35 さらば友よ!リンカはひとり道をゆく【3章完結】
私の誕生日会とボス猫交代劇から三ヶ月が経ったある朝のこと。
教会の裏口で、香箱座りのまま眠るようにマブダチは逝っていた。
享年13歳、人間換算で70歳位らしい。たぶん老衰なのだろう。野良の、しかもオス猫にしては大往生だ。
マブダチとは、私が二歳の時に院長先生が襲われた事件の目撃者として出会った。私の【言語理解スキル】で猫語の会話が成立して驚かれたんだよね。まだ舌ったらずな子猫で、語尾に『にゃん』がついてて可愛かったのを覚えている。あっという間に大きくなって、ボスにまで昇り詰めた強者だけど、根は優しくていつも私の悩みを聞いてくれたっけ…。前世のことを話せたのは、後にも先にもこのマブダチだけだったんだ…。
ペット用の火葬場から立ち昇る煙を見ながら思う。
悲しいけど、13年間立派に生き切った魂に敬意を表し、笑顔で送ろうと…。
『お疲れさま、今までマブダチでいてくれてありがとうね。次は優しい飼い主の元に転生できることを祈ってるよ…』
転生システムを知ってしまった私だから言えることだけど。女神フィーレア様、マジでお願いしますね!
それから更に時は過ぎ、いよいよ【成人の儀】当日を迎えた。
今回一緒に儀式を受ける同期は7人。10年前の洗礼の儀の5人とはメンバーががらりと変わっていた。引っ越した子や、流行り病で亡くなった子がいる一方、人気のダンジョン都市だからか、流入してくる人は多い。【個人識別カード】は全国共通だから、どの都市でも更新可能なのは良いシステムだと思う。
ガチャ待ちの最後尾に並んでいると、ニックとアルフがやって来た。
「よぉ、リンカ!約束は覚えてるか?」
「リンカなら、何が出ても大丈夫だよ」
そうだ、出たギフトによって今後の身の振り方が決まるんだ。
・【火】【風】【土】【剣】【盾】のいずれかが出れば、一人旅に出る。
・【光】か【水】が出たら教会に就職。
・【鑑定眼鏡】か【魔法の袋】が出たら【亜人ジャーズ】に入って守ってもらう。
そういう約束になっていた。
ガチャだから何が出るかわからないけど、確率的には一人旅で決まりかな?
さて、いよいよ私の順番が回って来たようだ。
「リンカちゃん!お願い、【光】か【水】を出してねっ!」
「え、えへへ…」
(い、院長先生の圧が凄いっ)
私は女神フィーレア様に祈りながら、個人識別カードをスロットに差し、ゆっくりとガチャを回した。ゴロリと出てきたカプセルの中身は……
「…【火】ですね。あぁ、リンカちゃん…行ってしまうのね…」
「なん…だと……」
「一人旅か…頑張れよ…」
院長先生、ニック、アルフの反応を聞きながら個人識別カードを受け取ると、火の紋章が刻印されていた。これで3つの枠が埋まったことになる!
『ピコン!【成人の儀】終了を確認しました。封印を解除します』
突然、頭の中に謎の声が響いた。確か、5歳の時にもあったよね?久しぶりに聞いたわー。
『ピコン!【鑑定】が使用可能になりました』
『ピコン!【アイテムボックス】が使用可能になりました』
『ピコン! 光★★★★★★が解放されました』
『ピコン! 火★★★★★★が解放されました』
『ピコン! 水★★★★★★が解放されました』
『ピコン! 風★★★★★★が解放されました』
『ピコン! 土★★★★★★が解放されました』
『ピコン! 剣★★★★★★が解放されました』
『ピコン! 盾★★★★★★が解放されました』
どうやら、すべての封印が解除されたようだ。身体の内を何かが駆け巡っているような不思議な感覚だ。
「おい、いくら【火】が出たからって一人旅なんて危ないだろうがっ!そ、そうだ、俺と勝負しろ!俺に勝ったら認めてやる!そのかわり、俺が勝ったら…俺と結婚してくれっっ!!」
(ひ、人前で何てことを言うんだ!馬鹿ニック!)
