第51話 新しいパートナーと知り合おう
俺はメールの着信音で目が覚めた。時刻は……ちょうどいい時間だ。
メールを確認すると宛先はキャメリアだった。
『シオン様とルーナ様に何もないことは分かってます。昨夜のことは、誰にも言いませんから、安心してください。あとトオル様は明け方に部屋へお戻りになりました。』
分かってると書いておきながら、誰にも言わないって……いや、言わないのは助かるけど、本当に分かってるのか?
それからトオル……明け方って何時間話してたんだ? ……本当に話だけだよな?
うん、深く考えないことにしよう。考えたら負けの気がする。
俺は気持ちを切り替えて、顔を洗って着替えをする。よし、準備完了だ。
いつも通りスーラを肩に乗せて、朝食に向かう。普段なら朝食前に朝練をするのだが、流石にエキドナ達が泊まっているため、今日はお休みだ。
昨日の夕食とは違い、朝食は食堂で取る。今日の朝食はご飯に味噌汁。目玉焼きにお漬け物。
これに納豆があれば、完璧な日本の朝ごはんだな。
「今朝の和食……とやらも美味しいのう。まさか朝からこんなに美味しいものが食べれると思わなんだ。これ別に妾達がいるから豪華にしている訳ではないのじゃろ?」
エキドナは器用に箸を使いながら食べている。ラミリアやハーマインは少し苦戦しているようだ。一応スプーンとフォークも用意しているが、エキドナが普通に箸を操っているから二人もそれに倣っている。
見かねたヒカリが二人に使い方を教えている。ヒカリも昨日で大分打ち解けたみたいだ。
「ああ、ご飯じゃなくてパンの時もあるが、朝食は基本こんな感じだ」
少し前まではパンが多かったが、米が収穫出来たので、最近はご飯が増えてきている。
「妾の所ではいつも朝はスープとパンだけじゃ。毎日同じじゃから、飽きて仕方ない」
そう言ってエキドナは自分の城の料理に関して愚痴を言い続ける。
やれ美味しくないだの、レパートリーが少ないだの甘味はないだの……普段なら窘める役のラミリアとハーマインは箸に悪戦苦闘しているため何も言ってこない。いや、頷いているところを見ると、二人も料理に不満があったようだ。
他人の家庭の料理の愚痴なんて聞きたくなかったから、俺は少し強引に話を打ち切った。
「それよりさ、今日はどうするんだ? 出来れば隠居した元魔王を紹介してほしいんだけど?」
ヘンリーのこともあるので出来るだけ早い方がいい。だけど、エキドナの都合もあるだろう。
「おお、それじゃ! 妾はいつでも問題ないので、今日行こうかの。なに、飛んで行けば、そう時間は掛かるまいて」
おや? 俺のイメージでは数日は掛かる思ったが……。
「その場所ってここからそんなに近いの?」
俺のその質問にはラミリアが答えた。
「シオン様、私も直接伺ったことはございませんが、ここからですと馬車で数日はかかる距離でしょう。エキドナ様のグリフォンの速度が異常なのです」
どうやらエキドナ個人のスピードで考えていたようだ。そういえば飛んでって言ってたな。
「ちょっと待って!? 俺空飛ぶ乗り物持ってないぞ? どうするんだ?」
「安心せい。昨日と今日の食事の礼に、妾がとっておきのヤツを用意した。友誼の印として受け取ってはくれまいか?」
――――
「おお、スゲー……」
朝食を終えて城の外に出ると、そこには一頭の白いグリフォンがいた。体から羽まで全てが雪のような白さだ。
「昨日のうちに部下に言って呼び寄せたのじゃ。こやつはなグリフォンのレア種でな。新種のようじゃったから、ホーリーグリフと名付けた」
