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シマネキヅキ~The World of SHIMANEKIDUKI~  作者:
二つの国の対立
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メクの住人

朝になり、明けて来る空の下、また朝食の準備をしていると、何やら大きなバサバサという音が岩の向こうからして、何事かと振り返ると、そこには昨夜のアンテロースと、初老の男が立っていた。

驚いたアレクサンドルが立ち上がってそれらに向き合うと、その初老の男は言った。

「寛いでいるのがところをすまぬの。昨夜、これがこちらで肉をもらったと聞いての。世話になってしもうた。」

その男の胸には、大きな紫の石が付いた、ペンダントが輝いている。

村の長か何かか。

アレクサンドルは思いながら、首を振った。

「なんでもないことよ。我は、シマネキヅキのヤマトから参ったアレクサンドル。これらはヤマトの術士と兵士ぞ。主は?」

相手は答えた。

「我はメクのグーラの王、アトラス。」と、アンテロースを見た。「これは孫のアンテロース。次の王になる王子よ。」

アンテロースは、バツが悪そうな顔をしている。

アレクサンドルは、驚いた顔をした。

「なんとの。王子が一人で夜うろうろするとは。」

アトラスは、渋い顔をした。

「これは大変に落ち着かぬ奴での。ならぬと申すにすぐに出て参るのだ。昨夜も夕飯前に主らの調理している匂いを感じ取って、じっとしておられなんだようで。夕食の時にいつもより食べる量が少ないゆえ問い質したら、主らに肉を分けてもろうたとか申すから、こうして礼を言いに参ったのよ。邪魔をしてすまなんだな。」

アレクサンドルは、首を振った。

「良い、腐ってはならぬしどうせ消費せねばならなんだのだ。それより、主はライアディータの王と面識はあるか?我ら、急を知らせにアーシャンテンダのサラデーナの王、シャデルに会いに参ったのだ。あいにく急な事であって、無断で通らせてもらっておるので、挨拶はせねばと思うておって。」

アトラスは、首を傾げた。

「アーロンか?知っておる。友であるしの。だが、主らなら無断で通っておってもあれは咎めぬわ。見たところ、主らは何の偽りもなく善良な様子。だからこそ、これも一人で主らに寄って参ったのであろうしな。」

と、アンテロースの頭に手をポンと軽く置いた。アンテロースが身を縮めているのに、アレクサンドルは庇うように言った。

「子供のことぞ、責めるでない。主らは気が見えるのだな。ならば危険は少ないのだから。」と、邦光達を見た。「しかし…我もシャデルは友であって、連絡さえ取れたら迎えに参ってくれると思うので、そのアーロン王に頼もうかと思うておるのだ。デンシアまではまだ、海を渡らねばならぬしの。」

アトラスは、ハッとした顔をした。

「そうか、アレクサンドル。シャデルが言うておったな。シマネキヅキとの交流は、全てあやつに任せておるから話しか聞いておらぬが、主がリーリンシアの王であった男か。創造主であったのだろう?」

アレクサンドルは、創造主、と聞いて顔をしかめた。

「ただの人にその称号は不似合いであった。そう、そのアレクサンドルよ。ヤマトの王がミマサカの王に封じられてしもうて、戦が始まりそうなので、手を出さぬで居て欲しいと知らせに来てな。ミマサカの王は、偽りを見抜く者からも、その心を隠す術を身につけておって、大変に面倒なのだ。シャデルがそれを知らずに騙されてはと案じられる。」

アトラスは、深刻な顔をした。

「それは厄介な。確かにそんな術があるとは知らぬでおれば、簡単に騙されてしまおうの。では、しばし待て。主らぐらいなら我が弟達に送らせる。」と、アンテロースを見た。「帰るぞ、アンテロース。」

