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第86話 邪なる亀蛇、希望の世界 2

 亀蛇の侵攻を食いとめるのは難しいが、それに追いつくのはあまり難しくない。亀蛇に襲われた町を起点として、そこからの移動範囲を推しはかればいいのだ。受付嬢から聞いた情報も加えて、おおよその見当をつければいいのである。「この移動速度ならば、今は(だいたい)この位置だろう」と言う風にね。文字通りの概算を出す。俺にはまあ、索敵のスキルもあるからね。スキルの力も万能ではないが、ある程度の推測なら立てられる筈だ。雲の動きを見て、明日の天気を推しはかるように。俺達の使った方法もまた、そんな感じの推測法だった。


「さて」


 その推測法が当たっているか否か? それは「実際に行ってみない」と分からないが、周りの木々が押したおされ、地面の上に巨大な足跡が残っている光景を見ると、その推測法も決して外れてはいない、それどころかむしろ、「当たっているのではないか?」と思ってしまった。遠くの方から聞こえてくる重い足音も、その存在を充分に明かしている。亀蛇は件の町を襲った後も、自身の本能に黙々と従って、目の前の物を次々と押したおしていた。


「これは」


 たぶん、大丈夫だろう。俺達の進んだ先にはたぶん、その獲物が待っている。獲物は(おそらくは)本体の亀が植物類を食べて、従者である蛇が周りの小動物を食べているだろう。彼等は主と従に別れた、かなり珍しいモンスターなのだ。彼等は互いの役割を守って、その強力な力を示していた。「早く止めないとね」


 俺は、まだ見ぬ敵に闘志を燃やした。少女達も、俺と同じような顔を浮かべた。俺達は自分の背中に朝日を受けつつも、ある時は川の水を飲み、またある時は倒木の上に座って、亀蛇への道を歩きつづけた。


「そろそろ、見えてくるかな?」


 シオンさん、ちょっと気合い入りすぎじゃないですかね? 君は(「どちらか」と言うと)、このパーティーでは落ちついている方でしょう?


「私達の歩く速さを考えても、そいつにもだんだん追いつく筈」


 俺は、その言葉にうなずいた。その言葉に異論を唱えるつもりはなかったし、俺も彼女と同じような事を考えていたからだ。俺は背中の杖を撫でて、彼女の顔に視線を戻した。


「確かに、今の速さを考えると」


 そう言いかけた時だった。遠くの方から足音が聞こえた、だけではない。それに混じって何か、女性のような声がいくつか聞こえてきた。「悲鳴」とも「怒声」とも違う、切羽詰まったような声が突然に聞こえてきたのである。それに思わず「ハッ」とした俺だったが、俺の周りはそれ以上に驚いていたようで、俺がその場から走りだした時にはもう、声の方に全員が走りだしていた。


「ハハッ。みんな、気合い充分だ」


 そんな俺も、同じようなモノだけどね。周りの少女達がそうしている以上、俺もまたそうしないわけにはいかなかった。俺はほぼ全力に近い力で、少女達の方を追いかけた。


「あっ!」


 思わず驚いてしまった。自分ではそんなつもりなどなかったが、あんなモノを見せられたら仕方ない。謎の少女達が三人、亀蛇に襲われている場面を見たなら。これはもう、助けに入るしかないだろう。仲間の少女達も、俺と同じように「今、助けるから!」と叫んでいた。俺は少女達の前に走りよって、その守り手に回った。


「大丈夫?」


 少女達は、その言葉に応えなかった。たぶん、突然の事に驚いているのだろう。「頭」と思わしき少女はやや落ちついていたが、それ以外はかなりあわてていた。俺達の登場にたぶん、思考がついていけないらしい。


「心配しないで。俺達は、君達の敵じゃないから」


「敵、じゃない?」


 こ、怖い。俺の事、すげぇ睨んでいる。元々釣り目な事もあったが、腰の辺りまで真っ直ぐに伸びた黒髪もあいまって、何とも言えない凄みを見せていた。彼女はたぶん、こんな風に人を怯えさせる何か、「うっ」と怯ませる才能があるのだろう。当の本人はまったく気づいてないようだが、声の調子から感じられるそれには、その雰囲気がしっかりと感じられた。


「その証拠は?」


「『証拠は?』って。今は、そんな事を言っている場合じゃ」


 あれ、視線を逸らされた。俺の言葉を聞いて、プイッと。彼女はもしかすると、かなり気難しい人なのか知れない。


「まあ、いいわ。あんた達の正体が何だって。今は、確かに助けてほしいし」


 そこまで言うと、また戻される彼女の視線。彼女は無愛想な顔で、俺の姿をまじまじと見た。俺の姿を品定めするように。


「その格好、魔術師?」


「そう、だけど? 君は」


 彼女は、その質問に溜め息をついた。お、俺、何かマズイ事でも聞いたのか?


「見たら分かるでしょう?」


 そう言って彼女が自分の背中から取ったのは、それに思わず驚いてしまう程の大きな鎌だった。鎌の柄には鎖もついていて、それを振りまわす事もできるらしい。彼女は愛用(と思われる)の鎌を操って、自分の背中に「それ」を構えた。


「私は、鎌使い。あんたの名前は?」


「お、俺? 俺の名前は、ゼルデ・ガーウィン」


「そう、ゼルデ。私は、チヤ。チヤ・パルプルド。私達は、アイツに自分の町を潰された」

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