閑話 二人の少女②
引き続きミサキとレンの閑話です。
前回同様、場面転換で、視点が変わるのでご注意ください。
朝、ウチが起きると、恋が植物にくるまれていた。
「ち、ちょっ! 恋、大丈夫!?」
もしかして食虫植物みたいなのじゃないの!?
ウチは慌てて植物をどける。……ほっ。どうやら恋は無事みたい。
「んー? はぅ? 美咲ちゃんおはよう」
「おはよう恋。アンタ何やってたん?」
「えっ? 何って……あ、ありがとう皆。お陰で暖かかったよ」
恋がそう言うと、植物が退く。
「恋……アンタ何やったん?」
ウチはもう一度同じ質問を恋にぶつける。
「んー? 実はよく分かんないんだ。何かね、寝ているときに、植物が話しかけてきてね、寒いだろうから暖めてあげるって」
寝てるとき? 夢で見てたってこと? いや、実際に植物が動いて、恋を助けたんだから……夢じゃない?
「ねぇ恋。今は植物と話が出来るん?」
「ちょっと待ってね。植物さんおはようございます」
恋がそう言うと、辺りの植物が風が吹いたかのように一斉になびく。
「おわっ!」
ウチはその光景に思いっきりビビる。
「うーん、植物さんは答えてくれてるみたいだけど、寝ているときみたいに、はっきりとは分からないかな。多分魔力が足らないと思う」
「魔力て……恋。いつの間に魔法少女になってん?」
「えっとね、植物さんが教えてくれたんだけど、この世界では魔法が使えるみたいなの。で、私は緑の魔法使いで……」
「ちょい待ち、緑の魔法使いて!」
ウチの頭には、昨日のカードが思い浮かぶ。
「うん、多分そう。植物さん達は人間の世界のことは知らないから、カードのことは分からなかったけど、この世界では皆、色の魔法使いになれるんだって」
「じゃあウチは青の魔法使いってこと?」
「そうだよきっと! でね。魔法使うには魔力が必要で、魔法を唱えるには、その色をイメージ? するんだって」
「んん? よう分からんな? まず、その魔力言うんはどうやって手に入れるんや?」
「それがね。植物さんにもよく分からないみたいなの。と言うか、これくらいしか会話を覚えてなくて……ごめんね」
「いや、夢の中での話やし、覚えてなくてもしゃーない。でも、恋は何でいきなり植物と話せるようになったんやろな?」
「多分私が願ったからだよ。昨日の風を覚えてるでしょ。緑だから風って……何か怖かったから、同じ緑なら植物と話せるようになれば良いのにって思いながら寝たんだ」
「それが上手くイメージになったって訳か。魔力は? 寝たら回復するんかな? よし! 恋もう一回今から寝や。そして、もう一回植物と話するんや!」
「はうっ! 今から寝るの!? 流石に起きたばかりだし無理だよ。それに私が寝たら、美咲ちゃんはどうするの?」
「ウチは見張りと……何か食べれるものがないか、この辺を探っとる」
「はぅ。それじゃあ私も……」
ウチは恋の言葉を最後まで言わせずに制した。
「いいか、恋。今ウチらは右も左も分からん状況や。それは理解しとるな?」
恋は黙って頷く。
「そんな中で、恋は情報を得る術を手に入れたんや。その情報には、ウチらの命がかかっとる。せやから、今の恋の仕事は、しっかりと情報を得ることや」
恋はウチの顔をしっかり見てる。ウチが冗談で言ってるか判断しているんだろう。
「はう。分かった。私が植物さんからしっかりお話が聞ければいいんだね」
「そうや、期待しとるで」
「じゃあもう一回寝るね。植物さん! 私が寝ている間いっぱいお話ししようね。あと、美咲ちゃんを助けてあげて! 美味しい木の実とか教えてくれたら嬉しいな!」
恋が大きな声で叫ぶ。こんなに大声を出す恋は初めて見る。
そして、そんな恋に返事をするように植物が呼応する。植物達は恋の前で生い茂り、瞬く間に恋専用の植物ベッドが用意された。
「じゃあ美咲ちゃん。無理をしないでね。お腹が空いたら、昨日のパンでもいいから食べるんだよ」
「アンタはオカンか! って、そういや昨日もらった食いもんがあったなぁ。どないしよか?」
正直、昨日の昼から食事を取ってないので、お腹は空いている。
「多分食べても大丈夫だよきっと。もし毒が入ってたら、昨日の夜に追いかけきて、森に入ってきたはずだよ」
確かに恋の言葉も一理ある。
「分かった。じゃあまずウチが食べる。恋もお腹が空いとるやろが、今は我慢しい。恋が起きてウチが何ともなかったら、恋も食べればええ」
