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ロストカラーズ  作者: あすか
第三章 不死王討伐
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第65話 追い詰めよう

「さて、彼女がこちらにいる限り、あなた方は何も出来ないですよねぇ?」


 この……いい加減調子に乗ってるヘンリーを、どうにかしたいところだが……。


「ルーナさぁん。貴女には色々と借りがありましたから、ここでたっぷりと還ささせて頂きますよぉ」


「あら、あなたに貸したものは何もないと思いますが? 変なやっかみは止めて頂きたいものです」


 ここに来てもルーナは余裕だ。


「ほう、私にそんなに口を聞いてもよろしいのですかぁ? カミラ、構いません。少し人質を痛め付けて差し上げなさい」


 おい! セツナがヤバい!


「ヘンリー様……残念ですが、それは出来かねます」


 ん?


「はぁ!? 何を言ってるのですか? 私に逆らう気ですか?」


「いえ、逆らうとかそう言うわけでなく……」


「一体何を言ってるのです? 私はこの人質を痛め付けろと言ったのです。それが出来ないとはどういう意味かと聞いてるのです!」


「そいつを傷つけられたら、俺が困るんだわ」


 そう言いながら奥から現れたのは……。


「ゼ、ゼロ様、どういうことですか一体!」


 やっぱり居たか。奥から現れたゼロに狼狽えるヘンリー。あれっ? どういうことだ?


「だからこの娘を傷つけられたら、困るって言ってるだろ。その為に、わざわざこのカミラって女にこの娘を傷つけるなと命令したんだわ。この娘はこっちで回収させてもらう」


 ゼロがそう言うと、十字架に磔にされていたセツナが、誰も触ってないのに磔から解放される。

 そして解放されたセツナはそのまま消えていく……。間違いない。トオルだ!


「なっ!?」


 突然の出来事に驚くヘンリー。


「さて、形勢が逆転したようだな。ヘンリー? 次はどうするのかな?」


 俺はさっきまでの仕返しとばかりに、厭味ったらしくヘンリーへ問いかける。


「ぐっ、ゼロ様、一体これは……なぜコヤツらの味方のような真似をするのですか!」


「別に味方の真似はしてないが……ただ俺は、こいつに敵対できない呪いをかけられて……なぁ?」


 ニヤリと笑いながら俺に話しかけるゼロ。


「その割に結構邪魔してなかったか? あの瘴気ってゼロが作ったんだろう?」


「あれくらいお前なら邪魔のうちにも入らんだろう? ま、ちょっとした挨拶だよ」


「挨拶って……ったく。それの所為でセツナが捕まったんじゃないのか?」


「この女がのこのこと侵入してきたからな。殺されないように匿ってやったんだ。むしろ感謝してほしいものだ」


 感謝と言っても、そもそもゼロがいなければ捕まることも……いや、もし瘴気がなくゼロが居なかったときに、セツナが捕まったら……。

 そう簡単にセツナが捕まるとは思わないが、ゼロのお陰で一番最悪な目は回避できたわけだ。


「素直に礼を言いたくはないが……。まぁこの戦いが終わったらまた酒でも用意しておくよ」


「おう、それからまたあの塩辛ってのも一緒にな。前回の分はエキドナが一人で殆ど食っちまいやがった」


 エキドナ……何でゼロの土産をお前が食ってんの?


「馬鹿言うでない! 妾よりも多く食べたはずじゃ! シオン! ゼロに渡すくらいなら、妾にもちゃんと寄こすのじゃぞ!」


 姿は見えないが、どこからかエキドナの声も聞こえる。やっぱりさっきのはトオルとエキドナだったようだ。


「なっ! 今の声はまさか……でも一体どこから? ……それよりもゼロ様。いやゼロ! 貴様、私を裏切ったのか!!」


 同じ魔王だから、ヘンリーはエキドナの声が分かるのか。というか、ようやく自分の立場がヤバことに気がついたようだ。


「裏切ったとは人聞きの悪い言い草だな。俺は昨日ちゃんと言ったぞ。シオン達が攻めてくるから、特等席で見学させてもらうと。な? 別に裏切ってないだろ? 別にシオンの味方をするわけでもない。たださっきの娘に関して言えば、俺の都合で迷惑かけたから、解放をさせてもらっただけだ。お前たちの戦いの邪魔はせんよ」


