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79、廃墟ホテルの主②

ここはバブル時代、国と県が観光客を見込み、莫大(ばくだい)な税金を投入して建設したホテルで、豪華絢爛(ごうかけんらん)な外観を建てた時点でバブルがはじけ、内装工事は手つかずのまま中断、たった一人の観光客も宿泊することなく朽(く)ち果(は)てた巨大建造物なのだ。工事中断から数十年、廃墟ホテルは、県内ナンバー1の不良グループが使用するたまり場と化した。ここを使用する権利があるのは、不良グループの抗争を制した覇者のみなのだ。数十年の間使用者のチーム名、顔ぶれは移り変わってきたが、不良世界の王者が鎮座(ちんざ)し続けていることには、変わりはなかった。

 そして現在の使用者は、半グレグループ『蛇崩』のメンバー達だ。そのことを知っているので地元の者は近づかない。特に不良を自負(じふ)している者ほど近づこうとしなかった。ここは頂点を極めた不良だけが、立ち入ることが許される神聖侵(しんせいおか)されざる場所であり、そこに無断で侵入したものが、どのような報復を受けるか、恐ろしすぎて想像もしたくなかった。そこに私は名誉な事に招待されてやってきた。十五才の絶世の美少女のこの行為を、羨(うらや)ましがる者は一人もいないだろう。常識のある者にとって、私のしている事は自殺行為に等(ひと)しいのだ。

 車は巨大ホテルにふさわしい広大な駐車場へと入っていく。駐車場に車の姿はなく、アスファルトの割れ目から雑草が生え、さびしいものだった。無人の駐車場を通り抜け、四台の車は正面玄関付近で停車した。そこまでいくと、既に二十台ぐらいの車と五台のバイクが駐車してある。驚くことに高級外車が五台、残りの国産も高級車のたぐいに入る。第一私を拉致しようとやってきた四台の車も国産高級車だ。五台のバイクのエンブレムが、ハーレーダビッドソンであることを物語(ものがた)る。どれだけ金(かね)持ってんねん。詐欺やドラッグなどの違法行為で荒稼ぎをし、暴対法で落ち目の暴力団を尻目に我が者顔の半グレ。その経済的成功に憧れて、人気スポーツ選手やIT社長と同じように、半グレを目指す若者もあらわれているから世(よ)も末(すえ)だ。

 車から降り立つと、四人の男たちが、正面玄関まで行き、普通にホテル内へ入っていった。その後を私がついていく。私が歩きだすまで残りの男たちは動かなかった。私が逃げ出さないように前後から挟む形で八人は移動していく。玄関の足元には、太い鎖さえ切断できる電動カッターなどの様々な工具類が置かれている。半グレ達は、自分らが入る時はこれらを使って打ち付けたベニヤ板を取り除き、逆に出て行く時は、ヨソ者が侵入できないようベニヤ板を打ちつけるのだろう。一岡グループにとって、ここは他の不良グループとの抗争で勝ち取った戦利品であり、頂点に君臨していることを証明する王冠でもあるのだ。

 玄関付近は割られたガラスが砕(くだ)けて砂利(じゃり)のように広がり、そこを通り抜けるとエレベーターホールが正面にあったが、内装工事はしていないので、かごが無い。七階まで続く縦長の空間がぽっかりあるだけ。階段があるので上がっていく。無機質なコンクリートの広大さは圧巻だ。ガラスの多くは割られ、スプレーでの落書きが目立つ。工事で使われるはずだった資材も放置されたまま数十年の歳月が流れている。晴天の陽光は、ホテル内でもまぶしく降り注ぎ周囲を明るく照らしていたが、自分たちの足音だけが響く静けさは、不気味さを感じさせた。

 巨大ホテルは迷宮のように人の心を不安にさせ、普通の女の子が一人でこの場にいたら、本能的に危険を察し、青ざめながら必死で脱出するだろう。クモの糸にかかった蝶(ちょう)のごとく、とんでもない所に来たと全身総毛立つのだ。そこへ私はのこのこやって来て、前後八人の前科者の男に囲まれながら、上へ上へと階段を登っているのだから、狂っていると思われても仕方がない。自ら犯罪者たちの王宮内部に入り込み、引き返せない所まで来ているのだ。


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