第32話 目的を知ろう
「まったくもう、本当に時間の無駄だったわ! 最初こそちょっと楽しかったけど、結局冒険者の攻略は遅々として進まないし、見てて眠くなったわ!」
ずっと待たされて、案の定姉さんが怒ってる。
「確かに酷かったよな。俺もせっかくの戦いのチャンスをスルーされたし」
隣まで冒険者が来てたのに……まぁ結局扉は開かなかったようだが。
「あれっ? シオンは戦うチャンスがあったの?」
「えっ? だって実況で言ってたじゃん。ざまぁって」
「……実況って?」
あれっ? どうやら姉さんは知らないらしい。トオルとルーナも首を捻ってる。
「あ、あの……あれはシオン様にしか聞いておりません」
通信隊の一人が俺に小声で話す。声からすると彼女がエリーゼなんだろう。
「えっそうだったの。お菓子やソファのように皆にもあるのかと……」
俺も小声でエリーゼに話す。
「あんな恥ずかしいこと、ルーナ様やサクラ様に聞かせられるわけないですよ!」
あ、俺にはいいのね。これは俺だけ特別と言うより、ルーナと姉さんの方が特別なんだろう。俺は特別じゃなくて、どうでもいいってニュアンスだ。
「ねえ、何二人で内緒話してるの?何か隠してない?」
姉さんが疑わしい目でこっちを見ている。
「いや、何でもないよ。エリーゼにお菓子のお礼をしていただけだよ」
ひとまず誤魔化すことにした。
「……シオンってエリーゼの名前を知ってたっけ?」
「……さっき教えてもらったんだよ。他にも分かるぞ。ティティと千里眼ちゃんだろ?」
そう言って二人を指差す。
「ぶー! ティティは私でーす!」
今、通信室にいる通信隊のシルキーは四人いる。
他にも通信隊はいるらしいが、他の通信隊のメンバーは仮眠中で交代で二十四時間体制を強いてるらしい。
エリーゼは俺のすぐ隣にいるから分かるし、千里眼ちゃんは今も魔力を使って冒険者のチェックをしているから分かる。後はモニター前にいる女の子と奥のテーブルで肉まんを頬張ってニコニコしている女の子。てっきりこの肉まんちゃんがティティだと思ったら、モニターをチェックしながらメモを取ってる、いかにも仕事してますオーラを出してたのがティティだった。
あと後ろの方で「私は別に名前が千里眼ってわけじゃ……」なんて声も聞こえてくる。
「そうだったんだ。すまん、てっきりティティは仕事が出来ない残念系女子かと」
「ちょっとー! 私は仕事もちゃんと出来まーす! 今は休憩中なだけでーす!」
と、今度は勘違いで仕事が出来ない風に思われた肉まんちゃんが叫んでる。
「ぶー! 私だって仕事も出来ますよーだ! さっきまでが休憩中で交代したんですー」
ティティも不満顔だ。そっか、確かに仕事しながらあの実況は出来ないか。
「シーオーンー? どうやら貴方は私達が暇してる時に通信隊と楽しくやっていたようね……さぁ! 何をやっていたの! 吐きなさい!」
今までの流れで俺と通信隊のが何かやってたと感じたらしい。かなり怒っているようにみえる。まぁ暇な時間を過ごしたんだイライラしているのも当然か。
「キャメリア、さっきのモニターのことでお話があります。何故私の部屋が映ってたのでしようか?」
ルーナはルーナで千里眼ちゃんを問い詰めている。千里眼ちゃんは…ああ、小刻みに震えてるよ。でも、冒険者の追跡はやっているようだ。流石だ……っと、千里眼ちゃんはキャメリアって名前なんだ。覚えておこう。
「聞いてるの! シオン! はっきり言わないなら……」
そう言って姉さんは俺の肩からスーラを取る。
「あっ、ちょっと!?」
「ねぇ、スーラ、スーラはシオンが何をやってたか教えてくれる?」
「あ、サクラ様、わたくしもいいですか?」
ルーナと姉さんはスーラを連れて肉まんちゃんがいる休憩スペースへ行く。……終わった……かな。
――――
結果として俺は特に怒られることはなかった。まぁ特に悪いことはしてないからな。当然だ。
……まぁ真実はスーラが誤魔化してくれたお陰だが。戻ってきたスーラが《シオンちゃん! 貸し一なの!》と言っていた。
「今回は冒険者の処理について話してただけらしいから別にいいけど、今は敵に攻め込まれてるんだからね! 常に神経を張り巡らせろとは言わないけど、あまり緊張感がないのもダメなんだからね!」
「分かってるよ。今回もガスの罠にかかった冒険者と、砂漠に行った冒険者の事を聞いただけだって」
そう言うことにしておこう。
と言うか、今はどんな状況なんだ? 帰ってきてから話してばっかりで確認してないぞ!
