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ロストカラーズ  作者: あすか
第三章 不死王討伐
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第62話 合体技を唱えよう

「さて、急な寄り道があったが、今度こそ城まで行こうか」


「通りすがりのヒーローですって。言ってて恥ずかしくありませんでしたか?」


「う、うるさいな。良いだろ少しくらい」


 改めて言われると本当に恥ずかしくなるじゃないか。それに、さっきルーナがヒーローって言ったんだぞ。


「ふふっ、でも格好良かったですよ」


 ……かと言ってそう言われると照れてしまう。


「……さっきの二人。シオン様の同郷ですか?」


「多分な。話している台詞が漫画の引用だったし、名前もミサキとレンは結構ありがちな名前だ。そして何よりスマホを知ってたからな。まず間違いないだろう」


 二人が父親みたいに言ってたから、こっちに飛ばされてきて、さっき死んでいた男に育てられたに違いない。

 最後の別れからも分かるが、きっと大切に育てられたのだろう。こっちの世界の常識から考えると、異邦人である二人を育てるんだから、あの男はものすごくいい人だったに違いない。死ぬ前に話してみたかったな。


「まぁ彼女らに関しては後回しだ。それより先に城の前に行かないとな。エキドナやトオルに怒られてしまうよ」


「セツナのことも気になります」


「セツナに連絡は?」


「潜入中なので危険かと思いしていません。サイレントモードにはしているとは思いますが、万が一を考えると……」


 確かに音が鳴ったら最悪だし、マナーモードのバイブ音だけでも危険だ。その辺りはセツナのことだから大丈夫と思っていても危険があるなら止めた方がいいか。


「いっそのこと、最初から全て音が鳴らないようにすればいいか?」


「それだと潜入以外の時に電話やメールに気づきにくくなります」


 そうだよな。俺が持ってるケータイにマナーモードと、着信音がなくなったら、絶対に気がつかない自信がある。


「なら早く行って、セツナに逃げてもらうしかないな」


「ええ」


 とにかく急がないとな。



――――


 軽快に飛んでいたホリンが、急にスピードを落として立ち止まった。


「……結界か?」


「どうやらそのようですね。特に進入を阻害するようには出来ていません」


 あっ、そういうの分かるんだ。俺にはサッパリだけど。


「じゃあさっき話していた、太陽を遮断するための結界かな?」


「その可能性は高いですね。どうします? 入りますか?」


「這入らないわけにはいかないだろう。ホリン問題ないか?」


《進入は出来そうですが、この中ですと、私の力が妨害されそうです》


「ホリンの言うとおりですね。この中では闇の力が強くなっています。わたくしやホリンの様に聖属性は弱体化されそうです」


 太陽の光を遮断するだけじゃないのか。付与は一つのはず……太陽の光を遮断するんじゃなく、アンデッドの弱点を弱体化させる感じか?


「それって二人とも大丈夫なのか?」


「詳しいことは入ってみないと分かりませんが、おそらく問題ないかと。この手の結界は相反する属性の弱体と、魔素の取り込みを妨害して、魔力の回復を防ぐと相場が決まっています」


 やっぱり弱体化か。要するにルーナとホリンの魔法が弱体化されて、魔力の回復が出来ないため、今の魔力分しか使えない……か。


「二人とも無理はするなよ。ヒカリから魔力回復ポーションも貰ってるから、魔力が少なくなったらすぐに言え」


 念のためと思って、ヒカリから魔力回復ポーションを貰って来た。これがあればルーナの魔力も半分くらいは回復できるだろう。


「畏まりました」

《分かりましたマスター》


 流石に二人も少しの遠慮が命取りになることが分かってるようだ。素直に聞いてくれた。



 ――――


 意を決して、結界の中に入る。

 外からは何も見えなかったが、そこは一面の瘴気に覆われていた。


 マズい!! この瘴気を吸ったらルーナとホリンが!! くそっ! こんなことならせめてホリンを中心に防御魔法で固めてから入れば良かった!


 俺は慌てて防御魔法を張る。後は近くの瘴気を……と考えていると、スーラが突然俺の肩から飛び出し大きく息を吸い込む。


 するとみるみる瘴気がスーラに吸い込まれていく。その間にスーラは自分の体からポンッと小さな分裂体を二体準備する。その二体はルーナとホリンの口元まで飛んでいき……そのまま口の中に入っていってしまった! ちょっ!? 何してんの!?


