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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
二章 機神と仲間
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兵器

 そんな感じで近場の小鬼(ゴブリン)はレインラースで木ごとなぎ払い、離れたところにいる分は『爆轟』の魔導式(マギス)で森ごと吹っ飛ばしながら、開けた視界のさらに向こうで大立ち回りを演じているシェリアの様子をうかがうことも忘れない。

 木々の隙間から時々のぞく姿を見ると、首まで伸びている『命脈』がいつの間にか血のような赤に染まっていた。さらには振るわれる握剣(カタール)には赤い水晶のようなものがまとわりついていて、小鬼(ゴブリン)の干物ができあがるたびにみるみる成長していっている。今じゃちょっとした長剣(ロングソード)並の長さを持っていて、月明かりにも煌めく様子は遠目に見えるだけでもとっても綺麗だ。

 シェリア本人の動きもますます速く機敏に力強くなっていっているし、何よりその顔が生き生きと輝いているように見えた。あの様子なら、小鬼(ゴブリン)程度が相手じゃ心配する必要はなさそうだね。

 そうして十匹単位で小鬼(ゴブリン)を駆逐していると、全体の動きが少し変わった。今まで暴れるボクたちに向かって来ていたのに、遠くの連中がまるで無視するように進み始めたのだ。二人合わせたらもう軽く三百は倒しているから、それで今更ながらにボクたちには敵わないとでも悟ったのかな? それでも前に進むことをやめない辺り、よっぽど森から出たいらしい。

 そんなことそうそうさせる気はないけど、こんな風に動かれたらさすがに取りこぼしが出てくるかもしれない。かといってそういうのをいちいち追いかけて潰してたら本隊の相手がおろそかになってしまう。やっぱり『人』としての戦力じゃ限界があるか。

 ――なら、少し本格的に『兵器』として戦おうか。


「シェリア、連中がボクたちを避けはじめてる! まとめてなんとかしたいからちょっと時間稼いでくれないかな!」

「何か手があるの!?」

「ちょっと準備に時間がかかるけど、いいのがあるよ!」

「なら、任せなさい!」


 状況的にけっこうな無茶を言ってる自覚があったんだけど、予想外に即答で了承が返ってきた。シェリア、よっぽど自信があるんだろうか。


「ホントに大丈夫!?」

「一日の間だって稼いでみせるわ!」

「いや、さすがにそんなにかからないからね!? とにかく、一旦ボクと一緒に来て!」

「わかったわ!」


 妙にやる気に満ちあふれた言葉に念のため釘を刺しつつ、置き土産と目一杯に『爆轟』をばらまいてから森の外へと向かう小鬼(ゴブリン)の頭を抑えるべく元来た道を駆け戻った。念のため『探査』の反応を確かめれば、シェリアがしっかりと後を追ってきてくれていてほっとした。

 そのままブースト状態の脚力ですぐに小鬼(ゴブリン)を追い抜き、あっという間に『探査』の範囲に反応がなくなる場所まで到着する。それでもすでに森のけっこう奥の方まで来ていたおかげで、イバス村はおろか外縁部にもまだまだかなりの距離がある。


「このくらいあればいいかな。呼出(アウェイク)虚空格納(ホロウガレージ)武装変更(コールアセンブリ)殲滅士(アニヒレータ)


 まだ使うかもしれないレインラースは脇に置き、ルナワイズもそのままの状態でさらに別の武装を呼び出した。

 その外見はまさに大砲。剛性緋白金(ヒヒイロカネ)でできた白い砲身だけでレインラースの全長ほどはあって、そこに様々なスイッチやレバー、ゲージなんかを満載した、ファンタジーとSFを足して割ったような見た目の格好いい機関部がくっついている。亜空間での目印になる魔導回路(サーキット)は砲身と機関部の接合部上面だ。

 これぞマキナ族の携行型魔導兵器(ギア)ボク仕様バージョン、『サンダロア』だ。見た目通りに大砲として使うことはもちろんのこと、チャージモードにすることでちょっとした広範囲攻撃も可能とするいかにもな武装だ。威力が威力だけに普段使いなんてそうそうできないけど、やっぱり『兵器』たるものマップ兵器の一つや二つは持っておかないとね。


「……それ、何よ?」

「持ち運びに便利な魔導兵器(ギア)だよー」


 少しして追いついてきたシェリアの疑問には簡単に返すだけにして、サンダロアに取り付けられている支持脚を伸ばすと地面の上に安定させる。ただ撃つだけなら小脇に抱えてできるけど、今からやることをしながらとなるとまだ『本気』の状態じゃできないからね。


「今からこれに魔力の充填をするんだけど、その間ろくに動けなくなるんだ。だからここまで小鬼(ゴブリン)が来た時に護衛してほしいんだけど、ダメかな?」


 赤い結晶に覆われた握剣(カタール)を引っ提げながら呆れたような表情をしているシェリアにそう頼んでみた。どうやら小鬼(ゴブリン)の軍団は邪魔者が退いたことで進軍速度を上げたらしく、もうすでに『探査』の感知範囲に反応が入って来つつある。この調子だと先頭はチャージが終わる少し前くらいにはここまで到達しそうだ。その時に動けないまま一方的に攻撃されるのは、ボクの身体的には問題なくてもできれば遠慮したいところ。


