第37話 引継ぎしよう
「「「………………」」」
俺とトオルはツヴァイスへ移動した。先に来ていたヴォイス達は、転移先の光景に驚いたのか、転移そのものに驚いたのか解らないが、ボケーっと固まっている。
俺はパンッと手を叩く。
「なにボケッとしてる。竜達が困ってるだろう?」
そう言うと皆我に返ったみたいだ。次々に手綱をほどいてメイド達に引き渡していく。
――――
俺はしばらく引継ぎの光景を見ていた。
「大人しいんだな……」
竜はよく躾けられており、何も言わずに従っている。
「兵が乗る竜ですからね。暴れられては支障が出ます」
一番近くにいたヴォイスが答えてくれた。
「しかし、これだけ多いと躾るのも大変だろう? それとも全部最初から大人しいのか?」
「いえ、勿論気性の荒いやつもいますよ。そこはテイマーが頑張るか、もしくは遠征などでは使用せず、兵の訓練に使いますね。中にはこの竜を乗りこなしたら竜騎兵の称号を与えるって言う問題竜もいますよ」
竜騎兵か! 何となくカッコいいイメージがあるな。俺も竜に乗って戦ったりすればかっこよく見えるかな?
《じゃあシオンちゃんは私に乗るといいの!》
俺の考えを見透かしたように、スーラがピョコンと跳ねながらアピールしてくる。
(いや、スーラは小さいから。むしろスーラが俺に乗ってるからな?)
《むー! 私だって大きくなれるもん! 大きくなろうか?》
俺は大きくなったスーラの上に乗って戦う姿を想像する。……うん、どう頑張っても某ゲームのイメージしか沸いてこない。
(また今度な。でも、連携技とかカッコいいかもな。今度試してみようか?)
俺はやんわりと断りながら、でも一緒に戦うのはアリだと思った。
《うん、一緒に戦うの!》
スーラも張り切ってるから今回の件が終わったら本気で考えてみよう。
――――
「ところで、ここは何処なのでしょう? 転移魔法なのは何となく分かるんですが……」
俺がスーラと話している時は声を出していなかったため、ヴォイスとの会話が途切れてしまってたんだが……空気を読んだのか、スーラとの会話が終わったタイミングで話しかけてきた。
「ここは一応城の中? 外? どっちだろう? まぁ通常は城の中からしか行けない城の外だと思ってくれ」
俺の説明にヴォイスはますます分からなくなったようだ。うん、俺もそう思う。
「まぁ意味はよく分かりませんがいいです。それで、答えていただけるなら教えてほしいのですが、もしかしてここって俺達の……ってか赤の国が目指していた場所じゃないですか?」
「お前らはここに来た目的を知っているのか? 一応役割は囮だろうが。ってか囮って言われてきたのか?」
「まぁそうです。城から敵が現れたら、相手は魔王の残党だ。勝てれば問題ないが、無理して勝つ必要はない。それよりも出来るだけ時間を稼げと言われていました。あとは、近くに珍しい植物や野菜、他にも珍しい物がないか調べるようにとも言われていました。何かあれば根こそぎ奪ってこいと。その時は何が珍しいか分かりませんでしたが……」
なら今目の前の光景はさぞかし珍しいだろう。なにせ目の前に車が見える。……って!? メイドが運転して竜を引率している!?
キャンピングカーやトオルのワンボックス、ヒカリ達のトラックはいつもなら城の外に置いてるんだが、流石に侵入者が来るのに放置はマズいと思って、先日他の車と一緒にツヴァイスに運んだ。……それを運転しているのは完全に予想外だけどな!!
