第31話 実況中継を聞こう
リンからの報告で冒険者達がこちらへ向かって出発したとメールが来た。その後数日かけて準備をして城の罠を準備した。そして本日中には到着すると報告があった。
冒険者はB・Cランクが五十名、Aランクが三十名。一緒に付いてきているのが百名の兵士だ。
その中でリンはAランク冒険者の中に紛れていた。どうやら魔族とはバレなかったようでなによりだ。
「敵はどこまで来てる?」
「もうすぐ森を抜けます。おそらく一時間もせずに城に辿り着くかと」
「リンは?」
「冒険者グループの後方にいると聞いております」
「よし! 皆準備はいいか? ……姉さんとルーナも本当にいいのか?」
「ええ、大丈夫! 任せて! 全員やっつけちゃうから」
「わたくしも問題ございません。罠に関してはシャルティエに全て任せております」
今回、直接戦うのは俺とトオルだけでなく、姉さんとルーナも戦う。単純に敵の人数が多いため、それから姉さんの経験のため、ルーナもたまには実践を行いたいという理由だ。
「姉さんは初陣なんだから無理はしないでね」
「偉そうに言ってるけど、シオンだって今回が二回目じゃない。そんなに変わらないわよ!」
姉さんは自信たっぷりだ。まぁよくツヴァイスで魔物を狩っているようで動きは問題ないだろうし、姉さんの魔法は対人向きだ。真央の相手には効果がハッキリと分からないから、魔法の実験のためにも気合いが入るのだろう。
姉さんの魔法は相手へのデバフ、と魅了。洗脳して同士討ちがメインになる。
総魔力は一万に届かないくらい。自分の仕事もこなしつつ、修行をしてこの数字はすごいと思う。デバフや魅了は魔力値の大きさが成功率に依存するため、普通の人間ではレジストするのはまず不可能だろう。
近接戦では手にはナックルと肘、膝にプロテクターがある。元は合気道の経験者だったんだが、今はまさに格闘家って感じだ。
「冒険者が到着しました! 城門の前にいます」
モニターを見ながら通信隊のシルキーが叫ぶ。
「よし、各自配置に付くように! 危険だから他の者は絶対に外には出ないように。奴らには城の中は無人だと思わせるんだ」
さて、今から防衛戦の始まりだ。
――――
俺は今、侵入者エリアの一室に一人でいる。いつもは罠があるから危険だと言われているので始めて入るが、結構広い部屋だ。高校の教室くらいある。壁は白くて四方にはそれぞれ扉がある。
その白い壁に突然何かが映り込む。城の内部の映像だ。それも複数の……警備室によくある防犯カメラのみたいな感じだ。
メイド通信隊にいるメイドの魔法【千里眼】。城の敷地内限定ではあるが、遠くを……そして同時に複数の場所を自由に見ることが出来る能力だ。
以前、ルーナ達が俺とトオルの初陣を見たのはこの魔法の効果だ。さっきの通信室のモニター画面も同様だ。
そして、今回の彼女は以前よりも画質が良い。それはドローンのおかげだった。
現代風に例をあげると、今までの彼女のイメージは白黒8ミリしか知らなかった、しかしカラー高画質の存在を知った。魔法はイメージだ。その映像の存在を知れば、イメージもしやすくなる。
そのメイドが見ている映像を壁に出力してもらっている。壁に彼女が魔力を込めた魔力石を埋め込むことで可能となった。
映像は、同じ場所をずっと映し出している画面が複数。それから動いている映像が一つだ。
いくら複数を同時に見れる能力といっても、監視の目、考える脳は一つしかない。なので一つは本人が操作させて動いている映像。他のは自動で城の各部屋の映像を流している。本当に防犯カメラのようだ。
俺はここで映像を見ながら、この部屋に来た冒険者を倒す役目を担っている。詳しい場所は俺にも知らされていない。そのため一階から四階の七×七の四十九部屋の一室と言う事しか分からない。
