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シマネキヅキ~The World of SHIMANEKIDUKI~  作者:
二つの国の対立
32/77

拘束

倒れた龍雅を見下ろして、修道士達はホッとした顔をする。

龍雅を封じるという荒業を、これまでしようとも思えなかったのだからその気持ちも分かった。

倒れて意識を失っている龍雅を運び出そうと準備していると、そこへ、アレクサンドルが急ぎ足で入って来た。

「…龍雅王か。波動を感じて来てみれば…デクスを封じるために術を教えてやって欲しいと言うたのでは。」

栄進は、首を振った。

「ディンダシェリアからも再三引き渡すように言うておるのに、これは己の力に慢心し、デクスを取り込んで己の世にしようとしておるのよ。ディンダシェリアもそれを懸念しておるのだろう。ミマサカを制圧したら、次はあちらであるだろうからな。」

アレクサンドルは、困惑したような顔をした。

「そんな王には見えなんだのに。頑なにデクスを庇うゆえ、何故かと思うておった。だが、こんなことをして…戦になるのではないのか。」

栄進は、それには答えずわらわらと入って来た兵士達に、言った。

「神殿の地下へ。」

兵士は、頭を下げる。

そして、その膜に包まれたままの龍雅を、担架のような板の上に乗せて、運んで行った。

基明が、進み出て言った。

「では、我が無事に封じの場所へ収まるように監督して参ります。」

栄進は、頷いた。

「頼んだぞ。」

基明は、兵士達の後を追って足早に出て行った。アレクサンドルはそれを見送りながら、顔を暗くして言った。

「…栄進、答えよ。このままでは戦になろうぞ。平和利に事を進められぬのなら、我は手を貸さぬぞ。そも、本来このような事には手を貸さぬつもりであった。だが、民達が苦しめられると申すゆえ、確かにショーンの話からデクスは面倒な男であるようだし、この地が乱れるとデクスを封じるためにあの術を教えたのだ。龍雅に使うとは聞いてはおらぬ。早うデクスを捕らえて、早々に龍雅をあちらへ返すが良い。デクスさえあちらから取り返せば、もう龍雅には用はないであろう。」

しかし、栄進は首を振った。

「それは無理ぞ。今回の事で、龍雅を戻せばあの力でこちらへ攻め入って来るだろう。もちろん迎え撃つつもりではあるが、戦になる。双方無傷では済まぬ。こうなってしまったからには、龍雅を返す訳には行かぬのだ。」

アレクサンドルは、目を見開いた。そして、愕然とした顔で言った。

「主…もしや、最初からこうして龍雅を捕らえるつもりで。」

栄進は、チラとアレクサンドルを見た。

「我はミマサカの王ぞ。この国が我の統治のもとで滞りなく回るように努めるのだ。主はこのシマネキヅキ全体を見ておるのだろうが、我らは中で二つの国に分かれておる。同じではないのだ。」

アレクサンドルは、栄進は始めから自分を利用するつもりだったのだ、とそれで気付いた。ショーンが居た時はこうではなかったが、ショーンがあちらへ帰った途端、神殿で修道士達を慰労してやって欲しいと言って自分を神殿へとやった。その後、デクスをどうあっても封じるか殺さねばならない、でも龍雅が囲っていると憂いて、デクスを封じるための術を修道士達に、万が一の時のために教えて欲しいと言われた。

だが、栄進には、どうしても敵わない、龍雅を捕らえるために、その術を使ったのだ。

アレクサンドルが茫然と立ち尽くしていると、栄進はフンと横を向いた。

「…主も、眠って待てばどうか?」

アレクサンドルは、ハッとした。眠って待つ…?何をだ?

すると、帰ったと思っていた修道士が数人残っていて、アレクサンドルに封じの術を放って来ようとしているのを感じた。

「!!」

アレクサンドルは、それを咄嗟に避けた。

自分が作った術なのだから、どう発動してどう流れるのかは知っている。来ると思えば、避けるのは簡単だった。

…我まで捕らえられたら、誰が龍雅の事を知らせるのだ!

