ᑐヵまɀた 一
藍色のカーテンから朝陽がもれる。
涼一は目をさました。
天井を見回し、どこだっけとぼんやりと考える。
土屋の部屋だと思い出した。
また怪異でお泊りしてんだっけとぼんやり記憶をたどる。
横に敷かれたふとんで、土屋が向こうをむいてまだ寝ている。
まくらもとに置いたスマホを手にとり見ると、六時四十分。
「おい」
土屋の背中に呼びかける。
「四十分だけど、ここから車で会社までどのくらい?」
土屋が、無言でモソモソと動く。
「四十分……」
そうつぶやいて、あおむけになった。
「バスよりはもうちょいゆっくりできるけど、んでも渋滞あるかな」
土屋がつぶやく。
「便利なんだかそうじゃねえんだか分かんねえな、そういうとこ」
涼一はつぶやいた。とりあえず起きる。
「朝めし……」
前髪をかきあげる。
「きのうの鍋にごはんかラーメンでいいじゃん、俺としては夜なら太麺のラーメンだったけど、朝ならごはん」
土屋があおむけのまま前髪をかきあげる。
「炊けてんの?」
「いちお炊飯器のタイマーセットしておいたけどな」
土屋が答える。
なるほど米が炊きあがったときみたいな匂いがしてる。
「んじゃ、ごはん二杯分くらいぶっこんで雑炊な――ぶっこんでくる」
涼一はふとんから起き上がった。
ゆうべは鍋を作ってもらっているのだ。見えているときくらいこっちがやらなければだろう。
「見えなくなったら言ってー」
土屋が向こうをむき少し体を丸めた体勢で声をかける。
「おう」
涼一はそう返事をした。
ゆうべはけっきょくまた見えなくなることはなく、無事に風呂に入って着替えをすませて寝た。
水場と寝室兼リビングをへだてている引き戸を開け、台所に向かう。
炊飯器どこだと見回してから、冷蔵庫の横のワゴンの上に見つけた。
炊飯器のフタを開ける。
ふわっと炊きたてのごはんの湯気と、黒い布のようなものが顔をおおう。
また何も見えなくなった。
「ぅわ」
「鬼さんこちら。手の鳴るほうへ」
パンパンパンパンッ、と手をたたく音と子供のような声が聞こえる。
つづけて素早く走りさる身軽そうな足音。
「ちょ、ごめん。土屋」
土屋が察したのか、ふとんを退かせるような衣ずれの音がする。
こちらに歩みよる足音がした。
こんどは子供ではなく体重のあるおとなの足音だと分かる。
「見えない?」
「見えない」
涼一は答えた。
「見えなくなるときに共通点ってないのかな……いまんとこ分かんないな」
土屋がつぶやく。
「それよりごはん」
「ああ――やっとく」
土屋が背中を押す。
「座ってなよ。ふとんのとこでいい?」
「悪り」
涼一はぎこちなく足を動かした。
三回目でも、床にどう足を置いて歩いていいのか、そこからとまどう。
「やっべえな。きょう朝イチで塚間エターナルさんとこだったのに」
「課長に言ってほかの人に代わってもらうしか――つか休んだほうがよくね?」
涼一は、目を見開いた。
「あれ」
なんども目をしばたたかせる。
「見えんだけど」
背中をささえて誘導していた土屋が、こちらの顔を横からのぞきこむ。
「まじ?」
「まじ見える」
涼一はなんどもまばたきした。
けっきょくふとんを雑にたたみ、土屋がごはんをぶっこんで作ってくれた雑炊で朝食にする。
「お茶あるから」
土屋が二リットルの緑茶のペットボトルをドンッとテーブルに置く。
「おう」
涼一はそう返事をした。
「見えなくなるときと見えるようになるときって、何かキーワードみたいなのあるのかな」
土屋が雑炊を取り分けたお椀をこちらに差しだす。
「何かそれっぽいこと言ったか?」
涼一はお椀を受けとった。
「さいしょにいきなり見えたときって、なに話してたっけ」
土屋が問う。
「覚えてね」
「何か、食べものの話ししてた気がすんだよな。たこ焼きとか肉とか」
「肉は二回めのときじゃね?」
涼一は貸してもらったコーヒーカップに緑茶をそそいだ。
「たこ焼き、肉、塚間エターナル……たこ焼き、豚肉、塚間エターナル」
土屋が数えるように指を折る。
「……共通点ねえじゃねえか」
涼一は顔をしかめた。
「たこ焼き好きなのかとか聞いてなかったっけ。――んで答えようとしたら “見える” って言われたような」
「今回の相手はたこ焼きに怨みをもつ霊団か何かかよ」
涼一は眉をよせた。
「いや “たこ焼き” で霊障解除してるとこみると、たこ焼き好きすぎ霊団の可能性も」
土屋がスプーンを手にとる。
たこ焼き好きすぎ霊団。
巨大なたこ焼き型霊団を想像した。
今回は倶利伽羅剣をつまようじみたいにぶっ刺して使ってくださいとか言われたらやだなと考える。
「関西の霊団とか?」
「鏡谷くん、たとえば相手方の関西弁の言葉とか聞いた?」
土屋が大まじめに問う。
「鬼さんこちら」って、関西弁でも同じだろうか。関東の人間にはすぐには分からん。
「んじゃ肉と塚間エターナルはどうなんの」
涼一は眉をひそめた。
「塚間エターナルさんの中にたこ焼き工場があるとか」
「ねえよ。結婚式場やってるとこだぞ。会場ソースくさかったら台無しだわ」
涼一はそう返した。