その内の四部屋に俺、トオル、ルーナ、姉さんがそれぞれいる。皆何階のどの部屋にいるかも知らない。
何故分からないかというと、公平を期すためにくじ引きで決めたからだ。じゃないと皆一階を希望してしまう。今回は冒険者にどの程度城の罠が通用するか確認したいし、そもそもの冒険者の実力や魔法。【千里眼】の魔法の効果だろ確認したいことが多い。冒険者たちにはじっくり実験台になってもらおう。
今は俺を含めて四人の部屋は映ってないが戦う映像はその時になったら映るはずだ。
『シオン様、無事に映像は映っているでしょうか』
ケータイから声が聞こえる。個室にいるという理由でケータイが貸し出されたのだ。
「ああ、問題なく映ってる。他のところはどうだ」
『……他の皆様も大丈夫そうです』
少し間が開いて返事が聞こえる。多分確認していたんだろう。
「そっか、今のところ問題はないようだな。何かあったらすぐに報告をくれ」
『畏まりました。シオン様も無理はしないようお願いします』
そう言って通信が切れる。
さて、と。誰かが罠にかかって転移してくるまで、映像を見ることしかやることがないな。……しまったな。お菓子と飲み物くらいは準備しておけばよかった。
俺はケータイを手に取る。
『はい、通信室です』
「俺だ。シオンだ」
『シオン様!? なにか問題がございましたか!!』
オペレーターのシルキーが慌ててる。まぁ、通信を切った後にすぐに連絡したらびっくりするよな。
「いや、しばらく暇だろうから、お菓子と飲み物が欲しいな……と」
『……シオン様ふざけてます?』
オペレーターのトーンが下がる。ヤバい。ちょっと怒ってるみたいだ。
「とんでもない! でもさ、敵が部屋に入ってくるまで、大きな画面を見ているだけなんだよ。やっぱ娯楽映画を観ているような気持ちになるじゃん」
オペレーターは呆れたようにため息を吐く。
『ふぅ。分かりました。準備をして転移させますから、大人しくして下さい。ついでに他の方々にも同じようにさせて頂きますね』
大人しくって……なんかまるで俺がわがままな子供みたいじゃないか。……否定できないかもしれない。
「ああ、皆の分もよろしく頼む。俺だけだと後で文句が出るだろうからな」
俺だけだと確実に一人……姉さんには間違いなく怒られる。オペレーターの機転に感謝だ。
――――
しばらく待ってると、テーブルとソファ、ポップコーンとコーラが送られてきた。
あのオペレーター……ポップコーンとコーラとは分かってるな。映画といったらやっぱりこの組み合わせに決まっている。
中には長時間の映画で炭酸は美味しくないっていう人もいるが、やはり俺には最高の組み合わせだと思う。
しかもくつろげる様にふかふかのソファまで送ってきた。正直今座っているパイプ椅子で何時間も座っているとそれだけで疲れてしまうからこれもナイスな判断だ。
まさかの至れり尽くせりで俺の中で通信隊の評価がうなぎ登りだ。この戦いが終わったら特別ボーナスをやろう。
そう思ってるとケータイがなる。四番からだ。四番は誰だっけ? まぁソファが来た後に連絡だからなんとなく想像は付くが。
「もしもし?」
『あんた何考えてるのよ!! 遊びじゃないのよ!! ……でも、気が利くじゃない。よくやったわ』
予想通り姉さんからだった。怒ってると思ったら……やはり同じ気持ちだったみたいだ。
「そっちは? そっちもポップコーンとコーラ?」
『ええ、シオンも? ってかその言い方だとお菓子のチョイスはシオンじゃないみたいね』
「ついでにソファもあったらそれも違うよ。俺はただお菓子と飲み物が欲しいって頼んだだけだから」
『……あの子達やるわね。顧客満足度ナンバーワンって感じだわ』
どこの店だよ!
