第87話 邪なる亀蛇、希望の世界 3
「自分の町を潰された? あの亀蛇に?」
そう言った俺だったが、それ以上は何も言わなかった。そこまで聞けば、だいたいの事は推しはかれる。彼女達はとても運悪く、あの邪なる怪物に襲われてしまったのだ。昨日までは普通に暮らしていたのに、今日はあのモンスターに襲われて。今までの平和をすっかり奪われてしまったのである。それこそ、「無慈悲」の言葉通りにね。自分達の住んでいた家も、そこで一緒に暮らしていた家族も、近所の仲がよかった友達も、今いるメンバーを除いて、そのすべてを壊されてしまったのだ。「くっ!」
俺は、その光景に胸を痛めた。自分が実際に見たわけではなくても、それと同じような体験を味わっていた事で、目の前の風景が燃えさかる町に、少女達の声が悲痛な叫びに、頭上の空が真っ赤な色に変わってしまったのである。俺は「それ」にめまいを感じながらも、今の状況を「ハッ!」と思いだして、自分の正面に向きなおった。自分の正面ではもちろん、今回の獲物が暴れている。獲物は背中の甲羅を活かしつつも、従者の蛇を上手く使って、目の前の少女達を次々と倒していた。
「強い」
それには、隣の鎌使いも同感だったらしい。
「ええ、まったく。アイツは、本当に動く要塞よ。こっちの攻撃は、身体の甲羅でほとんど防いじゃうし。アイツの前に何とか近づこうとしても、その下僕がすぐに妨げてくるからね。攻めたくても、攻められない。本当に困った亀だわ」
彼女は、地面の上に鎌を振りおろした。これは、相当に苛立っているね。表情の方はあまり変わらない子らしいが、釣り目の部分が鋭くなっているところを見ると、内心ではかなりイライラしているようだった。これは早いところ、何とかしなければならない。
「アイツは、四獣の中でも最強だから。遊撃竜や刃虎のようには、いかない」
パルプルドさんは、その言葉に目を見開いた。それを見ていた俺ですら、「え?」と驚いてしまう程に。
「アンタ達、そんなに強いモンスターを倒したの?」
「う、うん、自慢じゃないけどね。亀蛇以外の四獣は、すべて倒した」
彼女はまた、俺の言葉に目を見開いた。俺の言葉を疑っているわけではない。それ自体に怯えているわけでもない。彼女は、ただ純粋に「え?」と驚いているだけだった。
「そ、それじゃ、アンタ達は?」
彼女がそう言いかけた時だった。シオンが得意の弓で、蛇の片目を射ぬいた。彼女は敵の反撃を読んでいたらしく、蛇の攻撃を上手くかわして、味方のビアラにそっと目配せした。どうやら、「この隙に攻めろ」と言う合図らしい。彼女は自分に敵の注意を引かせる事で、ビアラに攻撃の機会を作ったのだ。
「ナイス、シオン!」
「とうぜん!」
それに喜ぶ、シオンさん。彼女に続いたビアラもまた、その「とうぜん!」に「ニヤリ」としていた。ビアラは自分の拳に気合いを入れて、亀の甲羅にそれを叩きこんだ。
「くらえ!」
その後に聞こえてきた、凄まじい音。これは、かなりの威力ですねぇ。亀の甲羅自体には傷らしい物はつかなかったが、その威力には耐えられなかったらしく、流石の亀蛇もかなり怯んでいた。ビアラは自分の足にも気合いを込めて、亀の甲羅にまた攻撃を加えた。
「かかと落とし!」
おお、アレが有名な。人伝には聞いていたけど、実際のそれはやっぱり違う。彼女が亀の甲羅にかかと落としを入れる瞬間、その軌道らしきモノが見られた。あれは、魅せる技ですね。それに続いたカーチャも凄かったし、カーチャにその指示を出したティルノもまた凄い。彼女達の連携に続いた、マドカ、クリナ、リオ達もまた凄かった。彼女達は自身のスキルに合わせ、ミュシアの透明化も受けていたので、四方八方からの攻撃ができたのである。これには、敵の亀蛇もかなり参っているようだった。
「どう、亀ちゃん? これが、あたし達の実力だよ!」
ビアラさん、ノリノリです。それに続いたクリナも、空中で彼女とタッチしていた。彼女達は地面の上に仲よく降りたって、それから背中合わせに立ちはじめた。
「ふん!」
俺は、その声に微笑んだ。あそこまで格好よかったら、やっぱりそうなってしまう。俺は背中の杖こそ抜いたが、亀蛇の方にそれを向けるだけで、魔法自体はまだ撃たなかった。
「コイツは、本当に最後の最後」
パルプルドさんは、その言葉に瞬いた。今の光景に心から驚いているらしい。
「信じているんだね、アンタ。あの子達の力を」
「そりゃあね。自分の仲間だもの。仲間の力を信じるのは、とうぜんだよ」
「とうぜん、か」
あれ、突然のしんみりモードです。俺、何か変な事を言ったかな?
「ソワ」
そう呼ばれた少女は、修道女。
「ニィ」
そう呼ばれ少女は、笛吹き(?)少女。二人とも、俺と同い年くらいだった。
「あたし達も、負けていられないよ」
冷静な口調だが、そこには怒気が込められていた。彼女はやっぱり、静かな怒りを表す少女らしい。二人の少女もまた、彼女の怒気に飛びあがったようだった。パルプルドさんは自分の鎌を振りあげて、亀蛇の方に勢いよく走りだした。