「今は冒険者達は、どうしてるんだ? 二階で行動中だろ?」
「シオン様、今さらですか? お話しばかりしてなくて少しは集中してくださいね! 二階に行った冒険者達はまだ動いてないですね。休憩中のようです。もしかしたら転移した仲間か後続を待っているのかもしれませんね。一階は既に第三、第四のグループが潜入しており、第三は先程宝箱の罠で全滅。第四グループは先程までシオン様がいた部屋でトオル様と戦闘中です」
「「「はぁ!?」」」
俺とサクラ、ルーナの三人は慌ててモニターを見る。
そこにはトオルが冒険者達相手に無双していた。
「何で……だってあの部屋は俺が担当…」
「トオル様が『シオンくん達は、お話で忙しそうだから僕が行ってくるよ』って仰ってさっさと行かれましたよ」
ティティ……今のトオルの声真似が異様に上手かったぞ。さっきの実況の相槌といい、ティティはかなりの芸達者なのかもしれない。
しかし、トオルのヤツめ。やけに大人しいと思ったらいなかったのか。あーあ、冒険者達もう戦意喪失してるじゃん。
冒険者が放った魔法はトオルの前で何かに吸い込まれるように消える。かと思えば同じ場所から直ぐにその魔法が冒険者に向かって襲いかかる。おそらく空間を操作して跳ね返しているんだろう。
直接襲いかかろうとしている奴らには銃を使って応戦してる。銃から放たれているのは炎の矢みたいなのが発射されているのだが、普通の銃の弾に比べても遜色ない。寧ろ威力は上かもしれない。近づく冒険者は避けるまもなく撃ち抜かれていく。
スゲーな。一歩も動かずに相手を圧倒している。
「ルーナ、トオルとの模擬戦ってあんな感じなのか?」
気になって質問してみた。初めの頃と違い、今は他人の模擬戦は見ていない。その分自分の修行に当ててる。
「いえ、模擬戦ではシオン様と同じく近接戦の特訓しかしておりません。近接戦はシオン様とサクラ様には及びませんが、一応ナイフを潜り抜けて、わたくしの懐までは来れるほどの身体能力はございます。あと、一応あの防御魔法を使うのは知っていましたが…あれ、シオン様の【自動盾】と同じ様に自動で発動するのでとても便利なのですよ」
「ってことは遠距離からの攻撃は勝手に跳ね返し、遠距離の攻撃もあり、近接戦も充分。おまけに攻撃魔法はまだ使ってない。めちゃくちゃ強くなってるな」
防御魔法の性質も、俺のは防御だがトオルのは反射。ヤバい、勝てる要素なくないか?
「それでも恐らくシオン様の方が強いですよ。もっと自信を持ってください」
俺の不安を見越したかのようにルーナが言う。
「そうなの? 今のトオルを見てると正直勝てる気がしないんだが?」
「シオン様なら近接戦に持ち込めば勝てます。トオル様はいかに近づかせないようにするかがポイントでしょう。ですが、シオン様には【自動盾】がありますから銃は効かないですし難しいのではないでしょうか?」
「ふーん。そういうものかね?」
「まぁお二人とも実力は充分伸びておりますが、絶対的な経験が足りません。お互いにこれからですね」
やっぱり経験値が足りないか。とりあえず、魔王と戦う前に経験はたくさん積んでおかないとな。
「ねぇルーナ、私はどうなの?」
姉さんが自分の評価を知りたいようだ。
「サクラ様はまだまだですね。まぁお二人よりも二ヶ月以上遅く修行を始めたのですし、毎日の時間も少ないので仕方がありませんよ。でも、今来ている冒険者くらいは目を瞑ってても倒せるくらいの実力はございますよ」
「ま、仕方ないか。でも、強くはなってるみたいだから……早く戦ってみたいわ!」
その答えは姉さんもある程度予想がついてたみたいであっけらかんとしたものだった。
「では次の戦闘はサクラ様が行かれます? 丁度、次の冒険者達が罠に掛かろうとしてますよ」
モニター画面を見ながらティティが言ってくる。そこには二階にいた冒険者達が丁度部屋に入ってくるところだった。
あの冒険者達は一階は罠を全スルー出来たけど、二階では上手くいかなかったみたいだ。
