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第七感

  光の糸を構成する魔力を感じること。

 それがこの特殊能力『光の糸』を知るために、最初に始めたことだった。


 目を閉じる。

 深く息を吸い。

 ゆっくりと息をはく。


 音も光もない空間で、ただただ魔力を体に流し入れ、循環させ、その魔力を感じる。


 ゆっくりと丁寧に……

 体の声に耳を傾けた。




 『―――猪熊先生、言い付け通り瞑想《めいそう》をしているのですが、無心になるコツはあるのでしょうか?』


 『無心? かっかっかっ、わしは瞑想しろとは言ったが、無心になれとは言ってねえぞ』


 『ええっ? 瞑想は無心になることではないのですか?』


 『そんなやり方もあるみてぇだが、わしのやり方は違うぞ。猪熊流の瞑想は体の声を聞くことだな』




 僕は思考を止めるのではなく、体の声を聞くことに集中した。


 普段は無意識にしている呼吸を感じ……

 普段は気にならない心臓の鼓動に意識を傾け……

 普段は感じない、体から発せられる温もりを知る……


 感じ……

 傾け……

 知る……


 血液の流れを感じ始めたとき、それに伴い流れてくる魔力を、強く感じることが出来るようになった。


 僕の意識を魔力に少しずつ傾けていく。


 少しずつ……慎重に

 少しずつ……なめらかに


 僕の体は魔力だけを感じる器官になったかのように、魔力の微細な流れを感じとっていた。




 後から考えると、この『夢所』は、とても瞑想に向いている場所だった。

 現実ではどうしても離れることのない、食事や排泄行為などの生理機能から離れ、瞑想に潜り込める。

 僕はとても恵まれていたのだ。




 『夢所』の時間で、もうすぐ50日に近付くほどの時間が過ぎた頃……

 僕の体には第七感とも呼べる、魔力を自然に感じる感覚が出来ていた。


 「……よし、次だ」


 第七感をそのまま鍛えながら、体内に循環させている魔力を操作する。


 魔力を一番止めやすい場所、光の糸が出ている胸の辺りに魔力を貯めて、ゆっくりと放出してみる。

 僕は放出した魔力を感じ、制御しようとしたが、放出した魔力はすぐに拡散して消滅してしまう。


 「……さ、最初、から、上手くいく、はず、ないか」


 ん?

 口から出てきた言葉はとてもぎこちない。


 ……なんか、疲れたな。


 急ぐべきだが、焦っても仕方がない。

 目指す場所は高く、遠い。

 体調を管理しておかなければ、どこかで無理が来てしまうだろう。

 僕は魔力を感じることを続けながら、一眠りすることにした。



 体調を維持しながらも、魔力を感じ、扱う練習を続ける。



 制御失敗、制御失敗、制御失敗………眠る。

 制御失敗、制御失敗、制御失敗………眠る。

 制御失敗、制御失敗、制御失敗……………




 そんなある時、ふと何かが繋がった。

 その後、初めて空間に漂う魔力を制御することに成功する。


 それからは、いままでの失敗が嘘のように進んでいった。


 まず、僕は空間にある魔力を、マリオネットのように操れるようになった。

 初めは一本の糸で操る状態だったが、二本、三本と増え、ついに手足と同じように魔力を制御することに成功する。


 僕は光の糸を魔力で動かして、胸の前に集めて毛糸の玉のようにした。

 そして、それを両手ですくうように持ち上げる。


 「……もしかして、特殊能力《きみ》が魔力と繋いでくれたのか? ……ありがとう」


 僕は『光の糸』を抱き締め、お礼をいった。



 その後も、光の糸に感謝の言葉を述べながら、魔力を扱う練習を続ける。

 すると、異質な魔力を感知することも可能になった。

 魔力を制御しているはずの空間に、制御不可能な魔力があるのだ。

 光の糸とはまた違う、僕の何かを吸い取ろうと動く、不愉快な魔力のホース。


 「これが心を覗く魔法か……」


 そのホースは僕から情報を吸い取ろうとするが、吸えていないようだ。

 ……隙間なく体中に光の糸を編み込んだおかげかな?

 ありがとう、僕の相棒《ひかりのいと》。

 僕は光の糸をそっと撫《な》でた。


 さて、どうしようかな?

 僕は油断せずに、周囲の魔力を三度確認する。

 ……僕にくっついていたのは、これだけのようだな。


 まだ、声は出せない。

 どこで盗聴しているか、分かったもんじゃない。


 態度に表すのもまずいだろう。

 遠くから見てる可能性がある。


 だけど……だけど……


 あの、メガネ!!

 なんで高級レストランに白衣で来てるんだよ!!

 バカなの?

 ねえ、バカなの?


 『軽い意趣返しのつもりだったが、面白かったかい?』って面白いはずないだろっ!!

 国語を小学一年生からやり直せ!


 ここ一万年に渡って、たいした論文など無い?

 遺憾?

 なら、あなたが書けば良いじゃないか!

 人のフンドシで相撲をして、なにが遺憾だよ!

 あなたの頭の方が、よっぽど遺憾だよ!


 『大事な何かを失ったときは、どのような力を生むのだろうね?』だと?

 なに?

 中二病、患《わずら》ってるの?

 どっちかというと、力を失うんですけど、それ?

 無気力って言葉を知ってます?

 もし、生み出すとしても、いいとこ復讐心ぐらいしか生まないよ?

 だって『いままでは君の意見が正しかった』って言ってたよね?

 なら、認めようよ!

 仮にも頭が良いと自分で思ってるなら、現実を見ようよ!


 『でも君なら違うかもしれない……と、期待してしまう私がいる』ってバカ!!

 このバカリヤ!!

 肝好き、バカリヤ!

 今度から心の中で、バカリヤ肝男《きもお》と呼んでやるからな!!




 ……ふー、少しはスッキリした。

 頭の中でも文句が言えないのは、とてもストレスが貯まる。

 突っ込む所が多すぎるんだよな、バカリヤ肝男は!

 


 ……ちょっと言い過ぎたかもしれない。

 もし、まだ思考を読まれていたら……


 ま、いいや。


 やってしまったことは、仕方がない。

 怒ったら……平謝りだな。

 ……今度、肝の慣用句でも調べとこうか。



 僕は気を取り直して、僕にくっついている魔力のホースに目をやる。


 そういや、この『心を覗く魔法』はどうしようかな?

 『夢所』でなら多少の放置は大丈夫そうだけど、このままなら怪しまれるかも?


 手を加えるにも、失敗すると大事になるしなあ……


 とりあえず、このまま練習と研究を続けて、それから対処で良いかな?


 「よし、一緒に頑張ろうね。相棒」


 僕は相棒を球体にして、撫でまわした。




 僕は忘れていた。

 この相棒《ひかりのいと》が『かんていさん』と繋がっていることを……


 僕は知らなかった。

 僕が相棒《ひかりのいと》に感謝を伝え、撫でまわしていたときに、『かんていさん』が「きゃっ!」とか「そんな……」とか言ってたことを……


 そして、知るのである。

 僕が知らないうちに、『かんていさん』に感情《バグ》を与え、攻略していたという事実を……


 この時の僕は、まだ知らなかったのだ。


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