「しかし、こいつらは我らアンデッドの敵ではないですか! 今こそ我ら不死族全ての力を持って、やつらを倒すべきでは……」


「別にアンデッドの敵ではないだろう。アンデッドではなく、ヘンリー、お前の敵だ。別にお前が死んだところでアンデッドや不死族が全滅するわけじゃないよなぁ?」


 ゼロが俺に問いかける。


「そうだな。俺達はただちょっかいを出したヘンリーを許せないだけだから、ヘンリーを殺しさえすれば、後は気にしない。まぁヘンリーのかたき討ちって襲い掛かってくるなら、容赦はしないけどな」


「ははっ、そんな奴らがいるわけないだろう。一緒に領民の夜魔族ですら、こいつを見限ってるんだ。そんな奇特な奴なんか、いやしないさ」


「夜魔族が見限ったとはどういうことだ!! アイツ等は今頃あの城を攻め落としているはずだぞ!! ……おい、どういうことだ! 何故使い魔と連絡がとれん!」


 おっ、どうやらシクトリーナの方も大丈夫みたいだな。


「どうやら城攻めにも失敗したようだな。次は何かあるのか?」


 流石にもう手札は何もないだろう。


「くそっ! どうしてこうなった!!」


 どうしても何もただの自業自得だ。さて、色んな物語を読んでいると、負け濃厚の敵がやる次の行動はおそらく……。


「くそっ! 俺はまだこんなところで殺られるわけにはいかない! 貴様ら覚えてろよ!!」


 やはり逃げるつもりだったようだ。だが、そう簡単に逃げられると思うなよ。

 俺は発動直前で待機させていた【毒の霧・魔力無効化】をヘンリーの周りに発動させる。


「……何故だ! 何故体が変化しない! くそっ、この霧のせいか!」


 霧になって逃げるか、コウモリになって逃げるか……それは分からないが、魔法が使えないなら逃げることは出来ないだろう。


「おいおい、ヘンリー、逃げようとするなよ。せっかくここまで見学に来たんだ。逃げたりしたら興醒めだろうが。おい! シオンもだ。そんなつまらん魔法であっけなく終わらせるなよ。心配せんでも、もしコイツが逃げ出したら、俺が代わりに殺ってやる」


 ゼロめ。完全に観戦モードに入ってやがる。まぁ俺はヘンリーが逃げなければこんな魔法を使う必要はない。しかし、ヘンリーは逃げたらゼロに殺される。逃げ道も完全に塞がれた。


「まぁこうなったらヘンリーに勝ち目はないだろう。そこで一対一で対戦しないか? ヘンリーが一人で勝てれば今回は見逃すってことで」


 ゼロのやつ。とんでもない提案をしてきやがった。


「おいおい、それに俺達が何の得があるんだ?」


「別に得なんてない。強いて言えば俺が楽しめる。だが……そうだな。もしこの提案に乗れば、ヘンリーが死んだ後の不夜城の処理は、こちらで引き受けよう。どうだ?」


「おい、そなたは元々ヘンリーが死んだら面倒をみると、妾と約束したじゃろうが!」


 未だに姿を見せないエキドナがどこからか声を出す。


「そうだったか? くく、まぁそんな口約束は酒のせいで忘れたな」


「お主……本当にいい性格しとるのう」


「それよりもお前も姿を見せたらどうだ? ここで一緒に観戦するのも、面白いと思うぞ?」


「妾はトオルと観戦するので結構じゃ。……が、確かに姿を現した方が落ち着くかもしれぬ。なぁトオルよ」


「ったく、しょうがないなぁ。でも、まぁセツナくんも、すでにリンくんの所に転送したし、問題はないかな」


 話をしながら二人がゼロの後ろに現れる。話ぶりからセツナだけリンの元へ転移させたようだ。


「エキドナぁ。やはり先ほどの声は貴女でしたか。よもや貴女まで同じ魔王である私を裏切るとは思いもしませんでしたよ」


「何が同じ魔王じゃ。お主はことあるごとにシエラに突っかかっておったではないか。シエラとは友じゃったからの。お主の行動は到底許せるものではなかったぞ。シオンがいなんだら妾がお主を殺してやりたいところじゃ」


 そう言って殺気を飛ばすエキドナ。それに怯むヘンリー。こいつはどんだけヘタレなんだよ。


「それでどうするんだ? ヘンリーよ。お前には三つの選択権がある。一対一で戦うか、総力戦で戦うか、この場を逃げて後で俺に殺されるか」


 何かゼロが仕切ってるけど、俺達はまだ許可してないよな? 何勝手にルール決めちゃってるの?


「……本当に一人と戦って勝てば、この場は見逃すんだな?」


 ヘンリーもその気になってるけど……えっ? マジで?