「ほんとっ!? じゃあちょっと行ってくる!」
そう言うとサクラは急いで部屋を出ていった。
「あーあ、俺も行きたかったなぁ」
「まだ機会は沢山ありますよ。後で困らないように今はしっかりと温存しておいてください」
現時点で城の中には第一陣の冒険者、五十程が戦闘中か離脱している。今まではほとんどがBランク冒険者達だ。
この後三十程のAランクの冒険者。それから百を超える兵士。まだ来てないが二千の兵士がいるはずだ。
それに魔王の動向にも注意しないと……確かに今はまだ慌てる時間じゃない。
ルーナの言う通り、俺は少し落ち着くことにした。
――――
それから数時間が経った。
「セツナから連絡がありました。今回の作戦の詳細が判明したそうです」
エリーゼから王都で活動していたセツナからの連絡があったと報告がある。どうやらこちらが戦闘中の可能性を考えて、通話じゃなくメールで詳細が送られてきたようだ。
まず何故赤の国がこの城へ攻めようと思ったのかだ。俺としては前回で懲りて欲しかったのだがどうやらそれが裏目に出たらしい。
驚いたのは赤の国は魔王が死んでいて、俺たちが異邦人であることを前提に今回の計画を立てていたことだ。
何故魔王が死んだと推測されたかと言えば男の俺が城を出入りしていたからだ。あの二人には俺のことは属性以外話していいと言ったから男はバレても仕方ないが……人間の世界にまで男嫌いが浸透している魔王ってどうよ。
で、俺達が異邦人の理由だが、俺の魔力値が異常に高いことや、聞いたこともない呪いからある程度は気づかれたようだ。まぁそこは仕方ない部分もあると思う。別に隠してないしな。
そして今回の侵攻を決定づけたのは捕虜が持って帰った食料が原因だった。この世界にない貴重品と思われたようだ。
確かにこの世界にはないのは知っているし、美味しいのも知ってるけど……所詮はカップ麺だ。俺としては在庫処分になるし長持ちだからって理由だったんだが、向こうはそう判断しなかったようだ。
そもそもこの世界に来る異邦人、地球人は巻き込まれてこちらに来るのだから手荷物くらいしか持っていない。俺達のように準備して来た異邦人は初めてだ。だから地球産は全て貴重品扱いになる。カップ麺や缶詰を食べた後のゴミですら貴重品扱いだ。
結果……そんな貴重品を捕虜に渡すくらい、ここの城には物資が潤沢にあると思われた。
ただでさえ転移の秘密を抱えていて、見目麗しい魔族の女性が多数おり、その上この世界にない物資がたくさんある城。そして最大の敵である魔王が死んでいる。これで強欲の王が攻めてこないはずがない。
どうやら俺の力で脅しよりもカップ麺の魅力が強かったようだ。
次に異邦人、俺達のことについてだが、どうやら複数人いることがバレているようだ。しかも少人数、多くても二桁いってないとの判断までされているようだ。
俺の魔法【毒の契約】では相手に言葉の制限は掛けれても、嘘はつけない。嘘まで付いたら契約にならないからな。
また、内容は話せないが、俺に負けたことは伝えていいとも言っている。ただサイラッドに関しては俺と戦ってすらない。トオルのことは話せないように制限してある。だから俺に負けたじゃなく俺達に負けたって説明になる。
だから異邦人が複数いると思われるのは仕方ない。そして大人数でない理由が、捕虜に対して行った警告だった。俺レベルの魔力値を持つ異邦人が十人もいれば脅す必要もなく国が滅ぶ。
それを警告止まりにするのは人数が少ない証拠、あるいは戦える人数が少ないのではないか? とのことらしい。
確かに間違ってはいないのだが……単純に争いたくない、平和主義って可能性を考えないのかな?
ではどうやってこの城を攻め落とすのか? 魔王がいなくなっても異邦人が住んでいる。しかも最低二人の存在を把握している。
しかも魔力値は一万越え、普通に考えたら今の赤の国の兵力じゃ何人いてもどうやっても勝てないだろう。
それを二千人で行おうというのだ。よほどの精鋭なのか?
