96、授業参観④
そう声をかけて職員室へと帰っていった。職員室に戻っても、オーラを見た衝撃でざわついている教師たちに私は言った。
「オーラを見た事で生徒の置かれた立場、心情、そこから見える光景が、先生がたにも多少は理解できたのではないかと思うのです。オーラを見る前、個別指導のプリント学習を強行している生徒が、どのように先生がたには見えているのか、質問させてもらった時の答えに、『個別指導したいなら学校が終わってからすればいい』というものがありましたけど、放課後、忙しくて勉強する時間がとれない、貧しいので塾に通えないなど、様々な理由でその事が不可能な生徒が現実にいること。何より学校で受けている一斉指導そのものが、個々の生徒の学力向上に結びついていない、時間をドブに捨てている事も理解できたのでは、と考えています。『教師を無視してけしからん』という発言は、そっくりそのままお返しして、『個々の生徒の学力を無視してけしからん』と言い返されることも想像がつくのではと思うのです。『学級崩壊だ』と怒っている意見もありましたが、生徒からすれば一斉指導であることで、そもそも『教育崩壊だ』と叫びたいのです。それから、『教師生活二十五年! こんな悲しいことはない!』と、被害者のように嘆いている先生もおられましたが、これからは、『教師生活二十五年! ついていけない生徒を見捨て続けて、こんな悲しいことはない!』と、加害者である自分の罪深さを反省してほしいのです。
国際目標であるSDGsでは、その目標4である『質の高い教育をみんなに』の実現方法として、『すべての人に、安全で、暴力のない、だれも取り残されないような学習のための環境をとどける』とありますが、日本の公立学校は明らかにそれに反していると思います。
十分ほどでオーラが見える効力が消えましたが、ヤカンの中にコーヒーはまだ残っているので、またオーラが見たいのなら、もう一度飲めばいいのでは、と思います。ただ明日ぐらいになればコーヒーを飲んでも効力自体が消えていると思うので、お早めに飲むことをおすすめします。幻覚剤のような、あやしいものではないので、安心してお飲み下さい。私が言いたいことは以上です。
まだ五校時の授業が残っているので私は教室に戻って、プリント学習をしようと思います。先生がたは、これから一斉指導と個別指導、どちらの方が優れているのかお話し合い下さい。一斉指導の方が優れていると大半の先生がおっしゃるなら、約束通り、私が全校生徒にプリント学習をやめて、以前の一斉指導の授業を受けるよう説得します。それでは失礼します」
と頭を下げて職員室を退室した。校長、教頭を含めた全ての教師が動揺していた。自分たち教師にとって都合のいい一斉指導の方が、学力が毎日上がっていく個別指導より、正しくて優れていると言い切れる教師がはたして何人いるのか。
私は自分のクラスに戻って、プリント学習をする。六校時は通常の授業の予定だったが、全学年自習に変更された。五校時から始まっている教師同士での話し合いが、紛糾しているのだろう。三年生の授業を担当していて、オーラを見なかった教師が、『魔法のコーヒー』を飲んで、六校時、自習している生徒たちの様子を廊下から見ている姿を見かけた。五校時にオーラを見た教師が、初めて見て驚いている教師に説明している。六校時の授業も終わり、終礼も終え教室を出て、校門を出る。職員室から、採決の結果を報告にくる教師はついに現れなかった。オーラを通して、授業についていけず傷つけられている生徒の姿を見て、その傷をつけている加害者が、教師である自分自身なんだということを自覚した上で、それでもまだ一斉指導の方が正しくて優れているのだという教師がいるなら、教師をやる資格を問う前に、人間やめろと私は言い放つだろう。