「まぁちょっとやり過ぎな感じもするけどね」
『でもお陰でいい具合に緊張が解けたわ。さすがにちょっとドキドキしてたからね』
とてもそんな風には見えなかったけど、姉さんも初陣で緊張してたんだ。
「無理はしないでね。終わったら打ち上げでもしよう』
今からたくさんの人が死ぬ。それで打ち上げなんて不謹慎かな? でも、相手は俺達の生活を脅かす敵だ。情けをかけたらこっちがやられる。
『そうね。打ち上げもいいわね。それじゃあお互い頑張りましょう』
そう言って通話が切れる。姉さんも頑張ってくれ。
と、今度はメールが来る。トオルからだ。何々……『寝落ちして負けたら恨むからね』と書いてある。
「自業自得。暇なB級映画じゃないことを祈っとけ」と書いて送った。
こうなるとルーナからも何か来るんじゃないか? と思ったら案の定かかってきた。
『シオン様、おふざけがすぎると思いませんか? わたくしは頭が痛くなりそうです』
ルーナは怒ってる。これは訓練じゃない。れっきとした実戦だ。お菓子を食べるなんて間違ってる。そう言ってるんだろう。
「ルーナ、ごめんよ。……でも説教するなら、口をもぐもぐさせてないで、食べ終わってからにしような」
全く。俺の方が頭が痛くなりそうだ。
先日のドッキリ以来、ルーナとの距離が大分近づいた気がした。……のだが、それからのルーナは以前の完璧なメイドと言うより、どこか残念さがあるメイドになってきたように思える。
『そんな! こんな時にわたくしが何か食べるはずがないではないですか! ……見えてないからって適当なことを言われては困ります』
「いや、見えてるから。思いっきり食べて飲んで……靴まで脱いで寛いでるじゃねーか!」
何故か電話があった直後からモニターにはルーナの姿が映し出されたのだ。
ルーナにはポップコーンとコーラではなく、饅頭とお茶のようだ。……本当に和菓子が好きだな。
そして、ソファで大きく足を組んでいる寛いでいる。靴は横に脱ぎ捨ててある。
ルーナに憧れてるメイド達が見たら一発で幻想が崩れる音が聞こえてきそうな光景だった。本当に残念すぎるぞ。
『えっ? やだっ、本当っ!? ち、ちょっと! 何で映っ、は、早く止めな……』
ガチャッと通話が切れる。画面を見る限りだと、組んでいた足を直そうとして体制を崩し、ケータイを落としたようだった。そして映像が途切れる。マジでオペレーターGJだな。……後で怒られても知らんけど。
ん? 突然ヒラリと一枚の紙切れが何もない空中から落ちてきた。
『先ほどの映像はシオン様とルーナ様にしか流しておりません。通信室の子も知らないから安心してください』
どうやら千里眼の子の独断だったようだ。それにしても一体何を安心しろというのか。他の人には残念メイドだとバレてないことか? ……うん、千里眼ちゃんには後で特別ボーナスをあげることにしよう。
――――
さて、いつの間にか冒険者はすでに城内に侵入したようだ。まずは十人くらいか? 偵察を兼ねた第一グループって所かな。他の者は城の外で待機のようだ。まぁ城の中なんてこの人数が一斉に入っても邪魔になるだけだし、時間を分けて数グループで行動するんだろう。
しかし……城内に気配がないからだろうか。侵入した第一グループには緊張感の欠片もないように見える。警戒もせずに、最初の扉までの直線を談笑しながら進んでいる。
そんなことだと……あっほら、落とし穴に落ちる。入口から迷宮部屋までの直線で唯一の罠だ。そこで一気に二人が落ちる。落とし穴の下には定番の大きな剣山が所狭しと設置されている。もちろん落ちた二人は串刺しにされ、早くも二人が脱落。
一番後ろの男がなんか叫んでる。うーん、映像だけで声が聞こえないのが残念だ。
おっ、どうやら罠に掛かったことで、気合いを入れないしたようだ。歩き方が慎重になった。
第一グループは迷宮部屋への扉の前で止まった。扉には張り紙が貼ってあるので、それを読んでいるようだ。因みに張り紙にはこの迷宮部屋の注意事項が書いてある。
その一 扉は光っている扉しか開かない。
その二 扉は指示に従わないと開かない。