セツナの話によると、今回の作戦の本命は二千の兵士ではなく、冒険者と一緒に来た百名の兵士が本命とのことだった。
何故、囮の冒険者と本命の兵士が一緒にいるんだ? まさか冒険者も本命なのか? そう思ったが、冒険者はやはり囮で間違いなかったらしい。
まず、冒険者が囮として城の探索をする。先日同様、城へ到着前に襲われたら冒険者が戦っている間に一旦逃げて森で身を隠す。仮に城まで辿り着けたら冒険者が探索しながら出きるだけ内部の情報を得る。兵士は決して中には入らないらしい。
次に二千の兵士が第二の囮と物資の運搬だ。
二千の兵士は城へは入らず、外からの攻撃や城周りの探索がメインらしい。珍しい野菜や果物を育てている可能性や物資を城の外に隠している可能性があるからだ。
二千の兵士が外で活動すると俺達も城の外へ出ざるを得ない。そこで城の警備が薄くなった状態で精鋭の百名が内部へ侵入し物資の強奪。
占領ではなく強奪、これが今回の作戦らしい。……国の作戦とは思えないほどセコい。最初から適わないと思ったら来なければいいのに……。
ともあれ普通に考えると結構いい作戦ではないだろうか? ただ、この城が普通の城だったらだけど。ダンジョンならいざ知らず、普通に住んでいる城の中が罠だらけとは思わないよな。
過去にここに入って生きて帰った者はいないので、城の詳細は知られていない。手薄になった城で強奪し放題とか考えてたんだろうな。
しかし、これで何で兵士が二千なのか、王都からではなく辺境からの兵士なのかが分かった。囮だからだ。王都の貴族のお抱え兵士じゃなく、僻地に飛ばされた元冒険者や貴族以下の兵士を捨て駒にするため。本気で攻め込まず、時間稼ぎをするだけだから万単位の兵はいらない。
「あ、シオン様。セッちゃんがこの後どうするばいい? って追記があるんですけどどうします?」
エリーゼが説明していた横でティティがメールを覗き込んでいた。どうやらセッちゃんとはセツナのことらしい。ルーナが「仕事中は愛称ではなく名前を呼びなさい」と怒っている。
でも……セツナか。どうしようか。もう戻らせても良いような気もするが……と、そう言えばセツナには頼んでいたことがあったよな。
「捕虜の二人とのコンタクトはどうなったんだ? 確か頼んでたよな?」
「はい、どうやら会話には成功していたみたいです。二人に今回の情報の大半を聞いたみたいで……それで、二人ともこの城に帰順を求めているそうです」
「何? 帰順?」
帰順って国を捨ててこっちに降るってことだよな? グリンは裏切らないって言ってたのに……どういう心境の変化だ?
「はい。二人はどうやら奴隷でも何でもいいからと。もうこの国には未練はないと言っているそうです」
セツナの説明では、どうやら二人はただ隔離されてただけでなく、拷問もされていたようだ。
呪いを解こうとすると周りが巻き込まれる。だが、本人が話すだけなら、本人が死ぬだけで周りに被害は及ばない。ランディーが二人の目の前で死んだことからそう判断されたようだ。
その為、死んでもいいから情報を吐けと拷問されてたようだ。ただ呪いの暴走の可能性も残されていたため、担当者があまり拷問に乗り気がないのだけが救いのようだった。
兵士の話は担当者が話していたのを聞いていたようだ。兵士が出発する前に城の内部の情報を教えろと言っていたらしい。
もちろん、二人は牢に入っていただけだし、出るときは転移だったので内部の情報なんか知るわけがない。呪い以前に知らないのだから吐くことが出来ない。
結果、森を抜けた先に城から少し外れた場所に広場があることだけ報告したらしい。俺達と戦った場所だな。城のことじゃないから契約にも引っかからなかったようだ。
そこ以外に拓けた場所はないので、二千の兵士たちはまずはそこに向かう気だろう。
それにしても、情報を仕入れるためだけで平気で仲間を犠牲にしようとするとは……やっぱり赤の国は腐っているみたいだ。
「帰順を許すかどうかは別にして、もう一度奴らと話したい。もし二人を連れてくることが可能から連れてきてるように言ってくれ。ただし自分の命が最優先のため、難しいようなら無理はせずに一人で帰還するように伝えてくれ」
「畏まりました。それではセツナにはそのように指示します」
そう言ってティティはセツナに連絡する。
「あの二人を助ける予定で?」
横にいたルーナが聞いてくる。
「仲間にするかはまだ確定ではないけどな。異邦人や魔族に偏見を持たないようなら新しい村の警備にでもしていいかもな」
最初の戦闘中や最初の尋問の時はともかく、その後の数日間は牢に居た時や解放時の二人の態度からは、あまりこちらに対する偏見は感じなかった。