どうやら昨日あれから部下が一晩かけて、俺への贈り物を取りに帰ったようだ。……エキドナの部下も苦労してそうだな。にしてもこれは本当に凄い。グリフォンの新種って……滅茶苦茶レアじゃん。
「いいのか? これ一頭しかいないんだろ?」
言いながら俺はグリフォンは一頭でいいのだろうか? と、どうでもいいことが頭によぎった。
もしかして一匹? それとも一羽? ……多分一頭にで間違ってないと思いたい。
「構わぬ。妾にはこやつがおるし、他の者も、皆専用のグリフォンやヒポグリフを所持しておる。このホーリーグリフにも主人を付けてやらんと可哀想じゃ」
まぁ貰えるなら遠慮なく貰いたい。俺はホーリーグリフに近づいた。俺が近づくと『グルルゥ』と喉を鳴らし顔を近づける。おお……可愛いな。
「この子に名前はないのか?」
ホーリーグリフは種族名だから、名前じゃないはずだ。
「シオンが自由に付けるがよい」
マジか……名付けとか本当に苦手なんだが……。
「じゃあシロ……」
俺がそう言いかけると、後ろからハリセンでスパンと叩かれた。……ルーナだ。
「シオン様? よもやシロなどと安直な名前はお付けになりませんよね?」
えっ? それだけで今叩かれたの? 正直理不尽だが、まさかその通りだとは言えない。
「……いやだなぁ。まさかそんな名前を付けるわけないじゃないか。なぁ?」
俺は誤魔化して、ホーリーグリフを撫でる。
「そういやぁこいつはオスなのか? メスなのか?」
性別を見分ける方法ってあるのかな?
《私は女性です。マスター》
うわっ! ビックリした。突然頭の中に知らない声が聞こえてきた。
「今の声って……もしかしてお前か?」
俺は目の前のホーリーグリフに問いかけた。
そっか! スーラと同じように飴のお陰で声が聞こえるのか!
ホーリーグリフは『グルルゥ』と頷く。あれ? 今のは聞こえないぞ? そういえば最初に喉を鳴らした時も聞こえなかったぞ?
《どうやら念話のみ会話が可能なようです》
どうやら鳴き声には飴は反応しないらしい。
そういえばツヴァイスで結構な数の魔物を退治してきたけど、鳴き声は翻訳されなかったな。
スーラの時は、スライムには言葉を発する機能がないからと思っていたが、どうやら魔物は言葉でなく、念話しか会話が出来ないようだ。
ここに来て一年半以上も経つのに今更分かるとか……やっぱりこの飴はまだ分かってないことが多いな。
「シオン様どうかされました? ……あっ!? まさか先ほどのハリセンで脳に深刻なダメージが!?」
ルーナは一体どんだけ残念なんだ? 一回ルーナの頭の中を覗いてみたいぞ。……飴の効果でルーナの頭の中覗けないかな? ……無理だよな。
「違うっての! いや、今この子と念話が通じてな。念話ってスーラ以来だから驚いただけだ」
「そうでしたか。念話は、相手からこちらに話そうと思わないと聞こえないようですので、仕方のないことかもしれません。それで、お名前はどうされるので?」
会話が出来るとなると、本当に迂闊な名前は付けれない。……メス――女性っぽい名前を……やっぱりシロは嫌だろうか?
《マスターがどうしてもと仰るなら仕方がありませんが……》
どうやら俺の考えが念話で伝わったようだ。もちろん聞かれたくないことは遮断できる。が、今はその気がなかったから聞こえてしまったようだ。
しかし……うん、どうやらシロは不満のようだ。なら……どうしよう?
「じゃあ、ホリンってのはどうだ?」
少しだけ悩んで口に出す。ホーリーグリフだからホリン。結構可愛いと思うんだが、やはりこれも安直すぎたか?