その三 扉の指示は扉によって異なる。
その四 最初の扉はこの扉を閉めない限り開かない。
以上だ。普段は張り紙なんてないが、今回は罠の実験も兼ねている。最低限のことが分からない限り、攻略に何日かかるか想像もつかない。その為、出来るだけスムーズに進んでもらえるよう、貼ってみた。これを読んでも理解できない冒険者は先に進む価値すらない。
やがて覚悟を決めたのか、先頭の男が迷宮部屋への扉を開ける。そして固まる。どうやら部屋の状況に驚いているようだ。
まぁ覚悟を決めて開けたら、そこには何もない真っ白な部屋だからな。無理もないか。勿論入ってきた扉以外に各方向に三つの扉がある。
全員が部屋に入り……さて、次はどの扉を選ぶのかな? おっ左に行くみたいだ。……あっ、壁に矢印を書こうとしてる。後続へのメモだな。でも無駄なんだよな。
この城はルーナが管理している。さっきみたいな残念なところはあるみたいだが、仕事は完璧だ。
メイドとして城の中は常に清潔、塵一つ許さない。ってことで、この城には汚れたら自動的にキレイになるような仕掛けが施されてある。矢印を書いた所で、書いた傍から自然に消えてしまう。
あ、書くのは諦めたみたい。いや、鞄から何か取り出してるぞ? 羊皮紙か? 紙に行き先を書いて置いておくようだ。まぁあの紙も冒険者がいなくなったらスライム達が回収するけどな!
ついに左の扉を開けるぞ……って所で開かない。なんでだ? と思ったら、こいつら入口の扉を閉めてない。ったく、注意事項のその四にしっかりと扉を閉めないと開かないって書いただろうが!
結局左を諦めて正面……も当然開かない。同じく右も開かない。当然だ。あっこいつら無理矢理こじ開けようとしやがって! そんなことしなくても最初の扉を閉めればいいのに……。
今度は部屋中を調べるみたいだ。スイッチがないか確認でもしてるのか? 他の部屋なら必須な行為だが、チュートリアルでもあるこの部屋には何も仕掛けはないんだよな。
おっ冒険者の一人が入口の張り紙をもう一度じっくり読んでいるぞ。そしてようやく気がついたのか、扉を閉める。
それを見て、別の男が叫んでる。恐らく、『何閉めてんだ! 帰れなくなったらどうするんだ!』とか言ってるんだろう。
もちろん扉を閉めた男も黙っていない。こっちは『この扉を閉めねーと先に進めないんだよ。ちゃんと読めバーカ』とでも言ってるのかな? そのまま喧嘩になりそうな所を他の冒険者が慌てて止める。
どうやらこいつらは今回の冒険で初めて組んだ即席チームみたいだ。全然連携がとれていない。まぁだからこそ先発隊なのかな。
最初に選んだ左の扉に再度手をかける。今度はすんなり開くことが出来たようだ。おっ、一応正面と右の扉も開けて見るみたいだな。ただ開けて確認したところで、全部同じ間取りなので区別は付かない。
しばらく話し合った後、全員で左の部屋へ入ることに決定したようだ。そういえば次の部屋から罠があるけど左の罠って何だったっけ?
冒険者たちは全員左の扉へ入る。今度は最初から来た扉を閉める。すると天井からガスが吹き出す。あー、ここはガス部屋か。誰かが入っている状態で、全ての扉が閉まると睡眠ガスが吹き出す。
この部屋の回避方法は、最初の部屋同様、扉を閉めた時点で次の扉が開くので、ガスを吸い込む前にさっさと次の部屋へ行くのが正解。もしくは別に殺人ガスでも何でもないので、吸い込まないようなガス対策をしていれば何の問題もない。
果たして冒険者達は……はぁ? 部屋の中で慌てているだけで、次の扉を確認しようともしないぞ。あっ一人だけ来た扉を開けようとしている。もちろん鍵がかかってないのですぐに開く。そして一人だけ戻るとすぐに扉を閉めた。おいおい、他を見捨てるのかよ。
残りの冒険者は……結局先に進まずに全員寝ちゃった。……どうするよこれ?
逃げた一人は……入口の扉を開けて城の外へ向かう。あー、諦めて帰っちゃったか。うん、直線の落とし穴にも落ちずにちゃんと合流できたようだ。
第一グループはまさかの二部屋目で速攻リタイアだった。これ……先行きが不安だな。これからどうなるんだ?
