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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
三章 機神と機工
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言伝

 お待たせしました。投稿再開&三章開始です。

「はー、やっと終わったな。まったく、今回は妙なことが多すぎるぜ」


 肩の辺りをほぐすようにもみながら呟かれたケレンのぼやきに、ボクは気づかれないようにそっと視線をそらした。そうすれば夕暮れ時の臨険士(フェイサー)組合(ギルド)の中、建物の中を埋め尽くしそうなほどの人混みが自然と目に入る。

 ボクたち『暁の誓い』を含めたここにいる全員が、ついさっき『カルスト樹林の調査』っていう大規模な依頼から帰ってきたところだ。発端は『暁の誓い』がカルスト樹林で小鬼(ゴブリン)とは思えないような行動をする小鬼(ゴブリン)の、桁違いなほど大きな群を見つけたっていう報告から。

 どうやら即座に緊急事態だと判断されたようで、組合支部長(ギルドマスター)のベリエス直々に調査隊の結成が宣言され、三日のうちにカッパーランク以上の臨険士(フェイサー)が集まった。もちろん、報告者で現地の最新情報を知っている『暁の誓い』はほとんど強制的に参加だ。

 そうして集められた大所帯が組合(ギルド)の用意した馬車に揺られて目的地にたどり着き、いざ調査と森へ踏み入って直面したのが直径三百ピスカの綺麗な円を描く更地だった。その内側には文字通り草の一本も残されておらず、外周付近では立ち並ぶ木がまるで強い力に押されたように円の外側へとかしいでいる。

 その常識外れの光景に、それまでは確かに魔物が少なすぎるといぶかりながら警戒していただけの臨険士(フェイサー)たちはほとんどが愕然とした。そして我に返ると未知の脅威の存在に極限の緊張を強いられながらも周辺を探索していったけど、散発的に襲いかかってきた小鬼(ゴブリン)がいたくらいで、幸か不幸かあの光景を作りだした存在を発見するには至らなかった。

 その間にも『暁の誓い』が先導した一団が、あまりにも規模の大きな小鬼(ゴブリン)の群が暮らしていたという洞窟を隅々まで調べ上げ、確かにここに百では利かないような小鬼(ゴブリン)がいたと結論づけた。けれど今度はその姿が忽然と消えているという謎に遭遇したわけで誰もがいぶかったけど、周辺一帯を人海戦術で詳しく調べ上げていったことで最終的には次のような結論に至った。

 いわく、数のふくれあがった小鬼(ゴブリン)の群が何らかの理由で侵攻を開始したところ、たまたま下級竜(レッサードラゴン)に匹敵する何かと遭遇し、逆鱗に触れるかしてまとめて吹き飛ばされた。そしてその結果生じたのがあの空白地帯であろう。そして当の(ドラゴン)か何かはすでにその場を飛び去った。

 どうひいき目に見ても都合がよすぎる話に聞こえるけど、百匹単位の小鬼(ゴブリン)が移動した痕跡とそれが空白地帯で完全に途切れているっていう事実があるため、どう考えてもそれくらいしかつじつまの合う話はない。

 四日にわたる調査の末に紆余曲折や些細なトラブルはありつつもそういうことに落ち着き、当分は小鬼(ゴブリン)の残党や謎の危険生物に警戒が必要だろうという話になったそうだ。そうしてほとんど成果なしとも言える調査が終わったのがつい昨日で、一泊の後に撤収、現在に至る。

 ……うん、事情を知っているというか終始関わったというかむしろ一連のことをやらかした身としては、かなーり肩身の狭い思いをした一週間だった。特に『下級竜(レッサードラゴン)に匹敵する』云々なんて評価された時には顔から火が出そうだった。やろうと思えばできるけど、さすがにそこで冗談を挟もうなんてするほど常識知らずじゃない。同じく徹頭徹尾関わっていたシェリアの向けてくる視線が妙に生暖かかった気もして、居心地の悪さに拍車がかかっていた。

 そして同時に思った。下級竜(レッサードラゴン)ならあれくらいできて当然みたいな雰囲気だったけど、じゃあ下級じゃない(ドラゴン)ならどれほどのものなのかと。兵器クラスの破壊を撒き散らせる生物が闊歩しているとか、さすがはファンタジーな世界だ。

 ちなみに、リクスとケレンにはボクがやらかした頃について話してはいない。イバス村まで距離があったおかげか一連の騒動はそこまで届いておらず、せいぜいがサンダロアで『核撃』を撃ち込んだタイミングでたまたま起き出していた村人が遠目にその閃光を目撃した程度だったようだ。

