1話 下界への旅立ち
「シリエル様の翼はいつ見ても美しい…」
「ええ、あの金髪と白い翼がとても神々しいわ、私たちもシリエル様を見習わなければ」
私の名前はシリエル。上位の天使だ。
この純白の翼が自慢で、金髪の髪と白いシルクの服と合わさって神々しい雰囲気を醸し出している。
そして、この純白の翼こそが私が禁欲であるという事を証明している。
欲深くなると黒く染まり、私のように白であるものはおらぬ。これだけは誰にも負けない誇りだ。
だが、近頃下界に降りた者達が黒く染まっていく事が多いらしい。嘆かわしいことだ。
「また、黒い翼の天使が出たんですって?」
「ええ、情けないですわね」
やはり話題になっておるな。天使たる者翼が黒く染まるというものは恥である。
あのラシエルも翼が少し黒く染まったらしい。
まったく、上位天使であろう者が情けない。
皆、私を見習えば良いものを…。
「シリエル様。最近、翼が黒く染まった天使の話を知っていますか?」
「ああ、知っておる。天使たる者、何故欲に負けるのか私には分からないな」
「流石シリエル様。ですが、それだけ今下界が素晴らしいものになっているらしいです」
「そうなのか?私は世俗には興味が無くてな」
「ええ、主に下界で美味しいものを食べたり、はしゃいだりして翼が黒くなるようです」
「ふむ、軟弱な天使が増えたものだな」
「ええ、ですが下界の生活は知らない方が良いと思います。シリエル様でも欲望に負けるかも知れません」
部下の天使が聞き捨てならないことを言った。私が欲に負けるとでも?
許せん。私はその様なことを言われて許せる性格では無いのだ。
「貴様は私を愚弄するつもりか?私が下界に降りれば翼が黒くなるとでも言うのか?」
「いえ、その様なことは…失礼を申しました」
「いや、ならば証拠を見せよう。私が下界に降りても純白で居られると」
「その様なことをされると…やめてくだされ」
私は彼の言葉を無視して下界に向かった。
「ああ、行ってしまわれた…」
「まあ、シリエル様なら大丈夫だろう」
◇ ◇ ◇
ふむ、ここが下界か…目立つから翼は透明化しておこう。
500年ぶりに降りたが何やら凄いことになっておるな。
人間の手でこれだけの建造物が建てられるのか。
だが、どうしたら良いのか?何をしたら良いのか分からない。
そこで歩いている人間の記憶を読もうか。
……。
なるほど、お金で買い物をしたら良いのだな。それに黄金はお金に換金出来ると。
ならそこにある石を…よし。黄金に変わった。
これを質屋なる店に行けば良いと…ここか。
…よし!これで資金は手に入れた。ならばどうしようか。
あそこに屋台があるな。焼き鳥500円。まずはこれを食べてみるか。
「いらっしゃいませ!」
「焼き鳥なるものをくれ」
「毎度!ありがとうございました!」
ふむ、これが下界の食べ物か…下界に住む者は食事せぬと生きれぬと聞く、全く不便な生き物よな。
天使には食事など必要ないが、まあ食べてみるか。
……。
これは、いかんな!いかんぞ!
「いらっしゃいませ!って先ほど金髪のお姉さん?」
「焼き鳥またくれ!」
「気に入ってくれたのかい?毎度!ありがとうございました!」
……。
いや、大したことはなかったな。
だが、まだ調査は必要だ。これだけでは分かるまい。
他意は無いからな。
ふむ、ここは居酒屋なる施設か、ここも調査せねばなるまい。
そうだとも、私は楽しんでなどいないからな!!
「いらっしゃいませ!」
「ふむ、何を頼んだらいいのか分からんな」
「ちょっとそこの白い服の金髪のお姉さん!俺たちと飲まないか!」
「タクヤ、一人で飲みたいときもあるんだからほっといたら良いじゃない」
「でもさ、一人で飲むより絶対誰かと飲んだ方が楽しいじゃん!」
「なんだ貴様らは…」
隣にいる無礼な男女どもが私に失礼な口を利いた。
裁きを下してやろうとも思ったが、思考を読んだらどうやら悪気は無いらしい。
ならば許すのもやぶさかではないが、気になる事もある。
服装が変だと思っているのか?
まあ、しょうがない。人間にはこの美しさを理解できぬだろうからな。
「まあまあ、そんな怒らないで!居酒屋の楽しみ方教えるからさ!すみません、ビールお願いします!」
「ビールとは何だ?」
「お姉さん、ビール奢るよ。飲んでみて!!」
「お待たせしました!ビールです」
「何だこれは…?お酒か?」
「そう、お酒!美味しいよ」
「なら飲んでみようか」
器の取っ手を持って並々と注がれた液体を口の中に入れてみた。
……。
なんだ!これは!たまらんぞ!!
