糸の先には誰がいる?
温もりのある暗闇の中で、光の糸が舞い踊る。
もっと速く……
もっと自在に……
もっと繊細に……
僕は相棒と体を重ね、心を同調し、魂を一つにする。
僕と相棒は二人で一人だ。
「――ふぅ、いつもありがとう、相棒。だけど、いま何時だろ? 『夢所』は時間が分からないからなぁ」
僕は相棒を撫でながら、いつものように語りかける。
すると、相棒が『午後3時45分6秒』と答えてくれた気がした。
「えっ!? もしかして君、喋れるの?」
ぼんやりとではあるが、相棒から肯定している感じが伝わってきた。
「そうだったんだ……。ごめんね。いままで気付かなくて……」
相棒は『気にしないで』と、首を横に振っているようだ。
「うん、ありがと。でも、そっか……なんか君の事がもっと可愛く感じるね!」
いままでも感謝し、出来る限り愛情を注いできたが……
なんというか、人に近い動作をするペットがとても可愛く感じるのと同じ感覚を持ってしまう。
ハム助も可愛いんだけど、触ると少し嫌がるから、可愛がれないんだよな。
僕がいつも以上に心を込めて、相棒を優しく撫でると『はぅっ、ぅ~』と反応したようだ。
こ、これは、素晴らしい。
その反応のあまりの可愛さに少し感動した僕は、相棒にもっと撫でても大丈夫か確認してみた。
答えは小さくイエス。
僕は大喜びで、相棒を撫でまわす。
その度に相棒は、新たな可愛さを見せてくれた。
「とっても可愛いね。相棒は」
『ぅぅ……』
相棒とのスキンシップで癒された僕は、相棒を操作して、半径10mぐらいの光の繭を作成する。
あっという間に繭を完成させた僕は、あの『心を覗く魔法』覗き魔法のホース君を見つめた。
とりあえず、こいつを何とかしてから帰りたい。
ずっと思考を制御するのは大変だし、いつ制御に失敗してバカリヤに本心が伝わるか分かったもんじゃないしな。
そんなことを考えていると、なにやら相棒がホース君に触りたそうにしている。
触りたいの?
僕が相棒に頭の中で聞いてみると、コクコク頷いてるようだ。
僕は『分かった』と声を出さずに返事をすると、相棒でホース君を触ってみる。
ん? もっと内部まで?
僕は相棒の意思を感じ取り、ホース君を相棒で塗りつぶすかのように動かした。
おっ? 分かる、解るぞ!
どうやら、このホース君も元々は特殊能力のようだ。
そして、このホース君の習性も何となく理解できた。
凄いぞ、相棒!!
まるで鑑定だな!
口には出してないが、心でベタ褒めしながら相棒を撫でる。撫でる。撫でる。
こういう『なでなでチャンス』は、逃さない。
思いっきり相棒を撫でまわした後、僕はホース君の習性について考えた。
ホース君は指定した人物をかぎ分け、情報を吸い取りやすい場所にくっつくのか……
この習性なら、アレが良いかな?
僕は、特殊能力『コピー人形』を使用した。
――これで、良し!
僕の手首には、いままで無かったミサンガを巻かれている。
そのミサンガから、ホース君が情報を吸いあげているのが確認できた。
特殊能力『コピー人形』は、指定した人そっくりの動く人形を出せる能力だ。
僕が使ったときは驚くことに、思考までコピーして出てきた。
その時にいくつか質問したが、本体の命令には絶対に従うらしい。
そんな『コピー人形』を検証して分かったことの一つが、『コピー人形』は別に人型でなくても指定した人が服を着ていたら、服だけを指定してコピーすることも可能だった。
そこで僕は、いま持っているハンカチをコピーして、特殊能力『裁縫』でミサンガを作った。
『コピー人形』へのお願いは、カリヤさんへの敵対心や不機嫌にさせそうな思考など、不都合な考えを取り除いた思考をすること。
そのミサンガを手首に巻いて、ホース君がくっついている首の部分にミサンガを重ねた。
すると、ホース君は素早くミサンガにくっつき、情報を吸いあげる。
『良し! 思った通り食い付いた。僕は相棒が守ってるから『コピー人形』を優先すると思ったよ』
『コピー人形』以外でも、やり方は沢山あったが、これが一番コスパが良い。
それに、バカリヤを喜ばせる思考をするのは、『コピー人形』が一番適任だろう。
ごめんな。コピー君。
バカリヤの相手なんかさせてしまって……
僕はミサンガを優しく撫でた。
相棒に時間を聞くと、まだ『午後3時45分37秒』だった。
……あれから、まだ1秒しか経過していないのか。
時間が千分の一って、体感すると凄まじいものだな。
僕は『夢所』の凄さを実感しつつ、相棒に質問した。
「僕が『夢所』に入ってきた時間は分かるかな?」
『午前11時57分7秒』
「おお、やるな。相棒」
僕は相棒を撫でくりまわす。
えーと、今が『午後3時45分37秒』で『午前11時57分7秒』だから、滞在時間は……
僕が『夢所』での滞在時間を計算していると、相棒が『158日と16時間20分』と教えてくれた。
「凄いぞ! この子は天才だ!!」
僕は相棒に抱きつき、キスをした。
『ぅぅぅ……』
もうそろそろ帰っても良いのだが、せっかく『夢所』にいるんだから、今のうちに『限界突破』でシステムの壁を調べとこう。
ここなら三日間寝込んだとしても、問題ないだろうしね。
僕は、やれることは先にやっとこうと、『限界突破』でシステムの壁を調べた。
前回よりシステムの壁が理解できる。
……やはり魔力と科学が融合している感じだな。
ん? ここに穴があるぞ?
目には見えないけど、いくつか穴を感じる。
これは……相棒?
僕はいくつか存在を感じる光の糸の中で、存在感の一番強い糸に触れた。
これは……『限界突破』への糸か?
僕はその糸をもっと知ろうと、『限界突破』を追加で2回、重ね掛けした。
激痛を感じながらも、その光の糸が『限界突破』へと繋がっているのを強く感じて…………
見たことがない樹木が目にうつる。
『えっ!? ここは何処だ!?』
目の前には夕焼け色に光る葉が生い茂る、三メートルぐらいの木が生えていた。
その光は橙と赤に暖かさを混ぜたような色で、部屋の中を夕焼け色に染めていた。
その木を軸にテントのように張られてる布が、夕焼け色に染め上がり、僕に懐かしさを感じさせてきている。
室内には組み立てるのが容易そうな、簡易的な椅子や机がおかれ、その上には女性の服や細々したものが散乱しているようだ。
その奥には、丈夫そうな箪笥が扉を開けたまま置いてあり、それが衣装箪笥だと知ることができる。
足許には……あ、し?
僕の足が無くなり、ついでに体が光ってる!!
『足がないぞっっ!? って何で光って「きゃあぁぁぁっっ!!」 えっ!?』
叫び声がした方向を振り返ると、上半身を布地で隠し、こっちに向かって何かを投げてくる女性がいた。
『うわあぁぁぁ!! ごめんなさいぃぃ!!』
「いやぁぁっ!! お化けぇぇぇ!!」
後ろに振り向き、光り輝きながらも謝り続ける幽霊と、着替えの途中で光るお化けに遭遇し、混乱する女の子。
それが僕と歌姫の出会いだった。




