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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
三章 機神と機工
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長杖

「やっぱりそういうのがいいの?」

「まあな。俺みたいに非力だけど頭を使って戦うやつには選択肢っていうのは立派な武器だ。多いにこしたことはないが、やっぱり値段がなぁ……」

「ちなみに予算は?」

「五百ルミル強ってとこだ。今までコツコツ貯めてきたんだが、やっぱりいいところのは根が張るなぁ……どっかの誰かは同額を語り部にポンと出しやがったけどよ」


 ジトッとした目で睨まれてスイッと視線を逸らした。いやだって財布の中にはガイウスおじさんからもらった分と臨険士(フェイサー)として稼いだ報酬合わせて五千ルミル以上残ってたし、ヴィントの吟遊はそれくらい払っても損はないって思わせるレベルだったし。


「……いくらか出そうか? ボクの財布、まだけっこう余裕あるし」

「施しは受けねぇ! ――って言いたいところだが、この機会だし借りれるなら遠慮なく借りちまうぞ? いいのか?」


 なんとなく居心地が悪くてそんなことを申し出てみると、ケレンは格好いいことを行ったかと思った次の瞬間にくるりと手の平を返した。さすがはケレンと思ったけど、それでも念押しするように聞いてくるのはやっぱり多少遠慮があるんだろうな。


「仲間の戦力強化は投資してもいい案件だと思うんだ。そうしたらパーティでの負担が軽くなるだろうし、そうしたらボクも楽できるしね」

「いや、楽できるっていうかそれ以前にお前、今のところ片っ端から片手間であしらってるだろうが。あれ負担になってるのか?」

「いつか別行動があった時とかに、ケレンがしっかりした装備を持ってるってことでボクの心の負担が減る」

「そうかよ……」


 ケレンの追求に正直なところを述べると、何か諦めたかのような顔をされた。解せぬ。


「――それで、偉人のお孫様としちゃこいつはどうだ? これくらいならまだ自腹で買えるんだがよ」


 そう言いながらケレンはさっきから持っている片手杖(ワンド)魔導器(クラフト)を指し示した。値札には五百四十ルミルと少し予算オーバー気味な数値が書き込んである。それでも他と比べればこの店では安い部類に入ってるんだよね。それが妥当な値段かはわからないけど、出来を見れば一つの基準にはなりそうだ。ふむふむ、なるほど――


「相場とかはわからないけど、それも悪くはないと思うよ。魔導回路(サーキット)もかなりの密度で書き込まれてるし、相応の効果は出るね。ただ、やっぱり描画面積の問題で片手杖(ワンド)型だと限界があるよ。それだと術式からして『爆破』が最大威力になるけど、せいぜい石の壁なら壊せるくらいだね。それでもあえて片手杖(ワンド)型の利点を上げるなら取り回しの良さかな? 狭い場所でも照準しやすいだろうし、威力が低いってことはそれだけ余計な被害を出さずにすむしね」

「お、おう、そうか」


 あ、ちょっと一気に喋りすぎたかな? まあでも、ケレンの顔には若干戸惑いが浮かんでるけど、言ったこと自体は理解できてそうだから気にすることはないか。


長杖(ロッド)型になるけど、これなんか良さそうだと思うよ」


 そう言いながらさっきから目を付けていた一本の長杖(ロッド)型の魔導器(クラフト)を手に取った。装飾を施された木製の柄に魔導回路(サーキット)が刻まれた杖頭が付いているっていうこの中じゃまさに杖って感じのオーソドックスな外見なんだけど、その杖頭が少し特徴的だ。コの字の形をした支柱に支えられるような状態で間の空間に魔導回路(サーキット)付きの円盤が配置されている。さらに支柱のコの字の上下が繋がっている部分が六角柱になってて、それぞれの側面に一つずつの六つ、円盤の裏表二つも合わせて全部で八つの魔導式(マギス)が搭載されていることになる。