しかし……それにしても、やはり声がないのは寂しいな。
俺はケータイを手に取る。
『はい、こちら通信室。……シオン様今度は何ですか? ジュースのお替わりですか?』
あっオペレーターの声が最初から若干低い。どうやらさっきので信用が下がったようだ。
「いや、違うって。さっきの見てた? 第一グループ」
『はい。一人だけ帰ったようですね。情報を伝えに戻ったのでしょうか?』
ちゃんとした話と思ったんだろう。オペレーターの声色が変わった。この使い分けは流石だな。
「まぁあのまま一人で攻略は無理でしょ。んで、ガスで眠っちゃった連中はどうする?」
『どうやらぐっすり眠っているみたいですね。本来ならガスが引いた後にメイド警備隊が回収して牢に閉じ込めるのですが……急がないと第二グループが来ますよね?』
「鉢合わせたら大変だよな。いっそのこと、放置して冒険者に回収させるか? 寧ろ、あそこからいなくなったら不審がられるだろ?」
『そう仰いますけど、すでに左は罠があると伝わった筈ですから、次は別の扉にいくと思いますよ』
「確かにそうだな。でも扉だけでも開ける可能性もあると思うけど?」
『ではひとまず現状維持で。恐らく丸一日は寝ているでしょうから回収は後でも問題はないと思います』
「まっ、急いで回収する必要もないか。敵の合間を拭って余裕があれば回収しよう」
『シオン様ー! 落とし穴の死体はどうしますー?』
話してたオペレーターと違う声が聞こえてくる。多分別のオペレーターだろう。
「そのままって嫌だよな。いっそのこと落とし穴の死体が城に吸収されて無くなるところを見せればよくないか? そうしたら寝ている連中も、ガスで死んで吸収されたと思わない?」
実際は吸収などできないが、スライム達にお願いすれば吸収したように見えるように出来るだろう。
『では次に落とし穴に近づいた時に、吸収している所をみせましょう』
「うん、お願い。じゃあ、そろそろ次のグループが動くと思うから……ジュースのお替わりと……あと音声がないから今ひとつ臨場感がないんだよ。どうにかならない?」
『はぁ!? 知りません!』
オペレーターは怒って乱暴に切る。
――――
しばらくすると送られてくるジュースと……スピーカー? やだぁ! あの子まさかツンデレ? いそうでいなかったキャラに思わず喜んでしまった。
しかし……ジュースは分かるが、スピーカーはどう使うんだ? スピーカーがあっても音声は拾えないだろう? ってか、そもそもどこにも接続されてないし。
分からないからとりあえず置いとこう。……と、どうやら第二グループが出発するみたいだぞ。
『さぁ、出発しました第二グループ。今度はどんな探索を魅せてくれるのか!? 実況は私、エリーゼと「解説のティティだよぉ!」でお送りいたします』
うおっ、突然スピーカーから声が聞こえてきた。ビックリした。
『今度のグループはどうでしょうねぇティティさん』
『そうだねー。さっきのグループよりは先に進めると思うよ!』
『まぁ先ほどの情報は共有されてますからねぇ。それよりは進んでくれないと困ります。……おおっと、早速先ほどの落とし穴まで来ましたよ!』
『まだ落とし穴が開きっぱなしだから誰も落ちないね!』
『お、一人が中を覗いていくぅー。しかーし! なんとそこには現在進行中で冒険者が溶かされているぞ! ああっと。中を覗いていた冒険者が思わず尻餅をついたー』
『いやー、グロいねー。ホラーだね』
『おやっ? 尻餅をついた男性が叫びながら来た道を戻っていくぞ!』
『「こんなとこにいられるか! もうこりごりだ。俺はもう帰る!」って言ってるんだよ、きっと』
『さて、早くも一人脱落した第二グループ。なんとまだ迷宮部屋にすら入れていない! 一体この後どうなってしまうのか!?』
『一旦CMだよ!』
そして直後にケータイが鳴る。
『もう止めてもいいですか?』
オペレーターからやや疲れた声で聞いてくる。
「面白いから続けて」
俺は無慈悲に切った。ちなみに通話中はスピーカーからティティの声が聞こえていた。どうやら通信隊の紹介をしていたようだ。CMのつもりらしいが誰に向けたCMだ?