 そのことで朝方少し騒ぎになってはいたようだけど、報告を急ぐ必要があると思っていた二人は特に触れることもなかったので、無事流された服を回収して朝までにちゃっかり戻ってきていたボクとシェリアは何も言わないまま組合(ギルド)に戻った。今回の大規模調査で村人の証言も考慮されていたけど、それこそ何かの攻撃が炸裂した瞬間を偶然見ただけだろうと深く追求されることはなかったからバレてはいないはずだ。今の段階であれがボクの仕業だってことを伝えるのはさすがにためらわれるからね。

 そんな感じで無事に大規模調査から帰ってきたボクたちは、現在達成報酬の受け取りの順番待ちをしている。なにせ今回の依頼、レイベア支部で活動しているカッパーランク以上の臨険士(フェイサー)の大半が駆り出されていたんだから、その全員に報酬を渡そうと思ったら相応の時間がかかる。特に急ぐ理由もなく、最近パーティとしてはようやくカッパーランク相当になったばかりの『暁の誓い』はおとなしく後ろの方に並んだわけだ。


「しっかし本当になんだったんだろうな、あの更地を作ったやつ」

「おれはやっぱり(ドラゴン)だと思うんだよな。おれ達が森に入った時は全然そんな強力な魔物がいる気配なんてなかったのに、それで三日四日の間にあれだけのことをして姿を消すなんて空でも飛ばない限りできないだろう?」

「だったら俺らは相当運が良かったってことになるな。一日予定が違えばそいつと鉢合わせしてたかもしれないんだしよ」

「そうだな。でも、いつかはおれ達もそんな魔物に対峙できるようになりたいよな」

「そうなるのにどれほどかかるかわからないけどな。なんせ俺らは凡人なんだし」

「いつかはなれるさ! それであんなことをできる魔物相手にも怯まず立ち向かって――」

「あ、ほら、もうすぐボクたちの番みたいだよ!」


 リクスとケレンの熱の籠もったやりとりを聞いているうちにいたたまれなくなって、ちょうど前のパーティの手続きが終わりそうな様子だったからこれ幸いと思って声を上げて遮った。そんなボクをシェリアは微妙な温度の目で見つめている気がするけど、気にしたら負けだと思う。

 そして一つ前のパーティが報酬の受け取りを済ませてボクたちの番が来た。それぞれの登録証(メモリタグ)を受付嬢の人に渡して依頼完了の手続きをしてもらい、調査隊に加わった報酬を受け取る。今回は組合(ギルド)からの依頼ということで報酬は一人頭八百ルミルとお安めだけど、必要経費は全額組合(ギルド)が負担してくれたのでこれは完全に手取り分だ。大人数だったおかげでたいした危険もなかったし、総合的に見て割のいい依頼だったんじゃないかな?


「――以上で大規模調査の分の手続きは終わりです。お疲れ様でした。それと、シェリアさん」

「……何?」


 無事に完了手続きと報酬の受け取りを終わらせて拠点にしている『空の妖精』亭に戻ろうとすると、受付嬢の人がシェリアを呼び止めた。


「今回の依頼達成で規定の昇格点を満たしましたので、他の条件を満たせばシルバーランクへの昇格試験を受けることができます。以降はそのことを忘れず依頼を受けることをおすすめしますね」

「……もうそんなになってたのね」


 受付嬢の人が言ったことを聞いたリクスとケレンが目を見開く中、当のシェリアはわりとどうでも良さそうに呟くだけだった。


「シェリアの歳でシルバーランクって早いんじゃないの?」

「……さあ?」

「それはもう、順当に昇格していった人の中では近年稀に見る早さですよ! レイベアにはロヴさんっていう異例中の異例がいますけど、それに次ぐと言っても差し支えないくらいの異例ですよ!?」


 あまりにも感動が薄い様子だったから気になって尋ねてみたところ、本人は首をかしげるだけだったのを見かねたのか受付嬢の人が勢い込んで説明してくれた。やっぱりというか、シェリアは臨険士(フェイサー)としてものすごく優秀な部類に入るらしい。これはボクの目に狂いはなかったってことだね。


