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異界閃機ブレイバー -Another World Glint Machine BRAVER-  作者: 葵零一
八章 天を目指す者たち
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三節 天を貫く大樹

 ここは、世界樹の近く。その付近を通る街道である。

 『木を隠すなら森の中』などという言葉があるが、世界樹は草原の中にただ一本だけがそびえたっている。

 草と人と駐屯所以外に何もない中に、雲を突き抜けて天まで届く大樹があるのだ。その光景は、ジョーにとっては異様と言う他ない。


 ポイン・トビアの街を先行して出たジョーたちは、無事に合流を果たすことが出来ていた。……たった一名を除いて。

 町を出てから一夜明け、朝を迎えてしまったが、ついにリックが合流することは無かった。

 しかしながら誰も大して心配している様子は無く、ジョー自身も大事は無いと信じている。


 そして今は、世界樹の間近を通る街道に彼らはいる。目的は偵察――というよりも下見である。

 辺りを徘徊している警備隊に怪しまれぬよう、トレーラーの故障を装って居座っているのであった。


「さて、どうやって近づいたものかな」


 そう切り出したのは、世界樹を伝って天の上にまで行く計画の発案者、ブレットである。

 思っていた以上に無計画であったことに、ジョーは落胆を隠せない。


「街では収穫なかったんですか?」

「無かったね。わかったのは、無謀にもよじ登ろうとした人間達の末路だけだよ」


 これまでに多くの人間が登ろうとし、失敗しているのであろうことを想像するジョーは、不安しか感じない。

 そんな『無謀な人間』の仲間入りを果たしてしまうのだけは勘弁だと、慎重になることを強く意識するジョー。


「俺はMWマシン・ウォーリアが警備に使われていると聞いたぐらいだな」

「そんなの見ればわかりますよ」

「そうよ、どうしてもっとちゃんと調べなかったのよ」


 自分たちの成果を棚に上げ、辛辣な言葉を贈るジョー達。

 非難されたトーマスは、不満げに顔を顰める。


「大体な……お前らが見つからなければ、まだ調べられたんだ。そこのところ分かっているのか」

「いや、まさかガスがあんなところにいるなんて思わないわよ、普通」

「まあ、確かにこの情勢で、ガス・アルバーンほどの男があんな辺鄙へんぴな街にいるとは思わないが……」

「何であんな所にいたんでしょうね?」


 ジョーが思い返してみると、解らなかった。

 帝国が優勢な状況で、なぜガスほどの強力な騎士が前線から外されているのか。

 ストライカーを失ったとしても、その実力はジョーも認めるほどに高い。アーミーでもそこいらの騎士より遥かに戦えるはずだと、ジョーは考える。

 怪我でもしたのかとも思ったが、先日の動きからはとても療養中には見えなかった。


 そんな今の状況とは関係のないことをジョーが考えていると、ブレットが事の真相を明かす。


「疎まれていたらしいからね。前線に大量のMWを配備できた今、不必要だと判断されたのだろう」

「ですが賢者殿、帝国は実力主義でしょう? そんなことで左遷させられる物なのですか」

「普通はしないだろうね。でも、アルバーン家は別だ」

「別?」


 確かにジョーには、ガスが自分は特別だと思い込んでいる節はあるように思えた。

 しかし、それは自身の強さに対する自信からくるもので、決して立場上のものではないように見えた。

 そんな彼が、一体どんな境遇にあるのか――ジョーは少し興味が湧いてくる。


「アルバーン家は皇室の分家でね。ガス・アルバーンはネミエ皇帝と遠縁の親戚なのさ」

「へえ、それであんな無駄に偉そうな人間に育ったのね」

「彼の人柄は知らないけど、その気になれば帝国を乗っ取れる自信でもあるのかもね。聞いた話だと、彼にも一応の皇位継承権があるらしい」


 サクラの毒舌に、ブレットは冗談めかして答える。


「なるほど。奴がストロイ王国を滅ぼしたのは有名な話だが、考えてみればたった一人にやらせているのはおかしい」

「排除したかったのだろうね。結果、彼が勝ってしまったのだけど……」


 それだけの多大な功績を残してしまっては、皇帝であろうとも邪険に扱うことはできない。