《体に入ったのも吸い取るの!》


 ……どうやら体内に入った瘴気を取り除くらしい。……そんなこと出来るの?


「ゲホッ……スーラさんありがとうございます。お陰で魔力を消費せずにすみました」


 しばらくすると、ルーナは口からスーラを吐き出し、少し涙目で礼を言う。

 どうやら吸い込んだ瘴気が少量だったため、スーラが入らなくても、自分でどうにか出来たようだが、スーラのお陰で貴重な魔力を消費せずに済んだようだ。


《スーラ先輩ありがとうございました》


 どうやらホリンの方も無事のようだ。少し驚いたが、二人とも無事でよかった。


「スーラ、サンキューな」


《どういたしましてなの! シオンちゃんが防御魔法を使ってくれたから、楽だったの》


「まぁ瘴気なんて毒の親戚みたいなものだからな。辺りを中和するくらいは問題ない。スーラ、さっきの瘴気を少しだけ出せるか?」


《お安いご用なの。》


 するとスーラの体内から黒い塊が出てくる。どうやら瘴気を固形にしたものらしい。俺はそれを貰って体内に取り込む。


「シオン様!?」


 驚くルーナを手で制止ながら俺は体内に集中する。

 俺に毒は効かない。取り込んだら毒の情報を確認しながら中和剤を作り出す。


 俺はカプセル型の中和剤を二個魔法で作り上げた。


「ルーナとホリンはこれを飲め。今の瘴気なら、これを飲めば、もういくら吸っても効果がないはずだ」


 二人は素直に中和剤を飲んだ。


《特に変化を感じられませんマスター》


「そりゃあ今は瘴気を吸ってないもんな。今度吸い込んだら嫌でもわかるよ」


 まぁ吸い込まないですむならそれが一番なのだが、俺の防御魔法は範囲が狭いので、戦い始めたら嫌でも瘴気を吸うことになるだろ。


「しかし、瘴気に侵される心配はなくなったとはいえ、こう視界が悪いと不便ですね」


「そうだな。ってか何で結界の外からは瘴気が見えなかったんだ? これだけ瘴気で回りが汚染されてたら外からも見えないだろう?」


「結界に幻影でも見せていたのでしょう。見てください城が……」


 言われて城のあった場所を確かめる。赤かった城はどす黒く変色していた。


「なるほど、外からは普通の城だったけど、実際はこんなだったって訳か」


 でもいつからこんなだったのか? 前からこんなだったらセツナからも報告があって良かったはず。なかったと言うことは昨日から? うーん分からん。


「それにしても、この瘴気の中でトオル様やエキドナ様、それにセツナは大丈夫でしょうか?」


 確かに、ここは俺とスーラがいたから大丈夫だったが、他のやつは大丈夫か? トオルは魔法でなんとかなりそうな気がする。エキドナも似たような感じだろう。だがセツナは……。


「あまり余裕はないな。急ぐぞ!」


 しかし、いくら効かなくなったとしてもこの瘴気は視界を遮る。

 出来るだけどうにかしたいが……。


 一、【毒の雨】で全てを流す。

 二、風で吹き飛ばす。

 三、スーラに全部吸い込んでもらう。


 パッと思い付いたのはこんな感じだ。まぁ三番は無理だが、一番にさっきの中和剤を付与すれば一気に晴れるか? いや、それなら雨よりも風、むしろ嵐みたいな方がいいか?

 問題は風だが……。


「スーラ、あれをやってみるか?」


 次はスーラと一緒に戦う。そう約束してから、この一年でスーラとの連携を色々と考えてみた。その時に知ったのだがスーラの属性は緑だった。

 スーラは風を操る事が出来る。元は大きな物を吸収する為に、風の刃で細かく刻むのを目的として考えたらしい。


 また、スライム族の特有の――スライム族特有なのかスーラが特別なのかは分からないが、先程のように一定時間だけ分裂したり、自由に大きさを変えたり、好きな形に変形できたりする。

 その為、以前スーラが言ってたようにスーラに乗ることも出来るし、盾や鎧、剣などにも変形できる。ただ、その変形時間は長くないが、その変形によって色々な連携技を使えるようになった。


《うん、二人の力を見せてやるの!》


 スーラはそう言うと二つに分裂し、蛇のように細長くなって俺の両腕にぐるぐると巻き付いた。両腕に巻き付くことにより、俺の手から出す魔法にスーラの魔法を上乗せすることが出来るようになる。