アレクサンドルは、慌てて言った。

「送らせるとは?」

アトラスは、答えた。

「背に乗せて参る。案ずるな、我らは人を乗せる事には慣れておる。ここへ来させるゆえ、主らは食事を済ませておくがよい。なに、昨夜の礼ぞ。」

そう言うと、アトラスは見る間に大きな翼竜へと変化した。

背後の邦光達が、分かってはいてもドン引きしている中、アトラスは人型のままのアンテロースを背に乗せて、さっさと飛び立って行った。

そのスピードは、昨夜のアンテロースの比ではなかった。

「…助かったが、しかし主らはあの背にしがみついて行けるのかの。」

邦光達は顔を見合わせて、グーラに乗って空を飛ぶ事を頭に思い浮かべて、身震いしたのだった。


その頃、シエラ達はアレクサンドル達が同じライアディータに居ることも知らずに、北西の端からダッカを目指して歩いていた。

最初はゴードンは走り、ハーネスを着けたライアン、誠二、美琴はシエラが持ち上げ、アーサーと義朋、寿康はデクスが両手と背中に持って、何とか飛んでいたのだが、背中の義朋はともかく、両手に抱え込まれているアーサーと寿康には精神的に辛かったようで、もう山を降り切るという所で、全員で歩く事にしたのだ。

ちなみに美琴は、ゴードンに軽々背負われて進んでいた。

美琴は重いのではと気を遣っていたが、ゴードンにとって美琴ぐらい乗っているのも忘れるぐらいの重さらしい。

そのまま走る事すらやってのけるので、美琴もいつしか何も言わなくなった。

そうしているうちに、小さな村に到着した。

そこは、ミクシアという村らしく、ナディアという女神信仰の巫女が住む、丸い半円形の家が幾つも建ち並ぶ静かな所だった。

その入り口へと到着すると、中からは白く長いローブを着た、女性が二人出て来て、言った。

「お珍しい事です。巫女が住む村に何か御用でありますか?」

デクスは、言った。

「お邪魔をして申し訳ない。我らは、シマネキヅキのヤマトから来た者達でありまする。サラデーナの王のシャデル陛下に、ダッカへ参れと仰せつかっており、そちらへ向けて旅をしておる最中。大変に疲れておる者もおって、本日はこちらで休ませてもらえないかと立ち寄りました。明日早くには、こちらを発ちますので、どこか村の端の方で、野宿をさせてはもらえませぬか。」

こうして見ると、デクスは確かに修道士だった。

しかも、同じ女神ナディアに仕えていたので、雰囲気が似ているのだ。空気感が同じといった感じだろうか。

巫女達にもそれが伝わるのか、穏やかに微笑んで答えた。

「では、巫女様にお尋ねして参ります。こちらでお待ちください。」

そうして、二人の若い女官達は、奥にある幾分大きめの建物の方へと向かって行った。

シエラが、言った。

「デクスは、ディンダシェリアの修道士だったから、あの巫女達とは同じ信仰だよね?」

デクスは、苦笑して首を振った。

「信仰している女神は同じだが、彼女たちは巫女ではない。ナディア信仰での巫女と申すのは、その血筋に現れる特殊な力を持つ者の事を申すのだ。太古の昔の、ナディアとシャルディークの子孫と言われておる。今では数が減っておるのではないかの。しかし、あの様子ではまだ残っておるようで、安堵しておる。」

確かにあのシャルディークの血筋だったら特殊能力を持っているかもしれない。

シエラがそう思いながら待っていると、建物の中へと入って行った女達が、出て来てデクスに頭を下げた。

「巫女様が、お会いになられます。どうぞ、中へ。」

デクスは、頷く。

シエラも誠二もライナンも美琴も、そして義朋、寿康、アーサー、ゴードンもそれについて、その建物の方へと緊張気味に歩いて行った。


地下へと案内されて行き、階段は狭かった。

どうもこちらの神殿というのは、神を隠すような形にしてあるらしく、その神を奉る場所へと近付くにつれて、廊下も全てが狭くなった。

デクスは言う。

「巫女やそれに仕える者しか入れぬ造りになっておってな。一般の民には、なかなかに神の近くへは行けないのだ。あちらの信仰とは違うであろう。」

シエラは、頷く。

「うん。あっちは誰でも神の像の前に行って、お祈りできたから。考え方が違うんだね。」

しかし、それにはデクスは少し、苦笑しただけで何も言わなかった。

その狭い階段を降りきると、目の前に扉があり、そこを抜けると驚くほどに広く、天井の高い場所へと到着した。

正面には、薄い緑色の髪に緑の瞳の美しい、三十代ぐらいの女が一人、立っていた。

「アレクシア様。お連れしました。」

その女は、頷いた。

「…ようこそ、シマネキヅキのお方。しかしそちらは、我らと同じ流れの命のよう。」

デクスは、軽く頭を下げた。

「…まさか巫女様に口を利いて頂けるとは思いもしませんでした。我はデクス。遠い昔、修道士として女神に仕えておりました。」

アレクシアは、ホッホと笑った。

「それは昔。今は、少しぐらい話をしても巫女の力は失われぬと分かり申して、我はこちらの長として客人の相手をしておりまする。」と、案内してきた女を見た。「サラ。主はもう良い。下がっておれ。」

