第55話 不在期間の話をしよう
エキドナ達は予定通り十日で戻ってきた。
「シオン待たせたの。妾達の準備は完了しとるでの。何時でもよいぞ!」
前回と違い、空からでなくトオルのゲートを利用してやって来た。既にエキドナはやる気に満ち溢れている。
「いや、エキドナはここで留守番だろ? 何でそんなにやる気なんだよ!」
「何をゆうとる。トオルが行くんじゃ。妾も行くに決まっとるじゃろ?」
「ごめんね、シオンくん、僕じゃエキドナを止めることは出来なかったよ」
「だってトオルを行かせて妾だけ留守番と言うのは酷じゃ! のう。そう思うじゃろ?」
ラミリアー!!! 何処だ? ラミリアは何処にいる!!
二人の仲が明らかに進展してるじゃないか!食い止めるって言ったのはどうなったんだよ!
あっ! ラミリアめ。親衛隊の後ろで、こそこそとこっちを伺ってやがる。
俺と目が合うと、両手を合わせてペコペコと謝ってきた。
(どういうことだよこれは?)
(だって仕方なかったんです! あの二人帰る途中からずっとあんな感じで……城に辿り着いたときには、すでに手遅れでした)
(手遅れって……じゃあどうするんだあれ?)
(もう成り行きに身を任せるしかありません)
(お前らはそれで良いのか? だってお前らの魔王だろう?)
(そうなんですが……トオル様も、この十日で皆に溶け込んでおりまして……エキドナ様のあんなに舞い上がっている姿は初めてみますし、貴方方との橋渡しにもなり、丁度良いので、こちら側としては、このまま認める流れに……)
(なっ貴様裏切ったのか!?)
(いえいえ、裏切ったなんてとんでもない! 私としても断腸の思いでして……)
「お主ら何をやっとるんじゃ?」
俺とラミリアがアイコンタクトでやり取りしてると、横からエキドナが顔を出した。
「あれはシオンくんお得意のアイコンタクトだよ。目とちょっとした仕草で相手と会話をするんだよ。でも、本当はシオンくんが思っているほど、相手には伝わってないんだ。僕も解読するのに毎回苦労したよ」
何!? そうだったの! 聞きたくなかったよそんな事実。でも……確かにルーナには通用しなかったし……。いかん。何気にショックが大きすぎる。
「なんじゃ、只の独りよがりの空回りか」
言い方!! それからそんな可哀想な目で見るな!
「でも、見る限り、ラミリアくんとは完璧にやり取り出来てるみたいだよ。すごいね! 僕やルーナくんですらそこまで読み取れないよ」
うん。今のラミリアとはハッキリと意思疎通が出来ていた自信がある。
「ほーう。シオンとラミリアがのう。ふーん」
エキドナは意味深な顔で俺とラミリアを交互に見る。
「いや、違うんです。エキドナ様! 確かに彼と会話をしてましたが、決してそう言うのではなく……」
「ほう、彼……と。いや、妾は別に、双方が問題なければ構わんぞ」
「だから違うのです! あーもう!!」
ラミリアが切れた。そして、こっちに顔を向ける。
(どうしてくれるんですか!? 勘違いされてしまいましたよ!!)
(俺のせいか!? いや、違うだろ)
(いえ、違いません。貴方が他の方とも、こうやって話せれば問題ありませんでした!)
(無茶言うなよ! ってか、俺だって実は通じてなかったって言われてショックなんだぞ!)
(だったら何で私とはこんなに話が出来るんですか!?)
(それはこっちが聞きてーよ! 何でトオルやルーナが読みきれないのにお前は読めるんだよ!)
「……先日は偶々かと思いましたが、確かに、ラミリア様とシオン様は互いに理解し合ってるみたいですね」
……背後からものすごいプレッシャーを感じるんだけど? ってか、ゼロの時以上に死の恐怖を感じる気がする。後ろを振り向きたくないな……。
「ねぇ、シオン様? こちらを見て、わたくしともそうやってやり取りして下さらないでしょうか?」
いや、何度もやり取りしてたよね? でも、いつも明後日の方向に突っ走ってましたよね?