……いや、なんでもない。
「どうよ!美味しいっしょ!」
「まあ、うむ。美味しくないと言えば嘘になる」
「テンション低いなー!気分を上げていこうよ!そしたらもっと美味しくなるぜ!」
「テンションとはなんだ?」
「気持ちを上げていくことだよ!まずはイェーイとか言ってみよう!」
「い、イェーイ?」
「そう!いいね!イェーイ!」
「イェーイ!」
「いいねー!ハイボールも飲んでみようよ!もっと美味しいぜ!」
「勧められてたのなら仕方ないな……」
私は席を立ってその男女と一緒に飲み始めた。
そしてしばらく時間が経った後。
その場には何杯ものジョッキが積まれていた。
「イェーイ!お酒美味しーい!」
「シリエルちゃん、酔ってるねー!イェーイ!」
「シリエルさんって何処から来たの?外国の人だよね?日本語うますぎ!」
「わたひは上空から来たのらぞ!」
「おおう…不思議ちゃんか…」
「嘘は言ってないぞ!私はお空から来たんだー!」
「そうなのか…なんかこの子が心配になって来た」
「そうだよね、こんなシルクの服で金髪の酔っ払った女の子とか一人で帰ったらどうなる事か」
「ああ、俺らの誘いにもすぐ乗ったしな」
「うん…なんだかガードが緩すぎだよね…」
ああ、良い気持ちだ!
頭の中がふわふわしててこんなの味わったことがない。
日頃の疲れが吹っ飛ぶ様な感覚だ!
「そろそろ、お開きにする?」
「そうだね。シリエルちゃん帰れるんだろうか…」
「わたひなら大丈夫だ!寝なくても平気らぞ!」
「流石にこの子が心配。アヤ、この子お前の家に泊められない?」
「私は今一人暮らしだから大丈夫だよ」
「ごめん、頼むわ。この子一人で帰られるの怖いし…」
「まず、聞いてみようか。シリエルさん、私の家に泊まる?」
「うん!泊まる!」
「分かった、あまり部屋が大きく無いけど許してね」
タクシーとなるものに乗せられて、私はアヤという者の家に泊まることとなった。
ああ、良い気持ちだ。瞼が重くなる…寝よう。
……。
あれ?ここはどこだ。私は何故ここにいるんだ?
そして何故頭が痛いんだ…。
「あ、シリエルさんおはよう!二日酔いは大丈夫かな?」
「誰だ貴様は…。うぅ、頭が…」
「あ、二日酔いあるんだ。水飲んだら楽になるよ」
その女が水の入ったコップを渡して来たので飲むと少し楽になった。
ところで、昨日何があったんだ?この女の昨日の記憶を読んでみるか。
……酔っ払って、人間のお世話になるとは私は何をやってたんだろうか。
「すまぬ、ありがとう」
「いいよ!気にしないで!」
流石に失礼な態度だったな、先ほどは。
しかし、昨日は楽しかったな。
いや、何を考えていたんだ。だが、人間とは恐ろしいものだな。
これは翼が黒くなる理由もちょっと…いやほんの少しはわかる気がしないでもない。
「世話になった。そろそろ戻ろうと思う」
「ううん、昨日は無理やり飲ませた様なものだから気にしないで」
「君は善人だな。またいつか会おう」
私は玄関の扉を開けて出て行った。
「あ、シリエルさん。出来れば連絡先交換しない?ってもう行っちゃった」
人間を見下しているのも良くないかも知れないな。まあ、良い機会にはなった。
では戻ろうか、翼の透明化を解いてと。
えっ?なんだこれ?
……。
どうしよう。
翼の先が黒くなってる……。いやまずいぞこれは。
何故だ?私には心当たりは無い。
焼き鳥を10本ほど食べ、お酒を楽しく飲んで。
人間と大騒ぎをしたくらいのものだ。
そのくらいは欲じゃない……はずだ。なのに何故。
天使たちには透明化など通用しない、このままじゃバレてしまう。
どうするべきか。このまま天界に戻れば私の威厳がなくなってしまう!!
────私は上位天使だぞ!なにか考えろ!
そうだ!人間の技術を使えばどうにかなるかも知れない。
私は焦りながらも街を探索した。そしてある店を見つけた。
『ホームセンター ダテンシン』
ここには色々な物が売っていると街の住民の思考を読んで知った。
何やら名前が不吉だが、背に腹はかえられぬから仕方ない。
よし、ここで探してみよう。
……。
これは、これなら何とか出来るかも知れない。
ふふふ!ここでこの策を思いつくとは流石私だ。
◇ ◇ ◇
「おかえりなさいませ!シリエル様、如何でしたか?」
「ああ、まあ下界も大したものではあったが私の翼は白のままだ」
「おお、確かに!流石はシリエル様だ!」
「シリエル様!流石です!!」
「皆のもの、当然だろう?そこまでの事ではない」
私が帰還すると天使たちが集まって来て、私を褒め称えていた。
ふふ、周りは私を褒め称えているな。やはり私は機転が利く。
私がホームセンターで見つけたもの。
そして、きっと私にしか思いつかないであろう究極の秘策だ。
それは。
『ペンキ白 3990円』
それを翼に塗りたくった。よし皆にバレてないな!!
翼が黒くなったとバレたらとんでもないからな。暫く翼が白くなるまでこれで誤魔化せばいい。
「あれ?シリエル様、翼が黒く見えるような…」
「え?ああ!下界でゴミが着いたみたいだ!すぐに落としてくる!!」