《素晴らしいです! ありがとうございます。マスター! 私の名前は今日からホリンです!》
「グルルルルッ!!」
念話と同時に、前足を高く上げ、大きな雄叫びを上げる。どうやら気に入ってくれたようだ。
「エキドナ。素敵な贈り物をありがとうな。大切にさせてもらうよ!」
ホリン……スーラに続く第二の相棒になりそうだ。エキドナには本当に感謝だな。
「あ。ああ……喜んでくれると妾も嬉しいが……そなた、そやつと会話が出来るのか?」
そっか。飴の存在を知らないと、会話が出来るなんて信じられないよな。
「ああ、とある魔道具のおかげで、俺は魔石を持った魔物と念話が出来るんだ。俺だけじゃなくこの場にいる奴は皆念話が出来るぞ」
「そうか……妾はこやつと長年一緒におるが、会話はしたことがないでの。少し羨ましかったぞ」
そう言ってエキドナは自分のグリフォンを撫でる。多分会話がなくても十分意思疎通は出来ているだろうが、やはり直接話したいんだろうな。
飴はまだあるし、ホリンを頂いたお礼に渡してもいいかな? ただし数はないから、エキドナ一人に限るが。
俺は目配せをしてルーナに訴える。ルーナは頷いて、俺の手に翻訳飴を手渡してくれた。よし、今日はアイコンタクト成功だ。
「なぁもしエキドナが望むなら、そのグリフォンと念話が出来る魔道具を渡すけど?」
ホリンのお礼もあるし……と付け加えようとしたが、その言葉の前に、エキドナがもの凄い勢いで食いついてきた。
「まことか!?」
「あ、ああ。ホリンのお礼もあるしな。だけど、それを使うと他の魔物の声も聞けるようになってしまうが……構わないか?」
「ん? それの何が悪いのじゃ? 別に聞こえても構わんぞ」
エキドナにはそのデメリットが分からないらしい。
「えーと、例えば今まで普通に魔物を殺してたけど、今度からは命乞いの声なども聞こえる可能性があるぞ?」
今のところは俺もないが、もしかしたら今後そう言った場面に遭遇するかもしれない。その際に躊躇してしまう可能性も出てくる。
「なに、その時はその時じゃ。会話が通じる者と同じじゃろ?」
どうやら特に気にした様子はないようだ。
「分かった。だけど貴重品だから、エキドナだけになっちゃうけど」
そう言って翻訳飴を手渡す。
「それを舐めるだけで、魔物と念話が出来るようになる。他にも知らない言語や文字も読めるようになるぞ」
俺の言葉に、エキドナよりもハーマインの方が驚く。
「そ、それは……例えば今は滅んでしまった昔の文字なども読めるようになるのですか!?」
ハーマインの食いつきに若干引きながらも答える。
「まぁ多分読めるとは思いますが……」
と、そこまで言ったところで、ハーマインが突然土下座をした。
「シオン殿、いやシオン様。後生でございます。私めにもそれを頂けないでしょうか!!」
地面に額を擦りつけるくらいの見事な土下座だった。……こっちの文化の土下座って誰がやり始めたんだろう? ってそんなこと考えてる場合じゃない。……どうしよう?
「ええい! 見苦しいぞハーマイン! シオンが数が少ないと言っておったろうが!! 無理を申すでない!」
ハーマインの態度にエキドナが一喝する。そのエキドナはすでに飴を舐めた後みたいだ。
エキドナの叱責にハーマインは諦めたように立ち上がる。
「申し訳ございませんシオン殿。取り乱してしまいました」
「すまぬのシオン。こやつは研究バカでの。昔の文献や歴史を読み解くのが趣味なのじゃ」
エキドナとハーマインが謝罪をする。
うーん。ここまでされるとハーマインにも渡したいが、そうすると今度はラミリアにも渡さないと不公平になるよな。
ここで三つも渡すと、今後に響くかもしれない。
「ハーマイン様。この飴は魔法で作られた飴でございます。そしてこの飴を作った人物はこの世界にもういません。それがどういう意味かお分かりでしょうか?」
無くなったら二度と手に入らない。ルーナは暗にハーマインにそう説明する。
「はい……申し訳ございません」
「ですから、わたくし共は今この飴の量産を計画しております。勿論非常に難しいことです。特に今のシクトリーナでは研究者が足りません。そこで、もしエキドナ領でもこの飴の量産計画を手伝って頂けると助かるのですが……もちろん研究用として飴を二つ差し上げましょう。一人が研究用に使用し、もう一つを研究材料にする。どうでしょうか?」
なるほど、エキドナ達と共同研究にするのか。それなら三つ渡しても、将来のことを考えると、必要な投資と考えることが出来る。ウチのメイド研究隊も行き詰ってるみたいだし、ドルクのような技術者は増えたけど研究者は増えていないからな。
「そ、それは……私めにこの飴を作れと、そう申されてるのでしょうか?」
「駄目でしょうか?」
「とんでもありません! 未知の魔法の研究を任されるのは、研究者冥利に尽きます。むしろ、こちらからお願いしたいくらいです」
「そうですか。では具体的なお話を致しますので、ハーマイン様は一旦こちらへいらしては頂けないでしょうか? よろしいでしょうかエキドナ様?」
「うむ。構わん。どうせ隠居ジジイの所には妾とシオン、トオルの三人しか行かん。その間は好きにせい。ハーマイン……しっかりとやるのじゃぞ」
「はい!」
ハーマインは元気に返事をしてルーナと城内へ消えていった。……ちょっと待った。エキドナ今変なこと言わなかったか?
