第27話 黄金の林檎
そうして、アレスが感覚強化の星へ手を伸ばした瞬間、空に浮かぶ一つの星がアレスの手へ向けて落下してきた。
その様子はまるで、流星のようだ。
空から落下してきた星がアレスの掌の上に乗ると、眩い光を放ち始める。
そして、落下してきた星はアレスの体の中へと入っていった。
次の瞬間、アレスの意識は現実世界へと戻される。
現実世界へと意識が戻ってきたアレスは先ほどまでの出来事に少し困惑している。
困惑しながらもアレスは先ほどまでの出来事を脳で理解しようとした時、頭に激しい痛みが走った。
その痛みは激しく、アレスはその場に膝をついてしまった。
アレスはいきなりの頭痛に原因が分からず、その場で痛みに耐えることしか出来なかった。
激しい頭痛に見舞われてからしばらくすると、少しずつ頭痛はおさまっていき、それにつれ思考する余裕が出てくる。
思考が出来るようになったことで、アレスは頭痛の原因について考察し始める。
頭に激痛が走ったのは、星空の世界から現実世界に突然戻ってきた時だ。
そして、星空の世界に行く前に脳内に大量の情報が流れ込んできた。
このことから、この頭痛の正体は大量の情報を流されたことによって脳に多大な負荷がかかったためであると推測した。
アレスは頭痛の原因を推測した後、アレスは体にとある違和感を感じた。
それは先ほど魂を捧げたはずなのに身体能力が先ほどよりも下がっていることだ。
普通、生命の樹に魂を捧げた場合、その分だけ祝福により、身体能力が強化される。
しかし、今回は魂を捧げたというのに身体能力の強化がなく、先ほど増えた分の魔力量の上限も減ってしまっている。
このことに気づいたアレスは最初は少し困惑したが、少し考えてみた時、この原因に心当たりがあった。
それは先ほどの星空の世界で感覚強化の能力を解除したことだ。
あの時、アレスは能力を解除するのに多くの魂を捧げた。
きっと、この能力を解除する際に魂を捧げてしまったことでその分の強化を受けることができなかったのだろう。
この事実に気づいたアレスはもう少し考えてから行動すればよかったと後悔した。
軽率な行動に後悔したアレスであるが、よくよく考えてみると、あのまま強化されても多少は強化されるだけであった。
それなら、感覚強化の能力を解除した方が有益なのではないかと何とか思考をポジティブな方向に切り替えた。
思考を無理矢理ポジティブな方向に切り替えたアレスはふと、生命の樹の方へ視線を向けてみる。
生命の樹を見てみると、先ほど回収した魔力を回復する青リンゴが二つほど実っていた。
そして、金色に輝くりんごが二つ実っていた。
新たに黄金のリンゴが実っていることに気がついたアレスは早速採取してみる。
金リンゴを採取したアレスは試しに一つ食べてみることにした。
そうして、アレスは金リンゴを食べてみると、体の内から溢れんばかりの力が漲る感覚に襲われた。
まるで、体の奥から生命力が溢れるようであった。
体に起こった変化から金リンゴの能力に予想がついたアレスは剣を取り出すと、掌に浅い切り傷を自分でつける。
と次の瞬間、その傷から血が溢れる前にアレスが自らつけた傷が一瞬で治った。
つけたはずの傷が一瞬で治ったことからアレスは金リンゴの能力を完全に理解する。
この金リンゴを食べると自然治癒能力を大きく高めることができる回復アイテムであるということに。
どうやら、この金リンゴは食べたものの自然治癒能力を大幅に高める効果があるらしく、ちょっとした怪我なら完全に治せるようだ。
もしかしたら、腕や足などが切断されてもこの金リンゴを食べれば、くっつく可能性もあるだろう。
しかし、自ら腕を切るなんてアレスが行為できるはずもなく、この検証はまだまだ先になりそうだ。
とりあえず、回復アイテムを手に入れることの出来たアレスは残り一つとなった金リンゴと青リンゴを収納魔術でしまった。
リンゴたちをしまった後、アレスは今後の予定について考え始める。
何とか、二つ目の鐘を鳴らすことの出来たアレスは次の目的地である北西にある三つ目の時計塔を目指すことになる。
本当は鐘を鳴らした後、すぐに二つ目の時計塔を離れる予定であったが、ゾンビたちの群れに襲われ、その予定も狂った。
ゾンビたちの群れに襲われるという絶望的な状況に置かれたというのにアレスは何とかその危機を脱することができた。
現在、多くのゾンビたちはこの時計塔から逃げ出したこともあり、この時計塔から離れている可能性は十分に高い。
そのため、三つ目の時計塔へ向かうために外に出ることは出来るだろう。
そして、今はゾンビたちが散り散りに逃げたこともあり、彼らの群れに襲われる可能性は先ほどよりも低くなっている。
以上のことから、今は三つ目の時計塔を目指すのに絶好のチャンスである。
そうとなれば、取る行動など一つである。
アレスは生命の樹の階から螺旋階段に出ると、最下層まで降り始めた。
そうして、螺旋階段を降りきり、最下層までやってきたアレスは三つ目の時計塔を目指すべく、外へ踏み出したのだった。




