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ロストカラーズ  作者: あすか
第三章 不死王討伐
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閑話 二人の少女①

今回は閑話。ミサキとレン視点の話です。

場面転換毎に二人の視点が切り替わります。

「はぅ! 美咲ちゃん待ってよー」


 ウチが帰ろうとすると、後ろから恋が追いかけてくる。

 ウチの横までやって来ると、体をくの字に曲げ、手を膝に乗せてはーはーと息をする。

 そこまで全速力って訳でもないだろうと、ツッコミたかったが、恋は運動が本当に苦手だった。


「ほら、ちゃんと待っててあげるから」


「うん、ありがとう美咲ちゃん」


「しかし、恋も大概やな。何でいつもウチと一緒に居たいんや?」


「はぅぅ。だって美咲ちゃんはお友達だし。私、友達少ないから」


 レンはそう言うが、それは嘘だ。本当に友達がいないのはウチの方だ。

 ウチは小学校の時にこっちに引っ越してきた。その頃から、皆と言葉遣いが違うって、ずっと揶揄われてきた。

 流石に高校にもなると、揶揄う人は居なくなったが、今までの名残で、何となく皆から外れて行動するようになっていた。


 そんな中で、恋は唯一と言っていい友達だった。ウチがどれだけそっけない態度でいても、彼女だけは、一緒にいてくれた。

 ウチは恋に感謝している。恋のお陰で一人にならなくてすむからだ。


 だけど、恋がウチのために他の友達の誘いを断ってるのも知っている。

 そんなことをすれば、恋も友達が離れていってしまうのに。

 だからウチは、恋が他の友達と離れないように、距離を置こうと、今日も一人で帰ろうとしていた。


 だけど恋はウチを追いかけてきた。嬉しかったけど、これでいいの? って気持ちはある。でも、今日はこのままで……。


「はぅ? 美咲ちゃん。あれ何だろう?」


 恋が指す方向には……何だろう? 正面が歪んで見える。陽炎かな? にしては変な感じ。


「なぁ。近くに行ってみんか?」


「はぅ? 危なくない?」


「危ないわけないやろ。ただの陽炎やん。でも、こんなにはっきりしてるのなんて、珍しくない?」


「そりゃあ珍しいけど。……はぅ。待ってよー」


 ウチは恋の言葉を無視して近づいた。あれっ? おかしいな。普通陽炎や蜃気楼みたいなのって、近づいたら消えるんじゃないの? これ、はっきりと揺れているのが分かるんだけど……。


「……美咲ちゃん、どうしたの?」


 追いついた恋がウチに問いかける。そんなに不思議な顔してたかな?


「いや、陽炎って、こんなに近くて触れそうなものやったかなかな? って…っ!」


 ウチがそれに触れようとすると、突然それに吸い込まれそうな感覚に捕らわれる。いや、実際に吸い込まれてる!


「美咲ちゃん!!」


 ウチは慌てて手を伸ばす恋の手をとる。だけど吸い込む力の方が強力で……結局二人とも吸い込まれてしまった。



 ――――


「はぅー。どうしよう。美咲ちゃん起きてよ」


 私は、未だに目が覚めない美咲ちゃんに、何度も呼び掛ける。そうしないと、私はどうにかなってしまいそうだった。


 辺りを見渡すと、そこはさっきまでいた場所とは全く違う場所だった。

 ここは何処だろう? 森の中だってことは分かる。だけどそれ以外がさっぱりだ。


 そもそも何で森の中にいるんだろう? そこが分からない。

 確か最後に覚えているのは、美咲ちゃんが何かに吸い込まれて……って! じゃあここは吸い込まれた先ってことなの!?


