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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
三章 機神と機工
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開催

 そんな感じで仲良く博覧会の会場へと向かう。途中助手の中にいた女の人を口説こうとしだすケレンとそれを必死に止めようとするリクスの様子を眺めつつ、いざという時は強制的に黙らせようと身構えている内に目的地が見えてきた。プルストの大通りに面している二階建てのとても大きな建物で、ガイウスおじさんのお屋敷と比べても遜色がなさそうなくらい立派だ。なんでもこの街でたびたび開催される職人や技術者の品評会にも利用されるそうで、建物の中は広い空間が取られていたり舞台みたいな設備もしっかり整えられているとのこと。さすがは工芸都市って感じだね。

 そんな博覧会会場の入り口辺りには展示を見に来たのか、開場までまだ時間があるっていうのに一般の人がかなりの数たむろしていた。イベントごとがあると事前に人が並んだりするのはこっちの世界でも同じらしいね。なんか空瓶とか空の食器とかを持参している人がいるみたいだけど、まさか徹夜で並んでたりしたのかな?

 そんな人混みを後目に、ボクたちは別に設けられている関係者入り口に回って建物に入った。三人ほど関係者と言い張るには厳しいのがいるけど、そこはついでってことでアリィが関係者入り口で警備している人に話を通すとあっさり通行許可が出た。

 しばらく通路を進んで出たのは一階部分をまるまるぶち抜きにしたような広々とした部屋だった。高めの天井を支える柱が一定間隔で立ち並んでいる間に、所狭しと場所を取って無骨な外見の魔導体(ワーカー)や珍妙な形をした魔導器(クラフト)なんかを並べたり、あるいは点検や整備を行っている人たちがたくさんいる。誰も彼もが気合いと熱意に満ち溢れた顔をしているところを見れば、その人達がこの魔導技術博覧会(マギス・エクスポジション)にかける情熱の一端が伝わってくる気がした。


「わたし達の工房の場所はこっちよ!」


 この雰囲気に影響されたのか、声を弾ませるアリィの案内に従って部屋の一画にやってきた。他のブースと比べてけっこう広めに確保されている無人のスペースには、埃よけのシートみたいに大きな布が被されている展示品らしき物体がすでにいくつも並んでいる。

 助手の人たちに手早く指示をしながら被せているシートを取り外していくアリィ。せっかくここまで来たんだし、シートを外すくらいならできるだろうとアリィの許可を取ってからパーティ総出で手伝った。そうして次々と顔を出すのはどれもがシンプルな外見をした、見るからに実用一点張りといった風情の魔導器(クラフト)魔導体(ワーカー)。イルナばーちゃんも機能がしっかりしてるなら外見は二の次って感じだったし、弟子のアリィも似たようになるのは当然かな。


「この辺の展示品、どんな機能があるの?」

「ええっと、これは『洗浄機』っていって、中に汚れを落としたい物を入れて起動させると高温の蒸気を発生させて、それを高速で循環させることで綺麗にするの! 細かい溝とかに溜まってこびりついた汚れなんかも綺麗に落とせるのよ! ただ、今のところ熱に強くて頑丈な物じゃないと痛めたり変形したりしちゃうから、そこはまだまだ改善の余地があるわ。そっちの大きいのは『冷室機』っていう自信作! 部屋を『保冷庫』みたいにするって言えば近いかしら? もちろんあそこまで冷たくするわけじゃなくて暑いときに過ごしやすくするための物なんだけど、その過ごしやすい温度にするっていうのが難しいのよ。部屋の大きさとか元の気温によって変わるからなかなか決まった術式を組めなくて大変なんだけど、こうやって実物を見せたら誰かがいい方法を思いつくかもしれないから、すごく楽しみなのよ!」


 さすがに魔導回路(サーキット)が見えないからどれがどんな物かわからなかったので尋ねてみると、アリィは点検する手を止めることなく嬉々として答えてくれる。その様子は本当に楽しそうだけど、点検の手は止めないままに合間合間で助手の人たちに指示を飛ばしている。うーん、みんなを指揮する様が胴に入ってるなー。この辺はさすがに有名な工房で魔導師(プロフェス)をやってるだけはあるね。イルナばーちゃんはどっちかというと自分で全部やっちゃうタイプだったし、実際にその方が早かったんだよね。


