弁してほしい。


「まぁ二人にその気があれば、ここで魔法の勉強をするといい」


「ホンマか! いやー。せっかく魔法使えるんやし、もっとちゃんとした魔法を使いたいと思ってたんや」


「ああ、ここには魔法のスペシャリストがたくさんいるからな。時間があるときに、教えてもらうといい」


 ミサキの属性が青なら、同じ青のシャルティエが良いだろう。レンは緑だけど、ヒカリと一緒の方が良さそうだ。多分ジャンルが似てる。


 まぁ挨拶もすんだし、俺が限界近いこともあって、話はこれくらいにした。後はルーナや姉さんに任せて、俺はまだ昼だが先に寝ることにした。



 _____


 ……起きたら次の日だった。昼過ぎから寝ていたから……何時間寝てたんだ?

 こんなに寝たのは初めてだな。……本当に疲れていたんだな。

 しかし、目覚めたといっても、今はまだ朝の四時。朝日もまだって感じの時間だ。


 スーラは……まだ寝てるな。とりあえず散歩にでも出るか。



 当てもなく外に出てみたが……また前みたいに体操でもするか? それとも朝練でも……。


「あれ? シオン様?」


 背後から俺の名前が聞こえる。振り返るとそこにはルーナがいた。


「ルーナか。どうした? 早いな」


「どうしたはわたくしのセリフでございます。わたくしは毎日この時間には、もう働いております」


 こんな時間から働いてるのか……。大変だな。


「あまり働きすぎるなよ。今は人数も増えてるんだから、任せるところは任せればいいさ」


 俺もそうだが、メイド達も、いつまでもルーナに頼りっきりじゃいけないだろう。


「ふふ、最近は皆頑張ってまして。わたくしの仕事も、幾分か落ち着いてるのですよ」


「そうなのか? それは頼もしいな」


「それで? シオン様はスーラさんも連れずに、どうされたのですか?」


「いや、昨日あれからずっと寝たままだったから、変な時間に起きただけさ。スーラはまだ寝てたので、置いてきた」


「左様でしたか」


「そういえば、昨日はあれからどうしたんだ?」


「サクラ様とヒカリ様が、レン様とミサキ様を連れて、城の中やツヴァイスを案内しておりました。ミサキ様が、『何で城なの中に日本家屋があるねん!』と盛大にツッコんでおりました」


「その場面……ちょっと見たかったな」


「その後は、皆さんでテレビゲームをしておりました。なにやら日本の町を、乗り物で回って、商人の真似事をするゲームでしたが、友情破壊がどうのこうのと……大丈夫だったのでしょうか」


 おいおい、なんでそこでそんなゲームをチョイスするんだ? もっと皆でワイワイやるゲームがあるだろう。でも……楽しくやれてたならそれでいいか。


「しばらくは色々と面倒を見てやってくれ。そのうち少しずつ仕事をしてもらおう」


「畏まりました」


 ……話の区切りがついた所為か、会話が途切れる。……中途半端に静寂が訪れてしまったので、何となく、話しかけにくい空気になってしまった。


「……シオン様は出ていかれるのですか?」


「……なんだ? 藪から棒に」


 そんな話はしたことが無かったと思うが……。


「いえ、少し思っただけです。トオル様が出て行かれるかもと思ったからですかね」


「……トオルか。ここに来た時は、まさか最初にトオルが居なくなることは考えもしなかったな。まぁシクトリーナが落ち着くまでは居るそうだし、まだ当分は大丈夫だろ」


「それで……シオン様は如何されるおつもりで?」


「……俺の家はここだよ。ちゃんと帰ってくるさ」


「出ていくことは、否定されないのですね」


「前も言ったように、エルフの村には行かないといけない。だから……近いうちに、旅に出ようと思っている。トオルが居るうちに、行きたいからな」


「お一人で行かれるおつもりですか?」


「トオルには、俺の代わりに居てもらわないと。それ以前に、エキドナ達との橋渡しもあるしな。ヒカリは……残るだろう。結構前だが、似たような話をしたことがあって、その時に残るって言ってた。姉さんは……姉さんも残るんじゃないか? 姉さんがいないと、正直ツヴァイスやフィーアスが困るだろうからな。スーラとホリンは連れて行くつもりだ。ははっ、これじゃあテイマーと間違われるかもな」


「わたくしは……わたくしは誘っていただけないのでしょうか?」


「……誘ったら一緒に来てくれるか? メイド達を置いて、いや、この城を離れて……」


 正直ルーナがついて来てくれたら、どんなに心強いか。多分、この二年の中で、一番長い時間を一緒に過ごしてきた。今生の別れじゃないが、寂しい気持ちはある。


「いえ、わたくしは残ります。本当は少し揺れています。シオン様がいつ出発してもいいように……わたくしが離れても問題ないように、後任や引継ぎを考えたこともあります。でも、やはりわたくしはこの城に残ることにしました」


「そっか……じゃあ戻ってきたときは『おかえり』と言ってくれると嬉しいな」


「勿論でございます。シオン様こそ、ちゃんと『ただいま』と言ってくださいまし」


「勿論だ」


 ここは俺の家だからな。帰ってきたら必ずただいまって言うさ。


「あと……お一人で行かれるのは危険でございます。シオン様は物を知りませんから。ですので、どうかリンを一緒に連れて行ってくださいませ。もう赤の国に潜入する必要がございませんから、空いております。冒険者を隠れ蓑にしておりましたから、人間の世界の常識も心得ております。足手まといになるようでしたら、見捨てても構いませんので、どうか連れて行ってやってください」


「いや、助かるよ。……ってか、雰囲気を出してるとこ申し訳ないけど、転移もあるし、ケータイもあるから、いつでも連絡できるし、ちょくちょく充電しに帰ってくるぞ?」


 なんか、本当に今生の別れみたいに言ってるけど……本当に大したことじゃないよな?


