光と蜘蛛、霧と暗
たいへん不本意だが、誤解は誤解のまま一路君の記憶に残ることになってしまった。
あと数年してストーカーの意味がきちんと理解できる歳になったとき、あらためて真実を語ろうと思う。
そのことを胸にしっかり刻んだ僕は、今度こそ皆と真面目に話し合った。
話し合いは、僕が見た夢の内容や二美のダンジョン経営、一路君達の今後や渡のサポートなど、多岐にわたる。
みんながそれぞれ出来ること、得意なことを分配し、苦手なことをサポートするように、大まかな計画が完成されていった。
「穴だらけだけど、だいたいの計画は出来たかな?」
みんなの意見がまとめられたホワイトボードを見ながら、僕は渡にこの計画がこれで完成か聞いてみる。
『今回は穴が必要だからな。完璧を求めるなら、最初から『超越鑑定』で調べた方が良いに決まってる。これからの試行錯誤は必要経費だな』
そう、この計画は完璧を求めてはいない。
一路君への思考誘導から考えると、完璧な選択は正解でない可能性が高いのだ。
「試行錯誤が必要経費かぁ。五里霧中ってやつだね」
なんせ、このゲームの目的といった肝の部分が、推測にも届かない臆測での計画だ。
少し困ったように笑いながら、僕は渡の言葉に答えた。
『イチの能力は先が見えなくても、追跡できるんだろ? 能力の名前、『光の糸』から『蜘蛛の糸』に変えとくか?』
「……せめて、『アリアドネの糸』にしないか?」
バッドエンドな『蜘蛛の糸』は、縁起が悪い。
それなら迷宮から無事戻ることの出来た、アリアドネさんの方が希望が持てる。
そんな僕の希望を叩き潰すかのように、渡は悪い笑顔で返事をした。
『くっくっく、あの英雄の最後も悲惨だけどいいのか?』
「……そうなんだね。やっぱり英雄はなるものじゃないな。もし、子供が生まれたら「英雄だけはやめとけ」って言うことにするよ」
やはり、英雄には悲劇が多すぎる。
完全にブラックだな。
『くっくっ、そんときは、俺が資料を用意してやるよ。「お父さん、凄いだろ? こんな格好、常人じゃできないぞ。さすが英雄だな」ってな』
「……渡。それ以上言ったら『光の糸』を使って乗り込むぞ……」
僕は声のトーンを低くし、渡の写るノートパソコンの画面を睨む。
『くっくっく、わかった、わかった。これから本気で神様のご機嫌を伺いながら進むんだ。 切られないように気を付けろよ?』
「……なるほど、たしかに『蜘蛛の糸』だ……」
現状によく似たその物語を頭に思い浮かべ、「こっちの神様は物語と違って性格悪いよなぁ」と、心の中で思うのだった。
話し合いも無事終わり、僕は現在、『光の糸』を道標にして、『とある場所』に向かって走っている。
……まあ、その『とある場所』が何処なのかは、僕にも分からないのだが……
あれから僕達は、それぞれが計画に沿って行動していくことになった。
まず、二美。
二美にお願いしたのは、ダンジョン経営だ。
僕がダンジョン経営をしたら、他の行動をする時間が無くなるので、今後は二美にダンジョン経営を任せることにした。
問題があってもすぐに連絡が届くようにしている。
これで、やっと僕に自由な時間が出来るだろう。
渡は二美のダンジョン経営を中心に、みんなのサポートをしていく。
その他にも空いた時間で色々するらしい。
とりあえず色々について聞いてはみたが、『色々は色々だ。……詳細、聞きたいか?』と、言ってた。
当然、聞いてない。
一路君達と大人達は、一路君達の引っ越しをしている。
正確には、引っ越しを含めた手続きや話し合いなどだ。
手続きは渡が用意しているので簡単だが、より良い生活をするためには、お互いを知ることが大切である。
まあ、話し合いとは言ってはいるが、ようするに仲良くなるための時間を設けようってだけなんだけどね。
ハム助はお留守番だ。
今回の行動は僕一人の方が良い。
ハム助は付いてきたそうにしてたが、みんなの守護をお願いした。
『かんていさん』は新菜ちゃんのお世話係をすることになった。
もちろん、みんなの相談役といった役割もあるのだが……
そこはやはり一路君の能力だけあって、一路君の意図を一番に組んで行動しているようだ。
元が新菜ちゃん愛用のウサギさんだったことも、関係しているのかもしれない。
ともあれ、『かんていさん』の危険察知能力と最強の一路君によって、猪熊先生の家は世界最高の防衛力を持つこととなった。
これで安心できるといいけど、難易度上昇の件があるからなぁ。
まったく、はやく霧が晴れてほしいもんだね。
そして、そんなことを考えている僕は……
当初は誰も攻略していない、無人のダンジョンに行くつもりだった。
先行してスマフロをプレイしていた、約100人のプレーヤー達。
そのプレーヤー達だけが、僕が110ヶ所も攻略した、あのダンジョンに挑戦できる。
そして、その無人のダンジョンが攻略されたとき、初めてアップデート後のプレーヤーが挑戦できるダンジョンが生まれるのだ。
その情報をマスタールームでの質問で得ていた僕は、管理するダンジョンの数は増えるが、自身の強化の為にも、とりあえずダンジョン攻略を続ける予定だった。
そう、先程の話し合いまでは、その予定だったのだが……
渡との話が切っ掛けで思い付いたことを実行してみると、予想外の結果が出たのだ。
そして、僕は現在『光の糸』……いや『蜘蛛の糸』をたどって、目的地である『とある場所』に到着する。
そこは奇しくも、当初の攻略予定だった無人のダンジョンだった。
いま、僕の目の前に、光を飲み込むような漆黒の入り口が見える。
まるで、小型のブラックホールを連想させるダンジョンへの入り口が、渦を巻いて僕を誘う。
「……暗中模索の方だったかな? この『蜘蛛の糸』、切られないようにしないと……」
その暗闇へと続く、光り輝く糸を見詰めながら……僕はそんな言葉を呟いた。