だから、もし本当に魔族にも偏見がないのなら……考えてもいいとは思う。まぁ他の奴らの意見も聞かないといけないとは思うが。
俺だって無理に敵対したいわけじゃないからな。可能ならこれが人間と魔族との最初の架け橋になってくれればと思う。
――――
「ところで、冒険者達と本命の兵士はどうなっている?」
「最初に入ってきたBランク冒険者は壊滅しました。今はAランク冒険者が侵入中です。兵士は冒険者がいなくなったら森の奥へ引っ込みました。おそらく身を潜めるのでしょう。数人だけ冒険者の報告待ちで城の外で待機しています」
姉さんとトオルの活躍でBランク冒険者は全滅したようだ。姉さんの初陣も危なげなく終わったようだ。だが、姉さんは初めて自分の手で人を殺したためか顔が青ざめており、少し休憩すると言って自室に戻っていると報告があった。
後でフォローした方が良いかも知れないな。
Aランク冒険者は二階までは簡単に抜け、現在は三階にいる。実は三階以降の罠の確認もしたいとのことで、連中の中にいるリンを使い、たいした罠も発動させずわざと三階に送り込んだのだ。
リンには三階に行って早々、罠にかかった振りをしてもらい離脱してもらった。
今までリンのお陰で切り抜けてきた冒険者達はリンが居なくなることで苦戦し始めた。三階からは脳筋には通れないようになっているし、罠も強力になっている。最初よりも人数が着実に減っている。
因みにアインス砂漠やツヴァイス平原への罠は発動させてない。状況がわからなくなるし、待機している第二メイド隊が可哀想だからな。
それよりは俺達が戦い経験値にしたいというのもある。
次こそは俺の出番だと思ってるのだが……。
「これからどうしようか?」
とりあえずルーナに相談してみる。
「シオン様、戦いたがってましたよね? どうやら二千人の兵士が来るそうですよ? ですからシオン様は一人で外に行って倒してきて下さい」
「は? 俺一人で? 二千を相手にしろと?」
流石に一人で二千は結構無理ゲーな気がする。
「ええ、シオン様なら容易いでしょう。ですので条件を設定します。まず、【毒の雨】や【毒の霧】のような広域魔法は使用禁止です」
しかも縛りプレイだ。今回のように森の中などでは【毒の霧】は効果は抜群なのだが。
「そんな魔法で楽して敵を倒しても経験にはなりません。ズルはしないで倒してください。まぁ範囲魔法以外は使用しても構いません」
これは何を言っても無駄だな。
「分かったよ。で、制限は広域魔法だけでいいのか? 防御魔法は大丈夫何だよな?」
「あら? 防御魔法も使わない方が良いですか?」
俺は左右に大きく首を振る。冗談じゃない。ルーナなら平気で追加しそうだ。
「ふふっ、冗談です。防御魔法は使っても良いですよ。ですが、上手く制御しないと、魔力が枯渇してしまいますよ」
どうやら今回は持久力を鍛える訓練にするようだ。確かに二千を相手に全力出していたら途中で体力や魔力が切れてしまいそうだ。上手く制御しながら戦う必要がある。
「でも流石に個別で二千を倒していると、途中で逃げるやつもいるんじゃ……」
あっ、でももう隠すことなんてないから逃がしても問題ないか?
「もちろん逃がさないように頑張ってください。逃がしたら特別訓練を行います」
特別訓練と聞いて同じ部屋にいた通信隊の子達は一斉に小刻みに震え始めた。前回のシャルティエもそうだったが特別特訓ってメイド全員のトラウマになってるんじゃないのか!?
おい、ティティが物凄い可哀想な目でこっちを見てるよ! 何手を合わせてるんだよ! 声を出さずに口を動かしてる。何々『御愁傷様?』余計お世話だよ!
エリーゼは可哀想を通り越して哀れみの顔してやがる。『こいつ死んだな?』って思ってそうだ。
実際俺も特別訓練は何度か受けたことがある。過去の特別訓練はどれもヤバいのばっかりだった。今回もきっとろくでもないだろう。
「いやいや、流石に俺一人で二千を相手に一人も逃がすなってのは無理ゲーな気が……せめてトオル! トオルも一緒に!」
せめて道連れを……いやトオルと二人ならクリアだって夢じゃないはず!
「トオル様には城の中の敵を相手にしていただきます。Aランク冒険者と百名の兵士。もちろんシオン様同様縛りを設けます。それからさっきも言いましたが、シオン様はご自身を過小評価しております。自信を持つためにも一回しっかりと戦ってみてください」
くそっ! 俺は立ち上がり部屋を出ていこうとする。
「シオン様?」
突然出て行こうとした俺に不安そうな顔してルーナは声をかける。やりすぎた? とでも思ったのだろうか?
「戦闘に備えて準備してくる。後は任せていいか?」
その言葉にルーナの顔が笑顔になる。
「畏まりました。城側の冒険者と兵士はお任せください」
ルーナがいる限り城の方は大丈夫そうだ。




