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ロストカラーズ  作者: あすか
第三章 不死王討伐
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第52話 恐怖心を克服しよう

 失敗した……。俺は今、ホリンに乗って大空で……震えていた。


 ホリンって新たな相棒が出来た喜びと、話の流れですっかり抜けてたけど……。考えたら俺、高所恐怖症だった。

 こんな足場もない状態で空へと飛び出して……ああ! 恐怖でどうにかなってしまいそうだ!


《マスターご安心を。全体に落ちませんから》


 ホリンのことは信用してるよ! でもそういう問題じゃないんだ。体の震えが止まらない。この恐怖だけはどうにもならないんだよ!


《シオンちゃん! 落ち着くの! 魔法で恐怖心を取り除いたら?》


 それだ! 流石スーラ。ナイスアイデア。高所恐怖症を治す薬……恐怖心を取り除く……ええい! 何でもいいや。とりあえず平常心になる薬をイメージしてそれを一気に飲み干した。


 ……はははっ!? 俺はなんであんなに怯えていたのだろうか? ホリンがいる限り危険なことなんて何もないじゃないか。ははっ空ってこんなに青いのか。


《シオンちゃん! シオンちゃん! 正気に戻って!!》

《マスター! マスターしっかりして下さい!》


「ん? どうした二人とも? 俺はしっかり正気だぞ。ははははは」


《違うの! いつものシオンちゃんじゃないの! シオンちゃんはそんな乾いた笑いはしちゃダメなの!》

《こうなったら……マスター急いで目的地へ向かいますから、本当に落ちないように気をつけて下さい!》



 ――――


「まさか高いところが怖いとは……全く軟弱じゃのう」


「……面目ない」


 地面に降りた俺は、中和剤を飲んでようやく正気を取り戻した。

 どうやら俺は、慌てていて平常心になる薬じゃなく、感情がなくなる薬を飲んだようだ。

 俺は殆ど覚えていないが、スーラとホリンが何やら叫んでいたのは聞こえていた。

 二人によると、俺は無表情で終始乾いた笑いをし続けていたらしい。


《シオンちゃん……怖かったの》


《マスター、私ではマスターのお役に立てないのでしょうか? 私ではマスターに恐怖を与えることしか出来ないのでしょうか?》


「スーラ……怖がらせてごめんよぉ。ホリンも! 役立たずなんかじゃないよ! ちゃんと役に立ってるよ! ほらお陰で短時間でこんなところまで来れたじゃないか!」


 ホリンの全速力もあり、またそれにエキドナが挑戦をしたらしく、予定よりもかなり早く目的地に着いた。


「でも、高いところが怖いなら、僕とエキドナくんが二人で来てから転移すれば良かったね」


 トオルの言葉を聞いて、ホリンがさらに落ち込む。ああ、もうトオルの馬鹿が! そういう効率重視は違うんだよ!

 トオルは何回か旅に出てるけど、俺がシクトリーナから出るのは初めてなんだよ! ちゃんとした旅がしたいんだよ!