 これの何がいいかっていうと、円盤にはその描画面積を余すことなく使った高度な魔導式(マギス)、支柱の方には片手杖(ワンド)型に搭載されるのと同じくらいの規模の魔導式(マギス)となっていて、要するに効果の大小で使い分けることができるようになっている点だ。さらには円盤の方には『豪炎』と『雷撃』っていう攻撃的な魔導式(マギス)だから、単純火力としてもなかなかのもの。大型化してもある程度なら両手で保持できる長杖(ロッド)型ならではの造りってところだね。ついでにちゃんと蓄魔具(カートリッジ)に対応している――というか見た感じだと、武器として使う魔導器(クラフト)は全部蓄魔具(カートリッジ)を使える構造になってるみたいだ。


「これならその時の目的に応じてケレンが使い分けできるし、威力のある攻撃もできるよ」

「な、なるほど。……ああ、確かにこりゃうってつけだな。高威力の『豪炎』と『雷撃』に『水流』、『風刃』、『爆破』、『操土』、『障壁』、『応急』か。簡易とはいえ、治療系があるのはありがたい――げっ!?」


 ボクが手に取った長杖(ロッド)型を見たケレンが元あった場所に展示されている解説に目を通して、最後に書かれている辺りを読んでうめき声を上げた。何かと思ってボクも見てみると、そこに書かれていたのはこの長杖(ロッド)型の金額だ。なんとお値段三千二百四十ルミル。ケレンがコツコツ貯めて用意した予算の約六・五倍という素敵な桁が並んでいた。まあボクの手持ちなら余裕で買えるんだけど、これ一つでこの前の『幻惑狼(ミラージュウルフ)の群れの討伐』っていうシルバーランク依頼の報酬がほとんど飛んでいくことになる。

 ……ということはこの長杖(ロッド)型、シルバーランクの依頼で稼げるレベルの人向けってことになるのかな? 少なくともカッパーランクになりたての人がおいそれと手を出せるような感じじゃなさそうだ。でもこれで杖型の平均よりやや高いくらいの値段みたいだから、そもそもこのお店自体のランクが高いのかな?


「どうする? 他のも見繕う? 見た感じじゃボクがよさそうって思えるやつは似たようなお値段だけど」

「……ちょ、ちょいと考えさせてくれ」


 一応確認を取ってみると、ケレンはものすごく悩ましげな顔で唸りだした。まあ大金みたいだから躊躇う気持ちはわかるけど、だからといって武器の良い悪いは臨険士(フェイサー)をやってたら命に関わる問題だ。難しいところだよね。まあ急かす理由もないし、ゆっくり考えてくれればいいか。

 ……そういえばリクスとシェリアは何してるんだろう。一緒に来たはずだけど、さっきから会話に入ってくる様子がないんだよね。

 そう思いながら店の中を見回してみると、普通の剣やナイフなんかをそろえている辺りに二人の姿を見つけた。どうやらボクとケレンが魔導器(クラフト)を物色している間に自分たちが使う武器の方を見ていたみたいだね。せっかく一緒に来たのに、待ちぼうけを喰らわせちゃってたわけじゃないみたいで一安心だ。パーティ仲がいいのはボクとしても喜ばしい――


「――これもすごい! 触れるだけで斬れそうだけど、刀身自体は細いな! 速度を乗せて切り裂くのが目的かな!?」

「……そうね」

「あ、こっちもいいな! 剣先の方が広くなってるから威力が乗るようになってる! でも取り回しに癖が出そうだな、おれには扱うのは難しそうだ!」

「……そうね」

「こ、こっちは正統派って感じだ! 刀身の幅が同じだし、おれが買い換えるとしたらこんな感じのがいいかな!」

「……そうね」


 ちょっと訂正、会話を拾ってみたけど間違っても和気藹々とした雰囲気じゃないよね、これ。リクスがいろいろな剣を手に取っては感想を言ってるのに対して、シェリアはおざなりに見てから適当に相槌を打ってるだけだった。なんか会話を途切れさせまいと必死になって話を振ってるように見えるけど、気づいてリクス、シェリアは全然興味を持ってないよ!