「ああ、お前さえ勝つことが出来たら、この場の命は保証しよう」


「……戦う相手は?」


「そこにいるシオンか、横にいる女か。ここにいるトオルと言う男でもいいし、何なら俺かエキドナでもいいぞ」


 その言葉を聞いてニヤリと笑みを浮かべる。


「そうですか。では、ルーナさぁん。私と戦いましょうか?」


「お、おい。俺はまだ……」


 俺が文句を言おうとすると、ルーナがそれを制する。


「わたくしをご指名ですか。いいでしょう。わたくしがお相手いたします」


「ルーナ……」


「大丈夫ですシオン様。すぐに終わらせますから」


「城から出ているにも関わらず強気ですねぇ? 自分の領土内ですら能力が半減する貴女が、こんな遠くまで来て……私に勝てるとでも思っているのでしょうか?」


「そうですね。城のわたくしと比べると全能力が八割は落ちているでしょうか? ですが、貴方など、二割の力があれば十分でしょう」


 やはり二割まで能力が落ちてるのか。魔力以外にも全能力が落ちてるのだから、本当に大丈夫か不安になる。


「ふん、強がりを……」


 ヘンリーの方は全く警戒をしてないようだ。余裕の表情を見せる。


「よし、じゃあルーナよ。その白いグリフォンから降りるがよい。降りたら勝負開始だ」


 ゼロがそう言うが、ヘンリーは空を飛べてこっちは地上とか……ちょっと不利すぎじゃね?


「畏まりました。では降りるまでは勝負は開始しないのですね。ホリンさん、ではあのバルコニーに降ろしてください」


 バルコニーって……ゼロ達がいる場所か? いいのかよ。


「おいおい、ここに降りるのかよ。俺達を巻き込むなよ?」


「戦いの場所は指定してないのですからいいでしょう? わたくしはただ親切に特等席で見せてあげようと思っただけですよ。地上に降りると遠くて見れないでしょう?」


「私があなたをバルコニーに行かせると思うのですか?」


 ヘンリーはルーナをバルコニーに行かせたくないようだ。


「あら? 戦いの開始はわたくしがホリンさんから降りてからでしょう? もしわたくしがホリンさんに乗ったままでバルコニーに行くことを邪魔するなら、一対一ではなく総力戦の勝負になりますよ?」


「なっ!? そんなことが許されるはずが……」


「何故でしょう? わたくしはルールに則ってますよ? それとも勝手にルールを決めたゼロ様にでも泣きつきますか? メイドがバルコニーに降りたら勝てないので、どうか地上に降りるようにしてくれと」


 おお、ルーナのやつ煽る煽る。


「ぐっ……いいでしょう。さっさと降りなさい」


 どうやらプライドが勝ったようだ。素直にルーナを通す。

 ホリンは大人しくルーナに従ってバルコニーまでルーナと俺を運ぶ。


「シオン様はどうします? 一緒に降ります?」


「そうだなぁ。ホリン、俺も降りるから、ホリンは地上の様子を見てきてくれないか? 可能なら魔石集めとか残党処理とか……。あと、さっき幹部の一人をわざと逃がしたんだが、おそらくどこかで死んでると思うんだ。多分あっちの方だからちょっと探しておいてくれるか?」


 さっき【毒の自動追尾】の魔力を確認したら、最後に城の裏側の方で魔法が発動したようだ。ここに幹部の一人がいるから、もう一人を巻き込んだのか。それとも、もう一人がどこかにいるのか。……そもそもちゃんと死んでいるのか確認したい。


《畏まりましたマスター。ついでにスーラ先輩の分身も回収しますか?》


 あっそうだ。忘れてた。


「ルーナ、スーラを返してくれ」


「えっ? あっそうでした。スーラさん。わたくしは今から戦いますので、お嫌でしょうが、シオン様の所へ戻られてください」


 嫌でしょうがって何だよ。スーラは俺の相棒だぞ。


《ルーナちゃん! 頑張ってね。……シオンちゃん。ただいま》


 おおう、スーラのテンションが低い。……まだ拗ねてるのか?


「おかえり、スーラ。と言いたいところだけど、スーラはホリンと一緒に居てくれないか? 俺の信用している大事な相棒のスーラなら、ホリンのことを任せられるんだ」


《し、仕方ないの! 大事な相棒だから、ちゃんとシオンちゃんの代わりに頑張るの!》


 スーラは大切とか大事とか言う言葉に弱い。コロッと態度が変わった。やはりチョロいな。


「よしホリン、スーラ、頼んだぞ!」


《任せるの!》

《行ってきますマスター。》


 俺とルーナはホリンから飛び降りる。さて、ここから勝負開始だ。

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