一緒に食べて共倒れにはなりたくない。まぁ次の日にどうにかなるような毒ならもうお手上げや。
「了解だよ! どうせ私は寝るだけだから、起きてから食べるよ。じゃあ美咲ちゃん気をつけてね。お休みなさい」
「ああ、おやすみ」
さて、ウチも食べて探索しようかな。
―――――
私が起きると、美咲ちゃんが横に座っていた。
「おはよう、美咲ちゃん」
私が声をかけると、美咲ちゃんはちょっとビックリしたみたいだった。
「ああ、恋。起きたんか。どや? 何か分かったか?」
私は起き上がり大きく背伸びする。
「はうっ!! 流石に寝過ぎちゃったよ。でも色々とお話は聞けたよ」
「ホンマか! それで……いや、まずは腹減っとるやろ。パンも干し肉も大丈夫やったで。それに木の実もいくつか採れたで。植物が教えてくれたんや。ホンマありがとな」
植物さん達は、ちゃんと美咲ちゃんに木の実を分けてくれたみたい。ありがとう、植物さん。
早速私はそれを食べながら、美咲ちゃんに夢で見た内容を説明した。
とは言っても、植物さんは人間が話していた内容を覚えていただけで、それが事実かは分からないそう。
「まずはそこの町の話からね」
私達がいる場所は黄の国。目の前にある街はハンプールという町らしい。
黄の国でも他国との国境付近に位置している町で、商人の行き来が盛んだそうだ。
ただ、どういった商品が取り扱われているかは、植物さんじゃ分からないみたい。
町に入るには、身分証みたいなのが必要らしくて、持ってない人は入れない。
「次にこの森についてだね」
この森は、特に名前のない小さな森。
近くに大陸の中央に広大な大森林があるから、大昔にそこから分離したのかも?
小さな森だから、魔物も殆どいない。いても昆虫型や小動物型の魔物だけ。
そのため、狩りにも向かないので、町からは木こりが伐採に来る程度しか訪れない。
ただ、森の奥には長老と呼ばれる大木があって、とても物知りらしい。
「危険が少なそうな森で良かったな」
「うん、でね。魔法についても聞いたんだけど、長老さんが詳しいみたいなの。だから長老さんのところまで案内してもらおうと思うんだけど……いい?」
「当たり前や。せっかくの魔法の情報。行かな損するって」
「じゃあ早速だけど、長老さんの所へ行こうか!」
――――
ウチは今、長老と呼ばれている大木の前にいる。
「流石にデカいな。長老と呼ばれるわけや」
「そうだね。じゃあちょっと話しかけてみるよ」
「寝らんと大丈夫?」
「たぶん平気。もし無理だったら、また寝るね……たくさん寝たから寝れるか分からないけど」
確かに恋は起きてからあまり時間が経ってない。朝の二度寝ならともかく、今寝るのは難しいだろう。
「長老さん長老さん、こんにちは」
恋が大木を触りながら話しかける。
「はう! はい。私が恋です。……はい……はぅ?」
どうやら会話に成功したみたいだ。こっちには長老の声が聞こえないから、恋の『はぅ』しか聞こえない。
とりあえず一安心のようだから、ウチは恋と長老の会話が終わるのを、ゆっくり待つことにした。
「……ちゃん、美咲ちゃん起きて。……はぅ」
「ん? ……あかん。寝てしまってたんか」
「あ、美咲ちゃん。おはよ!」
「おはよう。ごめんな、寝てしまって。長老との話は終わったんか?」
「うん、終わったよ。えっとね、魔法のことたくさん教えてもらっちゃった。もう寝なくても植物さんとお話も出来るよ」
「ホンマか! ……で、ウチは? ウチも魔法が使えるんか?」
「うん、ちゃんと使えるよ。えっとね」
ウチは恋から魔法の使い方を教わった。
初めは結構面倒くさいと思ったけど、一旦イメージが出来たら、あとはすんなりと魔法が使えるようになった。
ウチは手から水を出せるようになった。長老曰く、慣れて上手くイメージできれば、水以外も出すことが出来ると教えてくれた。
でも、まだ体内にある魔力が少ないから、あまり魔法は使えない。魔力を上げるには毎日地道な努力が必要なようだ。
恋の方は、今のところ植物との会話だけだ。会話自体は魔力を殆ど消費しないため、魔法を知らなくても夢の中で会話ができたようだ。
魔法と魔力を覚えた今、普通に会話ができるみたいだ。今後魔力が上がっていけば、植物を操ったり成長を促したり出来るようになるそうだ。
まぁ恋は操ることは嫌いみたいだから、さっきまでと同じようにお願いすることになるんだろう。
また、この森で採れる木の実や果実も、恋が頼めば植物が持ってきてくれる。しばらくは食べ物に困らなそうだ。
