第17話 「幸福の終わり」
「もうこんな時間か‥‥。さ、そろそろ帰ろうか。」
遊ぶのに夢中で気がつかなかったが、すっかりあたりは暗くなっていた。
「そうね‥‥。ねえ、今度また来ない?」
「え?いいよ。僕でよければ全然。」
結局思いを伝えることはできなかった。でも、大丈夫。また一緒に行けるんだ。
「楽しみにしてるからね!」
このとき、山崎茜は幸せの絶頂にあった。この幸せは永遠に続くものだと思っていた。この世に永遠に続くものなどない。そんなことは分かっている。でも、しばらくは好きな人と幸福な日々をおくれる。そう思っていた。しかし、この幸せは長くは続かなかった。
事件が起きたのは、その帰り道でのことだった。
「いてっ!おい、てめぇ!今肩ぶつかっただろ!」
「え?」
突然ガラの悪そうな男の集団にからまれたのだ。
「あー、いてぇ!死んじまうぅー!!!」
一人の男が叫ぶ。どう見ても演技だ。
「おいおい、あんなに痛がってるじゃねぇか。こりゃ骨折れてるかもな。慰謝料払ってもらおうか。」
「はい?」
俊介は思わず声を漏らした。
「なんだてめぇ。さっさと金払えよ。」
俊介は、めんどくさいのでさっさと金を渡そうとした。しかし、遊園地でほとんど金を使ってしまったため、あまり金を持っていなかった。
「あん?なんだこれっぽっちかよ。なめてんのか!」
男はあまりの金の少なさにキレる。
「しゃあねえ、こんなはした金はいらねえ。その代わり、そこの女よこせ。」
男たちの視線が茜の方に向く。
「へっへっへっ!こりゃなかなかの上玉だ!」
「きゃ!」
男たちは強引に茜を引っ張った。
(まあ、いいか。こんな雑魚。サイボーグになった私の敵じゃないし。)
屈強そうなこの男たちも、今の茜にとっては敵ではない。しかし、問題は俊介の存在だった。俊介の前でボコボコにするわけにはいかない。
「俊介さん、私は大丈夫だから‥‥!」
「え、でも‥‥。」
彼女がサイボーグであることを知らない俊介にとっては、とても大丈夫に見えなかった。
「ま、待て!」
一人の男として、彼女を守らなければ。俊介は勇気を振り絞り叫んだ。
(あちゃー、どうしよう‥‥。嬉しいんだけど、本当に私は大丈夫なんだよなぁ‥‥。)
「あん?なんだてめぇ、まさか俺らに逆らおうってのか。フン!お前ら、やっちまえ!」
バキッ!
ドカッ!
ベキッ!
(うわぁ‥‥、見てられないよう‥‥。)
バキッ!
ドカッ!
ベキッ!
(どうしよう、このままじゃ俊介さんが‥‥。)
一方的にいたぶられる俊介。彼はもう立っているのがやっとの状態だった。
「へっ!まだ立つか。しぶとい野郎だぜ。俺らはさっさとこの女と遊びたいんだ。てめぇにかまってる暇はねえんだよ!」
そう言うと、男はナイフを取り出し、俊介に襲いかかった。
(危ない‥‥!)
「はぁぁぁぁぁ!」
茜は自分を拘束していた男の手を強引に引き離すと、ナイフを持つ男のもとに向かって走り出した。
「な‥‥!」
瞬く間にナイフの男の懐に入った茜は、男の腹に渾身の突きを放つ。茜の速く重い突きをまともにくらった男は口から血を吐き、吹っ飛んだ。
「ア、アニキ‥‥!くっ、おのれ‥‥!」
あまりの衝撃的な出来事にしばらく放心していた他の男たちも我に返り、一斉に茜に襲いかかる。しかし、茜は彼らの攻撃をすべて軽く避けると、全員まとめて先ほどのナイフの男と同じように圧倒的な力で吹き飛ばした。
「うが‥‥。バ、バケモノめ‥‥。」
こうして一瞬で男たちは全員地面に倒れた。
「俊介さん、これでもう安心‥‥。」
ふぅ‥‥、と息を吐き、茜は普段通りの笑顔で俊介の方を向く。
「ひぃ!く、来るな!来ないでくれ!」
しかし、茜の目に映ったのは、すっかり怯えきった俊介の顔だった。
「こ、来ないでくれ‥‥!」
俊介は男たちに怯えているのではない。茜に怯えていた。人間離れしたその動きに。普段とは違う狂気に満ちた尋常ならざるそのオーラに。
「俊介さん‥‥。」
茜の幸せな時間が終わりを告げた瞬間だった‥‥。