「それで、残ってる条件ってなんなの?」

「……なんだったかしら?」

「記録によれば、条件が満たされていないのは『護衛』の依頼への参加ですね。そういった依頼を三件こなしていただければ、昇格の条件は全て満たすことになります」


 どうにも昇格自体に興味がなさそうなシェリアの反応を見越してか、受付嬢の人が親切に答えを用意してくれた。

 前にカッパーランクになったんだからと組合(ギルド)の規約を読み返した時に、昇格についての条件も確認しておいた。それによればシルバーランク以上への昇格となると、昇格点を貯める以外にもいろいろこなさなければならないことがあるようだ。そしてそれはだいたいの場合、指定されたランクと区分の依頼を一定数達成していることになっている。

 シルバーランクへの条件の場合、ブロンズランク以上の『採取』や『捜索』などの他に、カッパーランクの『討伐』が十件以上に『探索』が五件以上、それと『護衛』が三件以上っていうのが条件だった。『討伐』の比率が高いものの、張り出される依頼をまんべんなく受けていれば簡単に達成できる程度の話だけど、シェリアの場合は『護衛』系統の依頼を一切受けてこなかったらしい。まあ秘密を抱えていることを考えれば、そういった赤の他人と接触する機会が増し増しな依頼は敬遠してもしかたないか。


「なら、せっかくだし次からは『護衛』の依頼を探そうよ。いまならボクや、リクスにケレンもいるからいろいろ助けられるよ。ねえ、二人とも?」

「――え? あ、ああ、もちろんじゃないか!」

「協力は惜しまないぜ? どうせ俺らもシルバーランクに上がろうと思ったらいつかはやらなきゃいけないんだしな」


 言外に秘密がバレないようごまかす手伝いもできると告げつつ固まっていたリクスとケレンに話を振ると、我に返った二人からも色よい返事が返ってきたのを確認してからシェリアの方を見た。


「……当分はいいわ。別に急いで昇格したいわけじゃないし」


 少し考えた様子だったけど、最終的にシェリアはそう口にした。やっぱり急に言われても覚悟するのは難しいのかな?


「そうか……まあ、シェリアがそう言うならそうしよう」

「かー、やっぱ天才の考えることはわからないな。俺らなら少しでも早く昇格するために躍起になるだろうってのに」

組合(ギルド)としては、能力のある方はなるべく早く昇格してもらえるとありがたいんですけどね……」


 それを聞いたリクスは本人の意志ならと納得したように頷き、ケレンの方は額を覆って天を仰ぎながらぼやいてみせた。受付嬢の人も乗り気じゃないシェリアの様子に苦笑しつつもそう漏らしている。確かに普通に臨険士(フェイサー)として身を立てようとしている人にしてみれば、昇格の機会があるのに積極的に動かないのは理解できないかもしれないね。組合(ギルド)にしたって優秀な人はさっさと高ランクになってもらった方がいろんな依頼を任せられて助かることだろう。

 まあこればっかりは本人の意志の問題だし、急ぐ必要がないって話も共感できるしで、ボクとしてはそっちを尊重してあげたいな。


「じゃあ、たまたま『護衛』系の依頼があったら優先することを考えるってことでいいんじゃないかな?」

「……それでいいわ」


 ただし、もったいないとは思うから妥協案としてそんなことを提案してみれば、シェリアも特に拒否することなく頷いてくれた。うん、これでこの話は問題なさそうだね。


「それと、ウルさん。あなた宛の伝言が組合(ギルド)に届いています」

「ん? ボクに?」


 そうしていると受付嬢の人が今度はボクへと告げてきた。それに一瞬首をかしげるも、すぐに心当たりがあるのを思い出す。


「はい。『シュルノーム魔導器(クラフト)工房』のサリア・リムズさんからです。『ようやく整理がついたようなので、時間のある時に尋ねてきてほしい』とのことです」


 やっぱり、サリアさんからか。


「その伝言っていつ頃もらったの?」

「えっと……ちょうどみなさんが調査隊として出発された日のようですね」


 ボクの確認に受付嬢の人はメモ書きに目を通しながら答えてくれた。四日前ってことは、イルナばーちゃんの訃報を届けてからだいたい十日か。多少時間はかかったようだけど、アリィはちゃんと立ち直れたらしい。この期間が長いのか短いのかは意見が分かれるところだろうね。


「うん、わかった。わざわざありがとうね」


 今日これからはちょっと遅くなるだろうから、明日にでも顔を出しに行こう。

 そう思いつつお礼を言って今度こそ受付を離れようと振り返ったら、仲間の視線がボクに集中していることに気がついた。なんだろう、ボク何かしたっけ?



 これから忙しい日が続きそうなので、以降の投稿間隔を暫定的に4日おきにさせてもらいます。

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