「わかったわ。あいつらには指一本触らせやしないから」


 そしてボクの頼みを清々しい笑顔で請け負ってくれたシェリアは、これから来る小鬼(ゴブリン)を迎え撃つためにボクに背を向けた。さっきの様子からして有言実行してくれそうだし、安心して任せよう。


「なるべく手早くしないとね」


 なんとはなしに呟きながら起動しっぱなしだった『探査』を終了すると、サンダロアの機関部の一部を開いて中から接続端子を取りだした。サンダロアに魔力を供給するための機構はルナワイズのものと理屈も形状も同じだけど、こっちは魔銀(ミスリル)のケーブルが女の人の手首くらいはあろうかという太さで、首に繋ぐ端子部分ももはや拘束具と言ってもいいくらいのごつさを誇っている。ボクの美的センス的にもこれはないと思えるんだけど、必要な魔力の供給にはどうしてもこれくらいのサイズはいるんだからしかたがない。

 このままじゃ邪魔になるからルナワイズの方の接続端子を一旦外し、適当に束ねてから本体を納めているホルダーに引っかける。それからサンダロアの端子を首にがっちりはめ込めば、自然と流れた魔力によって機関部が静かなうなり声を上げ始めた。そのままあちこちのスイッチやレバーをいじって安全装置を外していけば、それに応えるように機関部のうなりが高らかなものになっていく。うん、こいつを使うのは本当に久しぶりだけど、どうやら調子は問題ないみたいだ。


「――さて、それじゃ始めようか」


 起動のための手順の多さが逆にれっきとした兵器を扱っているようで、途中からなんとなく楽しくなりながら最後に厳重に固定されていたレバーを引いた。すると砲身の外装が縦に六等分され、芯の部分を残してより大きな同心円を描くように展開した。その内側と芯の部分の外側に魔導回路(サーキット)が刻まれていて、普段は隠れて機能しないそれが砲撃準備の合図を受けて燦然と輝き始めた。

 その様子を確かめると、姿勢の維持に必要な最低限の分だけを残して生成された魔力のほとんどを、接続端子を介してサンダロアへとどんどん送り込んでいく。機関部が発する音がさらなる高まりを見せていき、内部に仕込まれている大容量魔力タンクへの充填を示すゲージがどんどんと増加していく。エネルギー充填率十パーセント……二十パーセント……三十パーセント――


「――来たわね」


 他にやることもないから頭の中で雰囲気を出しながらチャージの推移をカウントしていると、不意にシェリアの声が届いた。どうやらいよいよ小鬼(ゴブリン)の軍団が再接近してきたらしい。今は『探査』の魔導式(マギス)を切っているから正確なところはわからないけど、さっきの今でこの調子なら確実に準備が整う前に接敵するだろうね。


「しばらくの間だけお願いするね。そんなに時間はかからないから、無理はしないで」

「問題ないわ。……もし余裕があるなら、わたしの戦い方を見ていてくれない?」


 声をかければ簡潔な返事の後、唐突な要請があったのでどういうことかと首をかしげた。でもまあ、せっかく仲良くなれた相手からの頼み事なんだし、ほとんどの魔力をチャージに回しているから動けないだけで、ただ見ている分には問題ない。森の中とはいえ、少し離れたくらいなら見通せる程度の視界はあるしね。


「見るだけでいいならそうするね」

「……ありがとう。行ってくるわ」


 ボクが承諾を伝えると、一言だけ言い置いたシェリアは赤い結晶をまとった握剣(カタール)を引っ提げて駆け出していった。やっぱりというか、さっきの様子が見間違えじゃないことを示すような尋常じゃない速度で森を駆け抜けると、少し前から視界に入ってきていた小鬼(ゴブリン)の軍団の先頭へと斬り込んだ。

 携えた結晶の剣は見た目以上の切れ味を持っているようで、小鬼(ゴブリン)相手に普通サイズのもやや体格のいいのも関係なく、一刀のもとに切り伏せている。邪魔になる木もなんのその、さっきレインラースを振り回していたボクみたいにお構いなしに両断だ。そして切り倒された小鬼(ゴブリン)は瞬時に干からび、木々はあっという間に葉をしなびさせて、そのたびに赤い結晶はより厚みを増していく。

 なんというか……あの結晶、活力とか生命力とかそんな感じのものを吸い取って成長しているのかな? ということは、シェリアは――ラキュア族は相手の生命力を奪える能力があって、それを身体能力の強化に回したり赤い結晶として形取らせたりできるんだろうか。


「――あはははははっ!」


 ボクが考察している間にも右に左に駆けては縦横無尽に切り払い、宣言通りに一切ボクへと小鬼(ゴブリン)を近寄らせないシェリア。いつしか身体にも要所を守るように赤い結晶をまとわせ始めた彼女は、気づけば実にいい笑顔で場違いなほど清々しい笑い声を上げていた。