 それって……私は小説で読んだ、異世界転移って言葉が頭に浮かぶ。まさか……そんなことがあるはずが……。


「ん……」


 考えていたら、美咲ちゃんから小さな反応があった。


「美咲ちゃん! 美咲ちゃん!!」


 私は懸命に美咲ちゃんの名前を呼ぶ。


「ん、ああ……あれ? 恋?」


「はぅ。良かった。美咲ちゃんが起きてくれたよ」


「なんや。大袈裟な……って。ここ、何処や?」


「分かんないの。私も起きたらここだったから」


 美咲ちゃんは少し考えてるようです。が、やがて何かに気がついたよう。


「もしかして、ウチが余計なことしたから、恋まで巻き込んで……」


 美咲ちゃんが顔面蒼白になって震える。私は美咲ちゃんを抱き締める。


「大丈夫だよ! 美咲ちゃんのせいなんかじゃない! だから……ね」


 私は抱き締めながら、美咲ちゃんに言い聞かせる。しばらくすると、美咲ちゃんは落ち着いたようだ。


「ごめん、取り乱した」


「ううん、仕方ないよ」


 むしろ、こんな状況で平気な女子高生なんて、いないと思う。私も美咲ちゃんがいなかったら、きっと泣いてただろう。


「……いつまでもここにいても仕方ないよね。どうしようか? ってかここって日本なんか?」


「はぅぅ。分からないよ」


「そうやな。ならちょっと移動してみるか」


 そう言って美咲ちゃんは立ち上がる。この行動力は私も見習いたいな。

 幸い少し歩くと、森から出ることが出来た。


「なあ。やっぱりここ、どう見ても日本やないよなぁ?」


「……そうだね。と言うか、地球ですらないと思うよ」


「そうか。……奇遇やな。ウチもそう思う」


 今目の前にある光景は地球では考えられない光景だった。


 森を抜けた先には町が見える。いや町がどうかは分からない。だって城壁で囲まれてて、外からじゃ分からないから。門の前には列が出来ている。その列には、明らかに人間じゃない人も並んでいる。モフモフした尻尾と耳を付けた歩いている人。

 時代錯誤の馬車。いや、馬だけじゃなくて、物語に出てきそうな竜の様なのまでいる。


「映画のセットにしてもやりすぎや。あんな生き物おったら、日本中大騒ぎや」


「ねぇ……どうする美咲ちゃん。あそこに行ってみる?」


「アホっ。何も知らんと、あないなとこに行ったら、何されるか分からんやん」


「はぅ。でもでも。ここにいてもどうしようもないよ。お腹も空いちゃうよ」


 私たちが持っているのは、通学鞄だけだ。中には教科書とノート、それからお菓子が少しだけ。


「確かに食料はどうにかせなあかんな。でも……耳を澄ませてみい。何言っとるかさっぱりや」


 せめて言葉だけでも通じれば良かったけど、喧騒から聞こえてくる声は、何て言ってるかさっぱりわからない。


 あれ? ……誰か近づいてくる!!


「はう! 美咲ちゃん誰かこっちにくるよ!」


「あかん! はよ逃げな! 捕まってもうたら、何されるか分からんで」


 そう言って美咲ちゃんは森へと戻っていく。もちろん私もそれについて行く。


 後ろを振り返る。男は森へは入ってこようとしないようだ。

 男は少しその場に立ち止まったかと思うと、足下に落ちてた私の鞄を拾い上げた。

 あっ急いでて、思わず置いてきちゃった!

