86、超人対決②
逃げきれないぽどの高速のパンチ、キックを全身に浴びせ続けると、一岡は両手で頭部を守るのが精一杯で、移動も出来ず人間サンドバック状態に耐え忍んでいる。あと三十秒以内に倒すことが出来る、そう勝利を確信した私の全身から突如エネルギーが消え去った。パンチもキックも、かつてのヘナチョコに戻り、そのパンチやキックすら、拳や脛を鍛えていないので攻撃した衝撃に耐えられず、思わず両手を振りながらこう言った。
「痛ああああいっ!」
何が起こったのか、オーラ同士の空中戦を見てすぐに理解した。なんと一岡の凶悪オーラの大鎌が、白龍と私をつなげている透明なへその緒を切断していたのだ。どうりで白龍からのエネルギーが届かない訳だ。白龍は私に近づいて、再びへその緒をつなげようとするが、そうはさせまいと鹿頭は大鎌を振り回している。なんと頭の良い奴なんだろう、敵ながら感心した。鹿頭は、白龍に勝てないと判断すると、へその緒の切断に戦い方を変更し、それを成功させた。無力な私なら一岡が負ける訳がない。殺害する事だって簡単だ。私を亡き者にすれば無敵の白龍も消滅出来る。
両腕で頭部をガードしていた一岡が、金色の目でギョロリと私を睨みつけると、一気に攻撃に転じた。ケンカの弱いただの女の子に戻った私が防げるはずもない。吹っ飛ばされ、仰向けに倒れた私に馬乗りになると、一岡は容赦なく顔面を殴り続け、両方の頬骨を折り、鼻を潰した。それでも殴るのを止めないので、全ての歯が折られた。ようやく攻撃を止めると、私の両腕を押さえつけながら顔を近づけ、私の顔面をベロベロと舐め出す。
「こうやってな、馬乗りになって相手をフルボッコにして顔を潰してやるのさ。そしてそいつの血塗れの顔を舐めてその血を味わう。高級クラブで飲むどんな高い酒よりこっちの方が百倍うめえ。気に入らねえやつを自分の腕っぷしでボコボコにして、敗北感とみじめさに突き落としてやった圧倒的な勝利の美酒。こんなに興奮するものはねえわ!」
そしてタンクトップを脱いで、龍の刺青の入った上半身を露わにする。
「まず最初に俺が犯す。そしてここにいる男たち四十人ほど相手になってもらう。子宮を潰して二度と子供の産めねえ体にしてやる。舐めた真似した中坊のクソ女。暴力世界で生きている人間、敵に回しゃあこういう目に遭うんだよ。一生後悔しろ」
顔を潰された私は、激痛と恐怖で全身が震え、指一本動かすことが出来なかった。私の上着を引きちぎろうと、一岡が両手を伸ばした時、
「ぎゃああああ」
と悲鳴が上がった。私ではない。悲鳴をあげたのは、先程まで勝ち誇っていた一岡だった。一岡は立ち上がり、怯え青ざめている。
「な、何なんだ、何なんだ、この化け物どもは?!」
白龍と鹿頭オーラのいる空中を指差している。
「鬼がいる! うじゃうじゃと鬼がいやがる!」
半グレ達の背後にいる鬼オーラを見ながら叫んでいる。オーラが見えるようになったのだ。一時的だろうがオーラが見えるのだ。私の血を飲んだから……。パニックになっている一岡に、凶悪オーラが一瞬その鹿顔を向けた。そのわずかな隙を白龍は見逃さなかった。凶悪オーラの大鎌を掻いくぐると、頭部、右脇腹、左肩を次々と食いちぎり息の根を止めた。鹿頭オーラは黒い粒子となって形を失い、蠢いていた粒子が、再び集合して形づくられた時は、鬼オーラに戻っていた。
黒目になった一岡玲は、自身の凶悪オーラが食いちぎられた時、エネルギー源を失い、膝から崩れ落ちたが、元々の体力が人一倍なので再び自力で立ち上がった。その背後には並の鬼よりも倍ぐらいの筋肉がついていた鬼オーラがいたが、三メートルはあった凶悪オーラの凄味は消えてしまっている。