サラと呼ばれた女は、頭を下げてそこを出て行った。

それを見送ってから、アレクシアはにわかに表情を険しくして、デクスを見つめた。

「…して。なぜに主は戻って参ったのじゃ。伝え聞くような邪悪な存在ではないが、主があの、デクスなのであろう?」

シエラは、急に様子が変わったのに緊張したが、デクスは分かっていたのか特に構える事もなく、言った。

「主の懸念は分かる。だが、あの我は黒い命を植え付けられていたがゆえであった。それでも、その責をこの身に受ける覚悟は出来ておる。しかし、シャルディークですら我に手を掛けようとはせず、今はこの不穏な事態に対処するための、力となるように言われておる。なので、ここにあるのだ。我は、これらをダッカにつれて参り、シャルディークの連絡を待たねばならぬ。シマネキヅキでの、戦を止めねばならぬから。」

アレクシアは、それをじっと睨むようにして聞いていたが、フッと肩の力を抜いた。

「…主は白い。話しておる最中でも、それが濁る事はない。我らを謀ろうとしておるのではないのは、見ていて分かる。何より、シャルディークとはシャデル王の前の名であるの?あの正しいお方の命だと申すなら、それに従うが良い。ここで休むのを許そう。」

シエラは、ホッと肩の力を抜いた。巫女にも気が見えるんだな。

デクスは、また軽く頭を下げた。

「感謝する。では、村のどちらかに場所を戴いてそちらで過ごそう。」

アレクシアは、しかし首を振った。

「良い、空いている家があるゆえ、そちらで休むが良いぞ。案内させるゆえ。」と、顔をしかめた。「…しかし、主らが懸念しておる戦、あちらの地では起ころうとしておるの。」

驚いたシエラが、思わず言った。

「え、分かるのですか?」

アレクシアは、頷いた。

「ここと繋がってから、我にもあちらの土地の動きが見えるようになった。ここ最近、確かに不穏であったが、まだ戦は起こっていなかった。だが、こちら側から、あちら側へと多くの気が怒りを持って向かって行くのが見える。どうやら、主らは間に合わなんだようよ。」

…戦が始まってしまったのか…!

シエラが絶句していると、デクスが言った。

「ならばシャルディークがあちらへ行っているはずであるから、大きな事にはならぬはず。ミマサカがヤマトへ、恐らく闇雲に向かって行ったのだろう。リュウガは…助けられたのか…。」

義朋が、言う。

「陛下を取り返されたので、慌ててあちらへ向かった可能性がありまする。陛下は封じられていた反動で、恐らくまだお体も戻っておられないのでは。そこを狙って討って出たと考えられます。」

デクスは、頷く。

アレクシアは、悲しげに首を振った。

「どうなることか…。幾人かが、こちらの地を目指しているのが感じられるゆえ、恐らく戦火から逃れようといち早く移動しているのかも知れぬの。アーロン様は、ご存じであるのか。」

デクスは、それに頷いた。

「シャルディークが知らせておるから、知っておるはず。そろそろ国境警備の兵士達がこの辺りにも多くなって参ろう。」

アレクシアは、頷き返して言った。

「ならば我らも、難民の助けをせねばならぬの。準備をしておこう。あちらには…我のよう知った者も年老いて自由になりたいと旅立って行って、長く滞在しておるはずであるから、案じられる。」と、後ろの階段を示した。「では、主らは行くが良い。己の務めを果たすのだ。」

シエラ達は、顔を見合わせてから、言われるままにそこを後にした。

ミマサカは、ヤマトは、今頃どうなっているのだろう…。

しかし、今出来るのは、ただダッカへ行ってシャデルの連絡を待つことだけだった。

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