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命の糸

 「石居長子さんって知ってるか?」


 僕はカリヤ……さんが言っていた名前を、二美に聞いた。


 「知らないよ! それよりも本当に大丈夫!? 死にそうな顔してるんだからっ!」


 二美は僕の袖を引っ張って、少しでも外に運ぼうとしている。

 もちろん、それぐらいでは僕は動かないけど、その気持ちは嬉しい。


 「二美、大丈夫だから……」


 「大丈夫じゃない人ほど、大丈夫って言うの! 誰か呼んで、ああっ! ここ入れないじゃない!」


 二美が僕のための言葉を口にしながら、動き続けるのを見ていると感情が溢れそうになる。

 ……これ以上は危険かもしれない。

 『石居長子さん』については、後で渡にきいてみよう。


 僕は疲れた体と心を無理矢理動かして、床から立ち上がった。


 「わかった、わかった。とりあえず外に出るよ。少し動いた方が、元気も出そうだしな」


 「あっ、ちょっと待って。 いま建設中の……こら、お兄ちゃん、待ってよ!」


 二美に手を振りながら、僕はマスタールームを出ていく。

 ……これ以上、一緒にいると感情が溢れて止まらなくなってしまう。


 まだ、安全だと……


 心を覗かれていないと……


 決まった訳ではないのだから……




 「あ、イチお兄さ……えっ! どうしたの!? だいじょうぶ!?」


 一路君がこちらを見て、心配してくれた。

 母さんがすぐに僕に近付くと、手を額に当ててくる。

 父さんは「何かあったのか?」と聞いてくるし、咲さんは布団の用意をしているようだ。

 ハム助も心配そうに鳴いている。


 「ごめんっ!!」


 僕は大声でみんなの動きを止めた。


 「一路君! 『夢所』使わせてもらえないかな? できれば、今すぐに!」


 「えっ!? でも……」


 「いちさんは、少し休むべきだと進言します」


 一路君は戸惑とまどい、『かんていさん』は休憩すべきだと言ってきた。


 僕がもう一度お願いしようとしたとき、いままで腕を組んでこちらを見ていた猪熊先生が口を出した。


 「おい、いっくん。無理じゃねえなら、その『夢所』ってのを出してやれないか? おい、いち坊。一人で良いんだな?」


 「……お願いします」


 猪熊先生……

 僕はみんなに向かって頭を下げた。


 「……うん。『夢所』……つかうね」


 僕の目の前に、黒い穴が現れた。


 「遅くなっても気にしないで良いから!」


 僕は『ありがとう』も言えずに、その穴に飛び込んだ。




 『夢所』にいる間は歳をとらない。

 つまり、食事や排泄行為をする必要がなくなる。

 そんな夢の場所は、思わず寝たくなってしまうくらい、黒くて優しい空間だ。

 けれど、僕は寝るために来たわけではない。


 「……ここでも使用可能だな」


 『かんていさん』への繋がりを意識し、光の糸を可視化させる。


 「僕の特殊能力《光の糸》の進化は、あなたの望みに叶いますよね? カリヤさん」


 優しく暗い闇の中で……

 僕は一人、光の糸と向き合うのだった。



――――――――


 初めてのダンジョンを攻略した頃、僕と渡が『特殊能力とは何か?』について話をしたことがある。

 それは特殊能力『魔法』を検証した事が切っ掛けだった。


 『――――つまり、魔法は『魔力と呼ぶ名のエネルギーを操る技術』ってことか……』


 「使ってみた感じでは、ね。鑑定様や予測様で調べても同様の結果だったし、ある程度信頼がおけるんじゃないかな?」


 地面に小さな穴があり、山肌が少し焦げる場所で、僕は渡と話していた。

 この穴や焦げは、全て『魔法』を使用した結果である。


 『そうだな。しかし『魔法』は、コストパフォーマンスが悪すぎて使えんな。応用力は飛び抜けているが……。『魔法』の技術を高めることに時間を浪費するぐらいなら、ダンジョン攻略を先行すべきだろう』


 「そうだね。アップデートまでの時間がないから、仕方ないか。時間に余裕があるとき、少しずつ練習しとくよ」


 『魔法』は他の特殊能力と違い、感覚的に使用すると、移動距離の消費が爆発的に増えてしまう能力だ。

 言い換えるなら、理論的に使用するとコストが軽くなる。


 例えば『火が燃えるには、可燃物以外にも、酸素ガスのような酸化剤が必要で……』とか『土には小さな隙間があり……』みたいな知識を意識した方がコストが良くなるのだ。

 他にも、魔力の流れを意識したり、地面に存在する魔力を体内に取り込む技術などなど、覚えることが多い。


 そんな『魔法』だが、応用範囲は凄まじい。

 その応用力は、想像力と言い換えても過言かごんではないだろう。


 ただし……


 『そうだな。だが『隠密』を一秒使用するのに4億kmは、さすがに笑うしかない。『再生』にいたってはけたがバグってるとしか思えんレベルだぞ?』


 そういうことである。


 「そうだね。それでも『魔法』は凄いよ。理論上、魔力が足りれば何でも出来るんだから」


 『まあ、そうだな。仮に魔力を集めても、莫大なエネルギーをどう制御するかの問題とかもありそうだがな。安全性もどうだか……』


 「うーん、『魔法』も『科学』と似たようなものか……ん? なら特殊能力はどうなんだ? スマフロは、たぶん『魔法』と『科学』の融合で作られているよね。

 だったら、特殊能力は特定の現象を『魔法』で再現するとき、最高のコストパフォーマンスで感覚的に使用する為の道具ツール?」


 『ま、そんなとこだろうな。もうすぐ時間だ。今日は早く帰るって約束してんだろ?』


 「あっ、もうこんな時間だ。よし、帰るか」


―――――――


 あの時は分からなかったけど、たぶん『特殊能力』は『生物的』なんだ。

 『科学』で『生命』は作れないのと同じで、『魔法』で『特殊能力』は作れない。


 最先端の技術をもってしても、肝臓と同じ機能を持つ化学工場はつくれないと聞いたことがある。

 蚊のようなロボットも、とてもじゃないが不可能だ。

 そういった意味では、『生命は科学の先駆者せんくしゃである』といえる。


 そんな生命だが、科学で生み出すことは出来なくても、クローンや培養ばいよう、薬などによる制御や変異など……

 そこに『命』さえあれば、『科学』で出来ることは多いのだ。


 ならば僕にも出来るはずだ。

 僕には『特殊能力いのち』も『魔法かがく』もあるのだから……


 僕は自分の命に問いかけるように、光の糸にそっと触れた。


 いまにも溢れだしそうな感情を原動力にして、僕は僕の特殊能力いのちを知り、扱う為の旅に出る。


 みんな……きっと守ってみせるから!!


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