「え?リンカちゃんと勝負して勝てば嫁に出来るって?」
「なんとっ!俺もヤルぜーー」
「ワシもじゃ、若いもんには負けんわい!」
「ぼくもー、リンカおねえちゃんだいすきー」
「お、おでも、や、やるんだな…でゅふふふ…」
「リンカちゃん、好きじゃーーーーっ!」
「にゃーん!『俺もやるぜ!』」
(うわああ……)
あっという間に、子供から老人まで50人位の男たち(にゃん吉含む)が集まってしまった。やめてくれー。
「ニック、何てことしてくれてんの。もう収集がつかないじゃん!」
「す、すまん!でもリンカが好きなのは本当だ。諦めるなんてできないっ!」
「う~~っ」
「それとな、アルフもリンカのこと好きなんだよ。な?アルフはやらないのか?」
「ちょ、バラすなよっっ!お、俺も好きだけどやめておく。リンカに迷惑だろが(絶対勝てないもんなー)」
「へっ、ライバルが一人減ったぜー!」
「…だから、勝手に盛り上がるなっつーの!」
二人からの突然の告白に狼狽えている間に、何故か多対一?のバトルが開催されることになってしまった。なんてこった……!
みんなでぞろぞろと、冒険者ギルドの闘技場に移動した。ここなら防御結界があるから安全なんだとか。
司会進行は、ハゲのギルマスさんだ。
「え~、今からリンカちゃん争奪戦を行う!だが、このままではリンカちゃんが圧倒的に不利だ。何か別の方法はないかー?」
確かに、他人から見ればそうだろうね。まぁ、50人だろーが100人だろーが、全く負ける気はしないが。一応、案を出しておきますかね。
「あのー、私があそこの的に向かって魔法を放つので、それを見て『勝てる!』と思った人だけ相手する…ってのはどうでしょうか?」
「ほう?大した自信じゃねぇか!よし、それで行こう!リンカ以外の者は危ないから下がっててくれ」
提案が通ったようだ。よし、それならオラの本気を見せてやる!
私は闘技場の中央に進み出た。ギャラリーはアルフの誘導で後方に移動している。解ってるじゃん!これで安全は確保された。いくぞーーーっ!
私は無詠唱で火球を発動した。
練りに練った魔力玉は直径2mの青い炎だ。完全燃焼の青い炎は数千度の熱を持っている。ちなみに通常の【火★】の火球は野球ボール位の赤い玉だけどね。
「では、リンカ、いきまーーす!」
「ちょ、ストップ、ストーーーップ!それは【火★★★】の極炎か?しかも馬鹿でけえっ!そんなん撃ったら結界が持たんわっ!」
「これは極炎ではない、火球だ(大魔王バ●ン風に)」
「「「「「「な、なん…だと………」」」」」」
火球から漏れ出す魔力にあてられて、逃げ出す者、失神する者、失禁する者、嘔吐する者と、ちょっとしたパニック状態になってしまった。狙い通りギャラリーの戦意を喪失してやったぜ。てへぺろ☆
「くっ…!リンカがこんなに強かったなんて!ちくしょう…」
強気だったニックも、腰が抜けてしまったようだ。不戦勝でいいんだよね?
「それにしても凄えな。あらゆる修羅場を潜って来た俺でも肝が冷えたぜ。魔力の数値はいくつだよ?」
「えーと、上限…かな?」
「その歳で999かよ。そりゃぁ凄えわけだぜ。ぜひ冒険者登録してくれや」
ギルマスさんに聞かれたので正直に答えたよ。まー上限っつーか∞なんだけどね。もちろん冒険者登録はするつもりだ。全国各地のギルドをはしごするのも面白いかもね。
というわけで、ギルマスさんに連れられて受付カウンターまでやってきました。
申込書に記入して個人識別カードと共に提出し、しばらく待っていると新品の冒険者カードが出来てきた。当然ランクは最低のFだ。荷運びや薬草の採取で点数を稼ごうと思う。
それから三日ほど買い出しなどの準備をして、明日はいよいよこの街を出る。今夜は知り合いだけのささやかなお別れ会だ。
「リンカちゃん、元気でね。あと、これ養育費として預かっていたお金よ」
院長先生が白金貨70枚を返してきた。預けていた全額だ!
「先生!全額返還なんてダメですっ。私いっぱい食べてたしっ!」
「ここは孤児院なのよ?孤児から大金を貰った大聖女なんて恥ずかしいでしょ?先生の顔を立てると思って…。ね?」
「う…、わかりました。今まで育てていただき、ありがとうございました」
「たまには遊びに来てね。いつでも待ってるわ」
ちなみに、封印されていたアイテムボックスの中にも、白金貨70枚がそのまま残っていた。養育費の分も合わせると白金貨140枚(一億四千万)になっちゃった。女神フィーレア様は太っ腹らしい。はぁ…。
テーブルの上には、料理人ズラートルとその従者が作った御馳走が並んでいる。
この二人からは酷い目にあったけど、今は関係良好だ。なによりメシがうまいのは正義だ!