『さぁて、早くも一人脱落で波乱の第二グループだが……ついに迷宮部屋に入った! おおっと、どうやら左の扉は開けないようだ! このまま仲間を見捨てるのかぁ?』
『もう諦めてるんじゃないのかな?』
『どうやら今度のグループは右に行くようだぞ!』
『流石に皆緊張してるね!』
『さて、それではこれから向かう右の部屋。7―5部屋をちょっとだけご紹介。なんと7―5部屋には罠がない! 当たり部屋だ!』
『な、なんだってー!』
『だけどその先が罠だらけ! まず入って正面になる7―6部屋だが、なんと中央に宝箱があるぞ!』『それは取っちゃうね! 開けちゃうね!』
『でも、その宝箱を開けると……なんと天井が落ちてくる!』
『ぺちゃんこだね!』
『もし宝箱を開けなくてもその先は……それは見てからのお楽しみ!』
『えー気になる気になる何でだってばー!』
この二人、ノリノリだな。本当に止めたかったのか?
『一足先に7―6を紹介したけど、7―5にいる冒険者はどこに行くのか!?』
『引っかかるかな? ドキドキ』
『おおっと! ここでまさかの7―6スルーだ! 開けようともしないぞ!』
『ビックリだね! 予想外だね!』
『そのまままた右の扉、を開けるぞ。その扉は1―5部屋へのワープだ!!』
『無限ループだね!』
『1―5へ来た冒険者……なんとそこも正解のルートだぞ!! なんて運がいいんだ! 果たしてこのまま正解ルートを当て続けることが出来るのか!?』
『乞うご期待!』
そして再度ケータイが鳴る。
『もう無理です。勘弁してください』
「諦めるなよ! 大丈夫! おまえなら出来るって! がんばれがんばれ!」
有無を言わさず通話を切る。その間スピーカーからはティティが美味しい料理を紹介していた。
『まだ、脱落者一人の第二グループ。しかも正解を当てていくぅ! このまま第一階層を突破できるか!?』
『ちなみにさっきの部屋。6―5だったらシオン様の部屋に繋がってたんだよ!』
えっ!? じゃあ、さっきまで隣の部屋にいたの? ……ってことは戦う機会を一回見逃したことになるのか。
『まさかのネタバレしていくーシオン様ざまぁ』
『残念だったね! 惜しかったね!』
さっきの遺趣返しのつもりか……若干イラつく。
『さて…冒険者グループは順調に進んでいるぞー。1―5部屋から三部屋連続で正解部屋を抜けて、今は2―3部屋。今日の二階への階段は3―1部屋だから、最短であと三部屋でゴールだー!』
『一等賞の景品はありません!』
『ちなみに皆さんご存じの通り、一階のゴールへの扉はアインス砂漠へ転移する転移罠だぞ!』
『流石にこれだけはスルーは出来ないぞ!』
『しかし、この冒険者グループは今まで全ての罠の扉を運で避けてきた! もしかしてゴールの扉も運でどうにかしちゃうのか!?』
『まっまさか触らずに開けられるの!?』
『そうこうしているうちに早くもゴール前に到着だー! まさかの全罠スルー!! もしかして何か魔法ですかそうですか?』
『ずるっこだね! チートだね!』
『しかし流石に触らないと扉は開かないぞ! 触るのか? 触るのか? あー! 一人が触ったー! 扉を開けるぞ-!』
『砂漠エリアの中継は圏外だからないんだよ!』
『ああーっ! 目の前で突然一人が消えた! 当然残った冒険者は大混乱だ!』
『何が起こったか理解できないんだろうね!』
『しかし一人の尊い犠牲のお陰で扉は半開き。そして、奥には……ああ、階段です! 奥に階段が見えます! 残った者達はどうする!?』
『階段が見えても扉を拡げないと先に進めないぞ!』
『おや? 冒険者たちが何か言い合いしてるぞ! 何だ! 何を話しているんだ』
『「お前開けろよー」「えーやだよー見たろ。消えるんだぞ」「いいから開けろよー」とか言い合ってるんだよきっと!』