 いやまあでも、見方を変えれば不器用ながらも仲間に気を遣うリーダーと、余計なお世話と言わんばかりの顔をしつつも律儀に付き合ってあげてるメンバーってことになるから、むしろこれは良好な関係を現していることにな……はず!

 そんなことを思いながら眺めている間も二人のやりとり――って言っていいのかもわからないけど、とにかくそれはずっと続いている。うん、さすがにちょっとリクスが可哀想になってきた。ケレンが悩んでいる間にちょっと手助けに回ろうか。

 この後、ボクが二人の間に入ることでシェリアの口数が増えて、なんとか会話が成立するようになった。そのことにリクスは安堵半分悔しさ半分って感じの顔になっていたけど、なんでその悔しそうな顔をボクに向けたの? 解せぬ。

 ちなみにケレンは散々悩んだ結果、ボクから二千七百ルミルの融資を受けて最初にボクが勧めた長杖(ロッド)型の魔導器(クラフト)を買った。差額の四十ルミル分はこれまで使っていた片手杖(ワンド)型を下取りにするつもりだったみたいなので、もったいないからついでにと思ってボクが買い取ることで補填、魔導回路(サーキット)がスカスカで改良の余地がありまくる魔導器(クラフト)を手に入れることに成功した。これなら遠慮なく改造し放題だ、後の楽しみが増えたね。

 無事に武器の更新ができたケレンからは「俺の名誉にかけてもいつか絶対返す!」って感謝の言葉と共に宣言されたけど、最悪ボクはお金なんてなくてもなんとかなるから無理のない程度にしてよ?




 プルストに到着してから三日目の朝。今日は待ちに待った魔導技術博覧会(マギス・エクスポジション)の開催初日だ。昨日も昨日でこの街を観光して楽しんだけど、それはそれ、これはこれだ。


「今日は展示だけなんだよね?」

「うん、術式理論とか研究とかの発表は明日からよ。でもちゃんと持ち込まれた魔導器(クラフト)魔導体(ワーカー)の稼働実演なんかはあるから安心してね」


 どうせだからと宿から博覧会の会場へと一緒に移動しているアリィに日程を確認してみると、宿に置いてあった資料なんかを詰め込んでパンパンになった鞄を抱えながら楽しげに返事をしてくれた。なるほどねー。たぶんだけど、初日はそれぞれ様子見しつつ気になる技術を使っている相手を見定めて考察し、翌日以降の研究発表会で詳しい理屈を学べるようにって感じなのかな? わざわざ発表会なんてするほどだし、魔導や機工分野は技術の拡散を積極的に行っているらしいね。それとも、『他じゃ真似できないだろう』っていう自信の現れなのかな?

 ちなみに、会場へ向かう一行にはボクとアリィの他、アリィが連れてきた助手の魔導士及び機工士五人と、『暁の誓い』全員が含まれている。助手はともかくなんで他の三人も一緒かというと、ボクが魔導技術博覧会(マギス・エクスポジション)に参加したいって伝えたところ、シェリアが当然のように「わたしも行くわ」と同行を希望し、ケレンも「せっかくだし、最新技術とやらを拝んでみたい」と意思表明。すると残ったリクスが「おれも興味あるから一緒に行っていいかな?」と聞いてきたので、念のためにアリィに三人が参加したがってることを伝えてみると二つ返事で承諾が取れたのだ。というのも、展示に関しては一般の人にも公開されているとのこと。

 さすがに研究発表会の方は関係者のみだそうだけど、『難しい話には興味がない』と三人とも特に気にしていないようだった。もちろん、ボクはアリィの関係者として発表会に参加する気満々――というかむしろ本命はそっちだ。確かにイルナばーちゃんは天才的な魔導師(プロフェス)だったかもしれないけど、人が違えば発想も違うのは当然だ。どこかの誰かが何か面白い魔導式(マギス)を開発してるかもしれない。実に楽しみだ。


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