「それであっちにあるのが――」

「おやおや魔導師(プロフェス)シェンバー、お元気そうで何より。相変わらず愚にも付かない魔導器(クラフト)を作っているようですな」


 アリィの嬉々とした解説を聞きながら展示品を眺めていると、不意にそれを遮って揶揄するような声が聞こえてきた。なんだろうと思ってそっちを見れば、ちょうど一人の男の人がシュルノーム魔導器(クラフト)工房の展示スペースに踏み入ってくるところだった。見た感じ六十歳くらいかな? やけに装飾の多いローブみたいな服を着ていて、分厚い本を小脇に抱えている。そしてその人の後ろには何人かの研究者っぽい人たちがお供よろしくぞろぞろとひっついて来ていた。


「えっと……お久しぶりです、魔導師(プロフェス)バーストン」


 その男の人を出迎えるように作業を中断したアリィが進み出たけど、その顔にはものすごく困ったような表情が浮かんでいた。そしてそれを見た助手の人たちも今やっていることを切り上げてはなぜか次々とアリィのそばにやってくる。しかもみんなそろって男の人に険しい視線を向けているんだけど。


「まずは今回も『シュルノーム魔導器(クラフト)工房』が魔導技術博覧会(マギス・エクスポジション)に無事参加できたことを言祝ぎましょうか」

「あ、はい、ありがとうございます。『ダルクス武装研究所』も連続参加なんですね」

「ふん、当然でしょう。なにせ我が研究所は戦術魔導器(クラフト)に関して王国随一の実績を誇っているのですからね」


 とりあえず少し離れたところから様子を見ている間に男の人と挨拶を交わすアリィ。……知り合い、なのかな? でもなんか偉そうで態度悪いよねあの人。


「まったく、相変わらず高い技術を持ちながら日用魔導器(クラフト)程度の物しか作らないとは、まったくもって嘆かわしいことです。それでいて栄光ある魔導技術博覧会(マギス・エクスポジション)に参加を許されるのですから、宝の持ち腐れだと思いませんか?」


 あ、うん、今の台詞でわかった。こいつ絶対イヤなやつだ。


「そんなことないですよ。日用魔導器(クラフト)はみんなを幸せにすることができる素敵な――」

「くだらないですね。未だ魔物の蔓延る世界、争いは絶えることもなく、そんな物がどれほど役に立つと? どれほどの者を救えると? 理不尽を払う力を作り出せるのにそれをしないのは怠慢でしょう。そう思いませんか?」

「……『責任を持てないのに、何かを傷つけるための物を生み出すな』と、私はお師匠様から教わりましたから」

「くだらない、実にくだらない話です。我々が創り出すのは道具ですよ? 道具など使い手次第、創造主たる我々が関与することではありません。その程度のことにかかずらって技術を持て余すなど愚の骨頂! まったく、魔導機工技匠(マギスマエストラ)などと呼ばれた者がその程度のこともわからないとは、実に嘆かわしいことです」


 アリィの言葉に対してそう言いつつ、馬鹿にしたような仕種で大げさに首を振る男。後ろに控えるお供たちも馬鹿にしたような顔で何度も頷いている。オーケーわかった、あいつら喧嘩売りに来たんだね? 言い値で買うよ?


「確かに戦術魔導器(クラフト)があれば、少し練習するだけで誰でも魔物を倒すことができると思います」


 ちょっと腹に据えかねて踏み出しかけたところで、アリィのはっきりとした言葉を聞いて足を止める。


「――でもそれは同時に、誰もが誰かを簡単に害せてしまうことになります。それらが魔物だけに向けられるならそれもいいと思います。でも現実にはそうじゃないんです。私も、お師匠様も、みんなに笑顔になってほしいから作るんです。だから、誰かを悲しませることになるかもしれない物を作るわけにはいかないんです」


 蔑むような相手の目を正面から見返して、なんの迷いもなくきっぱりと言い切るアリィ。まわりに集まっている助手の人たちもアリィの言葉を聞いて真剣な顔で頷いている。やだ、ボクの姉弟子が格好いい。さすがはイルナばーちゃんの一番弟子だ。

 そのまましばらく睨み合うように視線が交わっていたけど、相手の男がフンと鼻を鳴らした。


「度々教えて差し上げているというのに、愚かなことですね。この程度の者が我が国で指折りの魔導士に数えられている現状が、私としてはまったくもって嘆かわしい」

「ごめんなさい。でもこれはイルヴェアナ・シュルノームの弟子として、絶対に譲れないことなんです」

「弟子も弟子なら師も師ですね。何が史上最高の魔導機工技匠(マギスマエストラ)ですか。自らの成すべきことを成そうとしない臆病者のくせに」

「……お話はそれだけですか? もうすぐ開場ですし、お互い展示品の点検をすませた方がいいんじゃないですか?」

「言われるまでもありません。せいぜいくだらない物で民衆の機嫌でも取っているといいでしょう」


 それだけ言い置くと、男と取り巻き連中はシュルノーム魔導器(クラフト)工房のブースから出て行った。それを見送ったアリィがほっとしたように肩の力を抜く。


「――さあみんな、気を取り直して展示の準備を終わらせましょう! もうすぐ開場ですよ!」


 アリィの言葉を皮切りにそれぞれ持ち場に戻る助手の人たち。さっきまでよりも更にやる気が満ちているように見えるけど、さっきの男に自分たちの作品を馬鹿にされたのが効いてるのかな?