「ねぇシオン? 私も詳しく聞きたいんだけど? そもそもずっと一緒に住んでいたのに、私はシオンからアイコンタクトされた記憶はないんだけど?」
背後からのプレッシャーが増えた!? ……そういえば姉さんとはした記憶がない。ってかする機会がないというか、姉さん達から隠すためにすることが多いような……。
しかし、このままではマズい。
(とりあえず今は止めて、お互いに言い訳に尽力を尽くそう)
(そうですね。ではエキドナ様とトオル様の件は後程で)
(ああ、何とか時間を作るよ)
「のう、あの二人が何を話しているのか、トオルには分かるのか?」
「うーん、全部は分からないけど、最後のは、後で二人きりで会おうじゃないかな?」
おい! 何でそこだけ適格に読み取るんだよ! またあらぬ誤解を生むじゃないか!?
「ほほう、二人きりでのう。して、ラミリアはどうするんじゃ?」
「ちょっとエキドナ様!? ですから違うんです!」
「なに? 違ったのか?」
「いえ、それは……」
チラッとこちらを見るラミリア。(覚えてなさい!)と目が訴えている。
「なんじゃやっぱり間違ってはおらぬようじゃな。では逢い引きの時間を作るために、今日の打ち合わせは早めに終わるとしようかの」
と、大笑いしながらエキドナは城の中へ入っていく。勝手知ったるなんとかだ。案内もなく入っていく。
後ろから涙目でラミリアがついて行くのが印象的だ。あっ、振り向いて、こちらに向かって何か訴える何々……(馬鹿ー!)だと。全く何を考えているのやら。
「さて、わたくし達も行きましょうか。ねぇシオン様?」
なんだろう、先程以上の恐怖を感じる。
「そうよね。早く話し合いを終わらせないと逢い引きが出来ないものねぇ?」
姉さんからガシッと首根っこを掴まれる。
「あのー。二人とも何か勘違いをしてはいませんか?」
「えー? 何か勘違いしてるかな? どう思う?ルーナ?」
「そうですね。仮にシオン様がラミリア様とアイコンタクトをしてないって言うのでしたら、勘違いかも知れませんが……アイコンタクトしましたよね?」
「そりゃあアイコンタクトはしたけど……」
「なら何も勘違いしてないじゃない。私とは一回もしていないアイコンタクトをしていたのよね?」
「そうですね。わたくしとは通じ合わないアイコンタクトをしていたのですよね?」
……間違ってない。間違ってはいないが……違うんだ! だが、二人に何を言っても無駄だった。俺は心の中で泣きながら連行された。
――――
「なんじゃシオン? えらく疲れておるようじゃが?」
「気にするな。ちょっと精神的に色々と参ってるだけだ」
疲れている理由がエキドナとトオルのせいだけどな!!
あれからスーラとヒカリが加わり、さらに何故か正座までさせられる始末。そのまま女性陣から言われるがままだった。エキドナ陣営が呼びに来なかったら、もっと時間がかかってたはずた。
「何やら分からぬがまあよい。さっさと始めるぞ」
会議の内容は、エキドナが帰ってからの行動だ。
エキドナはまず今回の戦いのための軍勢を編成した。
ただ、エキドナの軍は攻め込むのではなく、あくまでシクトリーナ領内の防衛用だ。
攻め込むのは当初の予定通り、俺達だけで行う。……エキドナだけはついて来るのが決定しているみたいだけどね。
トオルはその間、エキドナ領を見回っていたらしい。どうやらエキドナ領は農業よりも鉱山が多いので産業に適しているとのことだ。
その辺りは、うまくやり取りすれば、いい交易になるかもしれない。また、魔法の研究や魔道具開発は向こうの方が遥かに進んでいるらしい。これらも共同研究で少しずつこちらにも落としていきたいところだ。
それから、エキドナはちゃんとゼロの所にも行ったようだ。
エキドナの話によると最初は怒っていたようだが、土産の酒を渡すとコロッと態度が変わったらしい。
俺達の無礼は気にしないようだ。あと、契約に関しても気にしなくていいらしい。ってか自分でこの呪いを解くのを暇潰しにするようだ。