 男はしばらく私の鞄を漁る。止めて! 中身を見ないで! 私は恥ずかしさのあまりに飛び出しかける。


「あかんって恋。今出て行ったら捕まってまう」


 分かってる。分かってるけど……。さよなら私の通学鞄。

 ……って思ったけど、あの男の人鞄に何か入れただけで、鞄を置いて帰って行っちゃった。


「何や? 何を入れたんや? もしかしてウチらに宛てたメッセージやろうか?」


「とりあえず行ってみようか」


「そうやな。ただ、罠かもしれんから慎重にな」


 私たちは鞄の場所までゆっくりと戻る。あの男の人はもう居ないみたいだ。


「よし! 鞄を持ってまた森へ戻るで!」


 私は今度こそしっかりと鞄を抱きかかえて、森の中まで戻った。


「で、あの男は何を入れたんや?」


「えーと、何か変な紙と……あっ、食べ物だよ!」


 鞄の中には干し肉みたいなのとパンが入ってた。


「ホンマか! ……でも睡眠薬や毒が入ってるかもしれん。食ったところを捕まえる気かもな。油断はできん」


 そっか……そう言う可能性もあるんだ。美咲ちゃんがいなかったら、気にせずに食べちゃってた。なんか食料で喜んだ自分が馬鹿みたいだ。


「ま、どうしようもなくなったら食べるとして……その紙はなんや?」


「何だろう? 紙というかカード? ……はう! 何か出てきたよ!」


 白かったカードの一部が緑色に変化した。一体何だったんだろう。


「どれウチにも貸してみい。……おかしいな何も変化せえへんよ。恋、これ持ったときに何かした?」


「えっ? 別に何も……。ちょっと力強く持ってたくらいかなぁ?」


「強くなぁ……うーん。変わらんなぁ。何や仕掛けでもあるんやろうか? くそっウチのも変化せいっ!! って、あれ変化した?」


 美咲ちゃんが持ってるカードは青く変化した。


「何だろうねこれ? 色が変化したら何かあるのかな?」


「う~ん、分からんなぁ。で、他には何か入ってへんか?」


「ちょっと待ってね。うーんと……。あっ何か綺麗な石が入ってるよ! 赤と青と黄色……緑もある。宝石とはちょっと違うかな?」


「さっきのカードと何か関係あるんかな? ウチさっき青だったから、青の石貸して」


 私は美咲ちゃんに青の石を渡す。


「これも何か力強く握ったらええんやろうか? ……何か起これー!! って、えええっ!? ちょっ、水が出てきた!」


 美咲ちゃんが持った石からは水が溢れ出していた。


「えっ? これどないなってんの? ってか、どうやって止めんの? ええーい! 止まれー!! ……って止まったー!? ……水よ出ろー! ……おおう、出た。……これ自在に水を出したり、止めたり出来るんや」


 美咲ちゃんは面白がって、水を出したり止めたりしている。……私にも出来るのかな?

 えーと。私は緑色だったから、緑色の石を持って……。


「えっと……水出ろー。……はぅ? 出ないよ?」


 私は美咲ちゃんみたいに、水出ろって言ったけど、一向に出る気配がない。どうして?


「もしかしたら、色によって出るもんちゃうかもしれんな。だって青が水ってイメージ通りやもん」


 そっか。青だから、水が出た可能性があるんだ。なら……緑って何が出るんだろう?


「そっか……じゃあ何か出ろー! ……はぅわ!?」


 突然私は吹き飛ばされた。えっ? 何々? 何が出たの?


「恋! 大丈夫か?」


 美咲ちゃんが心配そうに駆け寄ってくる。


「はぅー。大丈夫だけど、一体何が起こったの?」


「風や。突風が巻き起こったで」


 風って……もしかして、この緑の石で風が出たの?


「すごかったでビュワって……ほれ、あそこの葉っぱが全部落ちとる」


 確かにあそこの一角だけ落ち葉の量がすごい。


「ねぇ……これって魔法なのかな?」


「これだけじゃ分からんなぁ。単純に、この石の力だけかもしれんし」


「他の石も試してみる?」


「せやな……と言いたいところだけど、赤の石ってヤバない?」


「青が水……緑が風ときたら赤は……火?」


「ウチもそう思う。で黄色は?」


「……電気かなぁ?」


「電気ってよりは、電撃ちゃうん?」


「あっそうだね。……ねぇ。試すの危ないかなぁ?」


「森で大火事とかシャレにならんしな」


「はぅ、あの人なんで私の鞄にこれ入れたのかなぁ?」


「さぁな? 親切かもしれんし、何か考えてるかもしれん。せやけど、今ここで考えても仕方ないことや」


「これからどうしようか?」


「やっぱり元の世界には帰れんよなぁ? ……恋。巻き込んでホンマにすまん」


「だから止めてって。別に私は巻き込まれたなんて思ってないし、それに帰り道だったから、一人でもあの道は通るし……むしろ美咲ちゃんがいてくれて助かるよ」


「恋……」


「はうっ!?」


 突然美咲ちゃんが抱きついてきた。はわわ。


「必ず守ったる。どんなことがあってもウチが恋を守ったるからな!」


「……うん。私も美咲ちゃんを守る! だから二人で頑張ろう!!」


 とりあえず今日の所は、森の中で一晩過ごすことにした。

 でも森の中だから……怖い動物もいるかもしれない。私達は、死角になって見えにくい、隠れれそうな場所があったので、今日はそこで寝ることにした。

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