アレクサンドルは、脇の窓を割って空へと飛び出した。

「外したぞ!早う!逃がすな!」

栄進の声が追って来るが、アレクサンドルは一気に上空へと飛び上がって、すぐにその姿は、全く目視出来ないようになった。

栄進は、飛べない自分に歯ぎしりしながら、それを見送った。


空が薄っすらと青色を濃くし始める場所まで上った後、アレクサンドルはじっと地上を見下ろして、考え込んだ。

…栄進が要注意人物だったか。

気取れなかった、自分が不甲斐なかった。何しろ、肉の身をまとってしまうと地上ではいろいろと見通しづらくなるのだ。長く回りを性質の良い者達に囲まれ過ぎて、疑うという行為を忘れてしまっていた。

そうなのだ、地上には性質の良い者達だけではないのだ。

しかし、こうなって来ると龍雅が心配だった。あの術を掛けたのは修道士達だったが、中からは絶対に破れないし、そもそも封じられている間は意識が全く無い。

封じを解かれた瞬間、意識を取り戻すかというとそれも難しく、かなり深い眠りからいきなり起こされたような心地で、恐らく殺そうと誰かが術を放って来ても、それを避けることも出来ないだろう。

栄進が、龍雅を脅威と見ているのなら、そのままでは殺せないので一時封じたのは、賢い策だった。

しかし、栄進の企みにのって、龍雅が殺されてしまうのだけは避けねばと思った。何しろ、あの術を教えてしまったのは自分なのだ。

アレクサンドルは、とにかく龍雅だけでも何とかしてから、ここを離れなければと、再び地上を睨んだ。夜になれば、夜目が効かぬ人には気取られにくくなるだろう。そこで、もし助け出せたら助け出すが、そうでなければ、とにかくは対策だけでも取っておかねば…。


その頃、ヤマトでは窓の方を眺めて、遠い目をしながらソワソワとしていた。どうやら、龍雅の事が心配なようだったが、しかしコンラートはそんなことを口にしない性格なので、ただ窓の外を見ては、ため息をついていた。

「…まるで恋人でも待ちわびるようであるな。」デクスが、言った。「そのように案じずでも、龍雅王ならば問題あるまい。シャルディークも、我がああであったから敵対しておったが、大変に正しい命なのだ。なので、案じる事は無いと思うぞ。」

コンラートは、自分が案じているのだと知られているとは思わなかったらしく、驚いたような顔をしたが、赤い顔で首を振った。

「別に、サディアスが心配なんじゃないよ!ただ…。」

コンラートは、下を向く。デクスは、眉を寄せた。

「ただ?」

コンラートは、皆が自分を見ているのを感じて、顔を上げて渋々答えた。

「…嫌な予感がするんだ。なんか、サディアスが出て行った時からなんだけど。」

それには、シエラは驚いた。自分もそうだったからだ。

「え、コンラートも?実はオレも、龍雅陛下がそこを出て行った瞬間から、なんか不安な感じがして落ち着かなかったんだよ。でも、オレってそういうの分からないから、自分が未熟だからかなって。」

コンラートが、シエラを見て、目を丸くした。

「クロノスも?!」シエラと呼んでいたのに、クロノスと呼ぶのは天の素が出て来ているということで、余裕が無いからだった。「お前、なんで早く言わないんだよ!それは勘だよ勘!僕達が持ってる勘なんだって!」

肩を持ってブンブンと前後に揺さぶられたが、シエラにはどうしようもなかった。何しろ、シエラにはまだ記憶など戻って来ていないのだ。

「待たぬかコンラート!シエラの首がもげる!」

デクスが、慌ててコンラートとシエラを引き離した。コンラートは、そんな事には構わず言った。

「…僕が行って様子を見て来る方がいいよな。シャルディーク相手なんだもの、もし相手が最初から捕らえるつもりだったらどうなってるか分からないし。助けなきゃ!」

美琴が、慌てて首を振った。

「駄目よ!龍雅陛下で捕まるんなら、あなただって無事じゃすまないってことじゃないの!もしそうだとしても、しっかり作戦を考えてからでなきゃダメ!」

デクスも頷く。

「そうよ、無策で敵う相手ではないわ。落ち着かぬか。」

しかし、コンラートは居ても立っても居られないらしく、皆が止めるのも聞かずに、外へと飛んで出た。

「見て来るだけだ!どっちにしろ状況は知らなきゃダメだろう!行って来る!」

「待て、コンラート!」

皆が叫んでいるにも関わらず、コンラートは物凄いスピードで西へと飛び去って行ったのだった。

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