……俺の全力を暇潰しの道具にするのか。やっぱり魔王は伊達じゃないな。
「ってな具合じゃ。慌ただしくて、休まるときがなかったぞ!」
じゃあ何でトオルとの距離が近づいてるんですかね? とは口が裂けても言えない。
「でじゃ、こうなったら別にシオン達だけで戦う必要もあるまい。元は妾達に実力を見せるために言い出したのであろう? なぁにお主らの実力はすでに妾達は知っておる。じゃから問題はあるまい?」
「うーん、確かにその通りなんだけど、この戦いが終わった後は、この城のことを大々的に発表したいんだ。流石にいつまでも【首なし城】と呼ばれるわけにもいかないからな。でも、エキドナがヘンリーを倒すと、虎の威を借るなんとやらって感じになりそうで……だから助けてくれるのはありがたいけど、実力も示さなければいけないんだ」
「なるほどのう。確かに妾達がヘンリーを倒した後に対等の同盟と言っても周りが納得せぬか。しかし安心すると良い。妾はトオルについて行くが、決して手は出さぬと誓おう。それでよかろう」
やっぱりエキドナは、何があってもトオルとは離れないようだ。
「はぁ仕方ないか。でも本当に手出しは無用だぞ。たとえトオルがピンチになってもだぞ! 分かってるよな」
「う、うむ。分かっておるわ。第一トオルがピンチになるわけなかろう。のう?」
「うん。心配しないでよ」
トオルが笑顔で頷いている。この間までの知的クールなトオルはどこ!? ……人間恋するとこうも変わってしまうものなんだな。
「じゃあ実際に攻め込むのは、俺とトオルとエキドナの三人か?」
戦闘要員は俺とトオルと姉さんだけ。城を空にする訳にはいかないから元々姉さんは居残る予定だった。
「そうね。エキドナさんの軍が守ってくれるなら安心だけど、私じゃヘンリーとはあまり相性が良くないし、一人で魔王を倒せるかは不安だしね」
姉さんの対人魔法は、洗脳とデバフ。ヘンリーと似た能力だし、アンデッドに対する有効打もない。
「ではサクラ様の代わりにわたくしが行きましょう」
「ルーナ!?」
ルーナが一瞬何を言っているから理解できなかった。そして、理解できたと同時に立ち上がってしまっていた。
「なに言ってるんだ! そんなこと出来るわけないだろう!!」
今回は防衛じゃない。俺達が赤の国の王都まで攻めるんだ。ルーナは城の外に出ただけで、魔力が半減するんだ。赤の国なんて遠い場所……どれだけ弱体するか見当もつかない。
「力は落ちますが、それでもわたくしの能力は、ヘンリー卿やアンデッドには効果的です。それにヘンリー卿には、わたくしも思うところが多々ございます」
ヘンリーとシエラの因縁。それにルーナ自身の因縁もあるだろう。気持ちは理解できる。しかし……。
「良いではないか。ルーナとて、子供ではないんじゃぞ。むしろお主よりも、人生経験が豊富じゃ。自分の事ぐらい決めさせい。それに不安ならお主が守ってやればよかろう。それとも守ってやる自信がないのか?」
「いや、自信とかそう言うのじゃ……むしろ事前にリスクを回避した方が……」
「ええい! せっかくルーナが意を決して、引きこもりから脱出しようとしておるのじゃ! 応援せんでどうする!」
そう言ってエキドナは俺の目をじっと見てくる。何か心の奥まで覗かれているような……あれ? なに考えてたっけ? 確かルーナの社会復帰がどうとか?
「っ!! そうかっ! ついにルーナが自分から外へ出ると言ったんだ! そうだよな! いつまでも引きこもってばかりじゃダメだよな! 俺も城主としてルーナの社会復帰に協力しないといけないのか!」
「あの……わたくしは別に引きこもってたわけでは……それに社会復帰って……わたくしはちゃんと働いてますけど……」
「しっ! ダメよルーナ! 今あの子は自分を見失ってるわ! 我に返ると、また止められるから今はこの流れに乗ってなさい!」
ん? 何だろう? この二人は何を言ってるんだ?