確かにこれを見せられると異邦人の物資を探している赤の国の目的地かと思うかもしれない。だが、目的地はどちらかといえばフィーアスの方だろう。あそこにはたくさんの畑がある。
「いや、ここではないな。でも近いっちゃあ近い。そうだ、行ってみるか?」
「まぁ行けるものなら行ってみたいですが……。結局、俺達は何を探してたのかも分からず仕舞いですからね」
「じゃあ行くか? だけど……行くなら覚悟が必要だぞ?」
「覚悟ですか? これ以上言えないことが増えても何も言えないのは変わらないから問題はありませんが」
「ああ、そうじゃない。現実と向き合う覚悟だ。最初にここへ来た頃のお前らなら特に覚悟は必要なかっただろうけどな」
「現実と向き合う? 仰ってる意味がよく分からないですが?」
「今は分からない方がいいかもしれない。うん、俺もお前達に見せたくなってきた。どんな感想を抱くか気になるしな。竜の引き渡しもすぐに終わりそうだから、帰る前に見に行くか」
俺はそう言ってヴォイスの元から去り、トオルの所へ行って、村を見学させたい旨を伝えた。
「村の方には一声かければ大丈夫だけど……いいの?」
トオルも少し心配のようだ。
「村の方が大丈夫なら大丈夫だろう。あいつらなら村に襲い掛かるようなこともないだろうし。あいつらはきっと赤の国の中ではまともな奴らだから、あいつらが村を見て何も感じないようなら、赤の国は無理と判断してもいいかもな」
「シオンくんがそこまで言うならいいよ。送ってあげる。その前に村長とルーナくんにだけ事情を話すから送るのは少し後になるよ」
「こっちも竜の引き継ぎがあるから大丈夫だ」
「うん、じゃあ行ってくるよ」
そう言ってトオルは出て行った。さて、トオルが帰ってまでに引き渡しを終わらせるか。
――――
俺はメイド警備隊の所へと向かった。
メイド警備隊とヴォイス達はこっちに来てすぐ紹介した。今はアルフレドがメイド警備隊に色々と説明をしているところのようだ。
「おい、そっちはどうだ」
俺は二人にそう話しかける。
「シオン様、こちらは順調です。竜の引き渡しは完了しております。今は隊長が率先して平原の方へ連れて行ってます。この後の生活についてもこの数なら問題はないでしょう」
運転してたのはメイド警備隊の隊長か。
「なぁ、一応聞いておくけど、ワンボックスで引率する意味って……?」
「別に歩いて引率してもいいのですが、隊長のルミナさんが『ヒャッハー! 大地を駆け巡るぜ!!』と」
隊長はルミナって名前らしい。ってかガソリンって貴重だよ!? 何やってんの!!!
「ガソリンならルミナさんが『たまにはこうして動かしてやらないと壊れちゃうわよ! それにそうやってケチケチしてたら、そのまま使わずに終わっちゃうのよ!』って」
確かにゲームではラストエリクサーは最後まで使わずに残してたけど! でも……。
「それから『どうせガソリンも毒みたいなものだからシオン様が出してくれるわよ! それくらいしか役に立たないんだから。』と。……これは私が言ったわけじゃないですからね!!」
目の前の子は自分の言葉じゃないと必死に訴えてるが、内容に関しては否定してくれない。やっぱり俺ってトオル達に競べると役立たず扱いなんだよな。
ん? 若干凹みかけたけど、何気に重大なこと言わなかった? そういえば、以前お酒が飲めるかもって試して、実際に酒を出せたことがあった。ならガソリンって出せるかもしれない。今度試してみよう。
「まぁキャンピングカーのことはいいや。あと警備隊が俺の事をどう思ってるかもこの際いい。今日のところはこのまま竜のこと任せてもいいのか? それから数が多いけど食料は大丈夫なのか?」
竜って肉食で滅茶苦茶量を食べるイメージがあるんだけど。
「もともと竜種は生命エネルギーのほとんどが魔力ですから、食事はとらなくても生きていけるのですよ。ですが、嗜好の問題として肉を食べます。それも平原にいる魔物で十分でしょう」
要は食べなくてもいいし、食べたければ自分で狩れってことか。
「ツヴァイスは村興し計画があるけど、【魔素溜まり】はどうなってるんだ?」
「強力な魔物や素材、食料になりそうもない魔物の【魔素溜まり】に関しては処理済みです。どうせ全て消してもその内再生しますから、必要な分だけは残し続ける予定です」
「そっか。確かに全部なくなったら逆に生活が大変になるか」
「ここで竜を育て始めたら竜の魔素溜まりが出来るかもしれませんね。土地柄で魔素溜まりの魔物が変わりますから」
「そういえばそうだっけ。だからここにはゴブリンとかオークとか現れないんだよな。あ、でもフィーアスにはワーボアが現れるんだっけ?」
「ワーボアはゴブリンやオークのように繁殖目的で女性を襲いませんから」
なんとなくオークの親戚みたいなイメージだったけど、普通の魔物扱いでいいんだそうだ。
「その辺りの魔物の生態も調べれば面白いかもな。新しい発見ができそうだ。……ん? アルフレドどうした?」
さっきから話してないアルフレドを見ると彼は大きく目を見開いていた。一体どうしたんだ?