「ホリン、そう落ち込むなって。ほら次はちゃんと高所恐怖症だけに効く薬を準備するから、もう大丈夫だ。だからさ、次からは一緒に大空の旅が楽しめるぞ!」


 俺は必死になってホリンを宥めた。


「……お主ら。随分と余裕じゃの。ここが何処か分かっておるのか?」


 エキドナの声は随分と呆れた声だった。


「ちゃんと分かってるさ。正面から魔力というか圧力が半端ないからな」


 今俺たちがいるのは森の中だ。少しだけ木々が倒されていて降りれる場所があったのだ。エキドナの話ではこの先に一軒の家が建っていて、そこに元魔王が住んでいるらしい。


 周辺は森や山に囲まれていて、歩いてくるのには骨が折れそうだ。近くに人が住めそうな場所もない。確かにここに住んでいるなら隠居という言葉はピッタリだ。


「よし、では行くかの」


 エキドナを先頭に進んでいく。

 ヴィネとホリンはここで待機だ。この先は森の中でグリフォンの二匹には活動しにくいだろう。


 森の中に入るとすぐに感じる違和感。……何だろう? この先に……いや、ここにいたくない。


 相手の魔力に気圧された訳でもないし、攻撃を仕掛けられた訳でもない。単純にここが嫌なだけだ。


「どうやら平気のようじゃの」


「平気って……この違和感のことか? なんかここにいるのすごい嫌なんだけど?」


「それで済んでおるのとは……それだけでも大したものじゃぞ? ここには結界が張られておっての。この中に入ると、その者の恐怖感や嫌悪感が増幅されるのじゃ。魔力の低いものならここに入るだけで発狂、下手すると廃人になるじゃろう。妾が初めてここに来たときは、思わず広域殲滅魔法をぶっ放してしもうた」


 はははっと笑いながら話すが、魔王の広域殲滅魔法とか……よくこの辺りが無事だったな。

 要はここにいるだけでSAN値が削られる仕組みらしい。


 結界ってのは侵入を阻害したり、感知するだけかと思ってたけど、こんな使い方もあったんだ。いや、一応これも阻害の一種なのか。


 そういえば、エルフの村にも迷いの森って入れない結界があるんだよな。

 それも似たような感じなのかな?


 俺が色々と考えていると、先ほどまでの違和感が薄れていくのを感じた。


「少し過保護かの?」


 どうやらエキドナが、魔法で結界の能力を抑えてくれたようだ。


「いや、助かるよ。このままだったら到着前に疲れてしまうところだった」


 おそらく、エキドナが守ってくれなくても問題はないだろうが、精神的に疲れてしまっただろう。お陰で疲弊せずに歩き続けることが出来た。



 ――――


「お、見えたぞ。そこじゃ」


 しばらく歩くと一軒家があった。見た目的には古びた洋館ってイメージだ。地球だったら間違いなく心霊スポットとして話題になっただろう。とてもじゃないけど、魔王が住んでいるようには見えない。


「止まりなさい」


 俺たちが屋敷に近づこうとすると、上から声が聞こえてきた。


 上を見ると一人の女性が空中に浮かんでいた。その体は透き通っている。

 俺の頭には幽霊の二文字が浮かんでいた。


「卑しい蛇女が何をしに来た」


 蛇女とはエキドナのことか?


「あらぁ、随分な挨拶じゃない。まぁ肉体すら持っていない貴女が妾を羨むのは仕方がないことかしら……ねぇ?」


 ねぇって言われても……。エキドナはホホホ、と手を口元に持って行き挑発し返す。どうやら二人は知り合いのようだが、仲はよくないようだ。


「生憎と今日の妾はただの道案内。貴女に構っている暇はなくってよ」


 エキドナは一人称は妾のままだが話し方がいつもと違う。初めて会ったときのような話し方だ。きっとこれが余所行きの話し方なのだろう。


「貴女がただの道案内ですって!?」


 信じられない! そんな表情をして浮かべている。まぁ魔王を案内役にする人なんて、普通はいないだろうからな。彼女は俺達の方を見る。何かを探るような目だ。


「さて、お二人とも行きましょうか。なぁに、何とかと煙は高いところが好きと仰るじゃないですか。あそこに馬鹿みたいに浮かんでいるだけで、肉体も持ってないようなものは空気と思って無視して構いませんわ。どうせ口だけで何も出来やしないのですから」


 エキドナは彼女を煽るだけ煽って、無視して先へ進もうとする。ってか何で日本の諺を知ってるんだ? もしかしたらこっちにも似たような言葉があるのかもな。それが上手く飴によって翻訳されたんだろう。


 あーあ、あの人、顔真っ赤……かどうかは、幽霊なので分からないが、もの凄い形相をしてるぞ。今にも襲ってきそうだ。


「ちょっと待ちなさい! 誰が勝手に行って良いと言いましたか!?」


 そう言いながらエキドナの前に降りてくる。そして手を広げ通さない姿勢に構えた。

 だが、エキドナは気にしないようにどんどんと先へ進む。おいおいおい、そのままじゃぶつかるぞ?


