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光の糸

 二人を繋ぐ光の糸が、目の前でフワフワと揺れながら輝いている。

 僕は、ゆっくりとその輝きに手を伸ばした。


 「……触れない。手で遮《さえぎ》ることも出来ないみたいだ……。あっ、みんなには見えるのかな?」


 周囲のみんなを見渡すと、みんな何を言っているのか分からない表情だった。

 ただ一人、無表情な『かんていさん』を除いて。


 「私には見えます。どうやら私達二人にしか見えないようですね。一《いち》さんの特殊能力である『周知《しゅうち》』を使用すれば、感覚の共有は可能です」


 かんていさんが、いつものように淡々と意見を語りだす。


 「パソコン越しでも大丈夫かな?」


 やはり、こういうことは渡に一番見てもらいたい。


 「サポートします。手を貸してください」


 かんていさんは右手を差し出した。


 「えっ? 手を繋ぐの?」


 なんだ?

 このドキドキは……


 自分でも驚くほど、かんていさんを意識しているのが分かる。

 先刻のやり取りから、いつも以上にそういったやり取りに、敏感になっているようだ。

 くそ~、二美が余計な事を言うから……


 「……移動距離は余分に消費しますが、他の方法を検討しますか?」


 「……いえ、すみません。よろしくお願いします」


 僕は頬が熱くなるのを感じながら、彼女に右手を差し出した。




 それから15分ほど、僕の特殊能力『光の糸(仮)』を検証した結果、次のことが分かった。


 ①どちらかが、相手への繋がりを強く意識すると光の糸が見えるようになる。とりあえず二美にも見えた。


 ②相手への繋がりを意識しないと見えなくなる。


 ③見えなくなるだけで存在はしている。(ソースはかんていさん)


 ④既存の物や方法では遮《さえぎ》ることは不可能。


 そして、『光の糸(仮)』が原因かどうかは分からないが、


 ⑤『かんていさん』が、元のウサギさんに戻ることが出来なくなった。ただし、この状態を維持するための消費移動距離は、激減したようだ。 



 『……こんなところだな。とりあえず、イチの能力はスマフロをバグらせる力があるようだ。無理に鑑定したとき限定だけどな』


 画面の中でパソコンを操作しながら、渡が『光の糸(仮)』について、現在分かったことをあらためて説明した。


 ……僕の能力は、『かんていさん』をバグらせてしまったのだ。


 「……すみません。一路君、かんていさん」


 両手を顔の前で振りながら、一路君があわてて返事をする。


 「ううん、いいよ。 移動距離がすくなくなるのがへったし、『かんていさん』とずっといっしょにいられるから、だいじょうぶ。たぶん、ニナ、大よろこびだよ」


 かんていさんも、平然と現状のメリットについて話す。


 「この状態を維持することは、ニナにとって良い効果があると推測します」


 「そう言ってもらうと、助かります。あっ、そうだ。いままでの結果で、この能力の使い方は分かるかな?」

 

 僕が質問すると、『かんていさん』は珍しく少し考える動作をした。


 「……まず、対戦中などで可視化することにより、相手の混乱を誘える効果が期待できます。

 次に、一《いち》さんの習得している特殊能力『身代わり』『鑑定』『限界突破』『カウントダウン』などを使用することによって、スマフロに何らかの障害を与えうる可能性があると推測します。次に……」


 かんていさんは次々と『光の糸(仮)』の使用法を教えてくれた。

 大きくまとめると、『視覚的な使用』『ウィルス的な使用』『ナビ的な使用』の三つになる。

 ちなみに『ナビ的な使用』とは、光の糸をたどることで、目的の人物の所まで行けるといったものだ。


 『なるほどな……』


 何かに気付いたのか、神妙《しんみょう》な顔の渡が一言つぶいた。


 「渡。何か気付いたことでもあるのか?」


 その顔を見て、僕も声のトーンを下げて尋《たず》ねる。


 『いや、イチらしい能力だなってな』


 「僕らしい?」


 『ああ、人様に勝手に糸を繋いで追跡をし、その人の目をくらまし、バグらせる。妹をストーキングしていたイチにぴっ 「渡っ!!」 なんだ?』


 「根も葉もないこと言うなよなっ!! 一路君もいるんだぞ!」


 一路君が本気にしたらどうするんだ!


 『昔、イチにストーキングされて怖いって、二美ちゃんがTwi〇terで呟いて……』


 「昔の『兄がついてきた。恥ずかしい』ってやつだよね? 今、蒸し返す? それ?」


 そういや、あの時もストーカー扱いしてたよ!


 「過去に『兄がついてきた。恥ずかしい』と、二美ちゃんがネットで呟いたのは事実だと推測します」


 二美が『かんていさん』らしい淡々とした口調で、火に油をそそぎだす。


 「おい、二美!! なんで『かんていさん』の真似して、誤解を加速させようとしてるんだよ!!」


 僕は思わず大きな声で、二美のそそぐ油を止めようとした。

 

 『一《いち》さんの声が大きくなりました。やはり、ニナちゃんから離れた部屋を選択して、良かったと推測します』


 「渡も真似するの!? 渡の顔、無表情が完璧すぎて怖いんだけど!? かんていさんに失礼だよ! ねえ、かんていさん?」


 「問題ありません。頬を少し上げるとより完成度が高まると進言します」


 かんていさんは、いつも通り質問に答えてくれた。


 「完成度的に失礼かは聞いてないからね!? 渡は『なかなか、やるじゃないか』みたいな顔をしない! 二美は『かんていさん』と握手をしようとするな! 『かんていさん』をバグらせてるの、二人じゃないのか!?」


 『一《いち》さんの特殊能力『ストーカーの糸』の効果だと推測します』


 「だから、ストーカーじゃないって! 聞いてるのか!? 渡!?」


 僕達が馬鹿なやり取りをしばらく続けていると、一路君が声をかけてきた。


 「いちお兄さん?」


 僕は一路君の方向に振り向き、目線を合わせるようにしゃがむと、一路君の肩を抱いた。


 「一路君。大丈夫だからね? いちお兄さんは、ストーキングなんかしてないからね?」


 「うん! だいじょうぶだよ」


 よかった!

 一路君は分かってくれている!


 「ふみお姉さんがしんぱいだったんだよね? 僕もかくれて、ニナのようす見ることあるから。やっぱり、しんぱいだよね?」


 「あ、いや……うん。そうだね……」


 同じことをしても、年齢が違うだけで問題になることもあるんだよ……

 その言葉を一路君の善意で飲み込んで、僕は一路君の言葉にガクンと頭を頷《うなず》けるのだった。

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