「なぁ、とりあえず飢えて死ぬことはなくなりそうやけど、これからどうする?」
「はぅ……どうしようか? いつまでもここにいる訳にはいかないよね」
「でも町には入れんやろ? それに会話が出来ないから、コミュニケーションもとれんし」
「とりあえず、数日間は森にいようよ。で、魔法を少しでも覚えて、改めて考えよう」
「せやな。まずは魔法が使えんことには話にならん」
「私も、もっと長老さんとお話しするよ。長老さん、他にも色んなこと知ってるみたいだし」
ウチらは魔法の練習と、長老との話で数日間過ごした。
ウチは水の魔法を、少しずつ使いこなし始めた。植物に頼んで、風呂釜を作ってもらい、ウチの魔法でお湯を出して二人で入った。
シャンプーや石鹸がなかったので、汗を流しただけだったが、それでも気持ちよかった。
また、初めて生き物も殺した。ウサギだった。水鉄砲を強力にした魔法で殺した。
可哀想と思ったけど、多分これから必要なことと思って殺した。
その夜、恋と二人で泣きながら食べた。……美味しかった。二人で命の尊さを知った。
森で過ごしてたから、制服が汚れた。ボロボロだ。洗いたいけど洗剤がない。せめて石鹸だけでもあれば……。試しに液体石鹸が手から出ないか試してみる。……出た。また泣きそうになった。
大急ぎで、二人で裸になって、お風呂に入りながら洗濯した。
一緒にシャンプーや洗顔も試した。どうやらウチが過去に使ったシャンプーや石鹸が出てくるみたいだ。
恋は長老から色んなことを教えてもらっていた。
種族のこと。この世界には人間以外にも魔族や獣人がいるらしい。そして魔物のこと魔石のこと。
あの男の人が入れてくれた石は、魔石を加工して作られた人間の魔道具らしい。
赤は火、青は水などやはり思った通りの効果が出る石だった。
これもイメージで強弱が可能らしい。最初に恋が風で吹き飛ばされたのは、最大出力だったようだ。
弱いイメージにすればそよ風みたいだし、扇風機や乾燥機の代わりにもなった。
赤の石は火をおこして、肉を焼くのに利用した。油断すると、植物に火が移りそうで怖かった。
青の石は飲み水だ。ウチが出す水を試しに飲んだけど、水の味すらしなかった。あれは飲んだら駄目なやつだきっと。
黄色は電撃じゃなくて、明かりだった。夜に重宝するけど、あまり目立つと怖いので、ほどほどにしか使っていない。
この数日で、ウチらは日本では考えられない生活を送った。人間やれば出来ると関心もした。
次に考えたのが、何とか帰る方法を……と思ったが、長老も帰る方法を知らなかった。
だが、こっちに来た原因は分かった。魔力による暴走が原因らしい。
少し前に、この辺りで巨大なドラゴンが倒されたらしい。その影響で、空間に揺らぎが出来たのだろうと言うことだ。
滅多に起こることではないが、今回のドラゴンは時間を止める魔法を使えたらしく。空間の揺らぎと相性が良かったのではないかという話だ。
因みに過去にもウチらのように、余所の世界から来た人間がいたらしい。
もしかしたら、日本からも人が来ているかもしれない。そう思うと少し寂しさが紛れた気がした。
――――
いつも通り、私は長老さんとお話をしていると、別の植物さんから声を掛けられた。
その内容を聞いて、私は美咲ちゃんの元へ急いだ。
「美咲ちゃん!!」
「えっなに? そんなに慌ててどうしたんや?」
「あのね、今森の入口……私たちが最初にいた場所にね、あの男の人が来ているみたいなの。何かを探してるようだって、植物さんが言ってるんだけど……」
「それって、ウチらを探してるってことか?」
「多分そうだと思う。……ねぇどうする?」
「……行ってみよう。危険やったらすぐに逃げればええ。それよりも、他の人と接触するチャンスやんか」
魔道具と食料をくれた人。多分助けてくれたんだと思う。ならもしかして……。私たちは男の人がいる場所まで走って行った。
「恋、ストップや。男が見えた。……って恋! 大丈夫か? そう言えば恋の体力を考えてなかったわ。ごめん」
「はーはーはー。大丈夫だよ。これでもこっちに来て少しは体力が、はー、付いたんだから。はぅ」
息切れしながら言っても、説得力がなかったかな? でも、日本の頃の私だったら、ここまで来る前に倒れてたと思う。
息を整え、私は隠れて正面を見る。今日はあの男の人だけじゃなく、もう一人男の人がいた。雰囲気がよく似ている……親子だろうか?