 抹殺しようとした人間が、結果として更なる栄誉を手にしてしまったのは皮肉なことだろう。


「――まあとどのつまり、ガス・アルバーンはネミエ皇帝にとっては目の上のたんこぶだったわけだよ」

「へえ、あの人がね……」

「そんなわけだろうから、街にはもう戻れないね。頑張ってここで調べよう」


 ブレットが話を戻すと、再び一行は難色を示した。


「……ですが、あれでは調べられませんね」


 トーマスは後ろを覗く。

 そこには、鉄の巨人――アーミーが歩いている姿があった。

 の巨人が起こす地響きに意識を逸らされながらも、ジョー達は頭を捻らせる。


「そうだね、何か案は無いのかい?」

「一応俺に考えがあります」

「へえ。タイラー将軍がいなくても、結構できるものだねえ」

「侮らないでいただきたい」


 トーマスとブレットの言う『タイラー将軍』という名前に聞き覚えはあったが、ジョーは思い出すことが出来ないでいた。

 出そうで出ないくしゃみのようなもどかしさを感じながらも、ジョーは話を進めるよう促す。


「それで、どういう案ですか?」

「まずはここを離れよう。奴らの見えないところまで来たら説明する」

「わかったわ。善は急げ、さっさと行きましょ」


 道を外れたところで話をしていた四人は立ち上がり、未だ道の上に留まるトレーラーに向かって歩き出す。


「シェリー、『直ったか』?」

「ええ、『今』直りましたぁ」

「そうか、なら出るぞ」


 トーマスが、トレーラーの点検をしている振りをしていたシェリーに声をかけると、一同は車に乗り込みその場を去った。



――――――



 ――その日の夜


 盗賊と、一体のアーミーが世界樹を――いや、駐屯所にいた警備隊を襲撃した。

 アーミーに搭載されたヘッドライトを頼りに、盗賊たちは次々と衛兵たちを切り払っていく。


「賊だあっ! 賊が出たぞぉぉぉっ!」


 鐘を鳴らし、兵士の一人が叫ぶ。

 その兵士の背中にも、非情な盗賊の剣は降りかかる。


「ぐあぁぁぁぁぁっ!」

「なぜこんなところに盗賊が! しかもアーミーまでっ!」

「はやくMWを出せ! 奴らを蹴散らすんだっ!」


 油断していた所を突かれたせいなのか、パニックを起こし逃げ惑う衛兵たち。

 逆に、これ幸いと遠慮なしに暴虐を働く盗賊たち。

 そこには、阿鼻叫喚の図が広がっていた。


 そして、その影で静かに動く者たちが数名――


「よし、うまくやってくれているようだな」

「みたいだね。私たちもそろそろ行こうか」


 そう、トーマスたちである。

 つまり盗賊は、ベン率いる商隊一同なのだ。

 ちなみにアーミーを動かしているのはベンである。


「あの様子なら、ブレイバーで少し引っ掻き回すだけでよかったんじゃないですか?」

「そうよね、あそこまでやる必要あったのかしら?」


 騒ぎの音にかき消され、ジョー達の声は夜のしじまに響かない。


「あのな……さっきも言ったが、『盗賊の振りをする』というのが重要なんだ」

「聞きましたよ。そのためにみんなわざわざボロい格好して、二体あるアーミーのうち一体だけを使ってるんでしょう?」

「そうだ。ブレイバーなんか使った日には、帝都に俺たちのことが知れ渡って面倒なことになりかねんぞ」


 理屈は分かるのだが、ジョーは釈然としなかった。

 自分でやった方が手っ取り早いという自信が、彼をやきもきとさせていた。


「まあ、それはいいとしてだ。さっさとやるべきことをやってしまおう」

「同感だね。時間はあまりないから、早く調べよう」

「はいはい、わかってるわよ」


 世界樹の下までやって来た四人は、それぞれランタンを手に、手分けして周囲を探って行く。

 手元が暗いのもあって、調査は難航していた。それでも時間をかけ、調べられる範囲で隅々まで観察した。


 ――そして、一時間程の時が経った。


 一般的な家屋以上もある太さの世界樹の外周を一通り見て回った一行は、誰もが疲れた表情をしていた。

 トーマスは木の幹に寄りかかり、ブレットは手ごろな根に腰かけている。

 サクラはそんな二人を睨んでいたし、ジョーは意味もなく天を見上げていた。


「ねえ……なぁんもおかしなところなんかないわよ、これ」


 サクラの言葉には、ジョーも同感であった。

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