『あああっ! なんと剣だ! 直接触らず剣で扉を開こうとしてるぞ-!』
『なんか汚いものを触るみたいでいい気分じゃないね』
『でも、無駄だあ! 開けようとした冒険者は剣ごと転移したぞ!』
『でも、おかげで扉が開いたよ!』
『おおっ! 残った冒険者は気にせず先に進むみたいだ! 扉の罠で二人を犠牲にしたが、無事に一階層クリアだ!』
『俺たちの戦いはこれからだ! だね』
例のごとくケータイが鳴る。
『エリーゼ先生の次回作にご期待ください!』
声の主はエリーゼじゃなくティティだった。そしてここで打ち切りらしい。
「……エリーゼは?」
『もう無理ーって叫んで、あっちでバタンキューしてる』
バタンキューって……。まぁ何となく状況は察した。
「ティティは元気だな」
『うん! 面白かったよ!』
「……そっか。ティティだけで続きやるか?」
『うーん、流石に一人じゃつまんないからいい』
確かに合いの手がないとつまらないか。
「なぁ少し聞いてもいいか?」
『なぁに?』
「どこであんなネタを仕入れたんだ?」
間違いなくこっちで知ることが出来るネタじゃない。
『あのね! 通信隊の備品のノートパソコンだよ。休憩中に皆で色んな番組を観るんだ! 映画とかスポーツとかアニメとか!』
そういえば暇潰しのつもりで色々と買い込んだよな。まさかこんなところで活躍してるなんて思わなかった。ってか俺も観たいんだが?
「言葉は? 大丈夫なのか?」
『うん、通信隊と遊撃隊はケータイのメールを利用するし、敵の暗号も解読できるように! って皆で飴貰ったから』
飴は結構配ったけど、通信隊と遊撃隊は全員が貰ってたのか。確かに話を聞くと納得だな。
「それで、今の状況なんだけど……」
『あ、真面目な話? ならエリーゼちゃんに変わるね。エリーゼちゃぁぁん! シオン様が仕事の話だってー』
いや、別にティティでもいいんだが……。
『シオン様、何かご質問があるとか?』
エリーゼの声は随分と疲れている。完全に俺の所為なのだが、大丈夫だろうか? だがそれを言うと『誰の所為ですか!!』ってキレられそうなので黙っておく。
「ああ、まずアインス砂漠だが、モニターがないのは分かるが、詳細も分からないのか?」
ないとは思うが、万が一冒険者たちが出口を見つけて戻ってきたら大変だ。
『魔王様は分かっていたみたいですが、私達では流石に向こうの状況は分かりません。ただ、今回は第二メイド隊が隠れて待機しているはずです。リアルタイムでは無理でしょうが、最終報告はあると思います』
なるほと、まぁ仕方ないか。ってか第二メイド隊は砂漠で待機なのか? 滅茶苦茶大変じゃないか。
「あと、俺の部屋だけど本当にあそこだったの?」
ざまぁって言いたいだけで嘘って訳じゃ……。
『もちろんです。ですが、実はあそこからは鍵が掛かって開きませんでした。実質、宝の罠と正解の部屋の二択でした。それはそうとシオン様、暇なんですよね? 帰ってきたらどうですか?』
面倒なことさせやがって……これ以上関わっていられるか。と、心の声が聞こえてきそうな、若干恨み声のような感じに聞こえる。
「えっ? でも……」
『別に部屋で待たなくても、冒険者が部屋に入った後で、転移すればよろしいではないですか。正直な所、冒険者も随分とゆっくり攻略しておられますし、四人がそれぞれ待ち構えてるのは時間の無駄のように思われます』
確かに言われてみればその通りだ。よし、戻るか。
「そうだな。一旦戻るわ。あ、テーブルとソファはどうする?」
『こちらで回収するので問題ございません。では他の方にも一旦戻るように伝えます』
ってことで、結局一回も戦わず、俺は戻ることになった。