 俺は両手を前に突き出した。出す魔法は【毒の水球】。これにスーラの風の魔法を上乗せする。


「いくぞ!《【毒の暴風雨】(ポイズンストーム)なの!》」


 俺の両手から渦巻き状に風と雨が発せられる。まるで竜巻のようなそれは辺りの瘴気を全て吸い込んでいく。吸い込まれた瘴気は俺の魔法で中和されていく。

 俺が手の位置を動かすと竜巻も手の方向へ移動するので、俺は手を上下左右に自由に動かす。


 ……竜巻が消えると、辺りに瘴気は一切消え去った。


「うん、とりあえず瘴気はなくなったな。視界も良くなったし、瘴気がまた出てくる前に行動するか」


《ちゃんと出来て良かったの。》


 うん、練習の成果がバッチリ出たな。


「……シオン様? わたくし今の魔法を存じ上げないのですが?」


「そう言えばルーナとの模擬戦ではいつもスーラは見学だもんな。スーラとは今のような合体技を色々と開発してたんだ」


「聞いてませんが?」


「そうだっけ? あ、でも偽ヘンリーの時に、今度から連携するからって言ってスーラを渡したよな?」


「それスーラさんに言ってますよね!?わたくしに言ってないじゃないですか! どうして内緒にしてるんですか!!」


 えっ? 何でそんなに怒ってるの? 理由が分からない。


「どうしたんだルーナ。えっ? 何かマズいことやらかしてた?」


「もぅ……知りません!! さぁ瘴気がなくなったのですから、先に進みますよ! ホリンさん、出発してください!」


 何だったんだ一体?


《ルーナちゃんは、私とシオンちゃんが合体技を使ったから、羨ましいだけなの》


 羨ましい? 要するに焼きもちか。うーん、そんなに羨ましいのかね?


 なら今度ルーナとも……って言いたいところだけど、紫の毒と銀の聖じゃ、相性が最悪なんだよな。

 お互いの長所を打ち消しあいそうだ。

 まぁ今回のスーラでも分かったことだが、属性の合体技はかなり強力だ。

 ルーナとも出来るならそれに越したことはない。今回は無理でも、戻ったら試してみるか。


 それにしても……一人で複数の属性を持つエキドナや、重奏軍は実はかなり強いんじゃないだろうか?

 ラミリアも姉さんにやられはしたが、もし魔法を使われていたら、勝負は分からなかったかも知れないな。



 ――――


「どうしましょうシオン様?」


「うん、どうしようか?」


 城に近づくにつれて、アンデッド兵が増えてきた。殆どがスケルトンだ。


 飛んでいる俺達を見上げながら追いかけてくる。……のだが、彼らに空への攻撃がないのか数が増える一方でなにもしてこない。

 たまにレイスのように、浮かんでいるアンデッドがこちらに飛んでくるが、ルーナのナイフ一本で事足りる。

 レイスを倒したときに出る魔石はスーラが鞭のようになって素早く回収していく。実はスーラってかなり便利だよな。


「下のスケルトン、降りて戦うのは面倒だよな?」


「ええ、普段なら経験です。ってシオン様にお任せしたいところですが、流石に今回は余裕がございません。上から一方的に終わらせましょう」


《ではマスター、今度は私にやらせてください》


 ホリンが勢いよくアピールする。

 そう言えば、まだホリンの魔法は見てないな。


「出来るか? なら任せるぞ」


《はい! マスターの為にも頑張ります。》


 ホリンは「グルルルルゥ!!」と大きな雄叫びあげると、無数の白い羽根がスケルトン兵に向かって飛んでいく。


 どうやら羽根を召喚したようだ。断じてホリン自身の羽根ではない。

 羽根はスケルトンに当たるとスケルトンは光になって消滅していく。

 あの羽根には聖属性が付与されているみたいだ。その為復活もしない。

 当たっただけで消滅するから面白いようにスケルトンの数が減っていく。


 くそ。ルーナといい、ホリンといい聖属性ってのはズルいよな。

 俺があのスケルトンを倒そうと思ったら、骨の全部を消し去らないと完全には消滅しないだろう。

 出来なくはないが、手間や時間が掛かりすぎる。本当に二人がいて良かった。


 俺が考えている間も、ホリンが次々とスケルトンを消滅させている。すでに三桁は軽く越えてるだろう。


「しかしどれだけいるんだ?」


「それはこの国に在駐していた兵の数だけいるでしょう。この王都には王族とそれに連なる貴族が住んでおりました。王国兵士と貴族の私兵、今のスケルトンは赤の鎧を着ていないことから貴族のお抱え私兵ではないでしょうか?」


「じゃあこれから更に王国常駐兵もいる訳か」


「少なくとも一、二万くらいはいそうですよね。もし他の場所……例えばシクトリーナに攻め込もうとした場合などは、地方領主の私兵や徴兵もあり得るので、十万単位での兵がいる可能性もあります」


 いや、王都の外ならともかく、王城にそこまで人員が入る場所はないだろう。精々が常駐兵で一万くらいか?