「なぁ、森によく出るゴブリンとかオークってのは、全滅させてもすぐに復活しやがるそれってもしかして……?」
【魔素溜まり】に関してはアルフレドも知らなかったらしい。この世界の常識じゃなかったのか?
「魔族と魔物以外には魔石がありませんから、知らないのも無理ないかもしれません。ゴブリンやオークなどは種族としても魔力の低いものですからね。色々な場所に【魔素溜まり】があるでしょう。それにその二つの種族は繁殖能力も高いですから、油断するとすぐに大量に増えると聞いたことがあります」
「なんてこった! じゃあ、ゴブリンの集落を全滅させても、すぐにまたゴブリンが現れるのは……」
「おそらく近くにゴブリンの【魔素溜まり】があるでしょうね。ゴブリンの【魔素溜まり】ではゴブリンの他にホブゴブリン、ゴブリンキング、ゴブリンメイジなどの特殊個体が生まれることもあると聞きます。普通の繁殖ならゴブリンからはゴブリンしか生まれません。ホブゴブリン同士、ゴブリンメイジ同士の子ならホブゴブリンなどが生まれることがあるでしょうが、人族や他の雌型との合いの子なら特殊個体でもゴブリンしか生まれません。ですので、特殊種族がいる時点で【魔素溜まり】があるのが確定だと思っていいです」
「マジかよ。じゃあ【魔素溜まり】を見つけないと、いつまで経ってもゴブリン共は減らないってことか?」
今までゴブリンの討伐をやってきたんだろう。言葉に実感がこもっている気がする。
「なぁシオンさん、このことだけでいいから教える許可ってのをくれないか? このことが報告されれば人の暮らしも少しは改善できると思うんだ」
ゴブリンの討伐は人間にとっては害虫駆除のようなものだ。オークなら食材にもなるらしいがゴブリンだと食材にもならない。それにすぐに増える。女を攫って繁殖行為をするなど害にしかならない。
特殊個体になると、Bランク以上の冒険者がいないと対処が難しい。そのため兵士が出て行くこともよくあることらしい。
「残念だが無理だ。出来ないんだ。俺の呪いは一部分のみを許可するって行為は出来ないようになっている」
飲む前なら条件を付けることが出来たが、飲んでしまった後は無理だ。まぁ一旦解除すればいいんだが、その秘密は明かしたくない。
「そうか……仕方ないか」
「だが、もう少し情報を仕入れて事実のようなら、諜報員にでも頼んで、冒険者ギルド辺りにそれとなく伝えることにする」
リンやセツナ辺りを使えば可能だろう。だがその前に自分でも調べておきたい。
「本当か!? そうしてくれると助かる!」
「まぁすぐって訳にもいかないけどな。それよりもだ。もう引き渡しは終わったんだろう? アルフレドを連れて行っていいか?」
「はい。問題ございません。アルフレド様ありがとうございました」
「様はよしてくれ。捕虜のみなんだからおかしいだろう。それよりシオンさん。もう戻るんですか?」
「いや、さっきヴォイスと話をしてな。今からお前らの当初の目的地に連れて行くことにした。まぁ見るだけだがな」
「シオン様……よろしいので?」
「構わないだろう。俺もこいつらがどんな反応するか気になるからな」
「畏まりました。それでは気を付けていってらっしゃいませ。竜のことはこちらにお任せください」
「ああ、頼んだぞ。後で詳細の報告を頼む」
そう言って俺はアルフレドと共にヴォイス達の元に戻った。
――――
俺達が戻るとそこにはすでにトオルが待っていた。
「シオンくん、遅いよ。まさか僕より遅くなるなんて思わなかったよ」
「ああ、すまん、ちょっと話し込んでいた。もう準備出来てるみたいだな。早速行こうか?」
俺がそう言うとトオルが早速魔法を唱える。今度はゲートではなく、いつもの転移魔法みたいだ。この人数なら大丈夫のようだな。