「もうズラートルの料理が食べられなくなっちゃうんだなぁ」
「リンカちゃん、これ持って行ってください。魔法の袋があれば傷まないんで」
「わぁ、ありがとう!しばらく料理しなくて済みそうだよ」
「あっしからはこれ。香草と塩を混ぜたもんっす。くせえ魔物の肉でもまぶして焼くだけで美味くなりますぜ」
「やったー、この味好きなんだー。ありがとう」
部屋の隅でニックがいじけている。アルフとカイも一緒だ。
「三人とも、今日は来てくれてありがとね」
「リンカちゃんが仲間にならなくて残念だよ。あんだけ強ければどこ行っても大丈夫だろうね」
「うん、カイ兄もダンジョン攻略頑張ってね!」
「リンカ、頑張れよ。お前は俺の大事な妹だからなっ」
「アルフ…ありがと。それとごめんなさい」
「へへ、脈なしなのはわかってたしな…」
「………」
ニックはまだむくれてるようだ。
「あのね、私、一生誰とも結婚するつもりはないんだー」
「「「えっ?」」」
「だって、ほら。私エルフじゃん?この若さのままあと千年以上生きるんだよ。結婚しても相手がすぐにいなくなっちゃうなんて、辛いっしょ?」
「た、確かに……」
「それにね、ニックもアルフも幼馴染みだし、弟みたいに思ってるからさぁ…」
「おい、俺たちの方が年上だぞっ」
(実は中身は18歳でした、なんて言えない…)
「あ、ニックがやっと元気になった!うん、そんなわけで…マジでごめんね…」
「ちっ!それなら仕方ないなっ!あ~、目から汗が出てくらぁ…」
見た目だけはイケメンのニックが泣き出しちゃった。あわわわ……
「そのうち、こっちに遊びに来るからさ。その時はみんなで一緒にダンジョン潜ろうよ、ね?」
「お、おうっ!約束だからなっ!ぐすっ……」
「こっちはいつでも大歓迎だよ。亜人ジャーズのピンクの枠はあけておくから」
「リンカ…体に気をつけてね。帰ってくるときはお土産よろしくっ!(しっぽブンブン)」
ああ、本当にいい子たちだ…。
「私たち、離れ離れになっても、ズッ友だからねっ!」
「「「「うえ~い」」」」
・・・・・
翌朝、私は出発前に冒険者ギルドに来ていた。にゃん吉に頼まれていた件で隣町に行くついでに、何か依頼がないか確認するためだ。
「あ、リンカちゃん!ちょうどいい所に来たっ!」
「へ?」
そこに現れたのは、ハゲのギルマスさんだ。
「隣町からの荷運びの依頼でな。大量のポーションと聖水なんだが、馬車で運ぶと振動でガラス瓶が割れちまうんだ」
「確かに、馬車はガタガタと揺れが酷いですもんね…。あ、魔法の袋なら!」
「おう、袋を持ってる奴は滅多に居ねえんだ。リンカちゃんなら腕が立つし信用できるからな。頼まれてくれないか?」
「はい、ちょうど隣町に行く予定だったし、その依頼受けます!」
「そうか、ありがてえ!では早速だが、契約書にサインだ」
「契約書?」
「ああ、これだ」
ギルマスさんの説明によると、魔法の袋を使っての荷運びの際は、必ず契約書を交わすんだとか。
万一、袋の持ち主が死んでしまった場合、袋は中身ごと消滅するんだって。契約書があると、消滅前にその荷物だけが契約者の元に自動的に戻るらしい。どんな仕組みだよとツッコミたくなっちゃうな。
ちなみに、消滅した袋と中身は、後日ダンジョンの宝箱からドロップされるんだって。だから魔法の袋が複数オークションに出てるのね。…納得。
契約を終えた私は、ギルドの入口に積まれた木箱10個を、一瞬で魔法の袋に収納した。これでどんなに揺れてもガラス瓶が壊れることはなくなるし、盗賊に盗まれることもなくなったわけだ。
「「「「「おおーーー!すげー!」」」」」
周りの視線が痛いっ!魔法の袋は珍しいからね…。私はえへへと愛想笑いをしながら、街の正門へと急いだ。
早朝の空はまだ薄暗い。これから、何があるのかしらないが、私はひとり街道へと足を踏み出した。
第三章・完
これにて第三章・孤児院編は完結です。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
引き続き、第四章を楽しみにお待ちくださいませ。
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