「そう言えば王都は無くなったし、地方の村は俺達が根こそぎ連れ出したけど、赤の国の中小都市や領主が住んでいそうな町は手出ししてないんだよな。……どうしようか?」


「そこはエキドナ様が何とかされますよ。まぁおそらく赤の領土から逃げ出すことになるか、エキドナ様の領民として生きていくことになるかどちらかでしょう。エキドナ様が人間が住むことを許せばですが」


 ……追い出しそうだよな。


「まぁエキドナが赤の国全土を治めなくても、シクトリーナ近辺とこの王都さえ押さえていてくれたら、後は自由にしろって感じだな。ってか話してる場合じゃないか。まだ何千もいるならこのペースだと何時間かかるか分からないな」


「夜になりますと強くなりますし、早めに決着を付けたいところです」


「よし、俺も出るか。スーラ、ホリンの手助けをしてやってくれ。スーラがいればホリンの魔法が広範囲に広がるだろう。俺は【毒の霧】(ポイズンミスト)で家の中や細かい場所も全部まとめて処理する」


「わたくしは如何しましょうか?」


「ルーナは待機だ」


「えっ?」


「ルーナにはヘンリーを呼び出して倒してもらう役目がある。今回は俺は脇役でいいよ」


 俺はルーナ程ヘンリーに恨みはない。ルーナが無理そうなら助けに入るが、今回は間違いなくルーナが主役だ。


「……シオン様? もしかしてヘンリー卿に勝つ自信がないのですか?」


 ルーナはニヤニヤしている。


「おまっ! せっかく譲ってやろうと思ったのに……」


「ふふっ冗談ですよ。シオン様は精々スケルトンをたくさん倒されるといいですよ」


 ったくなんたる言いぐさだ。……でもまぁいい。今日だけはルーナに任せよう。


「じゃあ行ってくる。ホリン、お前の攻撃は俺には効かないようにしているから心置きなく暴れていいぞ。スーラはホリンのフォローをしながら可能なら魔石の回収」


《ちょっと待つのシオンちゃん!》


 スーラが俺を呼び止めるとスーラは二つに分離する。


《そっちを持って行くの! きっと役に立つの!》


 いつもの半分くらいの大きさのスーラを受け取る。……コアがないから向こうが本体か。


《簡単な連携ならできるし、魔石の回収も出来るの》


 へぇ便利だな。これってスライムがこうなのか、スーラがこうなのか気になるところだ。


「分かった。助かるよ」


 今度こそ問題なさそうなので俺はホリンから飛び降りた。


 しかし……高所恐怖症の対策をしていて本当に良かった。

 いつもの俺なら飛び降りるとか、その場で不定の狂気に陥っても仕方ない行為だ。

 しかし……これ着陸をどうしようか? 魔力を足に集中すれば怪我なく着地できるだろうが、痛そうだ。【毒射】を下に向かって放てば、落下の速度は落ちそうだ。

 うーん、と悩んでいると、スーラの分身がパラシュートの様にフワッと扇状に広がった。

 おおぅ、スーラさんマジパネエっす。どれだけ高スペックなのよ。


 ってことで無事に着地成功。辺りのスケルトンはすでにホリンの手によって魔石になっている。

 スゲー! まじで灰色の魔石だ。ってかこの辺りだけでも山のようにある。マジで宝の山じゃん。いやマジでこれヤバいって。ヤバすぎてヤバいしか単語が浮かんでこない。


 これだけあれば、一体いくつの魔法結晶が出来ることか……まさにヘンリーのお陰だな。


 おお、スーラの半身が地面に落ちている魔石を片っ端から拾っていく。


 ……ん? 拾った魔石はどこに行ってるんだろう? てっきり大きくなると思ったが大きくならないぞ?

 まさか食べたりしてないだろうな? スーラのことは信じているが若干不安になるぞ。

 まぁまだまだたくさんあるし、これからもたくさん手に入る。スーラの分身がお掃除ロボみたいになっているうちに俺も行動しよう!

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