「エキドナ様! 三人で行くとはどう言うことでしょうか! 私もついて行きます!」
ラミリアがそう進言する。まぁそうだよな。俺も三人で行くって言われるとは思わなかった。ってか、転移魔法の為にトオルは連れて行く気で、エキドナにはお願いするつもりだったんだけど……何でエキドナからトオルを連れて行く話が来るんだ?
「お主のヒポグリフでは妾達に付いて来れんじゃろ? 第一今から向かう場所は、隠居ジジイ以外にも油断のならぬ者がおる。お主は足手まといじゃ」
この調子では、ラミリアが無理矢理ついて来るって言っても、昨日ここに来たみたいに、ラミリアを置いていきそうだ。ってことは、どうやら本当に三人で行くことになりそうだが……。
「でも、俺にはホリンがいるけど、トオルはどうするんだ? 一緒に乗っていくのか?」
まだ一人でもちゃんと乗れるかも分からないのに、二人で乗るのは少し怖い。
「僕はエキドナくんに乗せてもらうよ、ね?」
「うむ。トオルは妾が一緒に連れて行くから安心せい。なぁにヴィネも納得しとるわ!」
そう言いながらグリフォンを撫でる。……どうやらヴィネと言う名前らしい。さっきまでグリフォンって言ってたから、今名付けたのかな?
「そのグリフォン、ヴィネって名前なのか?」
「そうじゃ! さっき名付けた。念話と言うものは実に良いものじゃ。ヴィネから直接言葉を貰うのがこんなに嬉しいこととは思わなんだ」
「そっか……良かったな」
「うむ。じゃあ早速行くとするかの」
そう言ってヴィネに乗るエキドナ。そしてその後ろに乗るトオル。
「これ、トオルもっと近う寄るがよい。ええい、そうじゃない。もっと妾に強くしがみつくんじゃ!」
トオルはエキドナの後ろから、お腹の前で手を組みしっかりとしがみつく。
「うむ、それでよい。シオンお主も早く準備せぬと置いて行くぞ!」
エキドナがそう言うと、ヴィネが大きく翼を広げる。
「グルルルゥ!」
ヴィネは雄叫びを上げながら、翼をはためかせると大空へと舞い上がっていく。
俺はその二人を見て妙な胸騒ぎを覚えた。……まさかな。
「エキドナ様が自身のグリフォ――ヴィネに他人を乗せるなんて……しかもあんなに密着して……」
俺はラミリアの言葉は聞こえない振りをしてホリンの元へ向かう。うん、絶対に気にしちゃ駄目だ。
「ホリン。大丈夫か?」
《ええ、いつでも行けます。マスター。》
「よし、じゃあ行くぞ!」
俺はしっかりとホリンにしがみつく。
《すぐに追いつきます! 落ちないように気をつけてください!》
ホリンはヴィネと同じように翼をはためかせて空へ駆けだした。




