第63話 洗脳しよう
「ルーナ……少し震えてた。大丈夫かな?」
ホリンとスーラがいるとはいえ、正直今のルーナを一人にするのは怖かった。こっちで早く仕事を終えすぐに合流することにしよう。
地上に降りた俺は、ひとまず物陰に隠れ……ようとしたが、これだけのスケルトンの数、隠れる前に次に見つかる。
ホリンが俺の周りを中心に倒してくれるが、今度はそこにさらにスケルトンが来るのでもう悪循環にしかならない。
仕方がないので、あまり集中は出来ないが、この場で魔法を唱えることにする。
唱える魔法は【毒の霧】だ。毒の種類は……骨を溶かすため酸がいいか? 確かに退治は出来そうだ。でも、それじゃあいつまでも終わらなそう。ならこれで退治するよりも、毒の種類を洗脳に変えれば同士討ちするようにならないか? それでは全部を退治できないが、最後に自壊の命令をすれば大丈夫だろう。
よし、洗脳させる方向で魔法を唱えることにしよう。
【毒の霧】を吸い込んだら、洗脳されてないスケルトンに攻撃させる命令を……ん? スケルトンって吸い込めるのか? 肉体も脳もないからどこで洗脳されるんだ?
もしかして無理? いやいや、自我があるなら大丈夫だろう。
ってかこいつらに自我があるのか? なんか単純攻撃しかしてないし、行動も外のゾンビと変わらないぞ?
魔石があるから魔族化してることは確かだろうし……って、もしかしてコイツらヘンリーに支配されてるのか。
アンデッドだからヘンリーに支配されているのは当然だが、そういう意味じゃなく、俺が今よろうとした自我を封じ込めての洗脳だ。
考えてみれば、アンデッドだからって自分を殺した相手に従う必要はないはずだ。いや、魂で逆らえない契約とかあるかも知れないが、自我的には従いたくないはずだ。
だからヘンリーは洗脳した。どうやって? 魂にだ。肉体も脳もないならそこしかないだろう。
つまりは魔石か? アンデッドの魂といったら魔石だろう。
なら魔石に【魔力分解】を掛ければ……駄目だ魔石が砕けそうだ。止めておこう。
魔石にヘンリーの魔力以上に俺の魔力を上乗せすれば洗脳できるんじゃないのか? ……物は試し。よし、とにかくやってみるか。
俺はホリンの攻撃で殺られていないスケルトンを一体捕まえて、近くの家の屋根の上までジャンプする。ここなら少しは時間が稼げるだろう。
えーと、まずは魔石がどこにあるかだ。一通り見ても骨しかない。
この骨のどれかが魔石なのか? 一個だけ重要な骨があるのかもしれない。
基本スケルトンはバラバラにされてもすぐに元通りになる。それこそ俺達のように聖属性や、全てを消し去るくらいしか倒す方法はないはずだ。
しかし、それなら普通の冒険者は勝てないだろう。……そうか実際に今回は負けたんだよな。でも弱点くらいは知ってるかもしれない。
俺はリンに連絡するためにケータイを手に取った。
『はいはい! リンっス』
「お、リンか? 俺だ。シオンだ」
『えっ!? シオン様? どうしたんスか?』
リンは俺が掛けたことに驚いているようだ。……ルーナとでも思ったのかな。
「ああ、ちょっと聞きたいことがあってな」
『なんスか? あの二人なら大人しくしてるっスよ』
「いやいや、そうじゃない。……なぁスケルトンってどこが弱点なんだ?」
『はぁ? 何を言ってるんスか? もしかして苦戦してるんスか?』
くそっ。段々このスってのが、馬鹿にされているようで、イライラしてきた。
「違う。苦戦はしてないが、スケルトンってさ。倒してもすぐに復活するだろ? 冒険者はどうやってるのかな? って。あ、俺は全部の骨を溶かして倒したりしてるから、弱点が分からないだけだ。ホリンやルーナも聖属性だから一撃だし……断じて苦戦してるから聞いてる訳じゃないぞ!」
苦戦していると思われたら心外だ。
『ムキになると逆に怪しいっスよ。まぁ戦闘に関してはあまり心配してないっスけど。でも、それじゃあ特に弱点なんて必要ないじゃないっスか』
「だから気になっただけって言ってるだろう」
『……どこの世界に気になったからって、戦闘中に連絡までして聞く人がいるんスか』
「良いだろ別に。それに知ったらもっと楽に戦えるだろ?」
『トオル様なら知ってそうですけど……。まぁシオン様だから、知らないのも当然っスね』
なんかディスられた気がするのは気のせいか?