 うーん、シェリアって戦闘狂(バトルジャンキー)の気があるのかな? 戦いを見てほしいってことは、この本性をボクに知ってほしかったってことだろうか? その感覚はちょっとボクには理解できなさそうだけど否定する気もないし、何より本人がとっても楽しそうだからそれでいいんじゃないかな。

 そんな感じで妙にエキサイトしていらっしゃるシェリアに寛容を示しながら、再度魔力の充填状況を確認した。うん、一つめのタンクは充填完了。二つめも半分は過ぎた。これくらいなら今からシークエンスを開始しても充分だろう。


「サンダロア、発射シークエンス開始!」


 意味もなくそんなことを口走りながら手順を踏んで、たった今タンクに蓄えたばかりの魔力を惜しげもなく砲身に注いでいく。合わせて励起状態だった魔導回路(サーキット)がさらなるエネルギーに煌めきを増し、展開した砲身の内側に可視化するほど高密度化した魔力が虹色に輝く光になって収束し始めた。それはすぐさま量を増やして、間もなく砲身の範囲から溢れんばかりにふくれあがる。


「索敵展開! ターゲットサイト、オープン!」


 詠うように演出目的の言葉を口にしながらサンダロアの内蔵機能を起ち上げた。ボクが普段使いするよりもより広域高精度の『高度探査』の魔導式(マギス)から半径一カウン――千ピスカでおおよそ一・六キロメートル四方の反応が頭の中に反映され、同時に現状のサンダロアから発射される砲撃の仮想的な射線が重なる。うーん、こうしてみると、感知範囲のうち森の奥側半分をホントに埋め尽くす勢いで小鬼(ゴブリン)の反応があるね。物語には『千を超える』云々ってあったみたいだけど、最低でもそれぐらいはいそうだ。数えるのは面倒だからやらないけど。

 それはともかく、なるべく小鬼(ゴブリン)が密集している当たりの中心を向くようにサンダロアの向き

を調整して、満足がいったところでちょうど収束させていた魔力が臨界を迎えた。


「シェリア、準備できたよ! 戻ってきて!」


 そう声を張り上げると、ホントに小鬼(ゴブリン)なのか疑わしくなるようなごつくて厳つい小鬼(ゴブリン)の首を斬り飛ばしていたシェリアは、すぐさまきびすを返してそばまで駆け戻ってきた。


「ありがとう、助かったよ。ここからは危ないからボクの後ろにいてね」

「どういたしまして。だけどそれは――?」

「それじゃ、発射ー!」


 なにやら今にも解き放たれんとしている魔力に視線を釘付けにしながらも、シェリアが素直にボクの後ろに回ってくれたのを確認すると、有無を言わせず砲撃のトリガーを引いた。

 次の瞬間、溜めに溜めていた魔力が指向性を持たされ、人の身長くらいはまるまる飲み干せる極太のレーザーとして解放された。横倒しで発生した特大の光の柱は行く手にあるものを一切の区別なく巻き込み飲み込み削って抉って吹っ飛ばし、全ての魔力を解放し終わった後には森のただ中に一直線の空白ができていた。『高度探査』からの反応も、砲撃が通ったところだけきっちりと何もなくなっている。

 それでも小鬼(ゴブリン)の大半はまだ残ってるけど、そっちはそれで問題ない。なんといってもこれで射線は(・・・・・・)通ったんだから(・・・・・・・)


「次弾そうてーん!」


 満タンにしたばかりだった一つめの魔力タンクがの半分方が喰われたのを確認して、手元で使用する術式の変更をしながら残った分とたった今満タンになった二つめのタンクの分、そしてさらには現在進行形で生成中の魔力も丸ごとつぎ込んでいく。


「弾体形成、術式封入! 合わせて保護障壁展開準備開始!」


 完全にノリノリでそれっぽいことを口にしつつ、再び収束を始めた上で球体を形作り始めた超高密度の魔力塊を眺めながら『高度探査』の反応を見る。そこら中に散らばる小鬼(ゴブリン)の反応がてんでバラバラに右往左往している様子から、相当の大混乱をきたしているようだ。いくら普通の小鬼(ゴブリン)と違うようでも、射線確保のための牽制射とはいえ、さすがに魔導兵器(ギア)の一撃を目の当たりにしたらこうなるらしい。しょせんは小鬼(ゴブリン)なんだね。

 そしてそんなことを考えているうちに、本命の準備が整った。


「――それじゃ、さようなら。いい旅路の果てに、次は一緒に歩めることを祈るよ」


 そう言葉を添えて、満面の笑顔で怪しくも凶悪な輝きを放つ虹色の光球を解き放った。

 一抱えほどのそれはさっき拓けたばかりの空間を何にも邪魔されずにまっしぐらに飛び去っていき――

 定められた距離を飛び抜けた瞬間、周囲一帯を閃光で塗りつぶした。



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