「……もうシオン様! せっかく別れの雰囲気を出しているのに、そんな野暮を言っては、興ざめでございます。ええ、わたくしだってそれくらい分かっておりますよ! でも……やはり寂しいではございませんか! 今までほぼ毎日一緒にいたのですよ!! それが、充電や業務連絡のついでのような感じで、顔を出すだけだなんて……!」


 ルーナが俺に近づいてくる。そして俺の胸に顔を埋める。


「……ルーナ」


「本当はわたくしも一緒に行きたいのです! でも怖いんです! この城を離れるのが! この城から離れてしまうと、わたくしが、わたくしじゃなくなってしまう気がして……」


 以前エキドナが言っていた、城から飛び出そうとって……冗談じゃなく、本当にルーナは城から出ることが怖かったんだ。でも、それじゃあ俺と離れ離れになってしまう。

 そう思ったから、今回、赤の国へ一緒に行ったのだろう。ヘンリーとの確執があると誤魔化して。でも、いざ旅立つと、やはり不安が押し寄せていたのだろう。ルーナは必死に隠していたけど、ずっと震えているのは気づいていた。


 俺はそっとルーナの肩に手をやる。


「ルーナの気持ちは分かった。俺もルーナと一緒に旅をしたい。でも……ゆっくりいこう。二日前は赤の国まで出られたじゃないか」


「あれだって実はずっと怖かったんです。必死に隠してましたが、シオン様はわたくしが震えていたのを知ってましたよね? 途中でシオン様が離れたときは、本当に不安で仕方なかったんです」


「出来るだけ気がつかない振りをしてたけど……。やっぱり、ずっとルーナの前にいたからね。いやでも気がつくよ。それが分かってたから、俺も一人にさせるのは少し怖かったんだ。地上でも心配で、ずっと上を見ていたよ」


「ヘンリー卿との戦いは、シオン様が見守ってくれていると、分かっておりましたから、問題はありませんでした。でも……全部終わって緊張から解放されると、一気に不安が押し寄せてきました」


「普段のルーナなら、あの場は絶対に残るって言ってたもんな。先に帰るって言ったから、実はかなり心配だったんだ」


「シオン様は、何でもお見通しなのですね」


「そんなことないさ。……それに分かってても、出来ないこともある。例えば……」


「例えば、今抱きしめてくださらないことですか?」


「ルーナだって分かってるじゃないか。俺だって、今抱きしめるか悩んだんだぞ」


「戦いの後は、抱きしめてくださったのに」


「あれはちょっと感極まった。今はちゃんと落ち着いてるからな」


「……わたくしでは駄目ですか?」


「正直、今は答えられない。答えは多分エルフの村に行かないと」


「……スミレ様が羨ましいですね。いつまでも思っていただけて」


「どうだろうな。もしかしたら、ストーカーと間違われるかもしれんぞ」


「……例えシオン様がどのような結論を出しても、わたくしはずっと、シオン様のメイドで居させてもらえるのでしょうか?」


「当然だろ。俺のメイドはルーナしかいないよ」


「わたくしだけ……ですか? アレーナやエリーゼはどうなんでしょうか?」


「……」


「そこは素直にわたくしだけと言うところでしょう!!」


「ははっ冗談だよ」


「もうっ! シオン様ったら……シオン様。一つお聞きしてもいいですか?」


「なんだ?」


「わたくしが最初に赤の国までご一緒するって言ったとき……あれ、本当にエキドナ様とサクラ様の魔法に掛かっていたのですか?」


「何でそんなこと聞くんだ? ちゃんと掛かってたさ。ただ、何かしようとしてたから、あえて耐性を低くしてたけど」


「やはり……あれは、わたくしが本当は外に出ることが怖いと悟られないようにするために、わざとだったのですね」


「……考えすぎだよ」


「それに、その後何か気がついてましたよね? あれ何だったんですか?」


「ああ、その時についでに作った魔法が、とんでもない魔法だったんだ」


「とんでもない魔法?」


「ああ、単純に言うと、不老になる魔法。俺、年取らなくなっちゃった」


「……仰ってる意味が良く分かりませんが?」


「簡単に言うと、体に悪影響があるのを全て排除した結果、老廃物や老化現象、排せつとかも全部なくなっちゃった。いい影響は残ってるから、強くはなれるけどね。ああ、勿論、魔法を解除すれば、普通に年は取るから。それに疲れは取れないんだよ。疲れや睡眠も全部必要なくなればいいのにね」


「……それではもう人間ではなくなってます。それにしてもその魔法、サクラ様やヒカリ様が聞いたら、発狂しそうですね」


「だから言ってないんだよ。でも……言わないと、後が怖いよな」


「確実に」


「とりあえず、旅に出てから考えるとするよ。ルーナも……偶に転移で帰ってくるから、その時に少しずつ外に出てみようか?」


「ふふ、デートですね」


「ああ、それも良いかもな」


「えっ?」


「さてと、そろそろスーラも起きてるだろう。俺は戻るから。旅については、戦後処理が終わってからだから、一か月後くらいかな?」


「ちょっシオン様!?」


 俺はルーナの返事を待たずに部屋に戻ることにした。

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