『スケルトンは普通に戦ってもすぐに復活するっス。だけど一ヶ所だけ復活しない骨があるっス。それが骨盤っス。上半身と下半身を繋いでる腰の部分っスね。これを破壊されると、スケルトンは復活出来ないっス』
なるほど、骨盤か。確かに骨の中心部分って感じだ。でも、普段は上半身と戦うイメージだからあまり狙うことはないな。
『骨盤の中心の部分は仙骨って言うんスけど、そこにスケルトンの魔石があるっス。そこを砕くとスケルトンはただの骨に戻り、魔石が現れるっス』
「ってことは俺みたいに全部の骨を溶かさなくても骨盤…ってか仙骨さえ無くしてしまえば、スケルトンは倒せるのか?」
『全部を溶かすなんて、そんな馬鹿で面倒なこと、シオン様くらいしかしないっス』
……やっぱりこれディスられてるよな?
「聖属性は骨盤関係ないの?」
ディスられたことをツッコむと、面倒なので今は放置だ。
『聖属性やアンデッドに限らず、弱点となる属性は基本どこに当たってもダメージを食らうっス。ルーナ様やホリンの攻撃だと強すぎて分からないかも知れないスけど、決して当たるだけで死ぬわけじゃないっス。威力の低い聖属性なら、スケルトンの再生能力を妨害したり、当たった部分だけ再生したりしなくなるだけっス』
ああ、単純にホリンが強かっただけか。
ホリンはグリフォンのレア種だ。普通のグリフォンでさえ、魔物のランクはAだからホリンはSランクの可能性もある。いくら結界の中で弱体化されるといっても、数が多いだけのDランク相当のスケルトンでは敵ではないか。
だが自然回復が出来ない状態ではあまり酷使させたくないし、やはり俺がやるしかないだろう。
リンからは良い話を聞いた。要は魔石のある骨盤に洗脳の魔法を掛ければ良いのだ。俺はリンに礼を言って通話を切る。
さて、当初の予定では【毒の霧】を吸い込むと……って考えてたが、吸い込むのではなくて、酸と同じ様に当たったらってことにすれば良いだろう。
仙骨が【毒の霧】に触れたら、ヘンリーの魔力よりも強い洗脳の魔力を与えれば問題ない。
とりあえず、目の前のスケルトンで実験する。どれくらいの魔力を込めればヘンリーを越えるのだろうか。……あ、上回った。
あまり魔力を込めなくても、あっさり目の前のスケルトンに洗脳が成功した。
「じゃあ……俺に洗脳されてない敵のスケルトンを退治してこい」
俺がそう命じると、目の前のスケルトンが屋根から飛び降りる。
おいおい、バラバラにならないのか? と思ったら普通に着地して、敵のところへ駆け出していく。
……心なしかスケルトンの性能が上がってないか?
そのまま俺の命じたスケルトンは次々と敵を薙ぎ倒していく。いや、完全に強くなってるよ。
あれか? 俺の魔力がヘンリーの魔力よりも強いから、スケルトンの性能が上昇したのか?
ってことは、今から辺りのスケルトンを支配できれば、大幅な戦力増強が見込めるな。
よし、実験はこのくらいにして、実際に行動してみるか。
【毒の霧】に洗脳を付与。命令は敵の殲滅。倒した敵の魔石回収だ。
俺が魔法を唱えると、周囲に霧が発生した。瘴気は吹き飛ばしているので、霧がよく見える。「霧なのによく見えるのかよ!」……って、一人ツッコミをやってみたけど……。誰もいないからちょっと淋しい。
敵のスケルトンは俺を倒しに近づいてくるが、霧の中に入ると、その場で立ち止まる。しばらくしたらUターンして、霧に入ってないスケルトンに襲いかかっていた。よし、上手く作動してるな。
後は霧をどんどん拡げていけば、残りは同士討ちでなんとかなるだろう。
ホリンも下の状況を見て攻撃を止めてる。っと、ケータイが鳴る。
『シオン様、どうやら一区切りついたようですね』
ルーナだった。俺の様子を上から見て、通話を掛けてきたのだろう。
「ああ、これから範囲を拡げていくつもりだ。だから俺はここから歩いて城の方へ行く。ルーナはそのままホリンに乗って先行してくれ。危なそうなら戻ってくれば良い」
『畏まりました。ではシオン様もお気をつけて』
ルーナはいつもと違い、余計なことは言わずに、簡潔に用件だけ言って通話を切る。
上空ではホリンが一鳴きした後、城の方へ飛び立った。
それを見送った俺は急いで追いかけることにした。流石に離れすぎて、いざピンチに駆け付けることが出来なかったら、ヒーローになれないしな。
もちろん追いかけている途中でも【毒の霧】の発動は忘れない。
あと、魔石の回収は洗脳されたスケルトンに任せるので、スーラの半身も回収……って、なんだこれ! くっそ重い! こんなのを肩に置いてると、肩が外れてしまいそうだ。
魔石のせいか? しかし、スーラの分身の大きさは変わっていない。どうなってるんだ一体?
仕方ないので、スーラの分身には、引き続き魔石を回収してもらいながら、ゆっくり後ろをついて来てもらおう。