「はぁ……シオン様! わたくし頑張って外へ出てみたいと思います! どうか協力をお願い致します!」
「そうか! 分かった! なぁに心配するな。ルーナは俺が必ず守ってやる!!」
「は、はい……」
ルーナが顔を赤らめている。確かにようやく一歩を踏み出そうと、勇気を出しているんだ。そりゃあ顔も赤くなるか。
「よし、もう良いようじゃの。サクラもご苦労であった」
エキドナはそう言って手を叩く。
……っは! あれ? 何があったんだ?
「もう、いきなりだったから驚いたじゃない」
「サクラの魔法は知っておったからの。妾の考えを見越して協力してくれると思ったのじゃ。アイコンタクトとは便利じゃのう」
どうやら姉さんとエキドナがアイコンタクトをして何かをしたようだ。……ってか、ちゃんと通じたんだ。
「でも、シオンに掛けるのはこれっきりにしてちょうだい」
「分かっておるわ。そもそもサクラがおらぬと、こやつの魔力が思いの外高いので、録に効かぬわ」
―――
「はぁ!? 俺に催眠の魔法をかけたぁ!?」
どうやらエキドナが催眠の魔法を、姉さんがデバフで俺の耐性を下げたらしい。
そして、ルーナが一緒に行くことを許可した……ってこいつら一体何考えてるんだ?
「そうじゃ。まさか催眠中じゃからと女々しい言い訳はせぬよなぁ?」
「まぁ言わないけどさ。ってか、そもそもそこまで強く否定する気もなかったし」
「でも、しばらくはグタグダ文句を言ったでしょ? それが面倒だったのよ。あと、シオンに少しだけこれ系の魔法が効くか確認したかったからね」
「……今後すぐに回復するように自動解毒の魔法を発動させとくよ」
今度といったけど、簡単に出来そうなので、早速魔法を開発して自動化させる。
体内に入った毒や弱体化を自動的に排除……。よし、成功。……あれっ? これってもしかして……いや、気のせいだろう。
「ん? どうしたのよシオン?」
突然固まった俺に姉さんが声をかける。
「いや、状態異常に掛からない魔法を作れないか試してたんだよ」
「ふーん。それで出来たの?」
「多分大丈夫だと思う。けど、ちゃんと実験しないと分からないや。あっ、だからと言って、今は試さないからね」
うん、嘘は言ってない。この新たな魔法で少し気になることがあるけど、確証もないし今は絶対に言えない。
「なんか気になるけどまぁいいわ。じゃあルーナを連れていくってことで決定ね。ってことは留守番は私一人か。ねぇ? ラミリアはこっちにいてくれるんでしょ?」
「ええ、まぁお役にたてるかは分かりませんが……」
ラミリアは姉さんを苦手としているみたいだ。まぁ模擬戦で簡単にやられたからな。仕方ないか。
「何言ってるのよ! 頼りにしてるわよ!」
だが、姉さんはそんなこと全く気にしてないようだ。
「俺からも頼むよ。ラミリア。俺達がいない城は任せたからな」
ルーナがいないなら、仮に姉さんが暴走したら、食い止められるのはラミリアしかいないだろう。
「仕方がないですね。任せてください」
「……ラミリア? 何か私の時と随分と対応が違くない?」
「気のせいですよきっと」
つーん、とした感じで答えるラミリア。いや、気のせいじゃないだろそれ。あれ? 苦手ってより、本当にラミリアと姉さんは相性が悪いのか?
(安心してください。冗談です)
ふと顔を向けたラミリアはこちらに向かって笑いかけていた。
(冗談も程々にな。あまりやり過ぎると角がたつぞ)
(大丈夫です。サクラさんはエキドナ様と同じタイプです。引き際は十分に知ってます)
確かにエキドナと姉さんは同じタイプだろう。ならエキドナの扱いを一番よく知っているラミリアに任せて問題ないか。
「そなたらは漫才をしないと死んでしまうのか? 大事な会議でようもここまで話を脱線させれるのう」
エキドナは心底呆れているようだ。まさかエキドナに注意されるとは思わなかったが……。
一応エキドナは魔王だから、大事な会議も何度も経験して、締めるところはちゃんと締めるんだろうな。俺はちょっと反省しつつ、話し合いに戻ることにした。