「えっあっちょっ!? と、止まって……いやぁ……」


 止まらないエキドナに戸惑いながら、彼女は随分と可愛い悲鳴を上げる。

 それでもエキドナは止まらず女の目の前まで進み……ぶつかるかと思ったら、そのまますり抜けてしまった。あっ、肉体がないからすり抜けたのか。だが、エキドナがすり抜けた後に、彼女はその場に座り込んでシクシクと泣き始める。やっぱり肉体が無くても重なったりすると気持ち悪かったりするのかな?


「非道いよドナちゃん。私が体を触られるの嫌いって知ってるよね!?」


 突然の豹変ぶりに俺は驚いた。えっ? ドナちゃん?


 その言葉にエキドナもようやく足を止める。そして振り返ってから女の手を取って立ち上がらせる。……あれ? 触れるの?


「全くお主は……泣くくらいなら、最初からこんなことせなんと良かろう」


 エキドナはさっきまでと違って、とても穏やかな表情を浮かべている。


「だってだって。それが私のお仕事なんだもん」


 さっきまでの喧嘩腰とは打って変わって素直だ。いや、素直というか子供っぽい?


「二人とも驚いたじゃろ? こやつはな、所謂二重人格ってヤツでの。泣くと気弱になるんじゃ。話し方も性格も全く違ってな。面白いぞ。ほれ、お主もこの二人に挨拶せぬか」


 そう言って女の頭を叩く。


「痛いよドナちゃん。そんなにポンポン叩かなくても……初めまして! 僕の名前はフレアって言います。この通りレイスですがよろしくね!」


 ……これって、二重人格っていうより、幼児退行なんじゃ……。


「えーと、俺の名前はシオン、こっちがトオル。ここへはご隠居さんに、挨拶とお願いがあってやってきた。エキドナには道案内をお願いしたんだ」


「ねぇドナちゃん? この人たちがシーちゃんのお家にいる人なの?」


 シーちゃんって誰だ? ……あっ! もしかしてシエラだからシーちゃんか!?


「そうじゃ。お主シエラの事は知っておったのか?」


 この知っておったってのは、シエラの存在じゃなくてシエラが死んだことだろう。じゃないとシーちゃんが誰か分からないはずだ。


「うん! シーちゃんは優しくて大好きだったから……残念だよ」


「なら話は早い。こやつらがシエラの代わりにあの城を治めておるのじゃ。今日はその挨拶ってとこじゃの」


「うん、分かった! 呼んでくるから待っててね!」


 そう言うとフレアは急いで屋敷の中へ入っていった。だが扉を開けずにすり抜けていくのはどうだろう?


「エキドナ……」


 大丈夫か? と繋げようとしたがその前にエキドナが返事をした。


「安心せい。大人の方は生意気で厄介じゃが、ガキの方のフレアは扱いやすい子供じゃ。心配せんでもええ」


 大人の方も、随分と手玉にとっていたような気がするが……それはツッコまない方がいいのだろうか?



 ――――


 しばらく待つとフレアが戻ってきた。


「入れ。中で主がお待ちだ」


 憎々しげに言うフレア。どうやら大人の方に戻ったみたいだ。


 泣くと子供になるなら、どうすれば大人に戻るんだろう? 気になるが多分教えてはくれないよな。


「では行きますわよ。ああ、フレアさん、案内は結構ですわよ。どうせいつもの部屋にいるんでしょう。貴女はいつものように外で馬鹿みたいに高いところで見張りを続けなさぁい」


 エキドナはまた話し方が貴婦人っぽくなった。大人の方にはいつもあの口調なのか? ……案外器用だな。

 フレアはぐぎぎぎっってエキドナを睨んだ後空へ飛んでいった。ったく、お互いにどうしてこうも大人と子供で対応が違うんだ?

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