二人は何か話しているようだが、ここからじゃ遠くて……じゃなくて、そもそも言葉が分からないから、何を話しているか聞き取れない。……ん? 何? 植物さん。
「やっぱ言葉が分からんと、どうしようもないな……ん? どうした恋?」
「あのね。植物さんが二人の会話を通訳してくれるって」
「ホンマか! じゃああの二人は何て言ってる?」
「えっとね……」
私は植物さんが教えてくれた通りに、美咲ちゃんに説明した。
『父さん、こんな所に何の用事なんですか?』
『いや、数日前ここに確かに女の子がいたんだ』
『数日前なら、もういないでしょう。偶々森に用事があった人ですよ』
『いや、おそらくそれはない……多分彼女は……』
『それで、父さんはその子を見つけてどうするんですか? まさか売ったりしないでしょうね?』
『馬鹿なこと言うな! 私が奴隷商人を嫌いなことは知ってるだろう。じゃなくて、彼女は多分この世界の人間じゃない』
『って! それって異邦人ってことですか! ……確かなんですか?』
『ああ、見たこともない服を着ていたし、作りのわからない鞄を持っていた』
『どうしてその時に声を掛けなかったのですか! それこそ見つかったらどうなるか……』
『ここ数日、奴隷商人の動向を探っていたが、捕まったという話は聞いていない。それに本当に異邦人なら、私の言葉が分からないだろう。彼女にとっては、私も恐怖の対象に過ぎないさ』
『だからって見捨てていいわけが……』
『だから最低限の食料と、魔力結晶を鞄の中に入れておいた。頑張れば数日は大丈夫な量だっただろう』
『今日はどうするつもりで?』
『どうもこうも探すに決まってるだろう。腹を空かせてるかもしれない。怪我してるかもしれないんだ』
『また逃げられるだけでは?』
『逃げる元気があるならそれでいいさ。また食料だけ置いて帰ればいい。だけど、逃げられない状況だったら困るだろう』
『はぁ。そんな得にもならないことしてどうするんですか?』
『得にはなるさ。異邦人なら、俺達の知らない知識を持ってるだろうさ』
『別に得にならなくても助けるくせに。いいですよ。僕も気になりますから。探しましょう』
「はぅ! 二人が入ってくるよ! どうする?」
「恋……今の会話の内容で、やることは一つやろ」
「はう?」
「誰も聞いてないこんなとこで嘘ついてる訳ないやん。一応いつでも逃げられる場所まで行ってから、お礼を言うんや!」
「うん!」
これがおじさんとの出会いだった。どうやら二人は、最初私一人しかいないと思ってたらしく、美咲ちゃんを見て「二人!?」って驚いていた。
最初は言葉が通じなくてどうしようかと思ったけど、お礼は伝わったようだ。
それに植物さんの通訳で、ある程度の意思疎通は取れた。
おじさんの名前はバルデスさん。息子さんはミハエルさん。
私達の名前は一文字ずつ発音して覚えてもらった。言葉は通じなくても、名前の発音は同じだもんね。
その後、時間は掛かりながらも、おじさんが『はい』か『いいえ』で答えれる質問をしてくれたお陰で、意思疎通は図れた。
私達はしばらくはまだこの森に住むことになった。その間におじさんが身分証をどうにかしてくれるらしい。身分証さえ手に入れば町に入ることもできる。
そこで、しばらくおじさんの家に住んで、この世界のことを教えてもらった。もちろん対価は必要だ。私と美咲ちゃんが持っていた鞄の中身を提供した。その中で喜んでくれたのが、ソーイングセットだった。針仕事をする人たちの携帯用に便利そうだと言う。
あと、気になっていたのが、折り畳み傘。この世界では、傘をさす習慣がないから、今一つ使い方が分からなかったみたい。
おじさんは私達を実の子のように接してくれた。優しく、時に厳しく。そんな関係が一年は続いた。
その頃になると、ミサキちゃんも言葉を話せるようになった。私は魔力が伸びたお陰か、早くから植物さんと同じように、言葉が分かるようになってた。
ミサキちゃんは、いつの間にかおじさんのことをオトンと呼んでいた。私はおじさんのままだ。確かにお父さんのような人だったけど、気恥ずかしさの方が上だった。
ある日おじさんがこの店を出ると言った。息子のミハエルに任せて、バルデス商会を他にも拡げるために行商に出掛けるとか言った。
私達はおじさんに付いて行くことにした。ミハエルさんは残って店を手伝って欲しそうだったけど、おじさんの方が心配だった。
それに他の町や村にも興味があった。もしかしたら、私達と同じ境遇の人がいるかもしれない。
そう思うと、少し楽しみな気がした。