「アリィ、大丈夫?」

「ウル……ええ、大丈夫よ」


 ひとまず何事もなく終わったようだから、暴言を真っ向から受けていたアリィが心配になって駆け寄りながら尋ねると、当人は言葉通りなんでもないことのように笑って見せた。

 ホントに大丈夫? ボクもムカつくレベルで言われてたけど。特にイルナばーちゃんのことを馬鹿にした時とか思わず殴りかかりそうになった。そんな不穏な気配を感じ取ったのか、リクスとケレンが慌てて後ろから羽交い締めにして来なかったらたぶん間違いなく突撃してただろうね。


「さっきのムカつく奴、誰なの?」

「えっと、『ダルクス武装研究所』の魔導師(プロフェス)をしてらっしゃるダルクス・バーストンさんっていうの。ブレスファク王国を代表する魔導士のお一人で、主に戦術魔導器(クラフト)に使う攻性魔導式(マギス)の研究開発の第一人者よ」

「攻性魔導式(マギス)ねー。あんな奴が組む術式なんてろくな物じゃなさそうだけど」

「そんなことないわ。あの人が組み上げた大規模な術式を見たことがあるんだけど、計算され尽くした配置の針先で描いたような緻密な魔導回路(サーキット)は、お師匠様と比べてもいいくらいだったわ。わたしじゃあんなに細かで正確なのは描けないと思うの」


 ボクがうさんくさげな声を上げると、意外にもアリィはダルクスとかいう奴のことを褒めた上で尊敬の念をあらわにした。というか、イルナばーちゃんのと比べられるってホント? あの見る人に対する嫌がらせじゃないかってくらい細かくて複雑な、もしこんな迷路が現実にあったら入ったが最後二度と出てこられなくなるんじゃないかってくらいのあれと? 機工の身体と能力を持ったボクでさえ術式の判別に少し時間を取られるようなのを嬉々として書き上げるのはばーちゃんくらいかと思ってたけど、世の中は広いんだね。


「……それで、なんでそんなすごい人が嫌みったらしいことだけ言いに来たの?」

「それが……わたしにはよくわからないの。昔はたまにお師匠様が魔導技術博覧会(マギス・エクスポジション)に参加してた時とか、ものすごく熱心に何か話してたんだけど、お師匠様が隠居してからはわたしや工房の人たちに対してあんな感じの態度になって……」


 なにそれ? イルナばーちゃんのことだから面倒くさがって適当に相手してる様子がはっきり思い浮かぶけど、まさかそれの八つ当たりとか? だとしたらばーちゃんが隠居してから二十年、ずっとそんなことしてるの? もしそうなら人として人格破綻してない?


「世も末だねー」

「えっと、確かに少し困った人だけど、研究者としては本当にすごい人なのよ? わたしみたいに日用魔導器(クラフト)を作ってるだけじゃしないような発想とか着眼点も持っていらっしゃるから、わたしも『ダルクス武装研究所』の展示や研究発表は楽しみにしているの」


 ボクのダルクスに対する評価を察したのか、やんわりとフォローを入れてくるアリィ。でもいくら研究者としてすごいからって、人として付き合いたくない感じなのは助手の人たちの苦々しげな顔を見るまでもなくはっきりとしてるんだよね。これはあれか、奇人と天才は紙一重ってやつか。

 イルナばーちゃんも奇人に分類されるような人だったけど、ぶっ飛んでいる方向性が全然違う。アリィは研究者としてなら比べてもいいって言ったけど、ボクとしては断固として同列に扱いたくはないね。

 ……よし決めた。あいつのところの展示とか研究発表とかをつまびらかにして、あいつが馬鹿にしたイルナばーちゃんとは格が全然違うってことを証明してやろう。


「――ふっふっふ、首を洗って待ってなよ?」

「……ウル、なんだか笑い方が恐いけど、大丈夫? 変なことしないでね?」


 ダルクスが立ち去った方角を見ながら笑いを漏らすボクに、アリィがおそるおそるといった様子で釘を刺してくる。大丈夫だよー、ちょーっと粗探しするだけで物理的に壊すとか余計なことはしないよー?



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